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    yuino8na

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    yuino8na

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    CC福岡での無配です。
    乙が二年生になった春の、五と乙の特訓妄想。
    五+乙ぐらいの温度感です。
    本誌262話までを踏まえて書いてます。
    無配を手に取っていただいた方、ありがとうございました!

    The past that might have happened「五条先生は、どうして最強になろうと思ったんですか」

     殴られて蹴り飛ばされて、満身創痍で寝転がっていた優秀な教え子は、まるで極普通の質問のようにその言葉を口にした。そんな質問をされる日が来るなんて、想像さえしたことのなかった五条悟は、一瞬思考が止まり「なんて?」と聞き返す。
     晴天のグラウンドは日差しを遮るものがなく、春先のこの時期でも日差しがあるとジワリと汗が浮かぶほど暑い。
     そんな中、五条と乙骨憂太は一対一での特訓を行っていた。
     すでに憂太は呪術高専二年生となり、五条は担任ではない。それでも、五条は二年生担任の日下部公認で、時折憂太の特訓相手をしていた。
     日下部曰く
     ――あんな化け物呪力の扱いなんて、俺に教えられるか
     ということらしい。だが、それは謙遜だろうと五条は思う。
     術式なしで一級呪術師にまでなるなんて、呪力を扱うセンスに長けていなければできないことだ。呪術師の強さは生まれ持った術式で左右される部分が大きい分、才能が九割などと言われるが、日下部は才能に恵まれなかった分、残りの一割で一級呪術師になるほどのセンスがある。呪力量が多すぎるがゆえにその扱いが雑な憂太にとって、日下部は担任としてこれ以上ないほど適任だろう。
     とはいえ、さすがに五条を凌ぐほどの呪力量は、日下部にも判断が難しい部分があるのだろう。憂太が自身の呪力量を自覚してからすでに三ヶ月以上が経過し、その間に特級呪術師に返り咲きもしたが、未だに呪力の扱いは雑なままだ。
     それもあって、こうして時間がある時には憂太を徹底的にシゴいているわけだが、時折憂太はこうやって予想外の質問をしてくるから面白い。
    「憂太が僕が最強になろうとしてなったと思ってるの?」
    「違うんですか?」
     探るでもなく、畏怖も畏敬も感じない純粋な疑問。強大な呪力を持ちながら無自覚で、一般社会の中で生きてきた感覚がそうさせるのか。こんな風に憂太からは時折、呪術師として生まれ育った者からは出てこないような質問を投げかけられることがある。それが、五条にとっては面白い。
    「憂太は僕のことどれぐらい知ってる?」
    「どれぐらいって?」
    「とりあえずさ、なんでもいいから僕について知ってること言ってみてよ」
     五条に言われて憂太は起き上がると、そのまま地べたに体育座りする。こういう行動一つとっても、憂太は他の教え子とは違い所謂『普通の生徒』と感じる振舞いが多く、それも五条には新鮮なことだ。
    「えっと、呪術高専の先生で、一年生の担任で」
    「うんうん」
    「五条家、の当主……、でしたっけ?」
    「うんうん。当ってるよ。他には」
    「他にって言われても」
     分からない、と首を傾げる憂太に五条は黒いアイマスクの下で目を細めて笑う。
    (ほんと、面白いよね)
     五条悟という名を聞けば、ほとんどの者が教師という肩書より先に、最強だとか、六眼や無下限術式のことを挙げる。だが、憂太が真っ先に思い浮かべるのは「教師」なのだ。
    「他にもあるでしょー。僕の術式のことは誰かからは聞いたことあるんじゃない?」
    「あ、はい。えっと、六眼と無下限術式で、それはすごく珍しいことだって、真希さん達に教えてもらいました」
    「なんたって数百年ぶりだからね。で、どうして憂太は僕が最強になろうとしたって思うの?」
