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    ranmao_cos

    @ranmao_cos

    好きな時にいろいろあげる/たまに🔞要素有
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    ranmao_cos

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    ※誤字雑字多め

    #オリジナル
    original
    #小説
    novel
    #創作
    creation
    #恋愛
    love
    #長編
    long
    #悪魔
    devil
    #幼女
    youngGirl
    #転生
    reincarnation

    転生してしたら小さな魔王の執事でした 俺は、あまりにも眩しさに目が覚めると、そこは真っ白な世界だった。

    『どこだ、ここ?』

    自分の声が反響する。辺りには何も無い。ただただ、白い空間が広がっているだけだ。

    『ここは、"存在しない世界だ"』

    そんな声が、後ろから聞こえた。声的に男だろ。
    振り返ると、人型をした真っ白な物がいた。俺は、不思議と驚きはしなかった。例え悪魔特有の角と羽があるとしても。

    『存在しない世界?』
    『ああ。そして、君は死んだんだ』

    その男は、静かにそう言った。

    『死んだ………?俺が?』

    俺は、自分が死んだ事さえ覚えていなかった。そして男は続ける。

    『まもなく消えるこの世界へ、お前を呼んのだ。頼みたい事があるのでな』

    『頼み?』

    『そうだ。頼みとは、"レイチェル様"の復讐を止め欲しい。それから、幸せにして欲しいだ……。私にはもう……出来ないことだからな……』
    聞き慣れない名前の筈なのに、なぜか知ってるような気がした。
    俺がそう思っていると、立っていられないぐらいの揺れきた。男との間に亀裂が入り、俺と距離が開き始める。そして、俺は奈落へと落ちた。

    『世界が消え始めている。私の代わりに、頼んだぞ"異世界人"よ』

    そう言って、男は世界が消えると同時に消えていった。そして俺は下へと落ちていく中、先程とは違う声を聞いた。

    「君には"彼女"は救え無いよ、"異世界人"くん。だって君は、僕の"おもちゃ"のだから、すぐに死んじゃったら面白くもない。だからね、君と"同じ異世界人"を呼んだんだ。ちゃんと、僕を楽しませてね?橘 悠斗たちばなゆうとくん」

    そこで俺は、意識を失った。
    *****
    天使、魔族、人間、ドラゴン、妖精が住む5大世界アルカリア。
    500年前に起きた人間と魔族の争いによる史上最悪の戦争と呼ばれた"アルカリア戦争"が終わり、5大世界と呼ばれた世界は、今や天界、人間界、そして魔族たち住む魔界の3つの世界となった。
    そんな、魔界の最奥にある魔王城に大きな声が響き渡る。

    「何でそんな大事な事、俺に頼むんだよ!!」

    男は、勢いよく叫びながら起き上がる。そして、自分がベッドの上にいることに気づく。

    「あれ?何でベッドの上にいるんだ?さっきまで、真っ白な世界にいた筈じゃあ……?」
    「ん……?ようやく目覚めたか、"メイザー"よ」

    自分が置かれている状況を確認するべく、辺りを見渡す。すると、ベッドのそばで寝ていたのだろう小さな女の子が目を擦りながら起きる。

    「……………」

    「どうしたのじゃ、メイザー?そんなに、大声を出しおって……。まだ、とこか痛むのか?」

    大きくて透き通る緑の瞳と青い瞳が心配そうに、男を見つめる。目の前では、悪魔の羽根と尻尾が揺れている。

    「だ、誰……?悪魔の……幼女?てっ言うかメイザーって?」
    それを聞いた、女の子は先程よりも大きく目を見開く。そして、勢いよく服を捕まれ女の子の方に引き寄せられる。女の子とは思えない力だ。

    「覚えておらぬのか!?妾のことも!?自分のことも!?そうじゃ、名前……!自分の名前を言うてみせよ!」

    「は?な、名前……?俺は橘……、橘 悠斗」

    悠斗は幼女にそう言うと、首元を掴んでいた手が緩む。幼女は落ち込んだの表情を浮かべながら、地べたへと座り込む。

    「そんな……。名前が違うのじゃ……」

    幼女がそう呟くと同時に、部屋に2人分の女の声が響き渡る。
    「どうしました!?お嬢様!!」

    「どうしたんですの!?お嬢様!!」

    部屋に入ってきたのは、ここのメイドたちのようだ。双子なのだろう、2人の顔は似ていた。
    赤髪ロングのメイドが心配そうに幼女に駆け寄る。

    「どうなされましたか、お嬢様……?どこか、お怪我を…………」

    そんな、赤髪のメイドと幼女を不思議そうに、見つめていると、もう1人のメイドが叫ぶ。

    琥珀こはくちゃん見て、ですの!!メイザーさんが目を覚ましてますの!!」
    その声に釣られて、もう1人のメイドの方を見る。桃色の髪で左右に長い髪を結んでいる。そしてまたしても、悠斗をメイザーと呼ぶ。
    悠斗は、自分がそのメイザーじゃないと言うとしたその時、琥珀と呼ばれた赤髪のメイドに支えられて立ち上がりながら幼女が呟く。

    「そやつは、妾たちが知るメイザーでは無い……」

    「え……それは、どういう事のでしょうか……?お嬢様……」

    琥珀は、幼女に聞く。幼女は先程の落ち込んだ表情と違い、しっかりとした表情をしていた。
    幼女は、琥珀と桃色の髪のメイドに言う。

    「この事は、妾たち……、魔族たちの秘密じゃ。この事が天界や人間なぞに知られてみよ。瞬く間に、ここは戦場になるじゃろう。だから、この事は他言無用ぞ。良いな琥珀、紫苑シオン
    それを聞いた琥珀と紫苑は、同時に首を縦に振る。

