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    🏫学パロキラゾ
    ・4月始業式/5月体育祭のお話
    ・お蔵入りにしないために書きかけをえいやとあげてしまういつものやつです

    4月 始業式5月 体育祭🌐と⚔️が出会って仲良くなり始めるところまで
    4月 始業式
    ■ 始業式(ゾロ視点)

    ふわりとした柔らかな風が耳元を揺らす。
    初めて足を踏み入れた渡り廊下は、想像していたよりもずっと短く、走ったら三秒で渡りきれそうだななんて考えが頭を掠めた。

    「ゾーロー!そっちは理系のクラスだぞー!」

    麦わら帽子を被った友人に名前を呼ばれた。
    あァ、と短く返事をしながらもう一度対岸の校舎に目を向ける。
    今日から、高校二年。
    廊下にわらわらと並ぶ同級生たちのブレザー姿を眺めながら、こんなにいるのかと今更ながら驚いてしまう。
    派手な帽子をかぶっているやつがいたり、クマが制服を着ていたり、髪色も黒からピンクまでさまざまで。
    相変わらず自由な学校だなと苦笑いを溢しながら、今行く、と返事をしてゾロはもと来た道を戻った。





    ■ エンカウント(ゾロ視点)

    くぁ、と欠伸をしながらだだっ広い廊下を歩く。
    始業式だの式典だのはどうにも窮屈でかなわない。
    相変わらず校長の話は長く、千人弱も集められた体育館からは式の最中にも関わらずときおりいびき声が聞こえてくるくらいだった。

    ゾロが通うのはこの辺りでも有名なマンモス高。
    校風は自由で、生徒の人数は多く、そして、それに対応するようにやたらと校舎が広い学校だった。

    数分前、始業式と簡単な伝達事項のみで早々にホームルームを終えたゾロは部活もないことからとっとと帰ろうと下駄箱を目指した。
    ただまぁ、先ほども言ったようにこの校舎は無駄にだだっ広いというもので、なおかつ教室やら下駄箱やらの位置がくるくる変わるというのだから困ったものだ。

    「ったく、不思議校舎め」

    二階から一階に降りればいいだけのシンプルな道のりを何をどう間違えたのかゾロは元いた高校二年側の校舎の真反対、今はほとんど使われていない図書館の裏側の校舎までファンタジスタを発動していた。

    人のざわめきもなく、ぺた、ぺた、というゾロの上履きの音だけが廊下に響く。
    すると、

    ────パリッ

    小さな音が鳴ったと思った次の瞬間、

    ────ガッシャーンッ

    ガラスが割れる音とともに目の前できらきらとした粒が舞った。

    「え、」

    スローモーションみたいに、見えた。
    いつだったかテレビで流れていた内容が頭の端を駆け抜ける。
    人は危ない、と思ったとき視覚の時間精度に影響を及ぼすのだとか。
    今がまさしくそれだな、とゾロはどこか遠くの方で納得していた。

    やがて、トン、トン、と小さく跳ねころころ足元を転がる野球ボールが視界に映る。
    あぁ、こいつが窓ガラスを割ったのかとようやく状況を理解した。

    すると、割れた窓から金髪頭の男がひょいっと姿を表して。
    デカい図体に似合わずとん、と小さな音を立てながら着地するその身軽さに少々驚いてしまう。

    「すまないっ、怪我はないか」

    そう言って差し出された手に、ようやく、自分が座り込んでいたのだと気付かされた。
    一拍遅れて大丈夫だと答えながら一人で立ち上がると、目の前の男が自分よりも十センチ以上背が高いであろうことが察せられた。

    「ガラスが目に入ったりとか、そういうのは」
    「全然、何ともねェ」
    「ほんとか?」
    「嘘ついてどうする」

    ゾロがそう言えば男はほぅ、と僅かに安心したように息ついた。やがて、

    「あ、」

    マスク、と小さく声を漏らし、ぽんぽんと自分のズボンをはたきながら探す素振りを見せる。

    「落としたのか?」
    「いや、そうじゃないが」
    「?」
    「いつも付けてるんで、落ち着かなくてな」

    何だそりゃ、と思ってしまった。
    先程手を差し伸べたときの一連のスマートな動きとはかけ離れ、あわあわとする様子は見ていてなんだかおかしくて。
    ふは、と思わず声を漏らしてしまう。

