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    キリエ

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    キリエ

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    小説投稿テスト。
    前に話してた🦋んばちゃんのお話。
    ちょぎくんとんばちゃんが出会うまで。

    翠羽の夢 この世界には人間と動物、そしてその間に人間と動物の中間に属する生物がいる。人間と動物双方の特徴を備えるそれらは『半獣』や『亜人』などと呼ばれ、様々な姿と生態を持っており、中には人間に非常に近い個体も存在する。しかしながらどれほど人間に近い容姿や知能を持とうとも彼らはあくまで人ならざるものであり、愛護法こそあるものの扱いは動物と等しく、労働力や愛玩物として取引されていた。

       *

     長期に渡って携わっていた大きな仕事が一段落し、丸々一ヶ月の休暇を手に入れて一週間。元より仕事に打ち込んでいることに充実感を見いだすタイプである長義は、休暇の大半を残して既にこの長い休みを持て余していた。
    「まったく、暇でしょうがないよ」
     と、絶賛残業中の同期に半ば嫌がらせの電話をかければ、忙しなくキーボードを叩く音の合間に「じゃあ手伝いにでも来い! にゃ!」と威嚇する猫の唸り声よろしく剣呑な返事が帰ってくる。
    「手伝っても良いけど、ただ働きはできないかな。さて、俺の休暇幾らで買い取ってくれる?」
     くすくすと笑って揶揄えば、フーッとさらに猫じみた威嚇が返ってきた。
    「そんなに暇ならペットでも飼えばいいじゃねぇか……。一人暮らしのくせにムダに広い部屋住んでんだからよ」
     さもなきゃ取り巻きの女でも呼んでろ――と精一杯の皮肉を飛ばして、同僚の南泉は「もう切るぞ」と律儀に通告して電話を切った。
     南泉が皮肉ったように長義はモテる。非常にモテる。文句無しの造作の顔に若くして一大プロジェクトのリーダーを任される才覚。我ながら天は自分に二物も三物も与えすぎでは無いかと呆れる程だ。そんな長義はどこに行っても女性に囲まれるのが常だった。
     しかしモテるからこその悩みもある。正直、女は面倒極まりない。一度誘ったくらいで舞い上がって本命彼女面などよくある話で、時にはそんな女達が自分の知らないところで盛大に醜い争いを繰り広げた挙句誰が本命なのかと詰め寄ってくるなどの修羅場を経験したおかげで、長義はしばらく女性との関係からは遠ざかっていた。
    「……ペット、ね」
     ガラスの外に広がる夜景を眺めながら南泉の言葉を反芻する。特別生き物が好きなわけでもないが、嫌いというわけではない。実家では犬も猫も小鳥も飼っていたからそれなりに飼育経験はあったし多少なりとも愛着もあった。
     とりあえず見に行くだけでも行ってみるか――そう決めて、長義はようやくみつけた暇つぶしに僅かに心を踊らせながらカーテンを閉めた。