    「はい……」

    「はい……ですの……」

    それを確認した幼女は、もう1度悠斗に同じ質問をする。

    「おぬしにもう1度、問うぞ。自分の、名前を言うてみよ」

    「橘……、橘 悠斗……」

    それを聞いた、双子たちは驚いた顔をする。
    「違います……」

    「違うですの……」

    幼女は端にある机の上から鏡を手に持って、悠斗に渡す。

    「その鏡で、自分を見るのじゃ」

    悠斗は、何も分からずに渡された鏡で自分の顔を見る。そこに映っていたのは、確かに自分の顔ではなかった。見覚えのない悪魔の角と羽そして、染めた覚えのない金色の髪に青い瞳。そして、鏡を持ってる手の下に見えるのは悪魔の尻尾が見えた。

    「え!?誰だよ、これ!?っていうか、何だよこの悪魔みたいな角と羽と尻尾!?俺、いつコスプレなんてして寝たんだよ!」
    悠斗はあたふたと、自分の体を確かめる。何度確かめてもそれは、自分から生えているものだった。触れば感触があり、引っ張れば痛覚もある。
    一通り確認させた後、幼女が再び悠斗に言う。

    「おぬしが言う、こすぷれ?というものは知らぬが、とにかくおぬしがメイザーでは無いことは分かったのじゃ。では、おぬしは何者なのじゃ?」

    「わからない………。自分が何者で、なぜここにいるのかも…………。名前以外、何も覚えてい無い………」

    存在しない世界で出会った男も、話した内容も悠斗はには、何1つ覚えてはいなかった。
    それを聞いた、3人は黙ってしまった。少し経ってから琥珀が、話始める。
    「何も覚えてないのは、お気の毒ですけど……、メイザーさんの姿であるあなたはお嬢様の……レイチェル様の執事です。ですから、少しずつでよろしいので執事の仕事、ここでの生活に慣れていって欲しいです……」

    「そうじゃな。メイザーではないにしても、その体はメイザーのもの。50年も眠っていたのじゃ、しばらく体を慣らす必要がある。それに、この世界や妾たちの事も知る必要があるじゃろう。どうじゃ?妾と少し散歩に出ぬか?」

    レイチェルは、悠斗にそう提案する。悠斗は、差し出された手を取って答える。

    「えーと……、はい、お嬢様?」

    「妾は、レイチェル・アルガード。魔界の王じゃ。レイチェルで良い。では行くとするか、悠斗よ」
    ぎこになくお嬢様と呼ぶ悠斗にレイチェルは、笑顔を見せながら手を差し伸べる。
    そして悠斗は、双子に支えられながらベットから出てレイチェルと2人庭園へと歩き出した。

    *****
    庭園に出ると、辺り一面に赤い薔薇が広がっていた。そこには、庭師なのだろう小さな様々な妖精たちが薔薇の世話をしていた。

    「あっ、レイチェル様!それに、メイザー様!ようやくお目覚めになられたのですね!」

    薔薇の世話をしていた1匹の小さい妖精が、悠斗たちの側までパタパタと羽根を揺らしながら駆け寄って来る。
    「おお、ピクシーではないか。いつも薔薇の世話ご苦労じゃのう」

    レイチェルは自分の手のひらに乗った、1匹のピクシーに笑顔で労いの言葉をかける。ピクシーは優雅にスカートの裾を掴んで、一礼する。

    「えへへ!これが、わたくし達の仕事ですもんの!当然ですわ!あら?どうなさいましたの、メイザー様?」

    「あ……、こやつは……」

    レイチェルが、違うと言う前にピクシーはレイチェルの手から離れ悠斗の目の前へと飛んで行く。

    「メイザー様?わたくしですわよ?ピクシーですわ」
    悠斗は、小さく呟く。

    「虫が喋ってる………」

    「虫!?わたくしたちは虫では無いですわ!!ピクシーという妖精ですわ!どうしましたの、メイザー様!?前は、そんな事言わなかったではありませんか……?」

    ピクシーは、小さいながらも悠斗の服を引っ張て抗議する。しかし、レイチェルに羽根をつままれ悠斗とから引き離される。ピクシーは、レイチェルに抱きついて泣いている。

    「えーと……、何かごめん……」

    そんな姿を見た悠斗は、ピクシーに謝る。そして、レイチェルから今のメイザーはメイザーでは無い事、悠斗の記憶が無い事。この世界についてを説明をしている事をピクシーに話した。
    「そうでしたの……。わたくしの方も、何も知らずに無神経な事を言ってしまいましたわ……。そうですわ!レイチェル様"あの場所"に行かれてはいかがでしょう?"あの場所"ならこの世界を見渡せますしきっと、悠斗様もお気に召しますわ!」

    そう言ってピクシーは、他のピクシー達を呼びに行った。そんなピクシーを見ながら、悠斗はレイチェルに聞く。

    「"あの場所"って?」

    「…………」

    しかし、レイチェルはその質問に答えなかった。しばらくして、先程のピクシーが戻ってきた。
    「悠斗様!レイチェル様!お待たせいたしましたわ!さぁ、こちらへどうぞですわ!」

