タクボス短編【消せない記憶】
日射しの暑い、夏のある日の事だった。
ボッスン「タクトじゃねーか、どした?
こんなとこで。具合でもわりいのか?」
タクト「……………」
珍しく夏休み期間中に、ある街中でタクトと
偶然だがばったり会う藤崎ことボッスン。
鬱陶しく振り払おうとする彼(タクト)をよそに
ボッスンはそのまま彼(タクト)と買い物に
強引に付き合うことにした。
そこでやってきたのは、
ボッスン「ん?、薬?」
薬局店だった。
タクトはその店で少し高めの目薬を
買おうとしていた。
ボッスン「なんだお前。どっか目え悪いの?」
気楽というか間の抜けた声色でいう藤崎に
多少の苛立ちを抑え、すぐ冷静に返答する
タクト「………依頼こなしてると目や脳に負担が
かかって嫌でも疲れは堪るんですよ。」
ボッスンは「なん……」と言おうとした直後
「……あー、…」と納得したような声で一瞬自身の中に出た疑問をかき消した。
ボッスン「そういや、お前ってアレあったよな。映画記憶とか、なんかそんな感じの」
しごく曖昧な回答に、タクトがピシャリと
指摘する。
タクト「映像記憶、です。お間違えの
なきよう。」
目当ての目薬を買って店を出る
ボッスンとタクト。
これといって話す機会などなく、
暫くは二人ともだんまりと歩き続けた。
頬に一筋の汗が落ちる。気温は27度。
さほど蒸し暑いという気温ではないが
カラッとした空気がボッスン達の水分を奪う。
ついで彼(タクト)とはまだ心の距離感という
ものがあって、こちらから話す気にも
なれなかった。
軽い気持ちでタクトの買い物に付き添った
藤崎は、黙って歩き続ける彼(タクト)に内心で
思った感情を昂らせる。
ボッスン(こいつさっきから全っっ然喋らねー!
景色ばっかずっと観てるしよー!、外見て何が楽しいんだ!?)
ここにヒメコがいたら彼女も同じ思いを抱く
だろうし、沈黙を何よりも嫌う彼女なら
敵味方関係なく喋りだすはずだ。
普段おしゃべりの絶えない部室で過ごしている
彼らにとって、沈黙は地獄にも等しい行為
だった。
だから藤崎は思いきって彼(タクト)に
ボッスン「ね、ねえ。タクト、、、さん?
くん?」
そのぎこちない質問に対しタクトは、
すぐに返答を返した。
相変わらず冷たい声色だったが
タクト「…何ですか。藤崎さん。」
名字で呼ばれた藤崎は構わずに会話を続ける。
ボッスン(…!、折れるもんか!)
ボッスン「いや~、その。なんつーかさ、
お前、さっきから歩きながら景色観てるじゃん?別にたいした観光名所でもねえのに、」
「楽しいのかなー、っつって。。」
自信なさげな発言をする藤崎の顔を
タクトはちら、とみてからすぐに視線を戻す
ボッスンの質問に、タクトは口を開いた
タクト「何故…………そう思うのです?」
彼(タクト)は少し探りを入れる形でボッスンに
問い詰めていく。
質問を質問で聞き返した後輩のやり口に、
ボッスンは(そうきたか)と冷や汗を垂らす。
周りに人はいない。いつのまにやら
二人は町外れの場所まで歩いていたらしい。
二人しかいない空間の中、タクトはさっき
言った質問を再度繰り返す。
タクト「先に聴いてきたのは貴方の方ですよ、
ボッスンさん。何故、そう思ったのですか?」
ボッスンからのはっきりした返事を聴けていないせいなのか、タクトは眉間にシワを寄せて
機嫌の悪さをアピールする。
ボッスン「………………」
返答に悩む藤崎は、ただ棒立ちになって
黙りこむ。
返事をしないボッスンに痺れを切らしたのか、
もしくはどうでもよくなったか。
タクトは「はあ、」と大げさに溜め息をついて
ボッスンの後ろを通りすぎる。
タクト「景色を観てるのは、ただの日課です。定期的に色んな風景を見て、能力が怠らないよう維持しているんです。」
「………まあ、その反面。頭に流れ込むと多少の吐き気や頭痛等が襲ってきますが、」
タクトは最後にぼそりと意味深な言葉を放ちながら、タクト「気休めではありましたが、知り合いと歩くという気分はなかなかに悪くない
結果でした。では、僕はこれにて」
「失礼」と言って口を閉じ、タクトは自身の
家がある方向に歩いて帰ろうとする。
「……まて。」
突如、ずっと黙ってたボッスンが帰ろうとする
タクトを呼び止め。
ボッスン「まあ、その、、さっきの、、会話の
続きなんだけどよ。。」
ボッスンは先ほど、タクト自身に対して思った疑問の答えに近しい言葉を口にだす。
ボッスン「あれは、、淋しさ、みたいなもんだ。お前はさ、ただ義務感とか能力の辛さとかを建前にしてあんな事言ってるけどよ、」
「………淋しさっつーか、なんつーかなぁ。。
うーん、……そう!あれだ!孤独だ!孤独感!