    「かくすようなツラじゃねェのに、勿体ねェな」

    そう言えば男は一瞬ぽかんとして。
    ゆっくりと、顔に手を伸ばされる。
    何か言おうと男が口を開いた次の瞬間、

    「ちょっとー!さっきこっちの方でガラスが割れる音しませんでした?!誰か怪我してない?!」

    女教師の甲高い声が響く。
    お互いびくっとして、じゃあおれはこの辺で、とゾロは階段へと足を向けた。
    人がいるところにボールが飛び込んできただなんて知られたらコイツが余計怒られるだけだろう。

    「っ、保健室は?」
    「別にどこも怪我してねェよ」

    悪かった、もう一度謝る男に大丈夫だと言いながらその場を立ち去る。
    始業式そうそう、珍しいこともあるもんだなと思いながらゾロはその場を後にした。





    ■ 委員会(ゾロ視点)

    始業式から約一週間後。
    委員会決めでゾロはじゃんけんに負けて体育祭委員をやることになった。
    体育委員ではない、体育祭委員だ。
    この高校では毎年五月に体育祭があるのだが、そのためだけに存在する委員。
    まぁいわば、四月と五月だけの短期的な雑用係だ。

    早速初回の委員会があるとのことだったので三年の教室まで向かう。
    例の如く不思議校舎のせいで時間をくってしまい座席はあと二、三ほど残っていなかったがそのうちの一席、窓際から二列目、一番後ろの席へと腰掛けた。

    でけェ背中。
    目の前のシルエットに向かって心の中で呟く。
    ゾロは比較的標準よりは良いガタイをしているのではないかという自覚はあったのだが、それでも目の前の壁のような背中には負けるかもしれないなと思わされた。
    ふわふわとしていそうな金髪は腰のあたりまで伸び、その隙間から見える肩幅や胸周りには程よい筋肉がついているであろうことがブレザーの上からでも想像できる。

    やがて、チャイムを合図に委員会が始まる。
    三年の委員長のやる気のこもった挨拶から事務的な話に移るにつれ、やがて睡魔が襲ってくる。
    まぁ、つい、うとうととしてしまって。
    一年は借り物競走、二年はリレー、三年は騎馬戦、それぞれ目玉の種目だからなー、その委員長の言葉を最後にゾロの意識は夢の中へと飛んでしまった。

    やがて、聞き覚えのある声に意識が浮上する。

    「おいゾロ!起きろー!」
    「ん…?」

    身体をむくりと起こせば教室の後ろの入口でぴょんぴょん跳ねるルフィの姿が目に入った。
    傍にはルフィに肩を回され必死にその腕を外そうとする男の姿が。

    「コイツ!ギザ男!友達になったんだ!」
    「あァ!? いつからダチになんかなったんだこのバカザル!」
    「ん? さっきからだ!」

    ニカッと笑いながら嬉しそうにするルフィを見て、どうやらまた強引に新しい友達を作ったらしいとふはり息を漏らす。
    今日はルフィも委員会があったようだ。

    「キッド、友達ができたのか」
    「あ!マスクのやつ!お前ギザ男の友達なんだろ!」

    目の前の背中から声が聞こえてきたので驚いてそちらに目を向ける。

    「だから違えって!帰ろうぜキラー」

    キラーと呼ばれたその男はルフィの言っていた通りマスクをつけていて。
    長い前髪も相まって顔はほとんど見えない。
    横顔を眺めていればそれがゆっくりこちらを向いて、あ、目が合う、と思った次の瞬間、

    「おいテメェら!プリント提出してから帰れと言っただろうが!」
    「トラ男〜!お前もギザ男と友達になったのか!」
    「ダチじゃねェ!」
    「え〜」
    「ハッ、悪ィなトラファルガー、おれはこのバカザルと違ってちゃんと提出してるんでな、二人で仲良くやってくれ」
    「その提出した内容がメチャクチャだからこうして追いかけてきてるんだろうが」
    「あ〜ギザ男怒られてやんの〜」
    「提出してねェお前は論外だ!」