    悠斗達は、ピクシーの後ろをついて行く。すると、そこには無かった扉がある事に気づいた。

    「え?こんな所に扉なんてあった?」

    「うふふ。これが、わたくし達の能力ですわ。さぁ、前にお進み下さいまし!」

    2匹のピクシーは、扉の取っ手を引っ張って扉を開けてくれる。レイチェルは、黙ったまま進んで行く。
    悠斗もすぐさま、レイチェルを追いかけるように進んで行く。
    進み続けているとやがて、目の前に眩しい光が射しこんできた。目を開けると、そこには国全体が見渡せるほどの山に来ていた。空には、ドラゴンがや羽のある悪魔たち。箒に乗った魔道士達が空を飛んでいた。
    そして、悠斗達がいる先には2つの墓があった。そこに書いてあったは、女性の名前と男性の名前が刻まれていた。

    "紫炎しえんの魔王アイナ・アルガードここに眠る"

    "初代勇者ヴァイオ・ガーデンここに眠る"

    「魔王と勇者?それにアルガードって……」

    「妾のお母様とお父様じゃ……」
    先程まで黙っていたレイチェルは、ようやくそう話し始めた。

    「母親と父親……。え?でも、父親の方……初代勇者って……」

    「妾は、混血種なのじゃ。魔王と勇者の親を持つ、この国の最後の魔王の子供……。少し、この世界を知るのに妾がの能力で見せてやろうぞ。"魔王が愛したこの国と、唯一愛した勇者"の物語を……」

    レイチェルは、悠斗に片方の手を出すように言う。そして、悠斗の手をとり、レイチェルは小さく呪文を唱える。そうすると、悠斗は急激な眠気に襲われレイチェルの方に倒れ込んだ。
    そこで、悠斗の意識は消えたのだった。

    *****
    今から、300年前。まだ、アルカリア国が5つの国として栄えていた時のお話。
    魔王城には、好奇心旺盛のお姫様がいた。禁じられていた、人間界へも行くほど好奇心旺盛であった。
    彼女は、いつもこそ城を抜け出しては兄といえる存在である従者にいつも怒られていた。

    『姫!またもや、魔王城を抜け出して人間界に行きましたね!あれ程、人間界には行っては行けないと何度も……!!』

    金髪の悪魔は、姫と呼ばれた女性にそう言い放つ。しかし、彼女は聞こえないように両手で耳を塞ぐ。

    『あ〜、あ〜!聞こえない!聞こえない!って言うか毎度の事ながら、同じ事をよく言えるねメイザー。飽きない?』
    女性は、そう言いながらベッドへと寝転がる。ベッドの側には、琥珀と紫苑が控えていた。そして、ベッドの側にあるカーテンを琥珀と紫苑で両方から閉める。
    メイザーは、眼鏡をかけ直しながら続ける。

    『同じ事を言わせているのは、姫の方です!汚らわしい人間が住む世界などに出かけて……!』

    『メイザー〜、人間をそんな言い方しないでって、私、いつも言ってるわよね?全く……、お父様もメイザーも頭が固いんだから!』

    女性は、ベッドの中から来ていた服を出しながらメイザーに言う。

    『うふふ。本当に、アイナ様は人間がお好きなのですね』
    アイナの服を受け取りながら、琥珀は小さく笑いながら言う。そんな、琥珀にメイザーは呆れたような声で言う。

    『好きという領域を超えていると思うがな……。この国を、世界を"1つにしよう"などと……』

    『そうなれば、なんだか楽しそうですの!ねっ!琥珀ちゃん!』

    テーブルにお茶を用意して終えた紫苑が、メイザーと琥珀の方へ振り向いて答える。すると、ベッドのカーテンが勢いよく開き、薄着をしているアイナが出てくる。

    『そう!!分かってるじゃない、紫苑!』

    『えへへ!アイナ様に褒められたですの!』
    アイナに撫でられて、喜ぶ紫苑は上機嫌だ。そんな、紫苑にメイザー言う。

    「ちょっと!貴女までそんな事言わないで下さいよ!紫苑!姫を甘やかさないで下さい!!」

    そう言って、いつも通りの日常が過ぎていった。

    *****
    アイナが200歳の誕生日を迎えた日、アイナの父であるレイフロにアイナは呼ばれた。

    『アイナよ、良くぞ来た。今日は200歳を迎えた、そなたに試練を与える』

    『試練……ですか……?』
    アイナはオウム返しのように、レイフロの言葉を繰り返す。レイフロは、話を続ける。

    『さよう。その試練の内容とは、各国の長の元に行き"コレ"を渡してくるのだ』

    レイフロの隣で控えていた執事の男が、アイナへ4枚手紙渡される。その手紙にはそれぞれの種族が住む世界の名前が書いてあった。
    アイナは、頭に?を浮かべながら4枚の手紙見つめる。そんなアイナにレイフロは、声をかける。

    『もう行って良いぞ。アイナ、気をつけて行くのだぞ』

    それに、アイナは笑顔で答える。
    『はい!お父様、行ってまいります!』

    アイナは、試練を行う為、準備をしに1度自室へと戻ってきた。

    『おかえなさいませ、姫。旅立たれるご準備はすでに、済ませております』

    メイザーは、90度のお辞儀をしながらアイナを出迎える。

    『ただいま、メイザー。相変わらず準備が早いわね』

    『当然でございます。私は、姫に拾っていただいた日から……』

    『それは何回も聞いた!これ以上聞いていたら、耳にタコができそうだわ!』

    アイナは、メイザーの話を途中で遮る。そして、アイナは鏡台の前にある椅子に座り、普段下ろしている髪を結び始める。
    『そういえば、誰か付いてくるの?試練って事は、私1人なんだよね?』

