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    @94_ROM_12
    稲妻の目金君関連のみ

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    恋愛感情というものがいまいち理解出来ない目金君と、そんな目金君に仮初の恋愛関係を持ち掛ける萌先生の萌目。

    書いている内に目金君のメンタルが人手無しを通り越して人外チックになってしまいました。ご注意下さい
    ※10/25 おまけ追加

    #萌目
    moemoon
    ##目君受け

    嘘はまことになり得るか / 嘘をまことにする為にアニメ、漫画、ラノベ、コンシューマーゲームにPCゲーム。オタク文化を彩る素晴らしいコンテンツの数々に魅了され早数年。物心がついた頃からPCをおもちゃのように扱い、絵本感覚でディープコンテンツに触れて育ってきた目金欠流は自他ともに認める根っからのオタクであった。
    ある時はロボットアニメの熱いバトルに心昂り、ある時はファンタジー小説の世界観に引き込まれ、ある時は美しく繊細な物語を紡ぐノベルゲーに涙を流す。そうやって目金は数多の作品に触れて日々を過ごし続けてきた。

    しかし、これらの作品を楽しむうえで避けては通れない悩みを目金は抱えていた。その悩みというのは、作中に登場する恋愛感情が理解出来ない事であった。
    恋愛という概念は必ずと言って良いほど作中を彩る華として取り入れられている。アクション主体の作品であればさして気にはならない。だが、学園物の様な群像劇作品などで登場人物達の心の変化を描く要素として恋心というものが重要なものとして用いられている場合、何故作中のキャラクター達がそう動くのか理解出来ない場合があるのだ。

    例えば、ヒロインの為に危険な戦地へと赴く主人公。これは分かる。家族同然の大事な人を守る為に命を懸けてでもその人を守り抜きたいという心理は共感出来る。
    主人公を取り合うヒロイン達。これも何と無くではあるが分かる。恋人というたった一人しか収まれない立ち位置を求めるのであれば争いは起こるものだろう。
    恋に憧れて恋をする。これはよく分からない。けれどこれは主に女キャラによく用いられるキャラ設定であり男である自分には理解出来ない考えなのだろうと言い聞かせることが出来る。
    最もよく分からないのが、恋が友情より上だという理屈だ。友人である自分は主人公と遊ぶ時間が減ってしまうなと寂しげに笑う親友。恋人を優先しないと愛想付かされるぞと囃し立てる友人達。優先するのが当たり前だと考える主人公。そうされて当たり前だと考えるヒロイン。これらの描写が本当に理解出来ない。
    何故恋人が出来たからと言って友人との交流を減らさなければならないのか。何故友情よりも恋愛を優先しなければならないのか。こういった自分にとって理解出来ない考えが当たり前と語られてしまい、作品にのめり込んでいけばいく程作中のキャラクター達に置いて行かれたような気持ちになってしまうのだ。

    「じゃあ僕と恋人になってみないかい?」

    放課後のメイド喫茶にて。賑やかな地下室を抜け出し一階のカフェスペースの一角を借りて、目金は友人であり尊敬する萌え漫画家である漫画萌先生とダラダラと他愛もない話を重ねていた。今はまっている作品の話、今期一番注目しているアニメの話などオタク友達だからこそ交わせる会話をしている内に作中の恋愛描写にまつわる話題となった。創作者の目線を持ってヒロインの恋心を言葉巧みに語り続ける萌の話を聞いている内に、もしかしたら萌ならば今自分が抱えている悩みを解決してくれるかもしれない、と考えた目金は赤裸々に己の悩みを萌に打ち明けた。すると、萌から思いもよらない提案が返ってきたのだ。

    「恋人?」
    「うん。実際に恋人らしい振る舞いをして実感出来る事や理解出来ることはあるんじゃ無いかな」

    何てことの無い提案かのように、萌はいつもの様に柔らかな印象を受ける笑みを浮かべる。情報だけで理解出来ないなら実際にやってみればいい。成程確かに合理的ではあるしこの悩みを解決する糸口となりえるだろう。だが、