    ワーギャー散々騒いだ三人はその後トラ男に連れられるような形で三年の教室を後にした。
    トラ男は同じ剣道部の部員。
    クラスも離れているので部活のとき以外の顔は知らなかったが、あんなに目を吊り上げて怒るやつだとは知らなかった。
    先程の三人のやりとりを思い出して少し笑ってしまう。

    で、コイツは。
    ゆっくりと視線をずらしながら目の前の男に意識を戻す。

    おれの友達の、ルフィの友達の、ギザ男の友達。
    友達の、友達の、そのまた友達。

    「あー、大変だな」
    「そっちこそ」

    お互い苦笑いが溢れた。
    いつの間にか机に置かれたプリントを鞄にしまいながら、軽く自己紹介をする。
    名前はキラー、理系クラスで、昔からギザ男───キッドと、よく一緒におり、体育祭委員にはゾロと同じく運悪くなってしまったのだとか。
    ついでにクラスへの伝達事項なんかも聞いて、二年はリレーの選手を決めなきゃいけないらしいことがわかった。
    助かったと礼を言えばキラーはじゃあ先行くなと言って早々に教室を出ていった。



    そして二週間後、また委員会が開かれる。
    前と同じ、窓際から二列目、一番後ろの席。
    教室の時計を見ると十五分ほど早く教室に着いたことがわかり、前回と同じ場所にどかっと腰を下ろした瞬間、一気に睡魔が襲ってくる。
    人の少ない教室ではやることもないのでまぁいいかと早々に仮眠をとることにした。

    次にゾロの意識が浮上したとき、その周りのざわめきに随分人が増えたらしいと察せられた。
    というか、委員長の声が教壇の方から聞こえてくるということはどうやらもう会は始まっているらしく、今はプリントを配っているところのようだった。
    どうにも目覚めが悪く、あともう少しだけと意識は浮上したものの同じ体制でまぶたを閉じる。

    かさ、と音がしてゾロの机に何かが置かれる。
    誰かがプリントを置いてくれたらしい。
    すると前からガタン、と椅子を引く音が聞こえて。

    「すみません、一枚足りなかったです」

    前ここで聞いたのと同じ声が。
    そうっと顔を上げるとキラーがまたあの長い髪を揺らしながら教壇までプリントを取りに行くところが見えた。
    寝ている方が悪いのに、わざわざ自分で足りない分を取りに行ってくれるなんて。
    いい、奴だなと、素直にそう思う。
    やがてキラーがプリントを受け取るところを見て、何となくここで起きているのは悪いような気がしてまた机に顔を伏せる。
    お言葉に、甘えて、いや何を言われたわけではないのだけれど、前と同じ大きな壁があるのだと思うと少し気が抜けてしまって、ゾロはこの日もまた意識を手放すことにした。





    ■ 委員会(キラー視点)

    チャイムが鳴ってありがとうございました、という号令を合図に委員会が終わる。
    くるりと後ろを向けばふわふわとした若草色のまあるい頭がそこに。
    ふ、と溢れる笑みを堪えず一言声をかけてみる。

    「ロロノア、終わったぞ」

    すると何拍か遅れて〜という声とともにゾロはゆっくり腕をほどく。
    今日は開始早々、というより開始前から寝ていたがどうやらそれでも足りなかったらしい、目をゆっくりと瞬きさせている。

    「紅白対抗のリレー、選手の名前を書いて今週中に提出しろだと」

    先々週言われていた件だ。
    誰になったんだと聞けばうちのクラスからはルフィが出ることになったと返ってくる。

    「おれも詳しくは知らねェけど、そっちはギザ男が出るんだろ?」

    ふぁ、とあくびをしながら言われる。

    「あァ、お前ンとこの麦わらのせいだってキッドは言ってたぞ」
    「ルフィならやりかねん」
    「まァキッドも負けず嫌いだからな」

    大方おれに負けるのが怖いのかだのなんだの言われて乗ってしまった口なのだろうが。
    やがてゾロがあっ、と小さく声を漏らす。

    「やべ、今日顧問に呼ばれてるんだった」

    また慌ててプリントをしまう様子に気をつけてな、と声をかけながら送り出す。
    ゾロの姿が見えなくなって、くるりと前を向き直した。
    ふぅ、とマスクの下で小さく息を吐く。

