ダイ君とアルキードのワイン(左右不定コンビ) おれにとって、アルキードという国は、特別に何かを思い起こさせるものじゃなかった。
そんな名前の国があるなんて、旅に出てあの人と出会うまで知らなかったし、それがおれを生んでくれた母さんの生まれ育った国で、そしてあの人がこの世界から消してしまった国なんだってことも、つい最近知ったんだ。
母親、という存在を恋しいと思ったことも、実はあんまりない。そりゃ、うんとうんと小さい頃のことはもう覚えてないけど。おれがおれの記憶を掘り返して思い出せるくらいの歳まで遡る限りでは、母さんがいないことに疑問を覚えることはあっても、寂しいと思ったことはあんまりなかった。
だっておれにはじいちゃんがいてくれたし、島のみんなやゴメちゃんだっていてくれたから。おれはそれで十分に満たされていて、何かを不足していると感じたこともなかった。
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