    アイナは、先程聞きそびれた話をメイザーに聞く。

    『私が、姫のお供を致します』

    メイザーは、何食わぬ顔でアイナに言う。それを聞いたアイナは、驚いた声で叫ぶ。

    『えっ!?メイザーが付いてくるの?!』

    『当たり前です。姫に何かあったら、私達の責任になっていましますし、何より私個人が心配なのです。なので、姫にお供する事を志願しました』
    『そう……。メイザーが一緒ならこの旅も退屈しなさそう!じゃあ、行こっか!メイザー!」』

    『はい。どこへでもお供致しますよ、姫……』

    そう言って、2人は城の門の先にある白い光へと向かって行った。そこでいきなり場面は変わり、目の前に先程まで笑っていたアイナが血を吐いて、レイチェル自分を抱きしめている。
    アイナの体には、深く聖剣が刺さっていた。深手を負ったアイナは、最後の力を振り絞り何かを伝えようとしていた。

    『レイチェル……、約束……して……』

    『やくそく……?』
    『そう……、約束……。……出来るわよね……?』

    『うん!』

    まだ幼いレイチェルは、目の前の事が理解出来ないのだろう。レイチェルは、元気に返事をする。それを聞いた、アイナは優しい笑顔を作る。

    『いい子ね……レイチェル……。じゃあ……約束……。……決して……復讐なんて……考えないで……。……幸せに……生き……て……』

    そこでアイナは、動かなくなった。そんな動かなくなったアイナに幼いレイチェルは、声をかけ続ける。

    『おかあさま……?寝ちゃったの?ねぇ、おかあさま?おかあさまったら?』
    幼いレイチェルは、アイナが徐々に冷たくなっていっても、アイナを呼び続けた。そんな幼いレイチェルと、血だらけで死んでいる姿を男は、笑顔で見つめていた。そこで、ブツリと目の前が暗くなった。

    *****
    「目が覚めたか?」

    その声と共に、レイチェルの顔が視界に入る。どうやら、レイチェルの膝の上に載せられていたらしい。
    悠斗は勢いよく起き上がり、すぐさまレイチェルに謝罪する。

    「わっ!わっ!ご、ごめん!!」

    「良い、気にするでない。妾が好きでやっただけの事じゃ。どうじゃ?少しはこの世界の事が分かったか?」
    レイチェルは服に付いた草などを、払いながら悠斗に問う。

    「まぁ……、少しだけ……」

    「すまぬな。妾の能力は、不完全何じゃ……。過去の事を見せられるのは、数時間だけ。しかも、過去に関係していた物や人物に縁のある場所や物が無いと、見せられぬ……。さて、そろそろ琥珀達が心配するであろう。悠斗、戻ろうぞ」

    そう言ったレイチェルの顔は少し、悲しそうな顔をしていたと悠斗は思ったのだった。
    悠斗たちは、ピクシーが作った扉でもう一度庭園に戻ってきた。それからは、色んなピクシーたちが悠斗を取り囲み質問責めされたのはまた、別のお話。
    悠斗はようやく他の悪魔への説明を終えて、悠斗が最初に目が覚めたレイチェルの部屋に戻ってきた。レイチェルは魔力が切れなのか、ベッドで寝ている。

    「っ、疲れた〜!」

    「うふふ、悠斗様お疲れ様です。さぁ、ハーブティーをどうぞ」

    お茶の準備をしてくれてた琥珀は、悠斗にハーブティーを渡す。

    「ああ、ありがとうございます。琥珀さん」

    琥珀からハーブティーを受け取りながら言う。

    「何だか、違和感がございますね。同じメイザー様でも、喋り方や性格が違うので……」
    「えっ……?やっぱり俺とメイザーさんって違う……?」

    悠斗は先程レイチェルから見せてもらった過去のメイザーと自分の違いを琥珀に聞く。言われて見れば、確かに違うのだろ。

    「そうですね。私が知るメイザー様は少し厳しい方だったで……」

    「そうなんだ……。ねぇ、琥珀さんが知るメイザーさんの話聞かせてよ。俺自身はメイザーさんになれないけど……、仕事を覚えるのにメイザーがどんな事をしていたか知りたいからさ。あと、レイチェルの話も少し聞けたら良いな」

    それを聞いた、琥珀はテーブルに自分用のハーブティーと悠斗の分のハーブティーを入れる。そして、琥珀は話始める。
    「そうですね、私が知るメイザー様は厳しい方でしかしとても優しい方でした。当時、忌み嫌われていた双子の私たちにも良くして頂きました……」

    「嫌われていた?琥珀さんたちが?」

    「はい、まだこの世界が5大世界と呼ばれていた時の話です。その中のドラゴンの国、ドラコニアリベルグ国。その名が私たちの故郷です」

    「懐かしい話ですの……」

    琥珀の話に同意するように、紫苑はレイチェルの毛布を直しながら言う。悠斗は、黙って聞いていた。

    「ドラゴン族の力の象徴である、角に付いてあるサファイアの宝石が、私たちはそれぞれの色を持って生まれてきました。私はルビーです」
    そう言って、琥珀は耳に付いているイヤーカフの宝石を悠斗に見せる。そこには、確かに琥珀の髪と同じ色のルビーの宝石が埋められていた。普段は、ドラゴンの姿に戻ると角に付いている。

