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    kaerukikuti

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    kaerukikuti

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    シーザー様がいかようにレジーナに来たのか、妄想。(フォロワーさんの着想を叩き台にさせて頂きました)

    縁談ウォーリアワールドの貴族階級生まれのシーザーが、遠いレジーナワールドの女王巫女の女婿として故郷を後にすると周りが取り決めたのは、彼が10歳、次期女王である女児誕生の報がもたらされて間もなくであった。
    それから5年、婿入りの出発を近日に控えたこんにちまで、一度も未来の妻とのやり取りはない。
    ただ、それもまた仕方のないことと理解はできた。
    相手はまだペンも取れぬ幼さであり、多くの娘が顔も知らぬ相手の家に妻として赴く、みずからもそれと同じことである…。
    家のため軍人になるべきかとぼんやりと将来を夢想していたシーザーは、みずからの将来が、家のためになるならばと貴族階級の師弟らしく理解があった。
    同時にまだ少年の身で、何故に自分が…と、その気持ちもまた拭い難い本心である。
    血筋は悪くないものの、執政官を幾人も輩出していない我が家よりも、女王の女婿に相応しい者は幾人も居る、そう思いもした。もちろん、それが口に出すのをはばかられる内容であるのも理解していた。
    ただ、この縁談に関して、周囲はなにも引きくじのような適当さで彼を送り出す訳ではない。女王の未来の女婿、国家の結びつきとしても重要事項である、ことは慎重に話し合われたと見るのが順当であろう。
    シーザーは身体頑健かつ、賢く、容姿にもきらびやかな物がある少年である。幾人もいた候補から、現在の実家の権勢を退けても彼を指名したのは、議会の総意であった。彼はそれほど水際立った少年であったと言える。
    この件を本人に伝えるべき事ではないと判断したのは、彼の両親の賢明さである。父親はただ事実のみを述べ、母親は心配を胸に吞んで寿いだ。
    この両親あってこそのシーザーである。その清廉な賢明さを理解しうるには、まだシーザーが若すぎた、それだけのことだ。



