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    shirobaralove1

    @shirobaralove1

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    shirobaralove1

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    「身近な人が1人死ぬと大幅に寿命が縮む運命を持つ少年のデスマーチ」
    『人の命を助けることで数ヶ月寿命が伸びるらしい
    残り……』1

    チェ夢 csmプラス

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    csmPlus

    『人の命を助けることで数ヶ月寿命が伸びるらしい 残り……』1「身近な人が1人死ぬと大幅に寿命が縮む運命を持つ少年のデスマーチ」

    『人の命を助けることで数ヶ月寿命が伸びるらしい
    残り……』1

    友人(いつも表紙描いてる奴)がアキくん大好きすぎて書いてくれとごねてきたので書きました。
    アキくんの夢。アキくんの夢に俺は飢えてるんだァァァァァァァア!って言ってた。
    人を救ってくれ。救ってくれ、いや、救え!!!とも。新手の呪霊並みの咆哮でした。
    怖いので鎮めるために書きます。
    まぁ、白バラは地獄しか生み出せない使者か覇者らしいんで、よろしくお願いします。
    チェ夢なんで残酷、ちょいグロ、暴力描写多いです。
    あくまで恋愛ではありませんが、生産源がちょっと腐ってるのはご愛嬌。
    チェンソーマンの漫画第一部 1、2巻のネタバレを含みます。

    いつもコメント、ブクマありがとうございます。
    作者の励みになります。
    Twitterでは作業進捗等上げております。
    良ければ。

    男主。
    ・・・・・・

    東京のゴーストタウン。
    そこは悪魔の出現以降、孤児、金の亡者(ギャンブル狂い)、反社会的勢力の溜まり場として悪名高く、一般人は存在すら煙たがる人間の終着点(ゴミ箱)の町である。

    そんな町の山奥に立つ廃墟に3人の公安の人間が仕事(任務)で足を踏み入れた。

    柘榴の溶けた一面の血溜まり。鼻に来る据えた鉄香。腐乱した生卵の如く人間とは呼べない重なり合う肉塊。ゾンビの悪魔によってゾンビ化した人間の死体が右左に広がり、その死体を踏んだチェンソーの頭を持つ男が直立の状態で入口を見つめている。

    『既に倒されているとは、……。珍しいですね』
    「俎上(そじょう)さん、お気をつけて。
    生きてるのがまだいます」
    「殺しますか」
    『……少し待ってください』

    静まり返ったコンクリート詰めの廃墟に、コツコツと革靴の音が響き渡る。俎上歩(そじょう あゆみ)はチェンソーの頭を持つ男の前に立ち、自身の黒いコートを風に靡かせた。

    『貴方がこの状況を作ったんですか?』

    俎上(そじょう)とチェンソー頭の男が対峙する傍ら、入口から差し込む明滅する光が柔く俎上(そじょう)を包む。

    「だ、……抱かせて………」
    『俺を……?ハグすれば良いですか?』

    俎上は首を傾げ、暫く思案する。すると、何処か体温を求め、震える手が伸びて来た。寂しい、寂しいと泣くような動きが俎上の胸を詰まらせる。思わず俎上は両手を大きく広げ、男を思い切り抱きしめた。馴れ合った男女のように肌を寄せ、男の胸に頰をつけて背中に手を回す。きゅう、と体全体で抱擁を続ければ、チェンソーの頭がどろりと溶け、人間の青年の顔が現れた。

    『悪魔による乗っ取りじゃなさそうですね』
    「そ、俎上(そじょう)さんッッ!!
    危険です!!!な、何してるんですか!」
    「マキマさんに連絡は、」
    『しなくて大丈夫。下がっていて下さい』

    青年は驚いたように俎上(そじょう)を見つめ、人間の形に戻った汚れた手で俎上(そじょう)の頰に触れる。長い睫毛が触れ合いそうな抱擁の距離間。
    ばくばく、と激しい心臓の音が顔を赤らめた青年から鳴る。青年の手の上に俎上は自らの手を重ねながら、艶々しい赤の唇を開いた。