     数百年ぶりに誕生したとされる、六眼と相伝の術式の併せ持ち。
     それだけ知れば、生まれながらに特別な存在であると、呪術師であれば誰もが思うだろう。成ろうとしてなった、のではなく、成るべくしてなった。それが大多数の評価であることは、言われるまでもなく理解している。
     それなのに、憂太はまだ不思議そうな表情のまま首を傾げる。
    「だって、先生が僕に言ったじゃないですか。力の使い方を学びなさいって」
    「うん。言ったね」
     でもそれがこの話と繋がっているとは思えずに憂太を見下ろすと、彼は真っすぐな目を五条に向ける。
    「僕の呪力が多いことが分かって、リカちゃんの力を使えるようになって。でもそれだけじゃ全然ダメで、まともに戦えるようになるのに、三ヶ月もかかりました」
     それは、祈元里香を解呪してから特級に返り咲くまでの三ヶ月の話をしているのだろう。でも、三ヶ月間で特級に返り咲いたのは他の呪術師から見れば異常な早さだ。
     五条をも上回る膨大な呪力量を、憂太は十七年近くの間、無自覚で生きてきたのだ。己の呪力を知覚し、自らの力として使うことを覚える必要があるうえ、それまでほぼオートで動いていた里香も、自らの呪力で動くリカという術式として使うようになったのだ。それらの感覚をゼロから身に着けるなんて、並大抵のことではない。
    (まあ、できるとは思ってたけどさ)
     五条も未だ感覚の掴めない他者への反転術式、里香の力を限界まで引き出した呪力砲、それらをすべて実現してみせたのだ。四級に落とす必要性もなく、憂太であればまたすぐ特級に戻ると、五条は確信していた。
     それでも、憂太を四級にすると決めたのは五条だ。
    (ただの特級なんて、上にいいように扱われるだけだからね)
     特級過呪怨霊の解呪に成功したとなれば、憂太は問題児などではなくただの特級術師だ。上層部に駒として都合よく扱われる未来なんて、簡単に予想できる。
     そうなれば、青春など程遠くなるだろう。
     もっとゆっくり特級になってくれてもよかったのに、という想いと、誰よりも強い教え子に育つだろうという期待のような喜びが五条の中にあり、ふっと苦笑する。
     そんな五条の想いなど知らず、憂太は真っすぐに五条を見つめたまま言葉を続ける。
    「だから、五条先生にもあったんじゃないかなって。術式を使いこなせるようになるまで、練習した期間とか、そういうの」
    (ああ、そういうことね)
     憂太の言葉で、ようやく理解した。
     五条にも術式を上手く扱えない頃があり、努力した時期があったのではないか。そうして術式を使いこなすまでに努力したからこそ最強となったのではないか。それは、自らの意思で最強と成るべく身につけたのではないか。きっと憂太はそう問いたいのだろう。
    (うーん。どうしよっかな)
     事実として、術式を使いこなせない時期はあった。それこそ、呪力の核心を掴み、反転術式が使えるようになったのは、憂太と同じ歳の頃だ。それまでも、五条は最強であった。だが、今の自分から見れば当時の自分ははっきり言って未熟。とても最強とは言えない。
     かといって、別に明確な目的があって強さを求めたわけでもない。
     自身の思い通りに動く呪力と身体。純粋な力のみで高みへと昇りつめ、自らの感覚がどこまでも研ぎ澄まされるあの極致。自身の身体でありながら、本来のあるべき姿をはじめて知ったようなあの感覚。それを追い求め、力を磨き、そして最強と成った。
     努力への理解も、苦労への同情も求めていない。ただ自ら強さを追い求めた結果、今があるだけだ。
     だからこそ、本当のことを憂太に話す気にはならない。第一、伝えたところで憂太が理解することはないだろう。
     憂太が強さを求めるのには理由がある。誰かに必要とされたいという自己肯定、大切な友人を守りたいという願い。だからこそ、憂太は強くなっても友人や他者を取り残すことはないだろう。
    (……僕と違ってね)
    「先生?」
     黙っていたことを不自然に思ったのか、窺うように声をかけられた。
     むに、と顎を掴んで考える素振りを見せたあと、五条は憂太に向かって、にぃと笑った。
