はやく君のものにして「恋人ができたって本当?」
大真面目な顔でたずねられ、一瞬、意味を理解するのが遅れた。それくらい予想外の問いかけだったのである。しかし驚きから生じたその間は、兄の誤解を深めるのに十分だったようだ。独り言のように小さく、本当なんだ、とつぶやくのがかろうじて龍水の耳に届いた。
龍水に特定の相手ができたなどと、いったいだれがこの兄にそんなことを吹きこんだのか。龍水の知るかぎりそんな噂は立っていないはずなのに。
ひとまずは事実を伝えようと口を開く。
「いや、」
「別れてよ」
「………………は?」
今度は、一瞬では済まなかった。
目を見開いて固まった龍水に対して、SAIは変わらず真顔で微動だにしない。そのまま何秒経ったのか、ようやく龍水は聞き返した。
1739