Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    log_oxp

    @log_oxp

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 44

    log_oxp

    ☆quiet follow

    ベポ&オニ丸と仲良くするゾロを見て拗ねちゃうチョッパーの話
    ・一個前の投稿の続き
    ・ロビンちゃん視点
    ・特にオニ丸の捏造多めです

    たぬきはシロクマにも嫉妬する私は今、なかなか面白いものを目にしている。

    「なぁチョッパー、拗ねんなよ」
    「……拗ねてねぇ」
    「拗ねてるだろ」

    ひゅうと帆の間を吹き抜ける秋風に混じって交わされる何とも可愛らしいやりとり。
    サニー号自慢の芝生も甲板の上で豊かに揺れ、パタパタと揺れる帆の音も会話に混じっているようだ。
    こんな二人の会話を盗み聞いても良いものかと少々罪悪感を抱きもするが、生憎目も耳も釘付けになってしまっているのだから許してほしい。
    二人というよりは一人と一匹、という方が正しいのかもしれないが。

    ハナハナの実でマストに目と耳を咲かせたロビンが見守るのは麦わらの一味の長男と末っ子コンビ、ゾロとチョッパーだ。
    この二人はつい先日も喧嘩のようなものをしていてその後無事仲直りしたばかりだというのに、どうやらこの朴念仁さんはまたもチョッパーの機嫌を損ねてしまったらしい。

    「悪かった、あいつらが誕生日だったから…」
    「誕生日だから何だって言うんだよ」
    「っ、いや、あの」

    たじたじだ。
    一度刀を握れば触れるものみな傷付けんばかりに殺気を放つあの魔獣の牙も、今は小さくて可愛いらしい我らがトナカイさんを前にその見る影もなくなっているのだから何とも微笑ましい。
    口を咲かせていなくて良かったとロビンは心底ほっとする。そうでなければくすっという笑みが漏れ出ていたに違いない。

    おそらくだが。いいや間違いなくあれだろう。
    ロビンは一人、見当をつけてみる。
    きっとチョッパーの機嫌を損ねてしまった原因は今日の昼間の出来事にある。

    ***

    今日は朝からハートの海賊団が何やらそわついていた。
    どうしたのかと聞けば、十一月二十日、今日は航海士ベポの誕生日なのだとか。
    それをきっかけにその場にいた者の間で誕生日のことがちょっとした話題になったりして。
    ロロノアは先週だったよなぁ!、そういやお前誕生日いつなんだー?、キャプテンは六月だからまだだいぶ先だよなぁ、そんな会話があちこちで飛び交う。
    船長同士だけでなくこうしてクルー同士でも親交を深める様子は何だか好ましい。

    大した意味はなかったのだろう、それらを耳にしたゾロはふと隣に座る僧兵、オニ丸にも声をかけていた。
    その身長差故に上を仰ぎ見るように聞いているであろうことは想像に容易い。
    お前にも誕生日とかってあったりすんのか? 軽く、ただ横にいたから聞いてみただけといった風で。
    ちょうどさらにその隣にいたためにロビンにはゾロの声がよく聞こえたのだが、座っているとは言えオニ丸の耳とゾロの口とではあまりに距離が遠い。
    何だ? 首を傾げながら再度問われたその問答に一瞬驚きの声を漏らしながらも、オニ丸はあるぞと穏やかに答えてくれた。

    「牛マル様が決めてくださったのだ」

    ふん、と鼻高々といったように答える様子は何だか嬉しそうで、誇らしげで。
    こうして彼が"牛マル様"という人物のことを語ることはそう多いことではないが、決まっていつも少し目を細め、何か温かいものを心の内から掬い上げるかのように柔らかい表情を見せてくれる。
    いつもしかめ面でぎゅうと眉間に皺を寄せる彼が、その時ばかりは漂わす雰囲気ごとほわ、と僅かに緩めるのだ。

