ヘラクレスさんがかわいい話手芸屋でバイトする女の子が突然現れた傷だらけ首輪腕輪足輪つきほぼ裸巨漢にギャップ萌えしている話。
最近よく通ってくる転光生?のお客さん
。どう見てもカタギじゃないその容貌と厳つさから店の先輩方からは恐れられている。初めて来店した時はそれはそれは驚いたものだった。
だって首と手足についてる輪っかゴツいし鎖ついてるし棍棒持ってるしムキムキだし傷だらけだしていうかほぼ裸だし目から炎出てるし怖くない方がありえないし近寄りたくはない。
まあでも、東京だとこれが普通っていうか人間じゃないのも多くいるんだけど、そういうひとたちは中々、手芸なんて趣味は持ち合わせていない。
ゆえにゆるふわ可愛い女の子やちょっとそういう趣味ありますっていうような男の子とかコスプレイヤーとか手慰みに始めて見ましたとか熟練ですとかいうおばさまおじさまくらいしか来ないもので、中々巨漢(面倒なので巨漢と呼ぶことにする)に巡り合う方が難しいこの界隈である。
その辺の手芸屋よりは品揃えがいいこの店舗。たまたま間違えて入るような店構えではないはずだ。何に用があるかはわからないが何でも売ってる量販店はもっと通りの奥だと先輩方が話してるのが聞こえた。関わりたくないのか奥へ消えていく。
こそこそ話が好きな者は小心者であるとおばあちゃんが言っていた。
確かに……、などと考えていると、巨漢が奥まった方へ歩いていく。ちょっと興味があるので商品整理を装って見にいく。…いた。
ここは編み物コーナーだが、まさか…毛糸を見ている、のか…?なぜ…?
身を屈めて熱心に見ているが、ひょっとして編み物をするのか…?この巨漢が??
と、ここでレジ応援のアナウンス。
先輩方が逃げてるからだ…!急いで向かう。きっと奥で茶でもしばき始めたのだ。私には個人的に巨漢を監視する任務があったのに…!
ひと通りレジが落ち着いたので、また商品陳列に戻る。巨漢は、まだいる。背が高いのでよく見える。
ちょうどあの辺りの陳列があるためこっそり向かうこととした。先ほどは後ろからだったが、今度は真横から、…。毛糸を手に取り、じっくりと考えている様子。やはり編み物をするのか……?あの大きな手で毛糸を扱えるのだろうか…。要らぬ世話だと思いつつ考える。
ふと表情が気になって見上げてみた。
あれ、にっこりしている。
目を細めて、なんだこの人。ていうかよく見たら顔がめちゃくちゃ良い。でかいし裸だし傷だらけだし首にも手にも足にもゴツい輪っかついてるのに…、毛糸見てにっこりとする巨漢とは…????
SNSでこんな時によく流れる猫ちゃんの画像があったな……猫ちゃんは可愛い…。
あ、レジの方に向かうぞ…。私はもうダメかもしれない。先輩頑張ってくれ。
と、当時の私は巨漢のギャップに驚き一晩眠れぬ夜を過ごした。現在ではもう慣れてしまっている。慣れないと仕事にならない。あのあと先輩方はヒーヒー言いながらレジを打っていた。それから先輩方はサボらずにレジ打ちよりも商品陳列に回っているようで、あの巨漢が来る度にレジ代わってと言われるようになってしまった。
真面目に仕事してるのは良いが、立ち向かうことも覚えてほしい。
役得といえば役得だから文句は言わない。
近頃の巨漢は服を着るようになって、寒い季節に合った服装をするようになった。
意外とカジュアルな服装を好むんだなぁと思った。先日大量購入した白い毛糸はこのためのものか。ふむ。四角い縁ありメガネが似合っている。やはり巨漢は編み物が趣味のようで、ちょくちょく毛糸を買っていく。
お、来たぞ。
ホクホクとした顔で商品をレジに持ってくる。これは新入荷した毛糸…。触り心地が良くてもふもふと柔らかく、まるで獣人の毛皮を触っているかのような錯覚に陥る。私も先日購入したばかりだ。
手早くレジをすませ、「ありがとうございました」と声をかける。
「いつも、ありがとう」目元と口元を綻ばせ、低くやわらかい口調で巨漢が一言残して去っていく。
あーーーーーーー、今日もいい日だ。涙がでた。