〈新宿〉のマリア 朝の訪れは、失望の始まり。
昨日と同じ部屋の同じベッド。
視野を占めるのも、昨日と同じ天井。
カーテン越しに差し込む陽光は誤魔化し切れない禍々しさを孕み、歪んでいる。
夜の間に紛れ込んだのだろうか。酷く小さな羽虫が歪んだ光に炙られ、今まさに灰になろうとしていた。
またか。と思う。
まだか。とも思う。
私はまた〈新宿〉で朝を迎え、まだ〈新宿〉から抜け出せない。
灰となり〈新宿〉から消えた羽虫を、私は羨んだ。
*
何ひとつ心配することなんて在りはしない。
僕たちの子は既に祝福されているのだから。
君はお産のことだけ考えていればいいんだ。
後の煩わしい事は安心して皆に任せなさい。
*
結婚なんてしていただろうか。ましてや身籠ってなどいただろうか。
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