    「私のは、ルベライトですの!」

    紫苑は、琥珀と同じ様に悠斗に見せる。

    「ルベライト……?」

    聞き慣れない言葉聞いて、悠斗はオウム返しをした。

    「桃色の宝石の事です。普段は皆サファイアの宝石なんです。私の両親もその祖父もサファイアだったそうです」
    「でも、琥珀さん達はそれぞれの色の宝石を持って生まれた……」

    「はい……。ドラゴン一族以外にも、そこ事は周囲の種族も知っていることです。なので、お嬢様もメイザー様それを知りながら私達に気を使わず、普通の同僚従者として接して下さっています」

    琥珀は、笑いながらそう言う。そして、カップを置いて立ち上がる。

    「さて、もうそろそろお夕飯の時間ですね。悠斗さんもお手伝い、お願い致します」

    「お嬢様、そろそろお夕飯のお時間ですの。起きて欲しいですの」

    紫苑は、寝ているレイチェルを起こす。レイチェルは、う〜んと唸りながら起き上がる。
    「ふぁ〜あ……。もうそんな時間か……」

    レイチェルはまだ眠いのか、目を擦りながら言う。

    「レイチェル、俺も琥珀さん達の手伝いに行くよ」

    悠斗は、レイチェルはそう言う。レイチェルは何も言わなかったが、相槌をうって分かったと示した。

    *****
    琥珀達と一緒に台所に来た悠斗は、巨大なトカゲがいる事に驚いた。

    「えーと、あんたが異世界から来たっていう人?」
    巨大なトカゲは、悠斗にそう問う。悠斗は、びくびくしながら、答える。

    「い、異世界から来たっていうか………、死んで転生した感じ……?」

    巨大なトカゲは興味が無いように、ふーんと言って手元にある肉を調理し始めた。

    「この方は、料理長のリーさんですの。いつも、美味しいご飯を作ってくれるですの!」

    紫苑は、悠斗にそう教える。基本的、料理は李が作っているという。悠斗達は、李が作った料理をレイチェルや他の悪魔達に運ぶのが仕事らしい。

    「兄者、今日のワインはこれでどうだろうか?」
    ワイン倉庫から、もう1匹の巨大なトカゲが1本のワインを持ってやって来た。

    「あの方は李さんの弟さんで、ワンさんです。王さんはワインソムリエなんですよ」

    トカゲがワインソムリエ………。と心の中で悠斗は、苦笑いした。
    そんな事を考えていると、王が悠斗たちに気づいたのか、近づいて来る。

    「あなたが、転生者の悠斗さん?俺は、王って言います」

    王は悠斗が怖がらないように、しゃがんで悠斗に話しかける。どうやら、李と違って王は小さ者たちの扱いが分かっているようだ。

    「転生者……そう伝わってるんだな。すまないな、俺は名前以外何1つ覚えて無いんだ……。だから、あんた達の事も知らない……」
    「いいんです。また、元気なメイザー様のお姿が見られたのですから。たとえ、メイザー様で無くても悠斗さんも我々と同じ、ここの住人です。覚える事は、多いと思いますが頑張って下さいね」

    王は、そう言って笑う。
    悠斗は、王にそう言われて、緊張していた心が少し和らいだ。

    「ありがとう、そう言ってくれて。橘 悠斗だ。これからよろしく」

    悠斗は素直な気持ちを伝える。
    王と厨房ついてや李がいない時に、無断で入らなってはいけないという注意などを王から教わっていると、後ろから李が話しかけてきた。

