魂喰い「なあヴォックス、人間ってどんな味がするの?」
「どうしたんだ突然?」
「いや別に気になっただけ、美味いの?」
「ふむ……」
「あ、それ僕も気になる。今までヴォックス以外にまともに会話できる妖って会ったことないから」
「……うーむ、期待してもらっている手前言いづらいんだが実は私は人の血肉は食べたことがなくてな」
「そうなの?!」
「へえ、意外だね?足抜けした領民とかはお腹の中に入ったモノだと思ってた」
「こういうのは私自身よりシュウの方が詳しいんじゃないかと思うが、私は”呪い”から発生した鬼じゃなくてな」
「あ、そういうこと」
「ちょっと、二人で完結しないでよ。鬼ってそんな色々種類あるの?」
「あは、ごめんごめん。うーん、なんていうのかな、鬼が産まれる理由って色々あるんだけど、その理由、出自によって性質が違うんだよね」
「日本の鬼って何ていうのかな、イギリスだとデーモンっていうよりフェアリーに近いのかも」
「ぽむとヴォックスが同じってこと?う”ぇ、キモい想像しちゃった」
「失礼な犬だな」
「まあそういうわけでさ、”何から生まれた鬼か”によって存在するために必要なエネルギーが違うっていうこと」
「人を害したいっていう怨念から生まれた鬼は人間を害することにアイデンティティがあるし、もっと自然的な現象や摂理から生まれた鬼はその役割にアイデンティティがある」
「何、じゃあヴォックスは人間を食べたことがないってこと?なーんだ、つまんねー」
「いや、人を食べたことはあるぞ?」
「はぁ?!さっき無いって言ったじゃん?!」
「”血肉は”無いと言ったんだ。だから肉の味は知らん」
「えぇ……じゃあ何、魂でも食べるってこと?」
「魂、魂か。ふふ、それはいい表現だな。気に入ったよ」
「私はな、人が私にその命を預けた瞬間を食べてるんだ」
「相手が生きてようが死のうが関係ない、ただその人間が私に命を捧げれば、その覚悟をすれば、それがそのまま私の力になる」
「愛する領民たちも、私の元を去っていこうとしたもの達も、最後は私の元に来てくれたよ」
「私と人のそのいのちが繋がる瞬間、それが鬼としての私にとっての食事だ」
「……要するに、ヴォックスに惚れたら喰われるってこと?」
「二重の意味でな」
「うーわサイテー」
「……あー、ミスタ、気をつけなね?」
「シュウって時々妙に俺のこと馬鹿にしてない?」
「ふふ、さて、これくらいで満足してくれたかな?」
「ヴォックス、一つだけ質問いいかな?」
「どうぞ」
「……人間のことは好き?」
「ああ、もちろん」
「この世の何よりも、愛しているさ」
「……ああ、君って本当に心の底から”アクマ”だね」