眠れウィステリア さっきまできれいに晴れていた空から、涙のようにぽろぽろと雨が降る。落葉樹の枯れた枝を点々と飾るだけだったそれは、おもむろに激しさを増していく。冷たい雨に打たれて、壁一面に張られた窓ガラスは曇っていた。
彼女の死後、突然呼び出された関東支部司令局長席の前には、ふたりの男しかいなかった。施設内はしんと静まり返っており、不気味なほどだった。
「……誠に大義であった、橘副官」
かつて彼女の師であった男が静寂を切り裂く。もやのかかっていた頭がうっすらと晴れ、彼に返す言葉を紡ごうともたげる舌を動かす。
「……身に余る、御言葉でございます」
「当分のうちは休暇を取るか?それともあいつの仕事を全て引き継ぐか?……ひとつの組織が壊滅したんだ。また忙しくなる」
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