    「えっと、漫画萌先生」
    「何だい目金君」
    「僕達二人とも男ですよね?一般的に恋愛というものは異性同士で行われるものなのでは?」

    大多数の性的指向は異性であるし、恋愛関係を結ぶ相手も大多数は異性の相手を選ぶはずだ。であれば同性同士で恋人関係になったところで意味は無いのではと目金は戸惑いながらも萌にそう伝える。

    「確かに大多数の人にとって恋愛というものは異性同士で行うものだね」
    「でしたら」
    「けど、今回はあくまで真似事。物語によく出てくるシチュエーションを実際にしてみるだけなんだから、相手が同性だろうと問題ないと思うよ」
    「そ…う、なん、です、…か?」
    「それに、恋仲の多くはそれなりに関係を育んだ者同士がなるものだろう?一目惚れから始まる関係もあるだろうけど、さして仲良くない女の子と恋人の真似事をするよりも目金君のお友達でこの状況に理解のある相手と恋人になってみるほうが良いんじゃないかな?」

    「僕のようなね」と萌は穏やかな笑みを浮かべ、持論を締めた。少し無理のある話であったような気もするが、萌の言う通り、物語への造形を深めるための関係なのだから同性同士でも問題ないのかもしれない。それに、見知らぬ女性と関係を育むよりもこうして仲良くさせて貰っている萌と疑似的とはいえ恋人関係になった方が気は楽であるのもまた事実であった。

    「……分かりました。面白い試みですし、やってみましょう!」
    「あはは、決まりだ。じゃあ今日から僕達はコイビトだね」
    「ええ、宜しくお願いします漫画萌先生」
    「……萌」
    「へ?」
    「恋人になったのに先生呼びなんて味気ないじゃないか。これからは萌って呼んでよ」
    「そんな!急に下の名前、それも呼び捨てだなんて無理ですよ!せめて苗字で呼ばせてください!」
    「ふーん?まあいいけど。その辺は追々でも構わないしね」

    不満そうな表情は隠そうとはしなかったが一応は此方の要望を飲んでくれたのか萌は引き下がる。

    「……改めまして、これからよろしくお願いします漫画君」
    「うん。よろしく、目金君」

    こうして、目金と萌はコイビトになった。

    とは言え、萌の提案を受け入れたは良いものの初めは『同性の友人同士で出来る恋人らしい振る舞いなんてあるのか?』『そもそも何をしたら恋人らしい振る舞いになるんだ』と一人悩む時もあった。
    だがその悩みは積極的にコイビトであろうとする萌の振る舞いによって杞憂に終わった。

    「急に映画鑑賞に誘われたのには驚きましたが、かの王道シチュエーション『映画鑑賞中にこっそり手を繋ぐ』を再現するためだったのですね!流石は漫画君!」
    「あはは。ちゃんとコイビトらしく振舞えたかな?」
    「ええ、勿論。あのタイミングで手を繋ぐというのは中々緊張するのですね!」

    ある時は突然手を繋いできたり、

    「男同士で夜景を見に来たって空しくなるだけかと思いましたが、皆さん自分たちの世界に夢中で思いの外気にならないですね」
    「今は僕たちもその『自分の世界に夢中なコイビト同士』だけどね」

    ある時は二人きりでデートスポットを巡ったり、

    「ふむ。流石にキスをするのは些か抵抗がありましたが、案外嫌悪感はありませんね」
    「……。不意打ちじゃなくても違和感が無いか、試してみる?」
    「ええ、お願いします!」

    またある時は重ねるだけのキスを交わした。

    この様に、不思議なまでに協力的な萌のおかげで創作物で見かけるシチュエーションの数々を体験し、それらに対する理解を日々深めていった。何故そうするのか、何故そう思うのか。常々そう疑問に思いつつ読み進めていた描写の数々の意味や効果を実感し、作中のキャラへ感情移入が以前より出来る様になっていた。
    果たして本当に効果はあるのかと始めた偽りの関係ではあったが、想像以上の成果を目金にもたらしていたのであった。