    ヒトヒトの実の能力者故にチョッパーと同様人間の姿になったりはできるものの、彼の本来の姿は狛狐。
    余程知能のある動物でも自身の誕生日など覚えていないだろうし、そもそもそんな概念からして知りもしないだろう。
    しかし彼は、かつて自身が長らくを共に過ごしてきた主人から授けられた、一年でたった一日しかないその大切な日をちゃんと胸に留めているようだった。

    こうして自然にゾロの隣に腰掛けむぅと固く結ばれた口を解いて話してくれるのも、もしかしたらゾロの面影にその大切な主人を重ねているからかもしれない。聞くところによると二人はよく似ているというのだから。
    ゾロの姿を見つけてのっしのっしとその後ろをついて歩く様は何だか大きな雛鳥を見ているようで、ロビンはつい目で追ってしまうのだ。

    七十に近い歳というだけあってこうして僧兵の姿になればこそ隣に座り落ち着いて話しているが、狐の姿になった途端、無邪気に、また時に寄り添うように度々ゾロと戯れているところはワノ国の誰しもが目撃しているところであって。
    ととっとゾロの足元を駆け回り時折すり、と擦り寄る仕草は見ているこちらを和ませる。

    詳しくは知らないが以前河松から聞いた鈴後での話を思い出す限り、"霜月牛マル"という男はそれだけオニ丸にとって唯一無二の存在だったようだ。
    コンコンッと嬉しそうに鳴きながら主人とよく似た面影漂わすゾロと戯れるときの声、何よりその時の彼の表情一つからもそれは窺い知れる。
    そんなオニ丸の表情を下からちらと盗み見るロビンに対し、いつなんだ? とゾロは重ねて問うた。

    「む…」
    「何だ、言いたくねぇか?」
    「いやそうじゃあないが…」

    何だか言いづらそうにするものだからロビンも自然と耳をそばだてた。するとゆっくりオニ丸が口を開いたのでそのまま次の言葉を促す。

    「それがしが牛マル様に出会ったのは…既にあの鈴後にて雪舞降るようになった時節、霜月の十と九日ばかりが過ぎた頃。それが…それがしがあのお方から生を受けた日だ」
    「へぇ…出会った日を誕生日にしてもらったのか……つぅことは、十…一月十九日、か……? ……って昨日じゃねぇか!」
    「まさしく」

    何の偶然か、昨日十一月十九日はオニ丸の誕生日だったらしい。
    ゾロが思わずあげた驚きの声にシャチやペンギンもこちらに注目する。
    何だ何だ、誰か昨日誕生日だったのか、誰なんだ教えろよー、わらわらと聞かれるものだからゾロが隣をすっと指差すとオニ丸はせっかく開いていた口をまたもむぅと一文字に戻し、眉根もぎゅうと寄せてしまった。

    ワノ国決戦を終えた束の間の平穏。
    オニ丸はあまり騒がれたくなかったようだが陽気な海賊が集まれば祝い事は格好の宴の口実になる訳で。
    さらに今回は久々の平穏を満喫しようという気も働いたのか、せっかくだからということであっという間に話もまとまりどこから聞きつけたのやら突然現れたワノ国の人々から二匹に向けてプレゼントが贈られることと相なった。
    品物はワノ国特産柚木が練り込まれた上等な石鹸。急遽のことであったし風呂で疲れを癒してもらおうという算段だ。

    隣に並び立ち目の前にずいっと包みを渡されるベポとオニ丸。
    ベポも大概身長が高いと思っていたがオニ丸と並べればまだ小さい方なようで、胸元にも届かないその身長差に本人も驚いている。
    ほぇ〜とオニ丸を仰ぎ見ながらパチクリと瞬きするそのつぶらな瞳は何とも可愛らしい。

    「このような物は受け取れん」

    一転、目を丸くし驚いた様子を見せたオニ丸はぐんと腕を突き出しプレゼントを受け取ろうとはしなかった。
    やはり彼にも侍魂が根付いているのか、余計な施しは受けない主義のようだ。
    これが仮に、私達の誰かが適当に用意しただけのプレゼントならばはいそうですかと収めることも出来たかもしれない。しかし今回はワノ国の人々の好意が詰まった品。

