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    A_gz17

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    A_gz17

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    12/19(日)エア❤︎コレクション2021 in Winter
    Aエリア【い5】pleasure!
    展示作品です。
    九条殿×玲姫・輿入れ後、初夜を迎えた二人のお話。

    あなたが望むもの(九条殿×玲姫) 夜の帳が下りると、どっと緊張感が増した。
     今夜……だよね?
     ほんのりと灯りが点る帳台の中で、身を固くして、九条殿の訪れを待つ。時が経つほど緊張感が増して、気を抜いたら倒れてしまいそうだ。
     輿入れ後、初夜。
     祝言はそれはそれは盛大に行われた。大国と小国では文化が違う。それは九条国と同盟を結んだ頃から思っていたことだけど、まさかここまでとは、と唖然としてしまった。
     それもそうだ。だって、天下の九条殿が妻を娶るのだから。
     その妻が私……で。
     夫婦となって初めての夜、で。
     つまり、そういうことだ。

    「緊張する」

     開いた扇子に額を預けて、深呼吸をした。
     遠くで床板の軋む音が鳴ったのは、深く息を吐き出した時。たおやかな足音と共に、少しずつ軋んだ音が近付いてくる。
     几帳の向こう側に浮かぶ影。影は帳台を周り、いよいよ姿を見せた。

    「玲」
    「九条殿……」
    「ふ、貴方ももう《九条》の身だ」
    「そう、ですね」

     九条殿は薄く笑みを浮かべて、私を見下ろしている。身を固くする私をよそに、床へ上がり、帳を下ろした。
     まるで世界が閉ざされたような心地がして、くらりと眩暈がする。

    「そう身を固くせずとも良い」
    「ううう、です、が」
    「祝言の場での堂々とした姿、見事だった。しかし今の貴方ととても同一人物だとは思えないな」

     九条殿は私の傍へ腰を下ろし、額に唇を寄せた。それから喉を鳴らし、面白おかしそうに笑い声を上げる。

    「だってあの時は必死で」
    「何故?」
    「九条殿の祝言ですよ? 責任重大です。粗相をしたら腹を切る覚悟で挑みました」
    「勇ましいな、私の姫は」

     そういった所が好ましいのだが、と。九条殿は歯の浮くような台詞をさらりと言ってのけ、今度は抱き寄せてきた。
     む、むり。むりむりむり。
     近い。
     近い、し、なんか良い匂いがする、し、着物越しなのに触れ合ったところが熱い。
     今からもっとくっつくのか――と気付いてしまったが最後、鼓動がけたたましく鳴って喉から飛び出てしまいそうになった。

    「案ずるな。酷くはしない」
    「それ、は……心配してません」
    「ほう?」

     顎を掬われる。
     至近距離に美しいお顔。うん、心配はしていないけど、無理なものは無理。いたたまれなくて目をぎゅっと瞑る、と、唇に何かが当たった。びっくりして目を開く。

    「――ッ」

     くち、口、を、吸われた?
     目を白黒させていると、またも唇が塞がれる。九条殿の唇が私の唇に当たって、離れて、またくっついて。そのうえ至近距離どころの騒ぎじゃない距離に九条殿がいて、いよいよ耐えられなくなった。
     ふっ、と体から力が抜ける。
     平衡感覚が無くなり、ぐらりと後ろに傾いて、落ちる――――背中から落ちていく感覚に青ざめ来たる衝撃に身構えた、ら。

    「危ないっ」

     衝撃は無く、九条殿にぐっと抱きかかえられ、少ししてそっと床に横たえられる。一瞬、何が起きたのか理解できなかった。頭が追いつかず、目を瞬かせる。

    「あ、りがとう、ござい、ます?」

     それでもどうにか状況を整理して、私を抱きとめてくれた九条殿に御礼を伝えた。
     すると今度は九条殿が目を瞬かせる。初めて見る隙のある顔に、胸がぎゅうっと締めつけられた。だって、可愛い。見目麗しくも、天賦の才で政を執り行う天下人の九条殿に、可愛い、だなんて。
     けれど可愛いと思えたのは僅かな間で、みるみるうちに九条殿の口の端が悪戯につり上がっていく。

    「貴方は本当に、」
    「え?」
    「男に覆い被さられて、平然としていられるとは。貴方の意識を改める必要がある。口を開けなさい」
    「えっ」
    「早くしなさい」
    「――っ」

     そんな風に言われて、どうして抗えようか。
     九条殿に言われるがまま口を開ける。唇を震わせながらやっとの思いで口を開けると、九条殿の顔が近付いてきた。
     まつ毛、長い。じゃあなくて。
     瞬く間に唇が合わさって、呼吸を奪われる。男女が床を共にする時、唇を合わせると聞いたことを思い出した。なんだそんなことか、なんて思っていた過去の私に、これはとんでもないことだと今すぐに伝えたい。
     唇が触れて、離れて、啄まれて、それから生暖かい舌が唇を舐めて、口の中に入ってくる。舌を擦り合わせるだけで体の奥がじんと熱くなってくるから不思議だ。

