一つ、入れ替わろう「ヤア、明智君。今日は趣向を凝らしてね、お気に入りの変装をしてみたよ」
「オヤ、二十面相君。その姿は僕にソックリじゃないか。いつの間に僕は、君のお気に入りになったんだろうねえ」
「ハハハ、明智君。野暮なことを言ってはいけないよ。この姿でね、僕はたくさんの盗みを働いて、さも君が犯罪をしているかのように、振る舞って見せるつもりさ」
「そうなのかい、ハハハ…僕の身は危ぶまれるということだねえ」
「そうさ。君はこれから犯罪者になってしまうんだよ。そして、いずれ留置場に送られて、暗い牢屋で、おいしくないご飯を食べて、イヤイヤ過ごさなくてはならないんだよ」
「フウン。君はそれでいいのかい、二十面相君」
「エッ。それでいいって、どういう事かい」
「君が僕になるのなら、僕は君に変装しようとおもうよ。そして警察に駆け込んで、君の隠れ家や別荘を、全て暴いてしまうつもりさ。この通り、怪人二十面相は反省して、全ての宝物は返しますってね…ハハハ…。君は知っているとおもうが、僕は君の宝の隠し場所なんて、全て知っているからねえ。言ってしまうのは造作もないのさ、ハハハ…」
「そ、そりゃあ明智君、君は卑怯じゃないか」
「そうかい?君がその気なら、こっちもその気になるというだけだよ」
「じゃあ明智君、こうしようじゃないか。たった一日のあいだ、変装した僕が、君の探偵事務所の椅子に座っているだけというのはどうだい。君は僕に変装して、隠れ家の椅子に座ってくれさえすればいいんだよ」
「フウン、なかなか面白そうじゃないか。一日だけ取り違えてしまうということだね」
「そうだよ。周りのみんなにはナイショで、違う自分を一日だけ味わってみるのさ」
「もし、周りに暴かれてしまったらどうするんだい?」
「心配はいらないよ。僕の変装はいつだって完璧だし、君には特別に僕が、変装のお化粧をしてあげるよ。君もそういうのが得意だからね。なんの遠慮もいらないよ」
「フフ、そうか。なんだか楽しくなってきたよ。最近は事件もなく、平和で、少し飽きがきていたからね」
「フフフ、明智君。君もわかっているじゃないか。じゃあ交渉成立だ」
「ちゃんと凛々しい僕を演じるんだよ、二十面相君」
「わかっているよ。せっかくだから、君も犯罪の計画でもしてみたまえよ」
「アア、それも良いかもしれないねえ。ハハハ…」