    今日も、話せた。

    マスクの中で自分の表情がだらしなく緩むのが分かった。
    会話ひとつで、こんなに口元が緩み、心が弾むなんて。
    こんなの、恋してるみたいじゃないかと思われるかもしれないが、でも、その通りなのだ。



    キラーは数週間前のことを思い出す。

    「今週中に委員会決めますからね、希望がある人は記入しておくこと!」

    ホームルームで女教師からそんな伝達があった次の日、食堂で聞いてしまったのだ。
    ゾロがじゃんけんで負けて体育祭委員になったという事実を。
    すぐさま、真似るようにして『体育祭委員』の隣の空欄に自分の名前を書き込んだ。

    「お、委員会決めたのかよキラー」
    「あァ、まァな」
    「…体育祭委員?」

    なんでだよ、というキッドの問いに、だって、と心の中で返す。

    『かくすようなツラじゃねェのに、勿体ねェな』

    あの日、向けられた笑顔に。
    きらきらしてると思ったんだ。

    あ、と気付いたときにはもう手を伸ばしてしまっていて。
    ゾロの髪についたきらきらをバレないようにそっと指先で取る。
    その後すぐ教師がやってきたのでそれ以上は話せなかったが、後から手の中を見て、そのきらきらの正体がガラスの破片だったと分かった。

    一目惚れ、だったんだと思う。
    緩んだ瞳に、きらきら舞い散るガラスの破片に、どうしようもなく、ときめいた。
    高校二年の四月、キラーは恋に、おちていた。




    5月 体育祭
    ■ 体育祭まであと一週間(キラー視点)

    体育祭まで残り一週間をきった。
    四限目の数学は途中から自習の時間になり、まぁ体育祭直前の高校生が黙って勉強をするわけもないのでキラーの教室はがやがやと賑わいをみせていて。
    五月に入ってから毎週のように委員会が開かれ、その度に少しずつゾロのことを知れるのがキラーは嬉しくて仕方がなかった。
    ルフィたちとは中学からの中で、剣道部に所属していて、この間連れられたローとは同じ部活で。
    委員会が始まるまでか、終わってからの数分のそのやり取りが週に一度の楽しみになっていた。

    告白、なんてものをする予定はない。
    おそらく、うちの高校はその自由な校風もあってか他校に比べて同性でのカップルも格段に多い方だろう。
    それでも。
    少数派であるのは変わりなく、例えキラーが女子であろうと叶う望みの低そうなこの想いを打ち明けようとは、とてもじゃないが思えなかった。

    すぅ、と気持ち良い風がクラスに舞い込む。
    冷房は六月からと決まっているので窓を全開に開けていて。
    これだけうるさければ隣のクラスから苦情がきてもおかしくないなと思うも、先程トラファルガーが廊下を横切っていたのを見るに移動教室でその心配はなさそうだった。
    生徒達の笑い声に混じって開いた窓からはスローテンポな音楽が聞こえてくる。

    「これ、フォークダンス?」
    「三年が練習してるんだろ」
    「青春だなァー、来年やるとか信じらんない」

    ヒートとワイヤーが首をふりふり、リズムを取りながら会話を交わす。

    「そういやキラー、この間アイツらがまた申し訳なさそうにしてたぞ」
    「あー言ってたね、おれらのせいでキラーさんがぁぁ、って」

    ワイヤーがモノマネのように口調を変えてみせる。

    「確かにキラーも野球してたけどよ、自分一人のせいにしなくてもよかったのに」
    「そうだよ、"手が滑って思わず窓ガラスに向かってボール投げちゃいました"って、どんだけコントロール悪いのって話よ」
    「たしぎちゃんびっくりしてたっしょ」

    振られた会話にあの日のことを思い出す。
    窓ガラスを割ってしまったあの日、駆けつけた女教師には「な、何があったんですかー!?」と大きな声を頂戴して。
    事情を説明すればコトは大きくならなかったのでキラーはそれでいいと思っていたんだが。

    「別に、実際ボールを取り損ねたのはおれなんだからあながち嘘じゃねェよ、それに、入学早々窓ガラスを割った新入生よりはノーコンの二年の方がまだマシだろ」
    「はーこの人格好良い」
    「もうやんなっちゃうね」
    「ねー」