    麦わらの一味含め異国からやってきた私達海賊は今やこの国を救った救世主と言われ、一方このオニ丸も今回の勝利に大きく貢献した者であったという事実はあとから明らかになったことで。
    何年もの間その忠義揺らがすことなくあの寒さ厳しい土地でたった一匹、ひたむきに守るべきものを守り、備えるべき時に備え、ただひたすらに大切な人を、この国を想うその気持ちは狛狐と言えどワノ国の民衆と何ら変わらず、ロビンも初めて知った時は大層驚いたというものだ。
    ワノ国の人々からすればそのような恩人(恩狐)の誕生日とあらば多少無理してでも祝いたいという気持ちが働いたのだろう。

    今現在ワノ国からは一難去ったとはいえあの戦いによる被害は大きく、何よりこの国の皆がかつてのように豊かに暮らすにはあまりに奪われたものが多過ぎた。
    そんな中、どこから聞き及んだのかワノ国を救ってくれたヒーローの誕生日の贈り物にと彼らが用意してくれたのがこの石鹸。
    土地を毒され資源も減り、皆が満足に暮らすにはあまりに先行き不安な現状にも関わらず、貴重なそれを惜しげもなく「これで喜んでもらえるなら」と包んでくれたのだ。

    それを改めて伝えて再度そうっと手を差し出すと人の好意を無碍にするほど冷たくはなれないらしく、オニ丸は有難く頂戴するとだけ短く言ってボフンと狐の姿に戻った。

    「キャプテーン!誕生日プレゼントに石鹸貰っちゃった!もう使っていい?」

    ベポの言葉に勿論駄目な理由もないのでローも頷く。
    こうして二匹は石鹸のプレゼントを貰うこととなったのだが、まぁ、ここまでならば心優しきチョッパーが怒る箇所などどこにもない。
    しかし、どうやらその後のゾロの行動がまずかったようなのだ。

    ***

    ちょうどこの日はずっと怪我で安静を余儀なくされていたゾロの制約が解禁される日であった。
    適度な運動、風呂に酒。最初に挙げたものはいくらチョッパーが禁止しようとやめる様子はなかったが、風呂の禁止令はきちんと守っていたようで。
    元より週に一度しか風呂に入らない男ではあるが湯に浸かるのは好きらしい、ゾロ自身昨夜はやっと風呂に入れるなと嬉しそうにしていた。

    それを丁度聞いていたのか、ゾロとベポの仲の良さをよく知るハートのクルーがそれならば丁度良いのでゾロが二匹纏めて洗ってやればいいという話に。
    加えて言えばオニ丸の風呂の世話をできるのはゾロか河松くらいだろうし、諸々含めてゾロが一番丁度良いだろうという話になったのだ。

    昼食を用意する私達の前に現れた三に ── いや、もうこれは全員動物みたいなものか ── その三匹を前に、その場にいる誰もがほぅ、と頬を緩めた。
    特製石鹸によって見た目にも分かるほど普段以上にふわふわもふもふの毛になった二匹。
    心なしかゾロの若草の髪もほわほわと柔らかそうで。
    ベポの毛並みは昼間の明るい陽射しを反射させながらきらきらと輝き、オニ丸の雪のように透き通ったその白い尻尾も今すぐ触ってみたくなるほどふかふかになっているようだった。

    「柚子の香りがとーっても良い匂いだったよ!皆ありがとう!」
    「コンコンッ♪」
    「あぁ、ありゃあ悪くなかったな」

    ほかほかと湯気を立てながらベポを筆頭にエンジェルスマイルでお礼を言ってくれたあと、連れ立って昼食の席に着く三匹。
    風呂場でベポとオニ丸も打ち解けたのか、食事中も仲睦まじく言葉を交わす。

