あなたは流星群久しぶりに会った探偵さんは、また綺麗になっていて、そして酷く嬉しそうだった。
出会った頃よりも伸びた髪の毛は、探偵さんによく似合っている。もともと魅力的な人だけど、それよりももっと。外面だけではなく、内面も磨かれているのがわかった。
ずっと遠いところで頑張っていた探偵さん。多くの人に慕われて、頼りにされている探偵さん。それでも、彼女の輝くような笑顔は何も変わらない。
そんな素敵な探偵さんは、嬉しそうだけどどこかソワソワしたような様子で面会室の椅子に腰を下ろした。
私は彼女が口を開く前から、きっとそうなのだと悟った。
元気だった、久しぶり。
そんな言葉をいくつか交わしてから、私は話したいことがあるんでしょうと、努めて優しい声で言った。目を丸くして、アヤさんにはかなわないなあ、と探偵さんが笑う。十秒ほど沈黙してから探偵さんは顔を上げて、またあの嬉しそうな顔をして私を見た。
「あいつが、ネウロが……帰ってきたんです」
ああ、やっぱり。
ネウロ。助手さん。……彼女の唯一無二の助手さん。探偵さんの、何にも代えがたいパートナー。
よかった、と私は言って、それから助手さんが帰ってきてからのこの一年間の話を聞いた。
「本当はもっと早く来たかったんだけど、あいつが久しぶりだからって世界中散々連れ回して……」
「きっと、探偵さんに会えて助手さんも嬉しかったのね」
探偵さんの口は回る回る。
相変わらず交渉人のようなことをしながら、助手さんと一緒に様々な事件を解決しているようで。
ひとしきり話し終えて、私の新曲の感想をこと細かに教えてくれて、そうしているうちに面会時間が終わることを看守さんが教えてくれた。私のファンの、少しだけ変わった看守さん。
「……いつか、アヤさんとも一緒に色んなところに行きたいな」
帰り際に、探偵さんがつぶやく。
「ええ、ぜひ」
嬉しかった。
いつも真っ直ぐに言葉をくれる女の子。
私の大切な友達。
その晩、珍しく夢をみた。
夢を夢だと認識できるのは久しぶりで、私は少しだけ浮かれたような気持ちになる。
夢特有の、足元が覚束無いような、場所の境目があいまいになるような、不思議な感覚。ぼやけたような暗さは、星のない夜空を泳いでいるようでもあった。
心地よいまどろみに身を任せていると、暗闇が晴れていく。
少し離れたところから、助手さんが私のことをじっと見ていた。助手さんは何も言わない。ただ黙って私のことを見ている。深い瞳からは何の感情も読みとることができない。
手に何か感覚があることに気がついて、目線はそのまま足元へも向かう。……なぜ、助手さんが私のことを見つめているのか理解した。私の手には一本のロープが握られていて、足元には目を閉じた探偵さんが転がっていた。
探偵さんは目を開けない。助手さんは、何も言わない。静かな瞳は今まで見たどの助手さんよりもかなしそうに見えた。
夢は、それだけ。あっさりと目が覚めて悪夢はおしまい。
私は覚醒して、意識ははっきりとしている。あれは夢。とびきり悪趣味な夢。それでも、朝はまだやってきそうになかった。
暗闇の中で、私はいつまで歌えるのだろう、とふと考える。いつもなら考えないことだ。もちろん、答えは出なかった。
澄みきったひとりきりの暗闇。
私が自らなくした大切な二人。
私を解いてくれた大切な友達。
彼女を大切におもう人。
朝はまだこない。
きっと、これからもずっとそうなのかもしれない。
迷いはない。そうあの子に言ったはずなのに、今はあの子の笑顔を思うと息苦しい。
『いつか、一緒に』
いつになるのかわからない約束。果たされるのかもわからない願い。
そんな夢物語は私を蝕みながら、確かに私の心を慰める。
夜に降る流星群のようなあなた。
目を閉じて、贖罪と、遠い場所の友人の息災をただ祈った。