    息のあった二人の会話をよそにあの後すぐ謝ってきた一個下の後輩達の顔を思い出す。
    フードをかぶっていたりジャラジャラとしたネックレスを付けていたり。
    見た目こそ派手だがみんな気のいいやつで。
    中学の頃から変わらず慕ってくれる後輩たちがキラーにはどうしようもなく可愛かった。

    「それよりキッドはどこ行ったんだ?」

    席は離れているものの、いつもなら自習の時間はすぐこっちにくるのに。
    きょろ、と辺りを見渡せば少し離れたいつもの席にキッドはいた。

    「あ、早弁してる」
    「堂々と、さも昼休憩かのようにがっついてる」

    二人の言葉通り、がっつり早番をキメていた。
    はぁ〜とため息をついてキッドの席まで行く。

    「痛っ」
    「キッドの辞書じゃあ"自習"と書いて"昼飯"とでも訳せるのか?」

    黒板に書かれた『自習(11:40-12:30)』という文字をゆびで指す。

    「仕方ねェだろ、昼休みはリレーの練習があンだよ」
    「リレー?」
    「絶対ェバカザルには負けねェ」

    メラメラと闘志を燃やす様子に一生懸命なのは何よりだと思うもだからって早弁はダメだろうとため息が出る。
    だがそれも、もごもごと口いっぱいに食べ物を詰め込みまるでリスのように頬っぺたを膨らませる様子を見れば注意する気が失せてしまった。

    ちゃんとお茶も飲みながら食うんだぞと一言だけ言って口の端についたソースを拭う。
    席に戻ればヒートとワイヤーに肩をすくめられた。

    「はー、いちゃつかれた」
    「大概キラーも甘いよなァ、ほら見て、言われた通りちゃーんとお茶も飲んでる」

    視線を戻せば確かに、いまだもぐもぐしながらペットボトルを傾けるキッドの姿が。
    ふ、と頬が緩むのがわかった。
    でも、目の前の二人の綻んだ口元を見て、甘いのはおればかりじゃないだろうと心の中で小さく抗議した。





    ■ 体育祭当日(ルフィ視点)

    「キャ〜!カッコいい〜!」

    応援団の入場に黄色い歓声が上がる。
    うちの高校は紅白対抗の応援合戦も大きな目玉となっているのだが、その主役の入場に会場がわぁっと沸き立つのが分かった。

    「エース〜!!サボ〜!!」

    女子達の甲高い声に負けじとルフィも興奮した声を張り上げる。
    ドンドンドンと鳴り響く太鼓の音をバックにセンターで学ランを纏うふたつの影。
    赤いハチマキと白いハチマキをそれぞれはためかせるエースとサボは、血は繋がっていないが、ルフィの兄であった。

    「カッケェ〜〜!!」

    デッケェ赤い旗と、これまたデッケェ白い旗をぶん回して、バサッ、バサッと音を立てながら風を切っていく。
    旗を他のやつにパスしたかと思うとお互いに向かって走り出して。
    あ、バク転した。
    ハッ、という気合いの入った掛け声とともにグラウンドの中央で二人の組手が始まる。
    立ちこめる砂埃のなかでも二人が身につけた白い手袋がきらきらと反射していた。

    スゲェ、スゲェ、めちゃくちゃカッケェ。
    おれの兄ちゃん、世界一カッケェ。

    ドッドッと鼓動が高鳴るのが分かる。
    飛んで、回って、蹴って。
    十数人の応援団員をバックにセンターで演舞を繰り広げる様子は、今日のために設置されたどでかいモニターにもデカデカと映し出されていた。
    やがてエースとサボがクロスさせるように腕をぶつけるとそれに合わせるようにしてドン、と一際大きく鳴り響く。
    その太鼓の音を合図に、わぁぁっと拍手が広がった。