     翌朝、さっそく長義は支度を整えるとショッピングモールや街中のペットショップを何件か回ってみた。定番の犬猫や鳥、小動物に加え、熱帯魚や爬虫類などの珍しいものもいる。
    「ペットって意外に高いんだな」
     展示用のケージに貼られた値札に書かれた金額を見て長義はうーんと唸った。決して払えない金額ではない、というか長義の収入から見れば安い買い物だ。しかし、ころころと転がりながらおもちゃにじゃれる仔猫を見ても、可愛いと思いはすれどいまいちピンと来ない。
     と、「何かお探しですか?」と店員の青年が声をかけてきた。
    「ああ、ちょっと長い休みに入ったもので。一人暮らしにも飽きてきたし、何か飼ってみようかと」
    「どんな動物が好きですか?」
    「好き……というか、仕事が立て込んでる時はなかなか家に帰れないことも多いし、できれば手のかからない生き物がいいんだけど……」
     そんな長義に店員はあからさまに不機嫌な顔になると、客相手にも関わらず憤慨した様子で「そんな中途半端な気持ちでペット飼おうとしないでください!」と詰め寄ってきた。
    「いいですか、ペットは物じゃありません、家族なんです! 手間がかかって当たり前! 最後まで世話する覚悟がないなら最初からやめておいた方がいいと思います!」
     ――面倒な店員に当たったな……。
     内心溜息をついて長義は拳を握りしめて力説する店員を宥めるように両手をひらひらと振った。
    「そうだね、俺が甘かったよ。少し勉強してから出直してこようかな」
     長義の言葉に店員は肩で息をつくと「そうしてください」と店の奥に戻って行った。
     やれやれ、と脱力して長義が店を出かけたところに、なぜか先程の店員が小走りに戻ってきて声を掛けた。
    「そうだお客さん、手のかからない生き物が良いなら半獣や亜人はどうですか? 動物より値は張りますけど、人に近いから世話の手間はほとんどないですよ。留守がちなら留守番もさせられますし」
     よかったらこれ、と何やらチラシを押し付けて、店員は今度こそ店の奥に引っ込んでしまった。
    「半獣……亜人、か」
     ぶらぶらと街を歩きながら渡されたチラシに目を通す。簡易カタログになったそれには何種かの愛玩用半獣や亜人の写真が乗っていた。
    「一番人気は人魚……ね。すごいなこの値段。家が買えるんじゃないか? 手頃なのは犬や猫の半獣か、なるほど」
     ぶつぶつと独り言を漏らしながらチラシを上から下へと読み進めていく。チラシの一番下には取り扱い多数の文字と店名、その横に地図が描かれていた。
    「行ってみるか」
     多少興味を引かれて長義は地図に赤く記された店の場所を確認すると再び歩き出した。