    「おい新人、料理が出来たから運べ。それと今日の夜、俺の部屋へ来い。いいな?」
    李は料理類を悠斗達に渡して、すぐさままた、料理をするのに戻ってしまった。

    「あっ、はい。え?部屋に?」

    「俺と兄貴の部屋は同じなので、夜迎えに行きますよ。今のお部屋はどちらに?」

    李の部屋を知らない悠斗の為に、王はそう言う。

    「とりあえず今はレイ……、レイチェルの部屋にいる。そのうち、メイザーさんの部屋に移る事になるかもしれないが……」

    「分かりました。レイチェル様のお部屋にいるのですね。では、レイチェル様のお部屋まで迎えに行きます」
    「ありがとう。じゃあ、レイチェルの部屋で待ってるよ」

    悠斗は王にそう言って、先程渡された料理類をレイチェルが待つ食堂へと運びに行った。
    食堂につくと、すでにレイチェルが座っていた。

    「悠斗も手伝っていたのか。では、李と王もあったのだな」

    「ああ、王さんからは色々教えて貰ったよ。李さんとは、あんまり話せなかったけど」

    「そうだろうな。あやつは、料理中はあまり話さぬからな。悠斗、も一緒に食おうぞ」
    レイチェルはそう言って、ナプキンを自分の膝に乗せた。

    「一緒に?しかし、他の悪魔達の料理も運ばないといけないんじゃあ……?」

    そう心配そうに言う悠斗に、レイチェルは柔らかい笑顔で言う。

    「良い。妾はもっと悠斗と話したいのじゃ」

    そう言われては、断れない悠斗だった。

    「分かった。李さんに聞いてくるから、ちょっと待ってくれ」

    そう言って、悠斗は厨房に台車を返すついでに、李に先程の話をしに戻った。

    「李さん、ちょっといいですか?」
    悠斗は、ナイフで魚を捌いてる李に話しかけた。すると、李は魚を捌いていた手を止めて悠斗方を振り返る。

    「手短に頼むぞ。魚の味が落ちちまうからな」

    「ありがとうございます。レイチェルに言われて、あとの食事は、琥珀さん達に頼んでも良いですか?レイチェルが、俺と食事をしたいって言ってたので……」

    「レイチェル様の言葉は、全て絶対だ。レイチェル様が、お前と食事をしたいと言うならそうするといい」

    李は、そう言って魚料理の続きをする。そんな李の背中に、悠斗はお礼の言葉を言って、レイチェルが待つ食堂へと行った。
    「許可を得てきたよ」

    「そうか。では、妾の傍に座ると良い。もうすぐ琥珀達も来るからな」

    レイチェルがそう言うと、丁度琥珀達が自分と悠斗の食事を持って来た。

    「はいですの。今日は、李さんが海で取って来てくれた魚料理ですの!きっと悠斗さんも気に入るですの!」

    紫苑は、ハイテンションで悠斗に言う。見た事ない魚を目の前に、少し引いていた。

    「えーと……、これは何の魚か聞いて良い……?」

    「この魚はここの海でしか取れない、幻と呼ばれている真鰂魚まぞくぎょですの!口に入れただけで、とろけて美味しさが口いっぱいに広がりますの!」
    紫苑は、先程よりも更にハイテンションというか、もう興奮した状態で喋る。よほど、李の料理が美味いのだろう。そんなに言うからには美味いのだろと思い、悠斗は言われた通り魚を口に運ぶ。

    「うっ、美味しい!!本当に、口に入れただけで溶けた!見た目よりも美味しい!」

    見た目とのギャップの美味さに、思わず興奮気味に喋る悠斗。それを見て、レイチェルは小さく笑う。

    「やはり、最初はそのような反応をするわな!妾も最初は、悠斗と同じ反応をしたものよ」
    「何だよ……。美味いって知ってたんなら、最初に言えよ。恥ずかしいじゃん……」

    子供が初めて食べた時と反応が同じだと思い、悠斗は恥ずかしさのあまり、顔を赤くする。その後はレイチェル、悠斗、琥珀、紫苑と共に食事を楽しんだ。

    *****
    夜、レイチェルと共に部屋に戻った悠斗は、再びレイチェルから両親などの話を聞いた。また、魔力切れで倒れないように今度は、レイチェルが口で話してくれていた。

    「お母様は好奇心旺盛でいつも、メイザーに怒られていたらしいぞ。それは、妾が生まれても同じだったがな」

    レイチェルは楽しそうに、両親の話をする。そんなレイチェルに悠斗は、言う。
    「レイチェルは、本当にご両親の事が大好きだったんだな」

    「ああ……、大好きじゃ……。そう言えばお父様たちが殺される前、勇者は妙な事を言っていたな……?」

    昔話をしていると、フッとレイチェルが何かを思い出した。

    「妙なこと?」

    「ああそうじゃ。確か……、"これはやっぱり、ゲーム"なんだ!と言っておっか?」

    「ゲーム……」

    記憶が無いのに、その言葉がやけに引っかかっる。しかし、その疑問は頭に鈍い痛みによってかき消された。いきなり、頭を抱え始めた悠斗にレイチェルは心配そうに声をかける。
    「どうしたのじゃ悠斗……?具合が悪いのか……?」

    「……大丈夫。少し、頭が痛くなっただけだから。心配してくれてありがとうな」

    本当にすぐに治ったのだろう。悠斗は慰めるようにレイチェルの頭を撫でる。

    「子供扱いするでない!!これでも、妾は魔王ぞ!」

    「はい、はい!すみませんね、魔王様!」

    「むぅー!!感情がこもって無いでは無いか!」
    昔、メイザーとのやり取りを思い出したのだろう。口では、嫌がっているがレイチェルは少し嬉しそうな顔をしていた。そんな兄妹がじゃれあいをしていると、部屋を誰が叩く音がした。

    「お迎えに上がりました。悠斗さん」

    「王か?妾が許可する。入るが良い」

    レイチェルがそう言うと、失礼しますと言って王がレイチェルの部屋に入ってきた。

    「あ、王さんわざわざすみません。じゃあ、行ってくるよ。たぶん今日は、王さん達の部屋に泊まることになると思う」

    「うむ、良い。1人で寝るのは慣れておる……。おやすみ、悠斗」
    「ああ、おやすみレイチェル」

    レイチェルは笑って言うたが、悠斗は悲しげな顔をしたのを見逃さなかった。きっと、両親が死んで更に信頼している執事が眠ったままだったのだから、1人で寝るのは慣れざるおえなかったのだろう。

    *****
    王達の部屋に行く途中、悠斗は料理を運ぶ時に聞けなかった事を王に質問する。

    「あの王さん」

    「はい?あっもしかして、歩くの早かったですか?」

    王と悠斗の体格が違いすぎるのを分かっている王は、歩くスピードを悠斗に合わせながら歩いていた。しかし、無意識に先に歩いていると思い、王は悠斗に謝罪する。
    「あっ、いえ別に歩くのが早いとかじゃなくて、むしろこっちに合わせてくれてるのが嬉しいと思っています。それでちょっと質問なのですが、李さんと王さんって兄弟なんですか?」