    「やばいやばいやばい、今年の応援団長ふたりとも格好良すぎるんだけど!」
    「エース先輩とサボ先輩、あぁどうしよう選べない〜!」

    そんな女子達のキャッキャした声をよそにルフィは入退場門へを一目散に目指す。

    「エース〜!!サボ〜!!」

    姿を見つけた瞬間勢いよく飛び上がって、二人まとめて頭に飛びついた。

    「ぶはっ、ルフィ!見てくれてたか!」
    「おう!ふたりともスゲー!スゲーカッコよかった!」
    「お前にそう言ってもらえると嬉しいよ」

    わっしゃわしゃと頭を撫でてもらえてどんどんテンションが上がる。
    スゲェ、やっぱりエースもサボもカッケェ。

    ご機嫌でルフィが兄と戯れていればやがて後ろから声をかけられる。

    「ルフィ!邪魔して悪ィ、でも次の種目、おれらだからそろそろ!」

    振り向けばゾロがいた。

    「おう悪ィ!エース!サボ!またな!」
    「頑張れよルフィ!ちゃんと見てるから」
    「クソジジイも今日は来てるらしいからな」
    「え、じいちゃんがぁ?」
    「おう、晩飯は肉にしてもらおうぜ」
    「肉ー!」

    ルフィが目をお肉マークにして飛び上がった瞬間、ガッと首根っこを掴まれ後ろに引っ張られる。

    「次二年全体の種目なんだから!行くわよ!ルフィちょっとお借りしますね!」
    「おぉ!ナミ〜!」
    「おう連れてってやってくれ」
    「ルフィ!またあとでな!」

    ナミとゾロに挟まれるようにして集合場所を目指す。

    「ったく、あんたはルフィに甘いんだから」
    「…兄弟の時間は邪魔できねェだろ」
    「なァナミ!次の種目って何だっけ!」
    「綱引きよ、タイムテーブルくらい読みなさい」
    「ししっ悪ィ!よっし!絶対勝つぞ〜!」

    エースが見てる。サボも見てる。
    頑張んなきゃなァと思いながらルフィは拳を高く掲げた。





    ■ 午前の部 終了(キラー視点)

    少しだけ、イヤな予感がしていた。
    午前の部を終え教室に移動する際、体育祭委員の雑用で三角コーンを移動させていたキラー。
    そのとき、たまたまだが他校の制服が裏門の影からチラりと視界の端に映った。

    うちの高校の体育祭はこの辺りでも一際有名な行事。
    保護者だけでなく近所の住人はみな連れ立って観戦に来るようなものであり、他校の生徒がいること自体は何ら不思議ではない。
    ただ。
    あの制服の生徒にはあまり良い印象を持っていなかった。
    以前、下校途中のキッドに喧嘩を打っただのなんだのイチャモンをつけて絡んできた連中と同じ制服だったからだ。
    しかも、髪型まで同じモヒカンとスキンヘッドのコンビだったので大方同じ人物なのだろうと察せられた。

    午後は、二年生の目玉種目、紅白対抗リレーがある。
    ちゃんとキッドも練習に参加し、新しくできた友人に負けまいと意気込んでいた種目だ。
    その邪魔をしようとしている者がもしいるのであれば、申し訳ないが、それはいただけない。

    足早に倉庫へと向かいながら、キラーはひとり、ジャージの裾を捲り上げた。





    ■ 午後の部 スタート(ゾロ視点)

    全開にした窓から呑気な音楽が流れてくる。
    確かこれは一年の創作ダンス用の曲。
    どうやら午後の部が始まったらしい。

    とそこまで思い至ってあっと思い出す。

    「どうしたのよゾロくん」
    「やべ、委員の仕事忘れてた」
    「あちゃー」

    慌てて口の中に詰め込んだおにぎりを飲み込みジャージをぱっと掴んでドタドタと教室を出ていく。

    「気をつけろよ〜」
    「道に迷ったらちゃんと人に聞くんだぞ〜」

    後ろから聞こえるルフィとウソップの呑気な声を尻目に勢いよく階段を駆け降りる。
    途中何度か違う場所を経由はしたものの、どうにか目的の倉庫へと辿り着いた。
    気付けばグラウンドに響き渡る曲はアップテンポなものに変わっていてそろそろサビに差し掛かるところなことが伺える。
    三角コーンを五つほど出し、よいせとひといきに持ち上げる。
    そのまま指定の裏門の駐車場まで運ぼうと足を進めると、ドン、と何かが壁にぶつかるような音とともに曲がり角の向こう側から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