      *

     件の店はどうやら幹線道路沿いの郊外にあるらしい。最寄りのバス停でバスを降りるとほんの数十メートル先に目的の店はあった。
     潰れたホームセンターの外観はそのままに店名だけが雑に上書きされた看板と、一見営業しているようには見えない薄暗い店内が怪しい雰囲気を漂わせている。入口の前で少々躊躇ったものの、せっかくここまで来たのだからと長義は店内に足を踏み入れた。
     入口付近には大小様々な飼育グッズ――といっても普通の動物用の物よりはかなり大きなそれが雑然と並んでいる。首輪や鎖、その他さまざまな飼育用品の並ぶ棚の間を抜けた長義の目に飛び込んで来たのは巨大な水槽だった。
     壁に嵌め込まれたそれは半分程カーテンに覆われて、内部はポンプから送られる空気の気泡だけがコポコポと音を立てながら昇っては消えていく。長義がその前を通り過ぎようとした時、ひらりと何かが視界の端を横切った。
    「え――?」
     咄嗟に振り向いた長義の視線の先、白目も瞳孔もない、ぬるりと光る瞳と目が合った。一瞬こちらに向けられたそれはすぐにカーテンの奥に消え、その後を紫がかった長い髪とキラキラと光る鱗とヒレが追いかけるように消えていった。
    「今の……人魚?」
     テレビや本で見たことはあるし、どこかの水族館では飼育もされているらしいが、長義は実物を見たのははじめてだった。思わずガラスに手をついてカーテンの奥を覗き込んだその時。
    「いらっしゃい」
     突然背後から声をかけられて長義は肩を跳ねさせた。
    「おっと、はじめてのお客さんだな。何か探してるのかい?」
     なんでも用意するよ――と、歩み寄って来たのは店主らしい大柄な中年の男だった。
     いやに目付きが鋭く、いわゆる「カタギではない」雰囲気の店主に多少警戒しながら、長義はポケットからチラシを取り出して見せた。
    「なにか生き物でも飼おうかとペットショップに行ったらここのチラシを貰ってね。手間のかからないペットなら半獣や亜人がおすすめだと聞いたんだけど」
     すると店主は不躾な視線を隠すこともなく長義を上から下までジロジロと眺めると、ふむと顎を撫でてにやりと下卑た笑いを浮かべた。
    「兄ちゃん、若いが金は持ってるようだな。手間のかからない奴がいいって?」
    「……仕事で帰りが遅いし、留守にすることも多くてね。おすすめはあるかな?」
     長義の問いに店主はしばし思案すると、思いのほか丁寧に飼育の難易度を説明してくれた。
    「人魚は人気こそあるが、繊細だし寂しがりで飼うにゃとにかく手間がかかる。アンタにゃあまりおすすめできねえな。犬猫や鳥の獣人はどうだい。人魚に比べりゃ水槽のスペースもいらないし、食い物も人間と同じでいい。そこそこ知能も高いから留守番もできるし、躾けりゃ簡単な家事を覚える奴もいる」
     説明を聞いてうーん、と唸った長義に店主は、とりあえず実物を見てみるかと店の奥へと誘った。
     店主に案内されて通路を抜け、両開きの扉をくぐる。店の奥、天井の高い倉庫の中はいくつもの小部屋に区切られていて、同じ作りのドアが並んでいた。
    「この辺りが犬や猫、レアなやつだと狼や虎なんかもいるぜ。その先が鳥だ。自由に見てくれ、もし気に入るのがいなけりゃ取り寄せもできるからよ」
     そう言うと店主は「決まったら呼んでくれ」と言い置いて表の方へと戻って行った。
     店主の後ろ姿を見送って、長義はさてと小部屋の方へと目を向けた。それぞれの小部屋のドアの横にはガラス窓が付いていて中の様子が分かる。ベースは同じ種類の生物でも、ほぼ動物に近いものもいれば、人間に耳と尻尾が生えただけのような姿のものもいる。
     ふと長義は壁にぶら下げられた説明書きに目を留めた。それによると、獣人や亜人に明確な定義は無いようだが、動物に近ければ獣人、人間に近ければ亜人とされ、姿形がより人に近いかあるいは知能が高いほど高額なようだ。
     ざっと見たところ、この店にいるのはほとんどが獣人と呼ばれるものたちらしい。しかし……
    「なんだかあまり気分の良いものじゃないな……」
     商品たる彼らを見れば見るほど長義は胃のあたりがもやもやするような感覚になってきた。いくら人間ではないとはいえ、人の形をしたものを愛玩するというのはどうにも違和感が残る。おそらく自分はまともな感性の持ち主なんだろうと内心頷いて、長義は今日のところは引き上げようと踵を返しかけた、その時。
     ごそり。展示用の小部屋の端のその奥、照明の明かりが途切れた暗がりになにか動いたような気がした。
    ――まだ奥があるのか……?
     訝しんで長義がそろりと暗がりを覗き込む。厚手のカーテンで仕切られたその一角はいくつかの檻が並んでいて、一番手前の檻に何かいるようだった。
     カーテンの端をそろりと捲る。と、長義の背後から差し込んだ照明の明かりが檻の中を照らした。
    「なんだ……?」
     檻の中に居たのは薄茶けた、人間程の大きさの巨大な芋虫だった。うぞうぞと蠢くそれに思わず長義も口元を覆う。
    「気色悪いな……なんだこれ、芋虫……?」
     長義が漏らした呟きに、巨大な芋虫の動きが止まる。もしかして言葉を理解しているのかと思ったその時、芋虫がおもむろにむくりと起き上がった。
    「……たしかに俺は芋虫だが……気色悪いとは失敬だな」
     やや低めのくぐもった声。長義が一歩後ずさると、照明の光がよりはっきりと檻の中の芋虫を照らした。
     芋虫――いや、よく見ればそれは芋虫ではなく、薄汚れた布の塊だと数瞬の間を置いて長義が認識する。次の瞬間、頭のあたりの布がはらりと落ちて、そこから人の顔が現れた。
    「なんだあんた……俺を引き取りにきた処分業者か?」
     そう言って長義を見上げてきたのは、今まで包まっていた布からは想像もできない、陽の光を紡いだ金糸のような髪と美しい翠の瞳を持つ青年だった。
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