    『こんにちは。ゾンビの悪魔を殺しにきた公安のデビルハンターです』
    「こ、こんちは……」
    『お怪我はありませんか?』
    「えと、特には………ないっす……」
    『お名前を聞いても?』
    「で、……デンジ…」
    『デンジさん、
    俺は俎上歩(そじょう あゆみ)と申します』
    「歩(あゆみ)……、?」
    『はい、』

    俎上の口から溢れる蜜色の吐息はまるで麻薬。声が顔が青年を心配する度、青年(デンジ)の全身に沸き立つ快感が走り、とろりと恍惚とした感情に満たされる。所謂魔性。青年(デンジ)の心が、甘美なる悪魔(求めていた人の優しさ)に堕落させられていく。

    「ぅ、……ぁ、……」

    俎上は抱擁した状態のまま、顔を真っ赤にした青年(デンジ)に3本の指を立てる。

    『貴方の選択肢は3つあります』
    「……3つ?」
    『ここで殺されるか、今すぐ日本から逃げるか、俺の下について働くか』
    「っえ?」
    『お勧めは2つ目です』
    「……………3つ目は……」
    『3つ目は、貴方と俺の間でルール(規則)を作り、それを遵守して働いて貰います。
    雁字搦めですし、あまりお勧めは___』
    「下につきたい……」
    『それが貴方の意志ならば、』

    ずるりと青年の膝がコンクリートにつく。同時に俎上の膝も床につき、抱き締めていた腕を離した。
    惚けたように俎上を青年(デンジ)は見つめる。

    人から気を遣われることはなく、選択肢のカードを自ら切ることも今までは出来なかった
    __今までの青年(デンジ)の人生。__
    だが、今日。優しさ。慈愛。そして眩いばかりの善意を与えられた。青年(デンジ)の心は突然のことに受け止めきれず、初めての幸福(蜜)に侵される。

    泥酔しそうな思考回路。波打つ心臓と心の渇望。
    快楽に溶けた頭で、青年(デンジ)は友を失った悲しみを紛らわす一縷の希望(俎上歩)に拠り所を見出した。

    「下について働いたら、食パンに………ジャム塗って………食べれんの?」
    『ジャムだけじゃなく、好きなのを乗せて構いません。バターでも、チーズでも。卵やウィンナー、コーヒーもつけましょう』
    「最高じゃん……」
    『ええ』
    「歩(あゆみ)も、いる?」
    『ご一緒しても宜しければ』


    俎上に齎された未来への希望に溢れた青年は、少し離れた俎上を自身に引き寄せ、強く抱擁した。『わっ』と言って俎上の体が青年の胸に倒れ込む。






    後に良い意味でも悪い意味でも共犯者(相棒)となり、公安デビルハンターの2大巨頭と呼ばれる2人の出会いがここにあった。







    【enchanted boy】

    ・・・・・・

    「本当に大丈夫なんですか。俎上(そじょう)さん」
    『俺が信じられないんですか?』
    「い、いえそんなわけでは」

    黒塗りの光沢ある外装の車内。運転席と助手席に公安2名。後部座席に俎上とデンジが着席する。運転手が心配そうに後部座席をミラーで見ている。

    その理由は俎上のポケットの中で微弱な振動をする携帯。俎上に促されデンジが車に乗り込んで以降、ずっと音を発している。俎上は眉間に皺を作り、5回目のコールで携帯を弄って着拒にした。
    俎上曰く面倒な上司。
    だが、流石のデンジも何か電話をかけてくる側が用事があるのでは、と考え声をかけた。

    「あの、電話?いいんすか?出なくて」
    『良いんです。あの人からに決まってますから』
    「俎上さん、マキマさんからの連絡では?
    出た方が良いと思いますが……」
    『出なくて構いません』
    「ほ、報告ぐらいした方が……」
    『嫌です』
    「俎上さぁんッッ……。
    俺達が後でマキマさんに絞められますよ…」

    "俎上サンはマキマ?さんが嫌い"とデンジの頭にアップデートされた。

    俎上はそんなデンジの勝手な邪意などつゆ知らず、デンジの上半身を指差した。デンジは車内でも半裸状態。冷えを心配した俎上が、すっと自らの黒いコートを脱いでやる。「ヒャア!?」と目を隠し、顔を覆うデンジに俎上は首を傾げた。

