ポケットの中で はぁと吐いた息が白い。
季節はすっかり冬。夜も八時をまわり、尚更骨身にこたえる寒さだ。
俺は目の前のインターホンを何度か連打した後、空気の冷たさに耐えきれず、またすぐに指先を上着のポケットの中へとしまった。
「はーい」
扉の奥から、バタバタと走ってくる音が聞こえる。この数秒さえ待ち遠しいのだから、我ながら彼の事が好き過ぎるな、と思う。
「うるさいよ。いらっしゃい」
「ばんはー」
扉が開いてすぐ、毎度おなじみの叱りが俺を出迎えた。困ったような嬉しそうな――なんとも表せない、大好きなミカドくんの表情と共に。
彼に招き入れられるのも待たず、我が物顔で玄関のたたきへと上がった。一歩踏み入れると、すぐに優しい香りがふんわりと鼻先をくすぐる。この香りを嗅ぐといつも、ミカドくんちに来たな、という感じがする。
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