Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    質屋まぁち

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    質屋まぁち

    ☆quiet follow

    ふたいつネップリ頒布作品 byかや

    【隠し味は ひみつ】 最近アオイが変だ、と伊之助は思う。


    「何やってんだ、お前」
     台所で朝食を準備中のアオイを訪ねれば、手製の浅漬けの下拵え中で、しかしアオイはその頬に、胡瓜の尻尾の切れ端を乗せている。
    「やだ、朝早いから誰もこないと思ったのに」
    「いや、だから何してんだ」
    アオイは少し照れたように言い淀む。胡瓜を頬に乗せたまま。
    「ええとね、お肌が、綺麗になるらしいのよ」
    「ふぅん」
    「す、捨てるところだもの! 勿体無いから!」
    「そ、そうか」


     また別の日。

    「何やってんだ、お前」
     伊之助は、夕刻に塩と砂糖と睨めっこするアオイに声をかける。
    「お風呂でね、塩で身体をこするとツルツルになるんですって」
    「へえ」
    「でも砂糖の方が効果がよく出るって言う人もいて、ただねえ、高いのよねえ、砂糖……」
    「で、どこに使うんだ?」
    「どこって……」
    そこでようやく、誰と話しているのかに気が付いたアオイは、ぶわっと赤くなって怒鳴った。
    「ないしょ!」


     また別の日。

     伊之助は生の卵の白身を頬に塗るアオイを見つけてしまう。
    「何やってんだ、お前」
    「伊之助さん! なんで居るの!」
    「いや、卵、自分に塗ってどうすんだよ、もったいねえな!」
    「おっ、お肌が、ぷるぷるになるらしいって……」
    「カピカピになるだろ?」
    「少し置いてから、ちゃんと洗い流すんです!」
    いーっと歯を剥くアオイに、伊之助は慌てて逃げ出した。


     今日は一緒に買い物に出る約束をしていた。

     アオイはまだ支度中だと告げるため、玄関口で出迎えたカナヲから、いつもと違う雰囲気を感じ伊之助は尋ねる。
    「何だ、この匂い」
    「……椿油かな?」
    「あいつと同じ匂いがする」
    「そうそう、アオイも同じの使ってるよ」
    髪がツヤツヤになるんだよ、とカナヲが言うのを伊之助は聞くともなしに聞いていた。

     アオイの部屋のすぐ前で、おおいと伊之助が声をかければ、中から、はぁいと声がする。
     現れたアオイは、顔に白粉をはたき、鮮やかな衣を纏っていた。色付きの蜜蝋が塗られたツヤツヤした唇から、お待たせしてごめんなさいと、鈴のなるような声が転がり出る。
    「……どうしたの?」
    小首を傾げて尋ねるアオイに、伊之助は言った。
    「……卵だの粉だのオマエ、天ぷらにでもなるつもりかよ」
    ぽかんと伊之助を見たアオイの眼に、じわりと涙が浮かぶ。やべぇ、と思う間も無く伊之助に、櫛やら手鏡やら、椿油の小瓶やらが飛んできた。
    「うわっ! ちょ! まっ! ……っぶね!」
    「何よ! どうせ似合いませんよ! 柄でも無いって笑ってるんでしょ!」
    「待て待て落ち着け!」
    「いっそ、天ぷらにでもなりたいわよ! そしたら伊之助さん、私のことでも食べてくれるでしょ!」

     伊之助がぽかんとする。

    「あ」

     アオイはぴたりと動きを止めた。

     その、あの、ええと、これは、とアオイが言い澱むうちに、じりじりと後退りした伊之助は、くるりと踵を返して遁走した。


     ああ、やってしまったと、アオイはぺたりと膝をついて、ゆるゆると襖を閉めた。ずうっと、まるで姉のような態度で接してきたのだ。伊之助にとっては晴天の霹靂だったに違いない。喰われると恐れ慄いて、逃げ出したのも無理はない。ぽろりぽろりと流れる涙を拭ったハンカチで、アオイは乱暴に白粉と紅も拭い落とす。

     そうして暫く、アオイはぼおっと座っていたのだが、ああ、買い物には行かなければと、ゆるゆると動き出そうとした、その時だ。何やら往来が騒がしい。何かが塀を越えて飛び込んできた音がした。野生の獣が砂利玉を蹴散らして走るような音もする。襖と反対側の障子が、ばぁんと開かれて、猪のように伊之助が飛び込んできた。肩で息をしながら、ぐいと紫のびろうどの塊をアオイに押しつけてくる。黒文字のような細さの何かが内側にあるのに気がついて、アオイが恐る恐る布を開けば、螺鈿の蝶々の細工がなされた繊細な簪が、掌にころりと転がり落ちる。

    「お前! いっつも、いっつも、順序がどうのってうるせーくせに! そういう事先に言うなよな!」





     こうして無事に仲直りをした二人だが、その後伊之助が、
    「なんもしてなくても食えるし、なんなら衣もなしで生でもいい」
     などと言ったため、見事な紅葉をその頬に咲かせて、理不尽だ、と炭治郎と善逸に管を巻いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍💖💕💕💕💕💕😇😆💖😍😆👍🍉🍯🍤😋💕💯💐💗☺😍🙏😇🇱🇴🇻🇪💘💖☺💖👍❤❤❤❤❤❤💖💖💘💘💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💘💖☺🍤😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works