    『どうかしましたか?』
    「お気に、さらずっす!」
    『そうですか』
    「あのぉ」
    『寒くないですか?
    良ければ、これでも着てください』
    「エッっ!?アッ!!お、俺の為にっ、!、?
    よ、汚れるっすよ」
    『気にしないで下さい。
    良ければ、そのまま差し上げますよ』
    「ヒィッ」
    『??』

    デンジはコートのボタンを閉める。俎上をぼうっと見つめる動作と共にその手は些か震えていた。
    優しい人だと思った。今まで、こんな風に気遣われたことがデンジにはない。人として扱われたことも殆どないのだ。落ち着ける為に空気を吸えば、石鹼の香りが自らの着たコートから薫る。擽ったいような気持ちになり、どうしようもなく俎上歩への感情が昂る。



    タイミング良くデンジの腹の音が車内に響いた。デンジは恥ずかしさと居心地の悪さに顔を下げる。
    俎上はそんな様子に肩を震わせて、悪戯っ子のする笑顔でちょんちょんと指でデンジの腹を突つく。

    『パーキングエリアに寄ってください』
    「え!?」
    『貴方もお腹空いたでしょう?』
    「すいません……俺カネないんすけど」
    『奢りでいいですよ。
    今後の働きにつけときます』

    困り顔の公安2人を置いて、デンジと俎上はパーキングエリアに降りた。幾つも建ち並ぶ店を眺めて、他愛の無い談笑をする。好きなのでいいと俎上は言ったが、デンジは俎上が食べたい物が気になった。優しい人の傍にいると、デンジ自身も人に優しくあれるような気がしたのだ。俎上を観察すれば、わぁ、とキラキラとした目で店を見ている。
    そこはパンケーキ店のメニューだった。


    「甘いの、好きなんすか」
    『とても』
    「パンケーキ?食います?」
    『いや、貴方の好きなのを食べてください。
    俺は___』
    「すいませーん、コレ2つ」
    『え、』
    「一緒に食べま、せんすか」
    『好きなので良いんですか?』
    「もちろんす」

    暫くして
    注文した品が2人の机に置かれた。

    とろりと溶けた蜂蜜に膨らみのあるスポンジのパンケーキ。苺、バナナ、ブルーベリーと色鮮やかな果物が生クリーム上に飾られた宝石箱がそこにはあった。デンジは見たことのない美しい食べ物に、唾液が口内で生成された。

    『お、美味しそう……ッッ』
    「マジかッッ、こ、これがっパンケーキ!」

    2人して置かれたパンケーキに手を叩き、俎上がフォークを苺に刺そうとした瞬間。



    華やかな花弁の薫りが鼻腔を擽った。


    「歩(あゆみ)、こんなところにいるなんて……
    仕事の放棄かな?」
    『あ、』


    俎上歩(そじょう あゆみ)のすぐ後ろに若い女がいた。彫刻的な貌。三つ編みにされた赤の髪に深淵を映す暗い瞳。色素のない真白の肌。尖る顎先と貼り付けられた笑顔は、人形の如く。完成されているが故の美貌への恐怖。それはデンジの身を震えさせた。

    『マキマさ、ん』
    「残念だよ。君は真面目な子だと思っていたのに」

    俎上の手は、上からマキマによって止められていた。ぐ、と手首に力が入っているのか、腕が痺れ痛そうに唇を噛んでいる。

    「先に本部に帰りなさい。
    歩(あゆみ)、これは命令です」
    『任務を変わっただけです。
    マキマさんが忙しいと思って、……』
    「そんな報告は聞いてないよ?」
    「あのぉ〜」

    俎上の顔が立っているマキマの手により上に、ぐっと強制的に上げられる。今にも口とデンジが焦ったようにマキマを止めようとするが、意味はなかった。

    「帰ってデスク上の書類を捌いておいて」
    『嫌、で』
    「そこの2人、歩(あゆみ)を連れ帰って」
    『え、……』
    「仕事が溜まっていて、被害者がまた出るかもしれないんだ」
    『、』
    「私の仕事なんだけど、終わってなくてね」
    『死人が出そうだと?』
    「そうだよ。頼めるかな?」
    『わ、かりました』
    「ふふふ、
    人を救うことにいつも歩は必死だね」

