教育してあげる「多門君、ここに来た理由は分かるね?」
「は、ハイ…」
放課後の自習室に個別で呼び出された俺は、金田一先生の射るような目線に耐えられず、下を向いて、またソッと視線を合わせた。
「なんであんな事したんだい、二回り上の生徒に殴りかかるなんて」
「そ、そりゃあ俺の…いや、僕のプライドが許さなかったっつうか…でも、先生も分かるでしょう?先に殴られたんじゃあ、腹の虫が収まりませんや。俺ァどうも、やられたらやり返すタチで…」
「そんなタチには困ったもんだねえ」
金田一先生ははあっと溜め息をつく。俺が単純で呆れているのかもしれない。先生の前では格好良い自分でいたいのに、どうしても本能や理性が保てない。
こうして今も、眩しい夕日を背にして微笑む先生の前では、到底理性が抑えられずにいて…そんな邪な考えを、ぶんぶんと振り払うように頭の中で掻き消した。
「多門君」
ドキリ、と胸が高鳴った。先生がどこか妖しい笑みを浮かべて、そっと俺の傍に近づいたのだ。ふわりと懐かしいような白檀の香りがする。授業中に机の間をゆっくりとすれ違う、あの先生の匂いだ――
「君が、いつもぼくのこと見てるの、先生、知っているんだよ?」
「――せんせ、い」
耳元でゆっくりと囁いて、ふふっと微笑む先生は、いつもの先生じゃないようで…俺は思わず、先生の身体を手で抱き寄せた。少しずつ力を入れて、抱きしめる。
夢じゃないだろうか。ずっと先生をこうして抱いてみたかった。ぱきりと折れてしまいそうな細い身体のラインが、手に直接伝わってくる。いつも夢想しながら逃げていた夢が、今、現実になっている。それを自覚して、カアッと身体中が熱くなるのが分かった。
「先生が、いろんなコト、教えてあげようか?」
「せ、せんせ…!先生、おっ…教えてほしいです…!」
懐に収まった先生は、ドキドキと胸が高鳴る俺の頬を手で撫でながら、にこり、と微笑んだ。
「教育…してあげるからね?」