「あー……また来ちまった……」
ゴロゴロ転がる石と粗末なあばら家以外何も無い小さな丘の上で、俺は頭を掻く。
俺には、この場所にフラっと無意識に立ち寄ってしまう癖がある。
「(ほんと……どうなってんだろうな、俺の足は)」
なぜなのかは俺にもわからない。しかし、吸い寄せられるようにここに来てしまうということは、俺が忘れてしまった何かがここにあったということなのだろう。
目を閉じて、過去の記憶を探ってみようとする。すると、キーンと頭にノイズが走った。
「っ……」
まただ、ここに来て昔のことを思い出そうとすると必ず頭痛に襲われる。
「……帰るか」
どうせ思い出せたところで、それが戻ってくるわけでも何かを得られるわけでもない。
何より、もう今の俺には関係ないことだ。自分にそう言い聞かせ、帰路につく。
一際強い風が吹き、砂埃を巻き上げる。反射的に目を瞑り、手で顔を覆った。その時だった。
「──お兄ちゃん!」
「…………あ?」
一瞬、視界の端に人影のようなものが見えた気がした。
風が落ち着いたあとで辺りを見渡すも、やはり誰もいない。
「……気のせいか」
そして俺は、その場をあとにした。
背後からたったったっと、小さな足音が聞こえたような気がした。