クッキー重いドアノブに手をかける。
「それじゃあ、…また夜のゲームで」
今日は、写真家から昼ラン後の「お茶会」に呼ばれていた。
お茶会、なんて言っても、お貴族様下民の話しに興味を持つはずもないし、こちらがテーブルマナーの一つさえ知らないことをせせ笑おうとしてるんだと思っていた。
…蓋を開けてみれば、それは自分の思い込みで、全くの見当違いだった。カップの持ち方なんかで笑われたりなんかはしなかった。意外だったが、この貴族は、探鉱者の食事に難癖を付けることはなかったし、「これも美味しいよ」だなんて、新しい菓子を用意させていた。
お茶会の感想といえば、一言でいうなら…楽しかった、と言っていい。
見たことない色をしたお茶に、甘いジャムをたっぷり塗ったスコーン、磨かれた食器は清潔で、テーブルに並べられている物は、何もかもが完璧だった。
心が踊らなかったと言えば、正直…それは嘘だ。
「ああ、もう帰ってしまうんだね。残念だ。」
そっと彼の体が覆い被さる。
体重を感じさせない足取りだったから、何をされたのか、一瞬わからなかった。
目を見開いて、目の前の体を押すと、温かい体温は唇から離れていく。
ジロリと相手を睨め付ける。
目の前の男は悪びれもせず「悪かったかな?」とでも言うように首を傾げた。白い髪が、さらりと陶器のような肌を撫でて、綺麗なはずなのに妙に官能的だ。
「君が帰ってしまうことを惜しいと思う私を、冷たくあしらわないでおくれ。」
再び口づけようとする彼の顔と、自分の顔との間に手を差し込む。ここで押し負けてしまってはいけない気がした。
「冗談じゃない…。」
何を言おうか。
口の上手いこの男から逃げる方法、そして、決して嫌だと思えない気持ちを隠す方法……。彼の前で動揺を隠せてるとは到底思えないが、言い訳を考えるために必死で頭を動かす。…動かした、のだが。
「…夜ランには行きたい。…………その後、また、来るから。」
結局、代替案しか思いつかなかった。
写真家の青い瞳が、スゥ…と細くなる。値踏みをしているんだろう。心臓がトットットッと緊張で熱くなる。
「……よろしい。代わりに、身を清めておくように。」
そう言って、写真家は小ぶりの瓶を持ってくる。
「私の好きな香料だよ。それと、これも持って帰りなさい。」
「これは?」
小瓶と一緒に、繊細な刺繍が入ったハンカチをもらった。
「今日出したクッキーを包んでおいたよ。夜ランの合間に食べるといいさ。君たちサバイバーは、連戦だろう?」
そのハンカチも持っていって構わないよ。と、言葉が続く。随分と気前がいいじゃないか。
「ありがとう…」
スルリと扉を抜ける。
うまく逃げることができたようだ。
後ろからの視線がないことを確認して、息をついた。
息を吹きかけられた耳が熱い。
手の中のハンカチをじっと見る。
手土産は嬉しいが、流石にマッチ中に食べることはできない。他のサバイバーたちに何を言われるかわからないからだ。
探の机から、ハンカチが出てくるオチ