ファーストアタック(旧新)ほんの少しの、単なる興味からの出来心だった。
その日、外泊許可を取ってジョルノはディアボロを連れ出していた。バールで飲みたい気分だった。溜まっていた仕事がひと段落して、少し浮かれていたのかもしれない。
夕食前にバールに立ち寄って、アペリティーボを楽しんだ。食前酒というのは、こうも楽しかっただろうか?店で話せる程度の仕事の愚痴なんかをジョルノは話していたが、ディアボロは静かに聞いていた。
バールから切り上げてリストランテに向かう足取りはとても軽かった。馴染みの店主にいつも座る奥側の席へ通されて、二人で料理を待つ。
こう言う時のディアボロはとても静かだった。まるで借りてきた猫の様に、静かにワインを嗜んでいた。
大人だな、そう感じざるを得なかった。ジョルノにとって、身近に模範になる大人はごく少数だった。勿論、彼が憧れや見習うべき対象かと言われると、そうではないと断固として言えるのだけど。
口数が少ない彼に……ジョルノは何故だか、いつしか興味を持っていた。
少しだけ、ほんの少しで良いから饒舌になってはくれないだろうか、そんな事を無意識に思ってしまったのだろうか。
気が付けばワインを空けていた。3本だ。4本目に入ろうとした所で、ディアボロに止められてしまった。
「お前……強くないだろう」
「僕は……君に負けたのか?」
バカめと、そんな罵倒が聞こえてきた気がする。いつの間にか肩を貸してくれているらしい。ジョルノは、自分がやたらと間抜けな事になってしまったらしい事を、フワフワな意識で理解した。リストランテの外は頬を撫でる夜風が心地良かった。
「そもそも勝負なんかしてないだろ……自分のペースも知らんガキがイキるからこのざまだ」
「君は……酔ってないのか……」
チラリと横目で顔を覗かれて、ジョルノは思わず息を呑んだ。この程度で俺が酔うものか、そう言ってディアボロは鼻で笑った。
ホテルはツインを予約していたのに、何故だかダブルになっていて。ジョルノは笑いながらベッドへ倒れ込んだ。可笑しいな、これじゃあ君と寝ることになってしまう。ジョルノは、いまにも意識を手放してしまいそうだった。しかし、狭いと投げ掛けられた一言に瞼を開く。自分のすぐ隣にディアボロがいた。近いなぁと、その頬へ手を伸ばす。
おい、なんだ……。ディアボロはそう言って、ジョルノが伸ばした手を取った。温かく、自分より大きな手のひらがジョルノの手を包んだ。
「ねぇ、ここって……ラブホテルですか?」
「いいから寝ろ、クソガキが……」
全体がピンク色で、装飾が華美な部屋の壁には、LOVEと大きなネオンが光っていた。
ラブホテル、初めて入ったな……そう溢すジョルノに、ディアボロは寝ながら、お前みたいなガキは用がないだろうなと言った。
でも、初めてが君で良かったな……。意識を半分夢の中へ送りながら、ジョルノはそう言った。ディアボロはジョルノの顔を見た。ハァ……?お前……。その言葉は夢の中のジョルノには届かなかった。
……大体、お前が酔っ払ってホテルが分からなくなったから、こんなホテルで寝る羽目になったんだ。このクソガキ、何を浮かれているのだ。
そう、一人ゴチてみてもこの状況がどうにかなる訳でも無い。そんな事は分かりきっていたが、今のディアボロは口に出さずに居られなかった。
……酔っている自覚はあった。目の前でワインを水の様に飲み進めるものだから、負ける訳にはいかなかった。彼の高慢なプライドがそれを許すハズが無かった。
「水……」
フラリとよろめきながら、水を探した。冷蔵庫の水はよく冷えていて、少し酔いが覚めた。
ベッドで眠る金髪の青年は、自分に気があるらしい。それはここ数ヶ月でディアボロが感じとったものだった。初めは少しの違和感。そして少しずつ積み重なっていた。
不毛だと、ディアボロは思っている。先も後も無い自分に何を求めているのか。そう、所詮はガキの考えだと……一蹴してしまえばいい。
ただそれだけの事なのに。それが出来ずにまた思考を反芻している。酔っているせいだ。さっさと寝てしまうのが良いのかもしれない。そう思い至り、狭いベッドに横になる。小さな寝息を聞きながら、ディアボロは意識を手放した。
おわり。