    俎上が立ち上がって直ぐに車に向かう。
    デンジは名残惜しく手を伸ばしたが、『また後で会いましょう』と穏やかに別れを告げられた。
    不安で堪らないが、優しい人ではなく、その人を脅した女と対峙する。
    デンジは気を引き締めて、恐ろしさを感じるマキマに話しかけた。


















    さくり、さくりとマキマは俎上のパンケーキを食した。色鮮やかな果物と生地。

    「相変わらず反吐が出そうなほど善人だね」

    「"アレ"が絶望から泣く姿をいつか見てみたいなぁ」


    どろりと生クリームの上の苺が皿に落ちる。その苺にマキマはフォークの先を突き刺した。





    【objective good man are targeted 】
    ・・・・・

    デビルハンター東京本部
    公安特異4課

    西日が差し込み、薄らに汗を搔き出す時間。
    俎上歩はマキマに言われたデスクワークに励んでいた。カリカリと只管ペンを走らせ、1枚1枚書類を積み上げる。机の上は確認済みの書類、未確認や依頼の書類。その他諸々が山積しており、本人は仕事量の多さから眉間を揉んだ。

    『はぁ………』
    「お?なんだなんだ。おわんねーのか」
    『岸辺さん……』
    「たく、お前は詰め込みすぎなんだ。
    まだ16のガキの癖に」
    『ご褒美下さいます?』
    「珈琲ぐらいならな」
    『○タバで』
    「割高じゃねーか」

    「ほらよ、これで我慢しろ」と岸辺が缶コーヒーを俎上(そじょう)に投げ渡す。パシッと缶を受け取り、嬉しそうな顔をする俎上の隣に岸辺は座った。そして突然俎上の目の前から書類を奪い取る。

    「これ、マキマの任務だったんじゃねーのか」
    『あの人は忙しいので変わったんです』
    「わざわざお前がゴーストタウンに行く必要が?」
    『ゾンビの悪魔の情報がここ2、3日近隣住民により頻繁に来てたので、それで……』
    「はー、たくお前はそういう奴だったな」
    『心配を?』
    「してねーよ。お前なら余裕だからな。
    魔人か話せる悪魔だったら口説き堕としただろ」
    『馬鹿言わないでください』

    岸辺は隣でむすっと口角を尖らせる俎上の髪を傷だらけの手で掬い上げ、するすると弄り始めた。

    "悪魔を口説き堕とす"。
    そう岸辺が言うのには理由があった。

    擽ったそうにする俎上歩の顔を自らの方に向かせ、滑らかな髪を撫でる。

    岸辺は知っている。

    俎上歩は美しい善人である。人を救済するのに自らの労力を惜しまない。仕事は人の何倍もこなし、日々人々の為に奔走する。
    人を救うのが"自らの使命"だと思っている様にさえ周りには見える。その姿はちょっぴり情緒のオカシイ奴らの溜まり場である公安デビルハンター達の心を解き、拠り所として依存させてしまうほどだ。
    この職場、滅多にマトモな人間が居ない。

    それに俎上は他人に寵愛を雨の如く降り注がせる。人の欲しい言葉を無自覚に甘く吐くのだ。だから、男も女もこぞって俎上歩という人間に、心の穴を埋めて欲しいと求め、救いと愛を強要する。
    あのマキマに苦い物でも食べましたと言うような顔をさせる程である。俎上は善人すぎるが故にマキマに嫌われている節があった。
    __どう扱って良いのか(支配したら)マキマにはわからないのだ__


    更に公安デビルハンターの中でもダントツの救助率。救済ランカーとでも言うべきである。激務ゆえに任務について行けるのも極僅かの精鋭のみ。岸辺はその1人であった。

    「どんな邪悪な人間も、悪魔も、魔人も、お前に話しかけられたら、堕ちちまうんだろうなぁ」
    『じゃあ、岸辺さんも既に堕ちてます?』
    「俺がお前みたいなガキに堕ちるわけないだろうが」
    『確かに』
    「つーかお前、男だろ」
    『?』
    「任務に行っても良いが、男堕としてくんなよ。
    せめて女にしろ。女は対処しやすいんだよ。
    今回は"変"な、ヤベェ男は連れて来てねーだろうな」
    『………』
    「お前、まさか……」
    『人でも、悪魔でもない。チェンソー頭の男と出会いました』

