ボーダーに入りたての頃、太刀川さんは暇さえあれば俺を個ランに誘ってきた。
いや、あれはもう個ランどうこうじゃなくて、太刀川さんにとっては出会い頭の軽い挨拶くらいの感じだったんだろう。「おっ、迅!やろーぜ!」って、無理やり首根っこ掴まれて、そのくせ10本勝負で終わったことなんか一度もなかった記憶がある。
なにせあの頃の俺は、太刀川さんより弧月の扱いに長けてたし、俺にボコボコにされる度に太刀川さんは「もう一回!」とおかわりを所望して来たから。まあそれもほんの最初の頃だけで、俺は太刀川さんとの勝負に勝つためにスコーピオンを開発せざるを得なくなるんだけど、その話は今はおいといて、とにかく、両手に持った弧月を俺に向かってぶん回す太刀川さんは滅茶苦茶で、そして破茶滅茶に楽しそうだった。
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