    そんな少し変わった毎日を過ごしていたある日。いつもの様に今季のアニメを消化していると、とある描写が目に留まった。それは『恋人とのマンネリに悩む女の子』と言うもの。
    今までならピンと来ないなと受け流すだけだったが、今の自分には仮のコイビトである萌がいる上に、その萌とほぼ毎日顔を合わせている。この状況を考えるに、マンネリを起こした恋人同士の振る舞いというものも実践してもいい題材なのではないか。いつもシチュエーションを提案してくれるのは萌であり自分はいつも受け身に回ってばかり。偶には自分から仕掛けてみるのもありだろう。

    そう結論付けた目金は思い立ったが吉日と、久し振りに萌の家で丸一日共に過ごせる今日このタイミングでこう切り出した。

    「暫く一緒に居る時間を減らしませんか?」

    決まった。迫真の演技が出来たのでは?
    何日も前から温めていたフレーズを完璧なタイミングで投げられたと、目金は頬のニヤ付きを抑え萌の反応を待つ。

    「……それ、どういう事?」

    流石というべきか、たった一つのフレーズを言われただけで意図を察したのだろう。萌は感情が抜け落ちたかのような面持ちでじっと此方を見詰める。この迫真の演技に応えなくてはと、目金は更に用意してきたフレーズを重ねていく。

    「僕達、かれこれ1ヶ月近く一緒に居続けてるじゃないですか。それで僕も一人の時間が欲しくなってきたんです。それにほら、少し離れて過ごす方がお互いの事がより見えてくると思うのですよ」

    ペラペラとそれっぽい言葉を繋げ、目金はチラリと前の反応を伺う。しかし、此方の期待に反して萌は言葉を発さずに黙り続ける。まだひと推し足りないのかと判断し、目金は「漫画君と試してきたシチュエーションを他の人ともやってみたくなりましたし」と口から出まかせを発する。こんな馬鹿げた取り組みに付き合ってくれるのは萌くらいしか居ないのだから、これも嘘だと気づいてくれるだろうと目金は再び萌の反応を待つ。

    「…………ねえ、目金君。君は僕との関係に飽きちゃったんだよね?」
    「!ええ、そうです!」

    萌からの念押しに目金は強く頷いてみせる。

    (流石は漫画萌先生、此方からの無茶振りにこうも応えてくれるとは!)

    これから一体どんな風にこの状況を展開してくれるのだろうと目金はワクワクした心持ちで萌の言葉を待つ。

    「じゃあさ。ちょっと刺激的なコイビトらしい振る舞い、してみない?」
    「え、」

    突如切り出された提案に目金はついて行くことが出来ず、碌に声も出せずに戸惑っていると萌は更に言葉を紡ぐ。

    「いやあまだ目金君には早いかなって思っていたんだけどさ。君が?僕と?別れたいっていうなら?こうするしかないよねえ仕方ないよねえ」
    「えっと、あの。漫画君」

    一体彼は何に怒っている?いや、そもそも怒っているのか?
    訳が分からず、ぐるぐると疑問ばかりが頭を巡る。萌が何を思っているかは分からないが、今までとは何かが違う事は分かる。けれどもどうしたらいいかは分からずに、目金は弱々しい声で萌の名前を呼ぶ。

    「するよね?目金君」

    しかし、はい以外は許されない問いを渡され、目金は混乱しながらもこくりと頷いた。

    その後は流されるまま、ありとあらゆる場所を萌に触れられ、暴かれて。
    自分でも嫌なのか、悦んでいるのかも分からないまま、声をあげ、哭いて。
    何が何やら分からぬ内に、意識は落ちた。



    翌朝。日が昇り始めた早朝にて。
    先に目を覚ました目金は穏やかに眠る萌の横顔を眺めながら、心中で萌のプロ意識の高さに感嘆していた。
    あの日はそのまま萌の寝室まで連れ込まれ一線を越えたと言ってもいい所まで行為を済ませたが、いくら恋人らしい振る舞いを教えてくれるという名目で始まった関係とはいえ仮の恋人にするお仕置きにしては些か本気過ぎないだろうか。
    そう内心でボヤきながら、目金はけだるさを訴える腰をさすり昨日の出来事を振り返る。

