アオイとクレナイの物語時代の ちょっとした幸せな日々の妄想。まだ小さく幼い鬼。
それが初めてあったクレナイに抱いた印象だった。
この子鬼を鬼として立派にしなければならないと思ったのはほんの数日の事。
人間と仲良くなりたいと泣く鬼としては間違った夢を話す子が「人間と暮らす」ための手伝いをするのがこの物語で青鬼の私が与えられた役割なのだと理解した。
人間と暮らすために鬼としての考え方よりも人間との生活を教えてやる必要があった。
鬼としていくつもの物語を過ごした私は人間の暮らしを眺める時間が多かった。
私の知る暮らしを子鬼に教え共に暮らす中で私は自分の変化に気づく。
物語が終われば全て消えていく係り。
自分の役割以外に興味を抱く事は無かった私は小さな友人との暮らしに幸せを感じていた。
鬼であれば無縁な穏やかな日々。
愛おしいと思える存在が心を満たす実感は心地よく手放しがたい。
よく笑い時には泣いて又何時ものように笑い元気に走り回る愛おしい友人クレナイ。
悪くは無い関係だと私はいつか世界から消えるこの時間を大切に暮らしている。
山での暮らしに必要な恵みを得るために赴いた先で人間の男が足を岩に挟まれ動けなくなっているのを見つけてしまう。
見捨ててしまえばいいと思いもしたが、そんな私を知ればクレナイが泣いてしまうだろうか。
そう考えてしまえば見捨てる事も出来なくなった。
「命だけは助けてください!!」
必死に懇願する男の態度は当然のものだろう。
鬼とは本来人に恐れられ行いを災いとして教訓と共に語られる存在なのだ。
「興味がない」
岩はどけたのだ後は自分でどうにでもすればいい。
置いて去ろうとする私に悲痛な声がかけられる。
「命以外の全てを差し出します!どうか!!」
言葉と共に男の荷物が地面へ広がる。
そんな物を奪う気は無い。
「必要ない」告げようとした言葉をそのまま飲み込み私は包みの間から転がり出た砂糖菓子に気づく。
「金平糖か?」
言葉に男の視線が空を向き記憶をたどった。
「はい!市場で購入した金平糖です!」
これはあの子が喜ぶだろうか?
「ならばそれを貰っていこう」
言葉に驚いた表情を浮かべる男を無視し私は包みを拾い上げその場を去った。
「これは何だ?面白い形をしてるな!凄くきれいだ」
はしゃぐクレナイに「金平糖という」と教えてやる。
「金平糖」と繰り返し目を輝かせ色とりどりの金平糖を眺めるクレナイに「人間の子供たちがたまに食べているのを見たことがある甘い菓子だそうだ」食べてみろ。
伝えれば「こんなに奇麗なのに食べちゃうのか!?」
勿体ないと眺めるクレナイの姿にそのような考え方もあるのかと小さく微笑み「食べられるために作られた物だ、食べないまま無駄にしてしまうほうが勿体ないだろう」
私の言葉に少し考える素振りをした後クレナイは頷き「そうだな!」と笑い手の平で一粒転がし金平糖の形を楽しんだ後に口に含む。
「甘くておいしい!!ありがとうアオイ」
私の好きな笑顔でクレナイが笑い「アオイは?」と金平糖を差し出してくる。
「私はいい、甘い物はあまり好みではない」
全てお前のものだと言えば私と金平糖を交互に眺めた後再び「ありがとう」と笑い包みを丁寧に閉じ「毎日一個ずつ大事に食べる!綺麗なのに全部食べちゃうともったいないよな!」と宝物だと大切に棚に収めた。
「お前の好きなようにするといい」
多くの物語に居る鬼たちで「金平糖を宝物だと」大切にする鬼はクレナイくらいだろう。
私はそんなクレナイだからこそ他の誰でもないこの子を愛おしいと思えてしまうのだろう。
些細な幸せを大切に思えるそんなクレナイと過ごす時間が掛け替えのない幸せな日々だ。
小さな包みに大切に収められた金平糖は時々増えることがあった。
「鬼の住むこの山を通る時には金平糖を貢ぎものとする」
そんな掟が人間たちの間で決められたのは鬼としては少々頭を抱えたくなる問題ではあったが喜ぶクレナイの姿に私はその問題を正す気にはなれなかった。