    「思い出そうと思ったけど、分かんないね。術式を使いこなせなかった頃なんて何年も前のことだからさ、理由があったかなんて覚えてないよ」
    「そうなんです?」
    「そりゃそうでしょ。僕は憂太よりずーっと前から呪術師なんだからさ」
     そう言って笑って見せると、憂太はぽかんと目を丸めた後、くしゃりと笑う。
    「そっか。そうですよね。五条先生は僕よりずっと前から呪術師なんですよね」
    「そういうこと」
     こんな適当な理由で、術師として日の浅い教え子は納得してくれたらしい。すると、憂太は立ち上がりながら、もう一度五条を見上げて笑う。
    「やっぱり、五条先生はすごいですね」
    「……は?」
     予想外の言葉に思わず間の抜けた声が出た。だが、憂太には聞こえていなかったようで、笑顔のまま続ける。
    「追いつけるように、僕ももっと頑張らなくちゃ」
     反転術式と少し休んだことで回復したのか、憂太は地面に転がっていた特訓用の竹刀を手に取ると、「もう一度お願いします」と五条を向き直る。だが、さすがに予想もしていなかった言葉を五条は聞き返す。
    「もしかして、僕に追いつく気?」
    「え? ダメですか? というか、五条先生はそのために鍛えてくれてるんだと思ってました」
     だって皆より厳しいし、と小さく呟やかれたのは、不満からではなくどうやら照れているようだ。
    「あの、僕、勘違いしてました?」
     恥ずかしげに頬を染めて言われ、五条は思わず吹き出した。
    「まじ? ほんと憂太は面白いこと言うよね」
    「や、やっぱり勘違いでした? す、すみません、調子にのってるみたいで……、恥ずかしいから、皆には言わないでくださいっ」
    「えー、どうしよっかなー」
     慌てる憂太が面白くて、そして今後おそらく誰からも言われないであろう言葉が擽ったくて、五条はますます笑う。
    (僕に追いつこうだなんて、そんなこと言えるのは憂太ぐらいだよ)
     すごい、なんて言葉が出てくるのも、追いつくだなんて言えるのも、憂太の中では五条は同じ呪術師であり人という枠組みの中に居るように見えているからだろう。呪術師として長く生きてきた者ほど、五条に対しまるで別の生き物であるというような線引をする。最強という、人の枠組みを超えた存在かのように。
     それなのに、憂太はこんなにも裏表のない笑顔を見せて「すごい」と言えるのだ。
    (憂太になら、話してもよかったかもね)
     術式が満足に使えなかった頃があったこと。そもそも反転術式さえ使えなかったこと。そうして強さだけを追い求め、友を置き去りにしたことに気づけなかったこと。
    (あーあ。こんなつもりじゃなかったんだけどね)
     対等の呪術誌として接し、最強である五条に追いつこうとまで思う教え子。実力だけでなく、僅か三ヶ月で特級に返り咲くほどの才能に溢れ、さらに強くなろうとする意欲もある。
    (こんなの、手放せるわけないよね)
     予感がした。おそらく、今後憂太から青春を奪うのは上層部ではなく自分だ。例えば自らが動けない状況になった時、代わりを頼めるとしたら憂太しかいない。
     五条は憂太の傍に近づくと、その手を憂太の頭に乗せぐしゃぐしゃに撫でる。
    「いいじゃん。強くなってみなよ、僕に追いつけるぐらいにさ」
    「……馬鹿にされてます?」
    「まっさか。憂太ならできるんじゃない。まあ、その雑な呪力をどうにか出来ないうちは無理だろうけどね」
    「ぐう……」
     唸るような声を漏らす憂太の頭をぽんぽんと優しく叩き、五条はアイマスクで隠した目を細め、憂太を見つめる。
     どれだけ強くなろうと、憂太が一人になることはないだろう。真希、棘、パンダ。彼の友人は、彼を一人にさせることなどない。
    (だから、もっと強くなってよね、憂太)
     最強の怪物となる者は、一人で十分だ。
     その言葉を空にかけるように、五条は空を見上げた。
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