    「悪いが、今日はおれで勘弁してくれ」

    今まで聞いたことのない、冷ややかな声だった。
    言葉の端に怒りを滲ませたようなそれに混じって、ザッ 、と踏み込む音が聞こえる。
    次の瞬間、ド、ゴン、ドス、と鈍い音が立て続けに響き「調子乗んなぁ!」というしゃがれ声と共に金属が何かにぶつかったような振動がした。
    金属バットか?さすがにそれはまずいだろうっ、
    慌てて三角コーン抱えたままに踏み出せば再びドス、という重たい音ともに手前の男は倒れこみ、ちょうどキラーの回し蹴りが奥のモヒカン男の顔に直撃するところだった。
    綺麗な軌道を描き、見事に、踵がキマるところで。
    一つに結ばれたキラーの髪も綺麗な弧を描いていた。

    「うぐっ…!」

    どさ、と倒れ込んだ二つの影にゆっくりしゃがみ込む。
    仰向けに倒れたスキンヘッドの男の顎に手を添え、少々強引にくいっと上を向かせていた。

    「頼むから、アイツの邪魔をしないでくれ」
    「ひっ……、」
    「お願いだ」

    どう考えても人にものを頼む態度じゃない重々しい声で、いいな、と最後に釘を刺す。
    スキンヘッドの男は慌ててコクコクと頷きながら隣で伸びているモヒカン男を抱き起こして。
    金属バッドと男を両腕に抱えながら裏門を必死でよじ登る様子はなんだか滑稽だった。

    二人の背中を見送り、ハァァァ、と深く息つくキラー。
    ゆらり立ち上がってこちらに足を踏み出した瞬間、

    「あ、」
    「え、」

    目が、合ってしまった。

    「あー…今、きた訳じゃ」
    「ねェな」
    「だよな」

    そうだよなと言いながらキラーはまくっていた裾を戻し、戻し。
    そんなんじゃなかったことにはできねぇぞと思いながら無言で見つめていれば、

    「あー…これ、キッドには内緒にしてくれないか」
    「ンなことよりその傷どうにかしろよ」

    ゾロがそう言えば困ったように眉を下げる。
    はぁ、とあきれたようにため息をこぼしながら、先程の冷ややかな声と打って変わって、いつものキラーに戻っていることに、ゾロは、どこか安心感を覚えていた。





    ■ 手当(キラー視点)

    いったいどこへ連れて行くつもりなんだと聞けば当然のようにふんと鼻を鳴らして保健室だと返ってくるので真逆の方向だぞと重ねて言えば「っ」と肩を震わせ立ち止まる。
    一連の動作を後ろから眺め、勘弁してくれと眉を下げてしまう。
    普段見慣れないジャージ姿なことも相まってか、もう、可愛くて仕方ない。

    きっとゾロは先程キラーの腕についた小さな傷跡を気にしてくれているのだろう。
    しかし、このくらいの傷、何ともないのだ。
    ちょっと、掠ったくらい。ちょっと血が出たくらい。
    だから大丈夫なんだと言ってもゾロは歩みを止めない。
    チョッパーにうんたらかんたら、トラ男にもうんたらかんたら、まァようは、普段から口を酸っぱくして傷を甘く見るなと言い聞かされているようだった。
    それならば仕方ないかと、キラーは試しに代案を出してみることにする。

    「ここからだとおれらの校舎の方が近ェ、うちのクラスに行こう」
    「? お前ンとこのクラスに行ってどうすんだよ」
    「救急セットの類ならおれも持ってる」
    「…まじか」
    「まじだ」
    「あれか、お前も医者志望ってやつか」
    「いいや、将来はパスタ屋志望だ」
    「まじか」
    「うそだ」
    「あ?」

    ぐっと寄る眉間のしわすらも可愛く思えて仕方なかった。
    ここの渡り廊下を使うのは初めてだなと思いながら文系側の校舎から理系側への校舎へと移動する。

    「なァ、それ」
    「ん?」
    「髪、珍しいな」
    「あァ、動くと暑いからな、体育のときとか夏場は割と結んでるんだ」

    後ろを歩くゾロは揺れるカラーの髪の毛が気になっていたらしい。
    興味を持ってもらえたなら結んでよかったななんて思いながらガラガラと教室の扉を開ける。
    キラーが自分の席まで行ってガサゴソと鞄の中から消毒液を取り出す頃には、先程まで後ろについていたゾロは入口のところで立ち止まっていた。