    先に歩いていると思っていた王は、悠斗の言葉を聞いて、ホッとする。

    「俺たち、リザードマンの種族は1つの卵を一族みんなで育てます。ですから、俺と兄者は兄弟ではなんですよ」

    「じゃあ、なんで"兄貴"って呼んでるですか?」

    王は、立ち止まって悠斗に左の腕を見せる。そこには、大きな傷があった。
    「これは?」

    「これは、俺が小さい頃に受けた傷です。当時俺は、掟を破って山に入ってしまった事があるんです」

    悠斗は、王の話を黙って聞いていた。

    「その時に山の神である、狮子シィズゥ悠斗さんの世界で言うライオンですね。巫女しか入れない山に入ってしまって、襲われそうな所を兄者……李に助けて貰ったんです。その時の傷がこれです。そして俺は、李と兄弟の盃を交わし兄弟の契りをしたのです」

    王はそう説明終わると、再び歩き出した。それについて行く悠斗。 そして少し歩くと、王は扉の前で止まった。
    「ここが、俺と兄者の部屋です。どうぞ、中へ」

    そう言われて、悠斗は中へと入っていた。そこには、李達専用なのだろう、大きなソファーに座ってくつろいでる李がいた。

    「おっ王、戻ったのか」

    「うん。悠斗さんも一緒だよ」

    李は、王が戻って来た事に気づき、横になっていた体を起こした。

    「さっきは、すまないな。改めて、俺は李だよろしく悠斗」

    厨房にいた時と違い、柔ない口調で喋る李に戸惑いながらも差し出された手を握り返す悠斗。
    「あ、ああよろしく。で、俺を呼んだ理由を聞いていいか?」

    「いや、特に理由は無い」

    「無いのかよ!」

    思わずツッコミをしてしまった悠斗は、咳払いをして誤魔化す。そして、悠斗は李が座っている向かいの椅子に座った。そうしていると、悠斗の前のテーブルに王はクッキーが入っている皿を置いた。

    「これは?」

    悠斗は、王にそう聞く。王は李と同じソファーに 座る。
    「兄者が作ったクッキーです。お嫌いじゃなければ、どうぞ食べて下さい」

    「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、いただきます」

    そう言って、悠斗はクッキーに手を伸ばす。そして一口食べるとほんのりと甘さが口の中に広がる。

    「うん!美味しい!」

    「良かったです。ね、兄者!」

    そう王に言われ、照れくさいのか小さく「ああ」と呟く李だった。
    李はそのクッキーが気に入ったのか、無くなるまで食べた。
    「ご馳走様でした。本当に、美味しかったです」

    「いえ、こちらもお粗末さまでした。ところで、悠斗さんはこの世界についてはどのくらい知ってますか?」

    「とりあえず、レイチェルの記憶を見させて貰ったぐらい……、ですかね……」

    「なるほど、半分ぐらいは知っているという事ですね。ということは兄者……」

    「ああ……、"西の魔女の予言"通りだな」

    そう意味ありげに話す2匹についていけず、悠斗はただただ2匹の会話を聞いているしか無かった。そんな悠斗に気づき、李が説明する。

    「ああ、すまない。西の魔女とは、その名の通り西に住んでいる魔女だ」
    「西の魔女……」

    「西の魔女の予言とは、"異世界より来たれし者。悪魔の肉体に宿り魔王の心、動かすだろ"というものです」

    王は、李の言葉の続きを説明する。

    「"異世界より来たれし者。悪魔の肉体に宿り"とは、悠斗。お前さんのことだ」

    確かに、李の話的に悠斗の事だという事は分かる。しかし、続きの"魔王の心動かす"とはどういう意味なのだろうと思う悠斗。

    「魔王は、レイチェルの事だよな……?じゃあ、"心"って何だ?」
    「それは、俺達にも分からん。しかし悠斗、もしレイチェル様に何かあった場合、俺達は容赦なくお前を殺すからな」

    そう言って、李は鋭い爪を悠斗に見せつける。悠斗は、冷や汗を少しかきながら言う。

    「肝に銘じとくよ……」

    それを聞いた、李は鋭い爪をしまった。

    「まぁそれはさて置き、悠斗さんはレイチェル様のこと、どう思われてるのですか?」

    気まづい空気を消すように、王が違う話題を悠斗にする。
    「レイチェルのことですか?今日会ったばかりですからなんとも……。強いて言えば、妹?って感じですかね」

    「なるほどです。まだ望みはあるよ、兄者」

    最後の方は、李に小さな声で言う。それを聞いた、李は飲んでいた紅茶を吹き出した。

    「っ!!王!いきなり何だよ!!」

    「ごめん、ごめん!だって兄者が気にしてたから、俺が聞いてあげたんだよ?」

    「余計なこと言うな!たく……、俺はもう寝るぞ」

    そう言い残し、李は隣の寝室に向かった。
    「あはは……どうやら、怒らせてしまったようです。まぁそろそろ遅い時間ですし、俺達も寝ましょう。悠斗さんは、ソファーで寝て下さい。俺達のベッドでは、大き過ぎますから」

    「何もかも、ありがとうごさいます」

    「いえいえ。では、毛布とか持ってきますね」

    王はそう言って1度寝室に行き、毛布などを持って戻って来た。

    「それでは悠斗さん、おやすみなさい」

    「はい、おやすみなさい」
    そう言って、悠斗は眠りについた。

    *****
    朝、目が覚めるとそこにはもう、李達はいなかった。テーブルの上には置き手紙が置いてある。

    (おはようございます、悠斗さん。ぐっすり寝ていたので、起こさずにいました。俺達は、お先に仕事をしていますね。
    もし、起きられたのでしたら鍵を閉めて出て行って下さい。鍵は、外にある観葉植物の植木鉢の下に置いてくれれば良いので。王より)と書いてあった。