    「お前ももう年いってんだからゆっくり食べろよ」
    「ロロノア、その言い方はひどいよー?」
    「コンコンッ」
    「ほら、誰が年寄りだってオニ丸が」
    「事実だろうが認めろよ」
    「自分が一番年下だからって…」
    「何か言ったか」
    「言ってませんよ〜ねぇ〜オニ丸〜?」
    「コォ〜ン」
    「はぁぁ、ったく……でもまぁ、本当石鹸だけでこんなに変わるもんなんだなぁ」

    オニ丸はいつものようにゾロの膝に乗り上げ手ずからぱくぱくと上機嫌に油揚げを摘んで。
    その間もゾロは手近にあるオニ丸の頭やら尻尾やらの感触を楽しんでいるようだった。
    その後お腹いっぱいになり眠気に誘われた三匹はその獣の本能のままに眠る体勢に入ろうとしていて、

    「お腹いっぱ〜い、もう眠い〜」

    ごろん、と横に転がったベポが最初だった。
    食った後すぐ横になると牛になるぞと嗜めるローの声もそのままに、その分この後手合わせするもんなと言いながらゾロはコォ〜ンと擦り寄ってきたオニ丸を無造作に撫でている。
    どうやらオニ丸も昼寝をご所望のようだ。
    普段なら欲に負けず立ち上がっていたであろうゾロも、目の前に横たわった極上の枕と手の中をほわほわと擽り続ける抱き枕とを前に、ぐら、と傾いたのが分かった。

    一度決めれば行動は早い男で、ゾロはベポのお腹を枕にするようにごろんと仰向けに転がり、さらにそのゾロの膝上にはさも当然というようにオニ丸がちょこんと体を丸め。

    「あれ、ロロノアも寝るの?」
    「ちょっとだけな」
    「ふふ、ポーラータンク号で一緒に寝たときのこと思い出すね」

    そのままニ、三言葉を交わした三匹は、かくして瞬く間にすやすやという吐息を立て始めた。
    すぅ、ぴぃ、と上下するベポのお腹の動きに合わせ瞼を揺らす二匹。
    ワノ国は今日もぽかぽかと晴天だがその周辺だけ春の柔らかな風が流れ込むかのように穏やかな空気が漂っている気がするのはきっとロビンだけではないだろう。

    「ったくもう、しょうがないわね」

    ナミを筆頭に皆がその様子を見て癒しを得ながらも眉を下げる。

    しかしこの時、ゾロは気付いていなかったかもしれないが、ロビンの視界の端には確かにまたもぷるぷる体を震わせながらその三匹を見つめる者が写っていたのだ。

    ***

    先程も言ったが鬼ヶ島での激しい戦闘の傷を治癒していた最中のゾロはこの日が色々なものの解禁日だった。
    体温の急激な上昇を抑えるために風呂は入らせてもらえず、酒もずっと禁止令が敷かれていた。何より、体に過度な刺激を与えたり包帯が解けないようにするためにもゾロはずっと寝るときは仰向けになって寝ることしか許されず、体を曲げたり手元に何かを抱えたりしながら寝るなんてことは言語道断であった。
    そのため前回チョッパーと仲直りしたときも当然昼寝はお預けとなっていた訳だが、ようやく今週に入ってから順を追ってそれら禁止令のお許しがチョッパー直々にだされたという訳だ。

    ドレスローザから離れゾウへホールケーキアイランドへワノ国へと、落ち着く暇もないままに航路を別っていた二人。
    戦いも終わった。ゾロの傷もおおよそ回復してきた。さぁもう何も気にすることはない。待ちに待った数ヶ月ぶりの昼寝の時間だ!……と、少なくともチョッパーはウキウキしていたはずなのだが。
    別のもふもふに心を奪われ、戦闘を終えてから最初の、二人にとっては数ヶ月ぶりの念願の大事な昼寝の時間を他の動物にくれてやってしまったというのだから、まぁチョッパーのこの怒りも当然かもしれない。