    「どうした?」
    「いや、他のクラスに入るのは、なんつぅか」

    目を、ぱち、と瞬きさせる。
    担任の方針なのか、随分と真面目なんだなと驚いてしまう。

    「別に誰も見てねェよ」
    「いや、まァ」
    「てあて、してくれるんだろう?」

    そう言ってひらりと絆創膏を見せれば挑発されたと思ったのか、む、と下唇を噛んで。
    はぁ、とため息をついてからト、と大きく一歩踏み出した。
    いつもの上履きではなく来客用のスリッパを履いているせいか、ゾロが近付いてくる音がよく響く。

    ロロノアが、うちの教室にいる。

    この景色を焼き付けておこうと、じぃと見つめながら絆創膏をそっと渡した。
    窓からは応援合戦の賑やかな音が聞こえていた。





    ■ 体育祭 閉会式(キッド視点)

    「だーかーら!おれの方が速かった!」
    「追い抜かしたのはおれだ!」
    「その後また追い抜かしたのはおれだ!」
    「あァ!?」

    全く、埒があかない。
    キッドは苛立ちを隠さず鼻息を荒くする。
    午後の部の目玉種目、赤組と白組、それぞれ二名ずつによる紅白対抗リレー。
    そこでキッドとルフィは同じく第三走を任されたのだが、ほぼ僅差でバトンを渡され、なおかつほぼ僅差でバトンを次の人にバトンを渡したために勝敗がつかなくなっていた。

    「キラー言ってやれ!おれの方が速かったろ!」
    「あっずりィぞギザ男!おれが一番だったよなァゾロ!」

    ぎゅいんと首を動かし隣の二人を見やる。
    すると二人して腕を組んだ状態でそうだな、と口を開く。

    「確かに、キッドの方が僅かに速かった気がするな」
    「お前ちゃんと見てたか?どう見てもルフィの方が速かっただろうが」
    「あ?」
    「あ?」

    予想に反してバチ、とした空気が漂った次の瞬間、

    「ちょーっとお二人さん待ちなさいって、何で二人まで言い争ってんだっつぅの」
    「そうだそうだ、おれらへの被害を考えろー」
    「どっちでもいいじゃんね、紅組が勝ったんだし」

    周りで見ていたウソップ、ヒート、ワイヤーが矢継ぎ早に被せてくる。
    でも確かに、ワイヤーの言う通りであった。
    二年による紅白対抗リレーはキッドとルフィの奮闘の甲斐もあってか紅組に得点が入り、その後の三年による騎馬戦でも僅差であったが紅組に軍杯が上がったのだ。
    閉会式で優勝旗を渡される際、紅組団長と白組団長が握手を交わしたときにはグラウンド中が沸いた。
    まぁそれでも、キッドのむしゃくしゃした気持ちが収まるものではなくて。

    「バカザル!テメェとは来年の騎馬戦で決着を付けなきゃ腹の虫が収まらねえ」
    「望むところだ!絶対勝ってみせるからな!」
    「あらやだ青春」
    「お二人さんも見習いなさいな」

    またヒートとワイヤーが被せてくる。
    ヒートたちの目線の先にはいまだ腕を組み「あァ?」とガン飛ばし合うキラーとゾロの姿が。
    周りでウソップが冷や汗を垂らしながらどうどうと沈めようとしているところだった。
    キラーにしては珍しいこともあるもんだと頭の端で考える。

    終わったとなればメシだメシ〜!と叫ぶバカザルをよそに何やら言葉を交わすキラーとロロノア。
    先程は低い声を出してみせてはいたものの、それでもキッドには随分とキラーがご機嫌であることがひしひしと伝わってきていた。
    そんなに紅組が勝ったのが嬉しかったのか、もしくは別の理由なのか。
    何にせよ、 幼馴染が楽しそうにしている様子は見ていて好ましいものだと、キッドはひとり、頬を緩ませた。






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