    (それにしても漫画君の取るマンネリ防止対策は随分過激な手法でしたねえ。ギャルゲーや深夜アニメでこういった手段に出るパターンは幾つか見かけましたが、どれも独占欲が強く依存度の高いヤンデレ系ヒロインという設定でしか見かけませんでしたし)

    「……うん?」

    ふと訪れた違和感。喉に引っかかった小骨のようなそれを、ここ一ヶ月の経験を基に自分なりに咀嚼し一つの解が浮かんだその時、今しがた起きたらしい萌に抱きしめられた。

    「……おはようございます」
    「おはよう。随分と呑気な挨拶だね」

    萌は此方の腰に回していた手を解いて肩に置き、穏やかな__けれど目の奥に暗さを感じさせる笑みで此方に笑いかける。

    「色々と言いたいことはあると思うけどさあ、僕は目金君が望んでいるだろう選択は絶対にしてあげないよ」

    萌はゆったりと体を起こし、笑みを湛えたまま指先をベッドから少し離れたところにある本棚へと向ける。

    「ほら、見て。本棚の上に置かれているあれ、何だと思う?」
    「……目覚まし時計、ですか?」
    「半分せーかい♡あれ実は時計型のカメラでね。本当は合意の上で使いたかったんだけどなあ。目金君あんなこと言うんだもん、仕方ないよねえ」

    萌はニコニコと楽しそうに不自然な位置にある時計のからくりを話す。随分と面白い形の隠しカメラもあるのだなと感心していると更に話を続ける。

    「昨日の目金君の痴態、ぜーんぶあれで撮れてるから。僕のパソコンにもデータは全て転送済み。ねえ、この意味分かる?だからさあ」

    「絶対に別れてあげないからね」

    ゆらりと揺れる影を思わせるような怪しげな雰囲気を纏い萌はどろりとした笑みを浮かべる。相手への思いを隠すことなくさらけ出し、別れたくないと関係に固執するその姿。これは間違いない筈だ。そう目金は確信を持って萌に切り込む。

    「__漫画君。さては君、僕の事が相当好きですね?」
    「…………は?」

    萌にとってこの反応は想定外の物だったのか、呆けた顔で目金を見つめる。黙って話を聞いてくれるのならば好都合だと、目金は得られた情報を基に自身の推理を萌に語り聞かせる。

    「暗い雰囲気を纏ったその顔、無我夢中で相手を止めようとするその仕草。全てがヤンデレ系ギャルゲーでみたそれと全く同じ。ここから考えられる事実はズバリ!漫画君は周りが見えなくなる程僕に夢中だと言う事です!」

    どうだ、と話を終えてもずっと黙ったままの萌の反応を確認すると、何故だか絶句した様子で頭を抱えていた。きっと非の打ち所がない完璧な推理に言葉も出ないのだろうと目金は満足げに笑う。

    「ふふん、どうです?この僕の推理は」
    「いや、君さあ。本当さあ……」
    「む、何です。間違っているとでもいうのですか?」

    ここまで判断材料が出そろった状況でしらばっくれるというのかと憤慨した目金は「そんな訳ないでしょうほら早く吐いてしまいなさい」と萌の頬をつつく。

    「〜〜〜〜!そんなのっ、大好きに決まっているだろう?!」

    もう誤魔化せないと悟ったのか萌は必死の形相で目金の推理を肯定した。その反応に目金は満足げに「そうでしょうそうでしょう!」と笑う。

    萌が僕に抱いていた感情。それこそが恋心であり恋人に離れて欲しくない意地らしい独占欲。萌が僕に見せる感情が、僕の知りたかった知識そのものだったのだ。
    萌に感謝しなければと目金は笑う。きっとこれからは萌を通じて様々な知見を得られるだろう。だって今日という日を機に、僕らの関係は仮の物では無くなるのだから。
    そんな友人の成長を共に喜ぶ事なく、頭を抱えたまま「何なんだこの子は」「自分がされたこと理解してないのか」等と何を言っているのかよく分からない独り言をブツブツ呟いている萌を視界の端に置いたまま、目金はまた一歩恋愛への理解を深められた事実を満足げに噛みしめた。