    岸辺は盛大に大きな溜息をついた。マキマに帰らされた理由もわかると言うものだ。マキマは善人アレルギーです、と言いたげに俎上に厳しいが、ある程度歩に対しては許容範囲が広い(任務はちゃんと果たすので)。それなのに、帰らされたとあれば、何かあったのかと岸辺は勘づいてはいた。

    また男を引っ掛けてきては堪らないと思ったのだろう。以前、歩が救助した男が善人特効により、ストーカー化した時、その男を消したのはマキマである。俎上歩が嫌いオーラを全面に出す癖に、歩が撮られた写真に対して恐怖に震え、涙目になった途端。明らかに顔を歪め、歩の頭を思いっきり叩いて暫く任務を放棄した。

    岸辺が確認したのは消えた男が、悲惨な姿に成り果てていたことぐらいである。


    今回拾ってきた男は如何なものか。
    余程変な男で有れば、内内に処理しかねない。

    『部下になりたいと……』
    「あ?」
    『殺すのはちょっと……と思ったので……』
    「お前にコーヒーはナシだ」
    『ァッ!取らないでくださいよ!』

    歩によって少し飲まれた缶コーヒーを奪い取る。
    ぽかぽかと背中を叩かれるが、無視して残りのコーヒーに口付ける。喉に珈琲が嚥下し、舌の上に苦味が残った。

    「まずいことにならなきゃいいがな」




    【the dice roll】
    ・・・・・・

    デンジは俎上を探して三千里。
    現在はマキマにより筋肉の悪魔と戦ったのち、早川アキと出会わされ、町を歩いていた。

    「マキマさん、て変な人だな」
    「……」

    マキマは美人である。綺麗な女性である。だが、デンジは俎上歩との関係を見た時の衝撃が忘れられないのだ。
    獲物を捕らえるような瞳。ギラギラと燃えた怒りを詰め込んだ表情。俎上に堪えきれない感情を露わにしていた。感情表現の豊かな人なのかと思えば、デンジや早川アキに話す時は、作られた人形みたくなる。歪な人だ。ツラは良いが。



    路地裏に早川に呼び込まれ、デンジが振り返る。鈍い音とともに自らが殴られてことに気づいた。頬、腹と続く連撃。ゴミ箱の中にデンジの体が落ちる。

    「お前さ、マキマさん目当てでデビルハンターになったろ?」
    「……」


    「肯定ってことか?殴って正解だったな」

    吸い殻がデンジの体に落ちる。いきなり殴られ、返事も聞かずに「マキマさんに伝える」と早川が踵を返す。このまま行かせてはダメだとデンジは思った。デビルハンターとしていてられないと。止める意思がデンジの体を動かした。足が地面を踏みしめた。まだ会えていない。朝ご飯を共に食べようと約束してくれた人に。下で働いていいと選択肢をくれた人に。

    ゆらりとデンジの体が起き上がる。
    後ろから確実に男を止める一撃。
    それは、股間への攻撃であった。卑劣な暴力であるが、義務教育を受けてもいないデンジにはそんなこと関係ない。ひたすらデビルハンターを辞めさせられてたまるかと、悪意200%で急所を蹴り飛ばした。それも1撃ではない。潰す勢いで膝で蹴り上げ、足で蹴とばす。早川アキが呻き声をあげて地面に倒れ伏す。だが、倒れ伏してもデンジは足を振り上げた。倒れ伏しても辞めずに攻撃する当たり、鬼畜の所業である。




    「マキマさん?が、目的じゃねー」
    「う、う?」
    「俎上歩さんが目的だ」

    何度も蹴ったせいか、デンジの息が荒くなる。
    胸に手を当てて、息を落ち着けた。
    思い返すのは、俎上歩との出会いわをと会話。

    「俺は、今日初めてヒトに抱きしめてもらった。
    パンケーキがあんなに甘いんだって初めて知った。
    対等に笑いかけてもらえたし、
    気遣われた」

    「俺にとっては、夢見てぇな時間だった」

    「あの人に逢えんなら、話せる時間が少しでもあんなら、死んでもいいぜ」



    早川アキの目がうろつく。俎上?と首を傾げている。立ち上がって、股間を蹴り上げるデンジを睨み上げる。


    「俎上なんて奴聞いたことねぇぞ」
    「ああ?」
    「マキマさんのこと好きじゃねーのかよ!?」
    「え、お前マキマさん好きなのかよ。シュミ悪」
    「んだと!!?」