    数時間前のやり取りを一通り思い出していたロビンはふと目の前で繰り広げられる会話に意識を戻す。

    「ゾロはもふもふの枕があれば誰でもいいんだ」
    「っいや、そういう訳じゃあなくてな、?」

    相変わらず取り付く島もないようだ。
    先程からチョッパーの背中に向かって話しかけるも振り向いてもらえずおろおろするばかりのうちの剣士さん。
    風が止み、心なしか彼が座る甲板の芝生もしゅんと落ち込んでいるように見える。

    決して二人は今日一緒に昼寝すると約束していた訳ではないので彼は不義理をしたわけではない。約束は守る男なのだから当然だ。
    しかしまぁ、数ヶ月ぶりにようやく甘えられると分かっていたところをこちらが一方的に期待していただけとはいえ目の前でドタキャンされ、それどころか他のもふもふの上に頭を乗せ、またさらに別のもふもふを膝の上に乗せ、すやすやと呑気に眠りこけるお兄ちゃんを見つけたときの末っ子の気持ちを思うと……申し訳ないが、どうにも今回は彼の味方をする気にはなれない。

    『あ……』

    昼間、初めて三匹の昼寝を目撃したとき、チョッパーは小さく落胆の声をあげその後ぎゅうと小さく可愛らしい手を握りしめ何かを堪えるようにぷるぷるとその体を震わせていた。
    きっと、別に約束してた訳じゃないし…おれが勝手に楽しみにしてただけだし…と、人知れず我慢しようとしていたのだろう。
    見かねたロビンが昼寝に誘っても「いい」とぷいと顔を背けるばかりで。

    もともと麦わらの一味に対し甘い自覚はあるものの、その中でもチョッパーに対しては殊更だと分かっている。
    だからこそロビンはまだ寝ぼけ眼の剣士さんに対し早くチョッパーのところに行きなさいと少しばかりお小言を言ったのだが。
    港に止まるサニー号までの道すがら、何度も余計なところで曲がろうとするものだからその度に手を生やしあっちへ引っ張りこっちへ引っ張りと誘導した。迷子さんにも困ったものだ。

    そんな風にロビンが一人頭の中で考えていると、不意に何か諦めたのか、はぁぁぁ、とゾロは大きく息つきその場で勢いよく立ち上がった。

    「いくぞチョッパーー!!」

    何をするつもりなのか、いきなり大きく声を張り上げガバッと手を広げながら勢いよくチョッパーに覆い被さろうとする。
    一体何を? このままではチョッパーが押し潰されてしまう。
    思わず手を咲かせロビンが庇おうとしたところ、

    「っ、えっ!? うわ何ぃああッ 毛皮強化(ガードポイント)!!」

    ゾロのその突然の行動に驚きの声をあげながらもチョッパーは防御の一手を打った。
    ボフンという音を立て形態を変えると同時、そこに勢いよくゾロも覆い被さる。
    上から抱き締めるように、上半身をチョッパーに預けるようにしてうつ伏せでもたれるゾロ。
    ぷは、と顔を横にしたことでもふもふによる窒息は免れたようだ。

    「〜………」

    まるで温泉にでも入ったかのような気の抜けた声。
    両方の目を閉じ気の抜けたように和らいだ表情を見せる。

    「ん、やっぱこれが一番しっくりくるな」

    ぽふ、ぽふ、と頭を毛皮にうずめながらその感触を確かめているようだ。
    突然のゾロのあの行動はチョッパーのもふもふを引き出すためだったらしい。

    「い、一番って……」

    チョッパーは心許なさそうに目を揺らす。

    「………ベ、ベポは…」

    ぽつり、小さくうかがうチョッパーの声はどこか戸惑いを含んでいて。
    もしかしたら、ゾロの今の言葉に本当か?!とすぐ飛びついてしまいそうになる単純な ── 私からすればどこまでも純粋で素直な ── 自分にストッパーをかけているのかもしれない。