    嘘をまことにする為に


    恋愛に纏わる相談をされた時、チャンスだと思った。色恋とは無縁の生き方をする彼と仮初の関係を結べるのならどれだけ滑稽に見えても構わないと、我ながら酷い理論を振りかざして仮の恋人関係をもぎ取った。
    手を繋いでも嫌がられなかった時、もしかして本当に行けるんじゃないかと思った。恋人ごっこを続けるだけでも構わないと思って始めた関係だったが、まだ踏み込んでもいいんじゃないか、期待してもいいんじゃないかと、行為はエスカレートしていった。
    キスをしても拒絶されなかった時に、このまま丸め込んでしまおうと思った。鈍いという表現ですら足りない彼の鈍感さに漬け込み、気がついた時には逃げ出せない状況を作ってしまおうと決めた。
    そして、距離を置きたいと言われたあの時。絶対に手放してやるものかと思った。彼のことだから深く考えずに話題を切り出した可能性もあったが、周りからの余計な口出しに影響されて恐怖心を抱いた可能性も捨て切れない。ならば既に決めていた通り逃げ場のない環境を作ってしまおうと、合意のない行為へと持ち込んだ。
    初めての行為をこんな形で済ませてしまうのは残念ではあったが、肝心の彼がこの手から逃げ出してしまうかも知らないのだ。悠長な考えはしていられない。行為の翌朝もその身に降りかかった状況を丁寧に説明してやった。ネットの世界に入り浸る彼がデジタルタトゥーの恐ろしさを理解していないわけがない。
    そんなイエス以外の選択肢しか許されない状況で、萌は目金に別れてあげないと告げたのだ。だが、

    (まさかここまで酷かったなんて)

    萌はガンガンと痛みを訴える頭を抱えながら昨夜の悲劇など無かったかのように笑う目金を呆然と見つめる。
    目金欠流という人は普通の人間の尺度には収まらない。それは重々承知していたつもりだった。けれどもまさか友人に犯された翌日に、こんな笑顔を見せるだなんて想定出来る訳が無いじゃないか。
    目金の心を恐怖で支配したかったのに当の本人は全然へこたれやしない。それどころか、新たな知見を得られたとばかりに無邪気に喜んでいる。萌が決死の覚悟で起こした本気の脅しすらも恋愛に纏わる資料にされてしまったのだ。

    (あーあ、こんな形で終わっちゃうんだな)

    萌は満足気な笑みを浮かべ自分の世界に浸っている目金を見ながら、自身の浅はかな行動を悔やみ続ける。
    幾ら仲間内に謎の懐の広さを垣間見せる目金とはいえ、自身を犯した友人と恋人ごっこを続けたりなんかしないだろう。彼の反応を見るに、目金は今回の件で萌を咎めるつもりは無いようだが、それに甘えて関係を続けたい等と言って良い立場ではない。そして、怒りや悲しみといった本来萌に向けるべき感情を表に出していないからと言って全く気にしていないなんて事はない筈だ。ちゃんと自分から区切りをつけるべきだと意を決している間に目金が口を開く。

    「さて。それでは今日も一日予定は空けていましたが、こういう事をした翌日のコイビトは何をするのですかね」
    「……は?え、何。目金君、この関係続ける気なの?」
    「へ?これで終わりなんですか?」

    きょとんとした様子で此方を見る目金に、萌は戸惑いながらも意図を伝える。

    「いやだって、怖いだろう?いきなり強姦してくるような相手と恋人ごっこをし続けるだなんて。そんな相手と今までと同じ関係を続ける理由なんて無いじゃないか」
    「何でですか?寧ろ今まで以上に続ける意味が生まれたと思いますけどね」

    へ、と呆けていると目金は持論を展開する。

    「今まではあくまで友達同士のお遊びでしたが、これからは漫画君は僕を好いていて、僕は友人として漫画君を好きと言う状況になります。と言うことはつまり、相手が僕に片思いをしている状態でのリアルな心情を知られる絶好のチャンスじゃないですか!」