    「ふぅ、ぅんん、んぁ」
    「上手だな。もう少し舌をこちらへ」
    「はい……――っ、んーっ」

     舌先を吸われた。
     びくん、と体が震える。
     熱くて、なんだか思考がぼやけてきた。加えて九条殿の良い匂いに包まれて、このまま身を委ねたくなる。
     だけど。

    「……ん、は、ぁっ、や――っ」

     こわい。
     ううん、そんなこと思ったらだめだ。けれどこのままじゃぐずぐずに思考が溶かされて、自分が自分ではいられなくなってしまいそうで、こわくて、咄嗟に顔を背けてしまった。
     しん、と静まり返る。
     少しして体が軽くなり、九条殿が私の上から身を引き、隣へ横たわった。

    「すまない」

     横寝のまま、私の頬を撫でる。眉が下がり、気遣わしげな目を向けて、そっと頬を撫で続けた。
     謝るのは私の方だ。

    「っ、謝らないでください……! 違うんです、私、そのつもりで、なのに」
    「案ずるな」

     九条殿の親指が私の唇を覆い、言葉を遮られる。

    「貴方が名実共に私のものになったと、浮かれて箍が外れてしまった」

     親指が数回、唇を撫でて離れていく。

    「九条殿も浮かれるんですか?」
    「ああ。愛する人をこの手に抱く――と思えば、浮かれてこの有様だ」

     九条殿は私の手を取って、彼の胸元へ近付けた。手のひらから伝わるのは、私のものと変わらないくらい、速く脈打つ心臓の音。驚いて彼を見上げ、胸元とを交互に見やる。
     目を合わせると、九条殿はきまりが悪そうに笑った。

    「今晩はこのまま添い寝でもしないか?」

     続く提案に目を丸める。

    「それは、その……お世継ぎは」
    「急がなくてもいい。それに世継ぎより、まずは深く貴方を知りたい。だが――」

     九条殿が、私の手のひらに唇を寄せた。

    「念願叶って手に入れたんだ。貴方と寄り添うだけでも、幸福で胸が満ちる。どうだい? 乗ってみないか」
    「九条殿はそれでご満足頂けるのですか」
    「ああ」

     九条殿は深く頷いた。かと思いきや、少し間を置いてから首を振る。

    「いや、一つだけ。私の願いを聞いてくれないだろうか」
    「ひとつでいいんですか?」
    「他は今後、応えてもらいたい」
    「私が九条殿にして差し上げられることであれば、なんでも」

     輿入れをして最初の夜なのに、私の気持ちの方を大切にしてくれる。申し訳なくて、でも擽ったい気持ちになって、愛しいなと思って、この人の望むことは、なんでも叶えたくなってしまう。
     それこそ九条殿が望むなら――肌を触れ合わせたい。
     はしたないけれど、今夜は元よりそのつもりだった。この期に及んでわがままな言い分だけれど。
     さあ、なんでもどうぞ、と待ち構える。その後、九条殿の望みは思いがけぬもので、大きく目を見開いた。

    「貴方は私の妻であり、即ち九条国の奥御前だ。私の事は名で呼んで欲しい」
    「名前……?」
    「ああ。知らぬとは言わせない」
    「そ、それはもちろん存じております。ですがその程度のことをわざわざ――」
    「いいから早く」

     急かされて、口を開く。

    「壮馬殿?」
    「私は貴方の殿ではない。夫だ」
    「えっと、じゃあ。……壮馬様?」

     改めて口に出してみると、これはなかなか、ううん、だいぶ恥ずかしい――ような気がする。
     だけど壮馬様は、本当に心の底から望んでいたとでも言うように顔を綻ばせて、甘く吐息混じりに「玲」と私を呼んだ。それだけなのに私の鼓動は頂点に達してしまう。
     壮馬様も同じ、なのかな?
     それを尋ねるのは違うんじゃないか……と思って、照れ隠しに彼の胸元へ擦り寄った。するとあたたかい腕が私を力強く抱きしめる。
     幸せって、こういうことなのかな。抱きしめられているだけで、壮馬様が愛しくなって、思いがけ溢れてしまいそうだ。

    「壮馬様、他にお応えできることはありますか?」
    「今夜はこのまま寄り添っていてくれ」
    「壮馬様が望んでくださるのなら」

     襟元から覗く素肌へ唇を寄せる。
     すると深く、力強く抱き込まれて、その後どちらからともなく唇を重ね合わせた。このまま寄り添うだけじゃ、すぐに物足りなくなってしまいそう……なんて思いながら、壮馬様から与えられる熱に酔いしれる。
     口付けが深くなっても、もう、こわくない。
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