お前には仲間がいんのに、それだけじゃ埋まらねえどうしようもねえ孤独がお前の中にずっと燻ってんだ。」
ザザザ、という風の音が鳴る
冷たい風が二人の頬にあたる。いつの間にか、
時刻は夕刻に差し掛かっていた。
「孤独、ねえ。」
"どうしようもねえ孤独がお前の中にずっと
燻ってんだ"
そんな藤崎の発言を聞いて、タクトは思わずククと口許を歪ませた。
またこの人は一体どういう腹づもりで
言っているのかと。
タクト「貴方から見て、僕はそう見えてるの
ですか?はっ、何を根拠にそのような戯れ言」
タクトの挑発を聞くきもなく、遮って次の
言葉をぶつける。
今度は真っ正面から、真剣な眼差しで
ボッスン「ああ、見えるぜ。おめーのそんな
辛気くせえ面を見てりゃあ、いやでもな。」
タクトの言葉を遮って発言するボッスンに
面白くないといった表情でこう返した。
タクト「……生憎ではございますが、
同情なら御勘弁いただきたい。勿論、
貴方に理解されるのも遠慮致しかねますが」
能力の大変さなどタクト自身も
わかってはいたが、持った力に対して誇りすら持っていた少年。
自身に対し、同情と憐れみの情を向けるボッスンにあえてそう釘をさす。
ボッスンも、
「ああ、別にそれを知っておめーを救おうなんざ思っちゃいねー。お前が見えないとこで
努力してるやつだってのは、十分知ってる。」
なら、自分にはあまり関わるな。
もとより自分たちは別のグループに所属する
関係。
これ以上干渉するのは、
ボッスン「俺なんかでいいなら何かあれば、
いつでも俺に相談してこい。
スケット団も、ポケット団も関係ねえんだ。
孤独なんざ、いくらでも埋めてやる。」
タクト「……」
ボッスンは真面目な声色で、ただまっすぐに
タクトを見つめる。
「それでも淋しさや孤独感が消えてくれねーなら、今度師匠達と一緒に花火大会とか祭りとか。一緒に行ってみようぜ。ヒメコや
スイッチ、勿論ツバキ達も一緒にな。」
そういって明るい場所に連れてく、引っ張りだしてくれる彼の存在が眩しく感じた彼(タクト)
タクトは下を向き、ボッスンに顔を見せぬよう
彼には聴こえない小さな声でぼそりと呟いた
タクト(……貴方はどこまでお人好しなんだ、、)
ボッスン「……?なんか言ったか?」
タクト「…いえ、なにも」
タクトはボッスンとの会話を早々に切り出し
(半ば強引に)自身の家がある方角を小走りで向かっていった。
ボッスン「あ、おい!まだ話終わってね、って、、行っちまった、、逃げ足だけは早ええな。あいつ。」
ボッスンは一人になった空間でこんな事を頭に
思い浮かべる。
ボッスン(…………そういや、あいつの誕生日聴いてなかったな。)
今度、八木ちゃんか師匠に聴いて誕生日ケーキでも渡してみるか。
まあ、渡したところで
ボッスン「素直には、、喜ばねえよな。」
自身の脳内で悪態をつく後輩に対し、
苦笑いをしてそう呟いた。
勢い任せに走り続けた。
ボッスンと距離を離れ、タクトは夢中で
走り去り、ボッスンが見えなくなると息を
切らして立ち止まる。
「ハァッ!………ハァッ………! ハッ………!!」
自身でも気づかないくらいのスピードで
家の近くまで走っていったタクト。
「………………」
振り返る。当然だが、さっきまで後ろにいたボッスンはいない。
息を整え、汗を拭う。
幸い、近くに自販機が置いてあったので
冷たいお水で喉を潤す。
ごく、ゴク。
タクト「………はあ、」
大量に水分を補給したあと、タクトは夕刻に
差し掛かる空を見上げながらボッスンの顔を思い浮かべた。
"ボッスン
「淋しい気持ちになるなら俺がそれを埋めてやる。」"
そんな事を恥ずかしげなく正面から
言う彼を見て、思わず
逃げ出してしまった自分に対し
タクト「どうも、、ああいうのは苦手だな。。僕には…………眩しすぎる。」
救う事は出来なくても、一緒にそばにいて理解しあえたり、分かち合うことだってできるんだ、と。
ボッスンは自分(タクト)だけじゃなく
全ての人間に暖かな笑顔と、光のような眼差しで、救ってたのだろう。
本人ならきっと、そんな事はないと
謙遜するだろう。
"俺にそんなたいした力はない。"
なんて事を言うはずだ
"あくまで俺は、俺たちは、誰かの心をサポートする助っ人だから"
だからこそ、影でそれを見てた彼
(タクト)自身こう思う。
タクト「……なんて、怨めしい男だ」
自身にこのような複雑な感情を抱かせる楽観的な男に、先ほど飲んでいた
ペットボトルを水ごとぶちまけそうになってしまう。
そんな感情とはよそに、彼(タクト)はボッスンにありもしない感情を抱いてしまう。
違うと思いたい。ただ、それでも
そんな彼(ボッスン)に対しタクトは、
タクト(そんな貴方を愛しいと
思えるだなんて………!!)
ぎゅっと、胸のあたりを抑えながら
今の自分の感情がぐちゃぐちゃにかき混ぜられている事実に苦しさで吐き気が襲う。
タクト(ボッスンさん…………。!!)
再び、空を見上げ彼(タクト)は頭上の雲に
向かってこう囁く。
タクト「あの男の言葉や仕草を見ると。
自然と素直な気持ちになってしまう。
既に僕はおかしくなってるのか、、?
そうだとしても、、。。」
眩しい夕陽に目を細めて少年は言い知れない独白を呟いた
タクト「……いや、よそう。口にだしてしまうと、僕の心は壊れてしまう」
悔し紛れに語る少年の姿に、
普段の表情ではわからなかった感情が彼の心を悩ませた。