    出立が近づくにつれ、家への訪問者は増えた。父への訪問者だけでなく、出立準備のための様々な品が馬車で届く。
    レジーナからの荷もいくつか。それでも、まだ未来の妻からの手紙は無い。肖像画くらいは欲しかったと、出立が近づくにつれてシーザーは憂鬱に囚われた。愛情で縁を繋ぐ夫婦ではないにしろ、五里霧中で異国に向かうのはやはり恐ろしさが勝る。レジーナの見事な織物で旅装を仕立てようと忙しく立ち働く家内奴隷たちを横目に、ひたすらレジーナの言葉と礼儀作法を学ぶ日々では、憂鬱を払うこともできない。
    本当に自分は結婚するのだろうか。
    月桂樹の香り漂う夜の庭先で、自問しようにも答えは無い。視線を下げた足元には、もう見ることかなわないだろう故郷の月が白く光を投げかけるだけである。
    そんな慌ただしくすぎる日々に不意にひとすじの明るさが差し込んだのは、まさにレジーナへの旅立ちの前日であった。
    若くして王位を継いだナイトワールドの王が、非公式にウォーリアーワールドを訪問していたのは聞いていた。
    かつて王子時代に対面し、その後もたまに文を送り合っていた人でるものの、まさか多忙なかの人が、一貴族に過ぎないシーザーの家を訪問するとは露にも思わず。
    出迎えた家宰や、仕事に出て不在の父のぶんも慌てふためく母を宥めつつも、自身も信じられぬ思いのまま二人で庭に出る。
    王に付き従うのは、王子時代より側近くに仕える文官のみ。
    非公式すぎる街歩きなのは察するに容易であった。
    この度はと、プラタナスの木陰の下を遊戯に歩みながらまず結婚を言祝ぐ若き王に、シーザーは礼儀にもとると理解しつつも、堪えていたものを吐き出すように口を開いた。
    「王よ」
    レジーナは女王が王位を所有する国であるが、女王は巫女でもある。その伴侶は巫女のである女王に代わり、王位を代行する者となる、それがならわしだ。
    代行者とはいえど、あの古くから続く大国の王になる自信もなく、その力があるとも思えない。ましてや、言葉も違う国の初めて会う幼子を、未来の妻として愛おしく思えるのか……。
    「わたしは、はたして、女王の女婿などと言う重責に、耐えられるのでしょうか」
    王は秀でたかんばせに午後の日差しを受けて、静かに話を聞いてくれた。
    その常に思想を感じる孔雀石の眼差しの前では、みずからがいつも以上に小さな存在のようだった。
    息が詰まる思いがして、顔を背けた。足元の花壇から香るスミレの匂いもなんの慰めにもならず、その苦悩は喉を這い登り、涙として両眼から頬にあふれた。
    「シーザー」
    王の声は静かに発せられた。
    王の眼差しは、すぐ傍にあった。
    「君が王に相応しいかは、君のこれからの行動で決まるだろう」
    ただひとつ胸に留めて欲しいのは、君が王に相応しからぬとして、苦しむのは自身ではなく民である。君の心優しさならば、そのことを念頭に置けば君は必ずや良き王となるだろう。
    それから…と、王は少しばかり苦笑を見せ、離れた位置で佇む文官を気にしながら声を低めた。
    妻のいない身で、気の利いた事などは言えぬが……そう話す様子から、名君と名が響く男が嫁取りで苦慮していると察するのは容易い。この美丈夫が妻を定められぬなどいかにも不思議ではあるが、その姿に少しばかり肩から力が抜けた。
    心情が伝わったのか、王の輝かしい眼差しが和らいだ。
    「奥方はまだ幼く、まずは妹のような気持ちで接するのはどうだろうか。妻も妹もどちらも家族と思えば、おのずと打ち解けられるのではないか?その先は、その時に考えればよろしい…」
    王の温語は柔らかに心を撫でるかのようだった。
    妹は居ないけれど、従姉妹の子供はあどけなくたいそう愛らしかった。その子が笑えば嬉しく、泣けば慌てふためいた。
    そんな心持ちで良いのならば、こんなみずからでも出来るような、そんな気分になる。
    「王のお言葉を胸に、かの地でもこれまで以上に学んでいこうと思います、アーサー陛下」
    「君が王となれば、我らは同格。シーザー、アーサーと呼びあえる日を心待ちにしているぞ、シーザー」
    王は莞爾として、最後に抱擁を与え、嵐のように慌ただしく帰路についた。
    それはごく短い時間であったが、ひとり異国に旅立つ力を与えた。
    「母上」
    家内で何事かといまだに驚いている母に、シーザーは問うた。
    「5歳の女児が喜びそうな贈り物はなんでしょうか?」



    その後、レジーナからの文がナイトワールドの王に届くようになる。レジーナ産の上等な紙に、ウォーリアワールドのさる貴族家の印璽を施された文である。
    書かれているのは他愛無い事が多い、日々の驚きと、レジーナの朝夕の景色の素晴らしさや、対面できた次期女王と仲良くなった経緯など。文才豊かな少年であり、今は青年となった彼からの文は、星空と砂と豊かな河が広がる遥かな異国からの香りとなって多忙な賢王の心を潤し続けた。
    若者である時代を足早に過ぎねばならなかった王にとって、若者の成長ぶりが何よりの喜びであった。
    それからしばし、彼がレジーナに渡り十年が過ぎ、クレオパトラが成人を迎え王位の継承者として認められた祝を送って間もなくの頃。
    節目を迎え多忙なはずの彼から、とても短い文が届く。
    一読して、珍しいほどの破顔を見せた王に、マーリンは思わず問うた。
    「何か、吉事でしょうか」
    アーサーはこれに、破顔の余韻を残した笑貌で、短く答えたのだった。

    シーザー王の悩みがひとつ晴れた、めでたいな、と。

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