退職願 私議 この度、一身上の都合により勝手ながら20××年を持って退職いたします。公安対魔特異4課「円くん、公安辞めないよね?」
退職願 私議 この度、一身上の都合により勝手ながら20××年を持って退職いたします。公安対魔特異4課 円。
円成り代わり。
退職したいvs退職させたくない周囲
作者、頭を空っぽにして書いた。
明るくはならない。なぜなら作者のせい。
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IQ134の伏には、頼れる同僚がいる。
黒い髪に、黒い瞳、程よい色白。純日本人美たる要素をふんだんに詰め込んだ無気力なその男は、自らに劣らず賢かった。テレビを見て政治の話を振れば、「テレビの情報を鵜吞みにするな」と左翼・右翼・その間の思想の新聞を手渡してくるし、暇があれば黙々と新書を読んで、聞けばお勧めを教えてくれる。
書類仕事を的確にこなし、論理的で、集中すれば人の話が聞こえないほど没頭する。そんな典型的な頭の良い男で、伏にとって関わりやすい人種()インドアな人間である。
2人で良く食事に行っては、組織論・法律・経済・行政、国際情勢についてディベートをした。円は食事に誘うと、その度に本や論文を読み込み、事前準備をしてくれて、真面目にしとしとと言葉を紡ぐ。伏は、そんな円が好きだ。
伏はIQからすると、日本で一番上の大学平均よりも頭が良く、幼い頃はギフテッドの部類に入った。頭が良いと人とは自らがズレていることを自覚する。伏の常識は周りの常識ではなく、周囲は伏を異質だと排除した。親もそういったギフテッドに理解がなく、放任されて友達もいなかった。そう生きてきた伏にとって貴重な友人。それが円であった。
『すみません、パンケーキ3つと、ココア3つ』
「おい、またか」
『暴食しないと死ぬ』
「わざわざ、胸焼けしそうなやつじゃなくても良いだろ」
『五月蝿い。体が甘味を求めてるんだ』
注文した物が来るとはむ、はむと、美味しそうに食べ物を頬張る。円は、普段頭脳を使いすぎな由縁か、極度に糖分を取る。後輩を支援する仕事に行く途中の自車内で、チョコレイト(板チョコ)を10枚ほど、バキバキ食べ、ミルクティー500mlをがぶ飲みする。もはや糖尿病になるレベルで砂糖を摂取しがちである。
「今日の新人教育、上手くいって良かったな」
『コベニさん、だったけか?』
「そうだ。お前のおかげで生き残ったようなもんだろ」
『いや、あれは彼女の危機察知能力が高かったからだ』
「ふぅん」
とろり、と蜂蜜をかけ、ホイップクリームを掬い、上品に一口大に切ったパンケーキが口に放り込まれる。目が見開かれて、『おいひぃ』と全力で円が表情を露わにした。
優秀だが、ちょっぴり変人で(主に食事面)生真面目、加えて、責任感が強く、新人や友人、自らの周りの人が死なない為の最善を尽くす善人。そんな円が考える作戦は、正直言って、公安の上層部が出すものより余程合理的で、効率的。
任務に来る悪魔の情報を以前に集め、出現位置・出現しやすい時間帯・悪魔の能力・大きさ・攻撃範囲まで、詳細に調査し、誰もが書類を見れば、“どう戦えばよいか”を思考しやすいよう考えられていた。この調書のおかげで、公安デビルハンターの生存率は著しく上昇したと言える。
公安内ではまことしやかに「円の調書は命綱」と言われている。
しかしながら、伏からしてみたら、円のこの行動はやべぇの一言に尽きる。人の為、世のため、何かをすることは素晴らしい事なのだが、少し目立ちすぎた。出る杭は打たれる、というが、マキマが逐一円の行動に目を光らせている。伏もこの時ばかりは己の頭脳を呪った。何も知らないままでいる方が気ままで、良いものなので。
「新人歓迎会がそろそろある」
『まともな人間がいないんだから、ろくでもないことになりそうだがな』
「いくか?」
『白玉お膳がおいしいと聞いたから……』
「行くのかよ」
伏も「円が行くなら行こうかな」と思った。所詮、人と仲良くなれるとは思っていないが、円がそこにいるだけで、飯は旨い。話さなくとも横にいるだけで、心がほっとするのだ。
語学・哲学・学問・全てにおいてストレスフリーにさせてくれる、円。口元についたホイップクリームを拭ってやるぐらいには、懐柔されてしまっていた。
「おい、食いすぎるなよ。夜にマキマさんも来るんだから」
『わかった。パフェ3つはお預けにする』