    そう無邪気に笑う目金に萌はヒュッと息を詰まらせる。

    なんて残酷な事を言うのだろうか。
    お前を愛してやらないがお前は僕を愛し続けろと。
    お前の持つその感情を全て僕の為に見せてみせろと。

    そう彼は言っているのだ。

    (非道いなあ目金君は)

    こんな状況になってまで、目金は自らの知識欲を満たすことに夢中になっている。この関係を望んだのは萌自身であったが、目金の出した要望をすんなりと飲み込めるほど萌は狂ってはいなかった。

    「……随分と暗い顔になりましたね」

    (誰のせいだと思ってるのさ)

    呑気に此方の顔色の変化を眺める目金に萌は心中で悪態をつく。

    「……正直に言いますが、僕は何故漫画君が僕と手を繋いだりキスをしたり、セックスをしたいと思うのかは理解出来ません」

    何か言わなければならないと思ったのだろう。彼にしては珍しく、目金は慎重に言葉を選びながら話を紡ぐ。

    「ですが、僕は萌と過ごした時間はどの瞬間も楽しかったですし、君が望む行為の数々も嫌ではありませんでしたよ」
    「だから、何といえば良いのでしょう。……あーそうです、こう言う時に使うべきなのですかね」
    「僕を君だけの僕に染めてください。僕は君にされる事ならどんな事でも嫌がらないでしょうから」
    「……これじゃダメですかね」

    そう語り終え、おずおずと目金は此方の顔色を窺う。親の反応を見る子供のような反応に胸を占めていた悲しみや虚しさが和らぎ、あまりの馬鹿馬鹿しさに笑いが込み上げる。
    ああずるい。ずるいなあ本当に。こんな顔されて許さないわけにはいかないじゃないか。

    「分かった、分かったよ。これからもコイビトでいようね目金君。そもそも、僕から目金君との関係を切るだなんて選択肢は無かったけどね」
    「そう来なくては!まだまだ試したいシチュエーションはありますしね」

    ウキウキと今後の予定を立てる目金を眺めながら、萌は心中で腹を括る。こうなったら、一人の友人として、人として、目金を依存させてしまおう。目金にとって、萌という男はそばに居るのが当たり前で、頼みを聞いてくれるのが当たり前な存在になろう。いつの日か、目金が萌との恋人ごっこに飽きてしまったとしても、萌が目金の隣にいる事が当然だと思い込ませる。そうすればきっと、目金のそばにずっといられる筈だ。
    例え同じ形の愛が一生返ってこないのだとしても。

    長く続く地獄への片道切符をその手に握りながら、萌は様々な案を提案し続ける目金を落ち着かせるべく、コーヒーを入れにキッチンへと向かった。
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    ROM

    REHABILI「嘘はまことになりえるか」https://poipiku.com/4531595/9469370.htmlの萌目の2/22ネタです。22日から二日経ちましたが勿体無い精神で上げました
    猫の日「……えっと、つまり。漫画君は猫耳姿の僕を見たいのですか?」
    「今日は2月22日だろう?猫の日に因んだイベント事をこう言う形で楽しむのも、恋人がいるものならではの体験だと思うよ」

    2/22。2という数字を猫の鳴き声と準えて猫の日と呼ばれているこの日。そのイベントに乗じてインターネット上では猫をモチーフとしたキャラクターや猫耳姿のキャラクターが描かれたイラストが数多く投稿されている。そして、猫耳を付けた自撮り写真が数多く投稿され、接客系のサービス業に勤めている女性達が猫耳姿になるのもこの日ならではの光景だろう。
    古のオタクを自負する萌にとって、猫耳とは萌えの象徴であり、身に付けたものの可愛さを最大限までに引き出すチートアイテムである。そんな最強の装備である猫耳を恋人にも身につけて欲しいと考えるのは自然な流れの筈だ。けれど、あくまでそれは普通の恋人同士ならの話。萌と目金の間に結ばれたこの関係は、あくまで友として萌と恋人のごっこ遊びに興じる目金と、目金に恋慕する萌という酷く歪な物であった。
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