「明智君、から揚げが揚がったよ」
私が手拭いで手を拭きながら居間へ行くと、明智はコタツに潜り込んで、すやすやと眠っていた。その安らかで無防備な姿に、ゾクゾクと喜びが湧き上がってくる。彼を手に入れたのだ。こんなに素直な彼の前で、己の欲深さをありありと実感してしまう。
私は僅かに頭を振り、仄暗い欲を追いやって、明智の肩を軽く揺すった。
「明智君。君の好きな、から揚げだよ。できたから、起きたまえよ」
「ウーン」
明智は薄目を開けて私を軽く見つめると、またウットリと目を閉じた。
「君の好物、全部食べてしまうよ、それでもいいのかい」
明智は眠気に負けてしまうのか、また寝転がってしまう。
このままでは起きない。ならば、無理やり起こすしかないか…例えば、接吻をして息を止めてしまうとか…。
私はそこまで考えて、自分が嫌になってしまった。寝込みを襲うなど卑怯であり、明智の優しさを踏みにじるからだ。
私は明智と知り合ってから、自分の欲深さに辟易していると同時に、そんな本能まで無意識に引き出す明智が、ますます魅力的に映っていた。肉欲と全く縁のない明智だからこそ、自分の手で虐めてみたいと感じてしまう。何とも、名状し難い。
「ン、からあげ、ですか」
明智が目を覚ました。
「そうだよ。君が好きなものを、作ったんだ」
「さいですか、有難う」
明智はぐすぐすと目を擦りながら起き上がった。彼のはだけた着物姿を直視してしまい、私は反射的に目を反らした。自然と顔が赤くなる。
「君が起きないから、その…色々考え込んでしまってね」
私は誤魔化すようにそう言った。
「アラ。接吻でもすれば、飛び起きたかも知れませんよ」
ふふ、と意味深に微笑む明智に、私は大きな溜め息をついた。彼には、敵わない。