    暫く2人ぎゃいぎゃい言い争っていたが、早川アキが顔色悪く倒れたことで1時休戦となった。公安の黒いコートが風に靡く。殴ってきた男を助けるのも尺だが、デンジは肩を貸してやり、早川の体を起こした。俎上の黒いコートをデンジは握りしめる。仄かな石鹼の香が心を温めた。





    ****


    「先輩が金玉の悪魔に玉を襲われましたぁ」
    「う、噓です。こいつの、」

    ガチャと後方からドアの音が鳴った。

    『マキマさん、終わりました』
    「え、」
    「歩(あゆみ)、よく来たね」

    俎上歩(そじょう あゆみ)。その人がデンジの後ろに現れた。ぽわぽわとデンジの心が踊る。マキマが歩を手招きして自身の近くに寄らせるが、その間もデンジの興味は俎上だけに注がれていた。

    「あ、歩さ、」
    『デンジさん、朝ぶりですね』
    「はいっ」

    マキマの机の上に書類を置きながら、ふわりと俎上は微笑んだ。邪魔ですかねと言い、一礼して出ていこうとするが、マキマが止める。マキマが俎上の手首を握った。そしてそのままデンジと早川に部隊編成や、これからのことを話す。
    デンジは早川アキの部隊に入るらしかった。嫌がる早川は、マキマの隣にいる俎上が気にかかるらしく、視線が彷徨う。

    『彼を、私の下で担当することはできないんですか』
    「歩(あゆみ)、君が決めれることではないよ」
    『しかし、早川さんが断ってますし…』
    「君は、早川君の部隊に入るの」
    『俺が?』
    「そう」 
    「え、」
    「や、やったー!!!!」

    デンジが飛び上がる。マキマのことを不信に思っていた気持ちは一気に晴れて、「マキマさん=いい人」の方程式が出来上がる。俎上と一緒に居られる。本当に働けるんだと嬉しさが素直にデンジの行動に出た。

    「デンジ君は人間だけど、悪魔になることができるんだ」
    「歩(あゆみ)、君が拾ってきた子だよ。
    責任は君にもある。
    早川君と共に部隊を率いてくれるよね?」
    『勿論です』

    デンジが目を輝かせて俎上に飛びついた。その体を俎上は受け止める。デンジは俎上の体温による温かさを感じ、体中が火照った。ぐりぐりと頭を押し付けて、抱きつく。周りから見たら犬が戯れている様。早川アキが、おろおろとしてマキマに対応を求めているが、マキマはその美しい顔の唇を弧に描かせただけだった。

    【the woman’s plan began 】


    ・・・・・・

    「ジャム、すげーあるっっ!!!
    いちご、バター、蜂蜜……」
    「………」
    『かけすぎは良くないですよ。
    ほら、早川さんの机を汚すなんて』
    「俎上も早く食え」
    『ありがとうございます』

    汚れる机。俎上がデンジのこぼした汚れを布巾で掃除していく。拭いて、拭いてを繰り返すその様は母親である。
    早川アキは既に朝から溜息を十回はついた。デンジの常識がなさすぎるのだ。
    トイレ、風呂、洗面所、飯。
    どれをとってもマトモに出来ない。俎上歩がこの家にいなければ、ブチギレどころか確実にデンジを殺している。

    早川アキはマキマにデンジを頼まれた。
    また俎上と行動を共にし、極力俎上の意見を聞くよう促されたのだった。

    早川は食パンに蜂蜜を丁寧に塗って、美味しそうに食べる俎上を見やる。

    早川は先日俎上を初めて知った。
    マキマによれば、俎上は既に公安デビルハンターに所属済みである。しかもデビルハンターの中でもトップを張るほど優秀らしい。
    成人しているのかと問うと、「年齢は16だよ」と答えられ愕然とした。働くにしても若すぎるのだ。
    過去の任務の履歴を調べれば、早川の任務量を超えた激務。救助の手際が良く、精鋭と任務を担当している。早川は同期や部下、知り合いの上司に聞き回ったが、俎上歩(そじょう あゆみ)を知る人物はいなかった。唯一の情報は、岸辺、という人に聞けばわかると。しかし、最早連絡を取り付ける事が難しい人である。(有名なデビルハンター)

