【隠し味は ひみつ】 最近アオイが変だ、と伊之助は思う。
「何やってんだ、お前」
台所で朝食を準備中のアオイを訪ねれば、手製の浅漬けの下拵え中で、しかしアオイはその頬に、胡瓜の尻尾の切れ端を乗せている。
「やだ、朝早いから誰もこないと思ったのに」
「いや、だから何してんだ」
アオイは少し照れたように言い淀む。胡瓜を頬に乗せたまま。
「ええとね、お肌が、綺麗になるらしいのよ」
「ふぅん」
「す、捨てるところだもの! 勿体無いから!」
「そ、そうか」
また別の日。
「何やってんだ、お前」
伊之助は、夕刻に塩と砂糖と睨めっこするアオイに声をかける。
「お風呂でね、塩で身体をこするとツルツルになるんですって」
「へえ」
「でも砂糖の方が効果がよく出るって言う人もいて、ただねえ、高いのよねえ、砂糖……」
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