    「あいつはトラ男のンだ」
    「……キツネ、は」
    「あいつにも主人がいる、いや、主人っつぅより相棒か」

    おれは誰に取られたわけでもないと言外に告げているつもりなのだろうか。
    ぽん、ぽん、と軽く手であやすようにしながら穏やかな低音で言葉を重ねるゾロ。
    オニ丸にとっての"牛マル様"は主人ではなく相棒だったのか、ここにきて初めて知る事実にやはり彼はゾロにだけは何だか心を開いているようだと言いようもないくすぐったさが広がる。

    「大体、お前があいつらと争う必要なんざどこにもねぇだろ」
    「へ…?」

    もぞもぞとチョッパーの顔の方へと動きだしたゾロは、だってよ、そう言ってぐいっと青鼻の先の瞳を覗き込む。

    「お前はこの世でたった一人のおれの主治医だろうが」
    「……っ!」
    「これからもよろしく頼むぜ? な、ドクター」

    ふ、と穏やかに微笑んだ瞬間、柔らかに芝生が揺れた気がした。
    魔獣の牙も面影もあったものじゃない。それくらい優しく穏やかな声だった。

    語りかけられたお医者さまはまん丸の目をさらに大きく見開き、きらきらとした目でゾロの隻眼をきゅうと見つめる。
    やがてゾロの言った言葉が胸の内に広がったのだろうか、エッエッと彼特有の可愛らしい笑い声が甲板に響いた。

    「おうっ、任せとけ!!」

    その声音にはもう、不安も戸惑いも浮かんでいなかった。
    オニ丸もそうだが、彼は動物とのコミュニケーションの取り方が上手いようだ。きっとそれは彼自身が嘘をつかないからだろう。
    いや、チョッパーの場合はコミュニケーションという難しいものでもなく、ただ甘やかすのが上手いのかもしれないが。
    くふふ、と手足をパタパタさせながら嬉しさを全身で表現する様子はこちらの口角をこれでもかと緩ませてくる。

    そうときたら、ちょっと寝ようぜと提案するゾロに対しチョッパーは一瞬え、と口をぽかんと開けたのち、すぐにお医者さまの顔になった。
    む…とすこし考えたのちだめだ、と短く答える。休まないのも良くないけど休みすぎも良くないらしい。
    うぅ、と唸りながら絞り出すようにゆっくり答える様はどう見てもその誘惑に惹かれている様子で。

    その言葉を受け少し逡巡したゾロはあっさりとアプローチを変えた。
    おれは休みたいんじゃねぇ、ただお前とのんびりしたいんだ。
    そう言われたらもう降参だったらしい、むんと口を引き締めていたお医者さまはちょっと口をすぼめ、ちょ、ちょっとだけだぞと言って頬を綻ばせ、一気に我らが可愛い末っ子の姿へと早変わりした。
    ほら、やっぱり甘やかし方が上手い。

    もうあと暫くも立てば海風と芝生の揺れる音に混じって二人の寝息も聞こえてくることだろう。
    もしかしたら午後の漁を終えた船の喧騒も聞こえてくるかもしれない。
    そこで目を覚ましてしまうだろうか。それとも目は覚めてもこのままここでのんびりするだろうか。

    穏やかに瞼を閉じる寝顔を見守りながら、ロビンは部屋から幾つも咲かせた手づたいにブランケットを運んだ。
    日差しは柔らかに二人を温めてくれているとはいえ今は十一月。ここで風邪をひいてしまったら元も子もないだろう。

    仰げばそこにあるのとよく似た空色のブランケットを二人にそっとかけながら、それまでは、どうか。
    ロビンは一人、心の中で呟く。
    どうか寂しがり屋な末っ子がお兄ちゃんに甘えられますように、己が甘えるということを知らないお兄ちゃんが、末っ子に癒されますように。

    あの二人がまた、以前と何ら変わらぬ穏やかな時間を過ごせますようにと、ロビンは静かに、心の中で祈った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺💘💕💕💕💯👏🙏💞💯💯💖☺🙏☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺👏👏👏💯💯💯💘💘💯☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺💘😍☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works