遠い約束【遠い約束】
シュゴッダムの貴族であるカメリアにとってハスティー兄弟は将来支えなければいけない兄弟であり、それを抜かしても大事な二人だ。
「ラクレス様は公務。大変な方。将来はこの国を背負う人」
庭園にて、カメリアはギラと共にいた。
コーカサスオオカブト城にはよく来ている。父親に連れられてだ。シュゴッダムが出来てから、王族として君臨し続けている
ハスティー家を支えているのがカメリアの家だ。
「兄上と遊べない……」
「待っていたら遊べるかと」
カメリアはギラとラクレスの遊び相手であった。
ギラも王族だ。王族なのだが、その存在は伏せられていた。”民はラクレス様しか知らない”と父親が言っていた。
不思議だとなる。ギラはここにいるのにだ。
存在を知っているのはカメリアや一部の者だけだ。ラクレスはギラを可愛がっているし、ギラはラクレスに懐いている。
シュゴッダムは城塞都市だ。コーカサスオオカブト城がある場所が一番大きいのだが、各地に城塞がある。
空からみると円形に防壁があって、防壁の中に都市や町がある。
ラクレスが公務に出かけていて、その間、ギラは一人だ。遊び相手としてカメリアはギラと共にいた。
ギラの隣にカメリアは座っていた。
「お土産を持ってきてくれるって」
(父が国王様たちと一緒に他の町に行くと話していたっけ)
カメリアの父はシュゴッダムの重鎮だ。
ギラの数少ない遊び相手はカメリアではあるし、カメリアも他の貴族の子供とはそう会わない。
庭園には兵士がいて、ギラの安全を守ってくれている。庭園はコーカサスオオカブト城の中でも自然がある場所だ。
始まりの国、シュゴッダム。遠い遠い昔に出来た五国の中でも最強の国だ。
「カメリアもお土産が楽しみ?」
ギラに聞かれてカメリアは頷く。頷いておく。
父親はカメリアのことを愛してくれている。母親は、たまにしか逢わないし、逢えない。
カメリアにとって家は檻の中のようなものだ。
将来のために家で勉強はしているが、将来と言っても決まっているようなもので、そのために勉強はしていた。
ギラと話すときはカメリアの口調もやや砕ける。ギラがカメリアなりの丁寧さで話すことを嫌ったからだ。
「元気がないね」
「そんなことは」
「大丈夫。元気がなくても、いいから」
大丈夫、とギラは安心させてくれていた。
カメリアにとって周りはとても怖いものだ。ギラがカメリアの頭を撫でる。ラクレスの真似だと気づく。
元気でいることは難しい。
彼女の実家は近親婚を繰り返したせいで、心身ともに健康的に産まれてきたのがカメリアだけだ。
家には父の他に母も兄も姉もいるけれども、会話ができる家族は父親ぐらいだ。母親はたまに部屋で叫んで暴れる。
心が壊れてしまったのだとは使用人が言っていた。
「あんまり私、外にいったことがなくてお城と家ぐらいで。ギラ様もだけど」
ギラ様は将来、ラクレス様を支えるのだとは聞いているが、それにしてはギラのことが秘密になっているのはおかしいとなる。
幼心に思うのだ。ギラはとても優しい。カメリアはラクレスや父のように出かけられはしない。
王族や国の重鎮であるけれども、二人よりもまだ自由、外に行けるのだ。
「シュゴッダム以外にも国があるって聞くよ」
「ンコソパにイシャバーナ、ゴッカンにトウフ。こことは違うし。本でしか見たことはないけど」
喧騒が止むまで屋敷の書庫に引きこもることが好きなカメリアはたまたま手に取った本で他の国の絵を見た。
シュゴッダムとはどこも違う国だ。どんな場所なのだろうとなる。
「僕が大きくなったら、カメリアを連れて行くよ」
「連れて行ってくれるの」
「約束。連れて行く」
ギラが手を差し伸べてくれた。カメリアは微笑んで、その手を掴んだ。
イシャバーナにギラとカメリアはいた。
医療と花の国であるイシャバーナは水路が発達していて、スワンボードに乗って二人はのんびりとしていた。
「歌が聞こえる」
「あれは舟歌だよ」
「カメリアも歌。うまいよね」
たまにしか歌わないがカメリアは歌がうまい。スワンボードを操縦してくれる男の船頭さんが教えてくれた。
シュゴッダムがバグナラクに襲われて、ギラがオージャカリバーを抜いてゴッドクワガタを起動させて、反逆者として追われて、
カメリアも巻き込まれてンコソパに行くことになってゴッドカマキリにさらわれてイシャバーナだ。
水路はぶつからないようにスワンボードが動いている。
「褒めてくれると嬉しい」
今のところは平穏だ。今のところはだが。
直ぐにぶち壊されてしまうけれども、そんな予感がするけれども。
「シュゴッダムを出てンコソパもイシャバーナも行くとは思わなかった」
「確かに。ギラ。貴方は」
「貴方は?」
「――何でもない(何かを思い出しかけたような……?)」
カメリアの記憶は欠けているところがある。ギラと共に児童養護園にいたところから始まっていた。
記憶を思い出すことは殆どなかったのだけれども、シュゴッダムが襲われてから、記憶が起きそうで起きない。
でも。
とても、大事な。大事なことを彼は守ってくれた。
そんな、気がした。
【Fin】