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    kaerukikuti

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    つづき

    しょかしば⑦翌朝、全身痛いと不満オーラ全開の司馬懿さんに土下座したり甘やかしたり風呂に入れたり時折甘い触れ合いをしたらあっという間にチェックアウト時間となっていた。
    充実したラブホテルだった。
    優待券に何かしらの効果があったのか、ホテルの方針なのか、会計時に割引券をニ枚も貰い、「また来ます」とつい気に入った食事処のように言ってしまいさすがに受付のスタッフに微笑ましげに笑われ司馬懿さんから怒られたが、まあ瑣末事と割り切った。
    「ほんとにまた来ましょうね」
    司馬懿さんは、
    ──わたしでいいのか?
    とも、
    ──お断りだ。
    とも、言わなかった。
    昼食時にまだ間がある午前の目抜き通りには、やはりこの時刻でも人が溢れている。今日も天気は良好で、花の香がする。
    普段なら休みの日、昨夜汚したシーツの洗濯に勤しむ頃だ。大きな物は、背が伸びてからは諸葛亮が干す。ふたりでの家事もまた幸せの時間である。
    そんなうららかな天気の目抜き通りを、腰が痛い司馬懿さんの現状に甘え、手を繋いで歩く。
    恥ずかしがり屋のこの人と、こうやって手を繋いで外を歩けるなんて夢のようで、ついついこの時間が終わらなければ良いと思うが、なかなか現実はそうはいかない。
    ひと休みしていた公園の隅の茶屋で、司馬懿さんに連絡があった。
    例の、隕石の件で対応してくれた警備兵からだった。
    曰く、無事に専門家の調査と、インフラに関しての確認も済み、道路の穴も仮補修されているので研究所に戻って大丈夫である。自宅でなにか違和感があれば、遠慮なく、こちらの連絡先でも都市管理課にでも連絡をください…とのことだ。
    相変わらず愛想よく対応していた司馬懿さんは、会話を終えると、途端に顔を朝からの不機嫌なものに戻した。
    「帰るぞ、張角先生や、スタッフにも連絡せねばならない」
    「はい」
    それは日常への完全復帰宣言で、ラブホテルも非日常であったのを思えば、ホッとしつつも寂しくもある。
    しかし、日常のストイックで照れ屋な司馬懿さんも変わらずに愛しいのだから、どちらにせよ諸葛亮にとっては幸せである。
    「帰りますか」
    「ああ」
    さっさと、花盛りの花木の下に設えられた席から立つ司馬懿さんを追って腰を浮かせながら、そう言えばと諸葛亮は問いを向けた。
    「お昼、なにか買って帰りますか?」
    今から帰るとなると、到着時には昼を過ぎているし、あちこち点検をし、連絡をしてと作業が待っているのを思えば、何かしら簡単につまめるものを買って帰るのが良いだろう。
    茶屋では少しばかり早めの昼を注文し始める客が増え、包子や饅頭を蒸す匂いや、粥やスープを煮る匂い、葱餅を焼く胡麻油の匂いが、春の花の香気の向こうから漂ってくる。
    ここの茶屋は、諸葛亮おすすめなだけありメニューは多くないながら味はなかなかだ。
    お腹が空いたなと、諸葛亮は思った。
    「研究所に向かうルートの途中に、美味しいパンを売る店があって…」
    そう声をかけるのと、司馬懿さんが再び着席するのは同時だった。
    卓上にあった淡い紅色の花びらが、ふわりと諸葛亮の方に流れてくる。
    「どうせならば、ここで食べていけばいい」
    「え?」
    「外食のほうがゴミも出ない、効率的ではないか?」
    このままぼんやりしていたら、持ち帰りと外食の時間的ロスに関しての議論開始しかねない司馬懿さんの声の調子に、諸葛亮は脱兎のごとく店員さんにメニューを貰いに行った。

    ──ごはんデートだ!

    司馬懿さんとはたくさんエッチな事を執り行ないたいが、ただ、美味しいごはんを食べるだけのデートもしたかった。
    今日、司馬懿さんの体調のおかげ(?)で、はからずも手繋ぎ散策デートはできた。
    さらにはごはんデート!
    昨日から疲れる連続ながら幸せはそれの数倍で、まるであの隕石が幸運の切っ掛けのようだと、司馬懿さんに言ったら非科学的である白い目で見られそうだなと思いつつも。
    「前に星詠みで、空から運命を変えるものが来るという卦が出たけど、このことだったのかな…」
    「…どうした?」
    「いえ、なんでもないです!はいメニューです!この店は、担担麺が結構おすすめですよ。お粥なら皮蛋のが司馬懿さんが好きな味かも。後は、葱餅に、焼き餃子……司馬懿さん」
    「なんだ、もう決めたか?」
    「あの、今度、例の隕石が展示されたら見に行きませんか?」
    「展示できるほどのサイズが確保できたか怪しいがな」
    司馬懿さんはそれだけ言って、勧めた担担麺と皮蛋粥で迷っている素振りを見せた。
    諸葛亮はそれをニコニコと見守っている。
    隕石の展示は珍しい物ではないが、調査や記録や細々した学術的な行動がひととおり済んでからで、それは数年単位である。展示の手配やらなにやら、さらに様々な人の仕事を経て一般展示に漕ぎ着ける。
    さっき司馬懿さんは、隕石のサイズ感には言及したが、一緒に見に行く点には異はないようであった。
    つまり、今回の隕石が、採取現場ラクヨウと記された隕石片が展示される数年後も一緒に居て、一緒にでかけてくれるのだ、司馬懿さん、自分がずっと大好きで、これからも大好きな人は!
    ものすごく嬉しい。
    昨日は危うく離婚の危機だった身には、殊更沁みる幸せである。
    「僕は葱餅に叉焼粥にします。後は甘いのは何にしようかな」
    「わたしは…」
    司馬懿さんがメニューを覗き込みながら、コレとコレと…と指差すのを、成長期にぐんぐん伸びて彼より背が高くなった諸葛亮はにこやかに見下ろしていた。
    花木からの淡い色の花びらが冠に乗っているのも気づかずに、自分が勧めた2品で迷っている兄弟子にして、尊敬する先輩科学者、それから愛妻である司馬懿さんは、瞬きするだけでかわいい。
    「司馬懿さん、貴方と一緒で僕は幸せです」
    チラッと此方を見た司馬懿さんは、次に春の晴れた空を見上げた。
    「日光浴をすると脳に幸せを感じさせる物質が生成されるらしいな」
    そんな事を言いながらも、微妙に伏せた顔に赤みが有るのも、諸葛亮の位置からは見えるのだ。
    「ほんといい天気ですね」
    自分には分かっている司馬懿さんのすべてが愛おしくて、諸葛亮はご機嫌に店員さんに声をかけた。
    司馬懿さんがようやく最終決定をしたのくらいは、長い付き合いで判っていたから。

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