オリオン主 花言葉に想いを託して 何の前触れもなく、姫から手紙が届いた。
手紙を寄越すくらいなら直接来てくれればいいものを、と思ってしまうが、姫も多忙な身なのだから仕方ないと自分に言い聞かせる。
俺の自室には執事か限られたメイド、重臣くらいしか近付かない。だとすると俺が公務に追われ、疲弊仕切っていた為に手紙を置かれたことすら忘れていただけなのか。
まあいい。逸る気持ちをおさえてペーパーナイフで封筒を開封する。
こちらの近況を聞いてくるのかと思えば、手紙にはアンキュラでは様々な花言葉を持つ花を手紙に添えて、恋人に想いを伝え合うことが流行っていると書かれていた。
手紙でなければ俺に想いを伝えるような女ではないだろう。
散々俺を翻弄して虜にしておいて、言い訳するなど許さんぞ。
花には実に様々な花言葉がある。例えば薔薇なら情熱という花言葉を思い浮かべるだろうが、色や本数によっては恐ろしい花言葉を秘めていたりするものだ。
姫が送ってきた手紙にはセンニチコウが添えられていた。
センニチコウの花言葉は色褪せぬ愛。お前の想いならとっくの昔に理解しているし、疑ってなどいない。
旅に同行しているのはきっと見目麗しい王子ばかりだろう。だがお前は見目のよさに心乱されるような女ではないと信じている。
何と言おうと梃子でも動かない、頑固で意志の強い女だ。
種族の違い故に一部の海底人から冷遇され、誤解されてもお前はアクアリアだけではなく人と人魚の橋渡しとなるべく尽くしてくれた。以前も、そしてこれからも。
頑なだった母上の心すら溶かし、今ではティータイムを楽しむ仲にまでなった。
お前が芯の強い女でなければ成し得なかったことだ。
そんなお前を俺が今更手放すと思うか? 種族を理由にしたところでそれは無理な話だ。
海底人と人の寿命は埋められない以上、愛し合っていても別れる時はくるだろう。
だが分かっていても俺はお前を手放せない。お前以外の女などもう──言わなくても分かっているだろう?
返事にはブーゲンビリアの花を添えることにしよう。
お前が送ってくれたものと同じ、プリザードフラワーにして。