    精鋭。或いは公安デビルハンターでも上部にいて然るべき実力派として俎上は存在していた。

    訳アリであると早川は確信した。

    契約悪魔の記述はなく、本人も話したがらない。
    マキマも知らないと言う。

    警戒するに越したことはない。

    ******

    その予感は当たった。
    東練馬区の任務はデンジと共に。
    今日はコウモリの悪魔が現れた。早川は公安の制服を着て、用意する。俎上には留守番を頼んで家を後にした。

    「やぁ〜ーーーっと見つけたのにィィ」

    早川たちが任務場所に着いた時、デンジとパワーは満身創痍であった。コウモリの悪魔の姿は既にないが、代わりにヒルの悪魔が道を塞いでいる。図体の大きな女のヒルが粘着質な舌を伸ばして蠢き気味が悪い。デンジが手首を切られ、血を流しながらも立ち上がる。しかし、血を使い果たしたのか、チェンソーの長さは短い。今にも食べられてしまいそうな緊迫感。
    分が悪いと早川は判断し、狐を出そうとした。

    『デンジさん、お疲れ様です』

    凛とした声が通った。
    早川、公安特異4課に所属する人間達の注目がその声の主に向けられる。
    ーそこに立っていたのは十代ぐらいの少年ー。
    早川もデンジも、その場にいた誰もが呼吸を忘れて彼に見惚れた。
    少し襟足の長い濡羽色の髪が、夕陽を反射させて煌めくよう。紅の瞳には凛々しさと己の運命へ打ち勝つ為の業火を燃え上がらせていた。公安の黒いコートが風に靡き、かつりと革靴が音を立てる度に空気が震える。
    何の武器も持たぬ   俎上歩   がデンジの後ろに立っていた。


    外野で見守っている早川以外の姫野やコベニが我に返ったのか声を上げる。

    「武器なし、なんて!な、何してるのあの子!」
    「む、無謀です!!」

    焦る面々に対して俎上は、微笑を浮かべていた。
    俎上はふらつくデンジの肩を持ち、自らの手をサッと小型ナイフで切り裂いた。目を見張るデンジに構わず、デンジの口に手をくっつけて血を流し込む。「んむ、」とデンジが驚いている。何故態々体を傷つけたんすかとでも言いたげである。その視線を俎上は無視してデンジの喉に血を飲み干させる。こくり、と嚥下音が鳴るたび、体の傷は治り、チェンソーも長くなった。悪魔への応急処置である。
    暫くして俎上は体の傷が消えていることを確認すると、デンジの頭を優しく一撫でした。

    突然デンジの体が地面に崩れ落ちた。

    「な、なぁに、あなた、」
    『夢バトルなんて面白いことをしていますね』
    「な、なんなの。あなた、何と、そんな…契約したの」

    ヒルの悪魔が俎上歩を認識した途端、先ほどまでの余裕を失って震え始めた。その様子は尋常じゃなく、俎上から離れようと後ろに這いずり始める。悪魔が怯えていた。俎上と契約した悪魔を畏怖し、その体を青ざめさせている。否、俎上も含んでヒルの悪魔は恐怖に苛まれていると言える状態であった。
    悪魔が後退する。1歩俎上が悪魔に近づいた。
    悪魔が後退する。1歩俎上が悪魔に近づいた。
    俎上は着実にヒルの悪魔に距離を詰める。

    どろり、どろり、ドロり。


    「「「「っっつ!!?」」」」


    俎上の真後ろに濃く、重い油のようなベトベトした闇が立ち込める。
    只の闇ではなく、黒を黒で塗りこめた
    ―――深淵―――。
    人間が覗くには深すぎる、人知を超えた夜。
    暗澹たる闇が霧を生成し、俎上を包み込む。
    ぬっと闇から2本の腕が現れた。爪は異様に長く、人間の2倍ほどある腕と手が、後ろから俎上の体を弄る。右腕は、腹に。左腕は、俎上の頬を撫でるように戯れた。
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