徒恋というもの すごく昔の話、あたしがまだ子どもだった頃の話。
しんしんと雪が降り積もる中、人間の仕掛けた罠にハマった。足がズキズキと痛む。血が滲むその部分を見ると血の気が引いた。抜け出そうにもどうにもできない。もがけばもがくほどに強くなる痛みにポロポロと涙が出る。自由に外が見てみたくて、両親の目を盗んで出てきた矢先の出来事だった。誰も近くに居ない。父ちゃんと母ちゃんは探しにきてくれるだろうか。もしかしたら、このまま人間に捕まってしまうかもしれない。生きたまま皮を剥がれるなんて兄たちから聞いたばかりだった。怖くて、痛くて。でも声を出せば人間に気付かれるかもと思い、泣き声も呻き声も必死で殺した。
「おや」
声が聞こえた。人間かと目を瞑って身を硬くする。するりと頭を撫でた手。……この気配、人間じゃない。
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