    悠斗は書いてある通りに鍵を閉め、外に置いてある植木鉢の下に鍵を置いた。そして、自分も仕事をする為まずはレイチェルの元へと向かった。
    レイチェルの部屋についた、悠斗はレイチェルの部屋の扉をノックする。すると、部屋の中からレイチェルの声が聞こえた。
    「入るが良い」

    悠斗は、レイチェルの部屋に入る。

    「おはよう、レイチェル。何してるんだ?」

    何かを探しているのか、レイチェルはクローゼットの下にある箱を、ガサゴソと漁っていた。

    「妾が昔、使っていた教材を探しておるのじゃ。まだ、悠斗はこの世界の言葉を書いたり出来ぬだろ」

    「まぁ……確かにな……」
    言われてみれば、悠斗はこの世界の言葉は話せるが、文字は書けないのだ。その為、レイチェルはそんな悠斗に1人でこの世界でも過ごせるように、自分の教材を探していたのだ。
    なので、今日はレイチェルと一緒に勉強会なのだ。

    「お嬢様、お持ち致しました。悠斗様にはこちらを、お嬢様は、今日はこちらをお勉強して頂きます」

    そう言って入って来たのは、とても美人な眼鏡をかけた女性だった。簡単に言えば、女教師だ。

    「おお!そっちにあったのか、リーフィア!」

    「はい、ここにありました。ですがお渡しする前に、まずお部屋を片付けて下さい」
    リーフィアと呼ばられた女性は、レイチェルにそう言う。レイチェルは、しぶしぶ先程出した物を片付ける。その間、リーフィアは悠斗に話しかける。

    「お話は、聞いております悠斗様。わたくしはお嬢様の教育係、サキュバスのリーフィア・アルレインと申します」

    リーフィアはそう言ってスカートの端を掴み、礼儀正しくお辞儀をする。それにつられて、悠斗もお辞儀をしながら言う。

    「あっはい!よろしくお願いします、リーフィアさん」

    「わたくしに敬語は不要です、悠斗様。悠斗様は、わたくしの上司。部下に敬語など不要ですよ」
    リーフィアは、悠斗にきつい口調で言う。そんな、悠斗にレイチェルは言う。

    「リーフィアを許してくれ、悠斗。言い方は少し厳しいが、少し真面目過ぎるところがあるのじゃ」

    「片付けは、終わったのですが?お嬢様」

    「うむ、終わったぞ」

    そう言ってレイチェルは、クローゼットを指さす。そこは先程と違い、綺麗になっていた。リーフィアが確認して、ようやく勉強会が始まった。

    *****
    勉強会を始めて約6時間がたった頃、悠斗は少し限界がきていた。
    「飽きてきた……」

    ボソッと呟くとリーフィアが、胸ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。

    「少し、休憩をしますか?悠斗様」

    その問いに悠斗は、素直に答える。

    「うん……、そうする〜」

    悠斗は机に、ぐで〜んと突っ伏す。それを、すぐさまリーフィアが注意をする。

    「お行儀が悪いですよ、悠斗様」
    「だってさ〜、朝からずっと勉強漬けだよ〜?何か気分転換になるようなことしないと、続き何て出来ないよ……。あっ、そうだ!」

    何かを思いついたのか、悠斗は勢いよく椅子から立ち上がる。そんな、悠斗にレイチェルが言う。

    「どうしたのじゃ?」

    「良い気分転換を、思いついたんだ。レイチェルとリーフィアはここで待っててくれ」

    そう言って悠斗は、レイチェルの部屋を出て行った。
    悠斗は厨房に来ていた。そこにいる、李と王に声をかける。

    「お疲れ様です、李さん王さん」
    「あっ、お疲れ様です悠斗さん。どうしたんです?厨房にやってきて」

    その問いに悠斗は、少し遠慮しながら言う。

    「朝からずっと勉強漬けだったので、気分転換にお菓子でも作ろうかなぁ……と思いまして、少し厨房を借りても良いですか?」

    「好きにしろ」

    李はそれだけ言って、王にお菓子の材料を持ってくるように言う。悠斗は汚れないように、着ていたジャケットを脱いでシャツの袖を捲る。
    そうしていると、丁度王がお菓子の材料を持って戻ってきた。

    「はい、どうぞ。それにしても急ですね?お菓子作りをしたいだなんて」
    「なんとなく気分転換が出来て、俺に出来のは何かなぁと思った時に思いついんです」

    「なるほど、それでお菓子作りを……。良い、気分転換になりますね。それでは、俺は琥珀さんに美味し紅茶が無いか聞いてみますね」

    「ありがとうございます。お願いします、王さん」

    王はそう言って、家事をしている琥珀の元へ向かった。今日の夕食の下準備をしていた李が、悠斗の元へやってくる。

    「おい、悠斗。お前、菓子も作れるのか?」

    悠斗が作るお菓子に興味があるのか、李は悠斗の手元を覗き込む。悠斗は手元の生地をこねながら、答える。
    「上手く作れる自信が無いですが、ちょっと作ってみようと思ったんです」

    「そうか。作り終わったら、味見してやる」

    そう言い残し、李は再び下準備に戻る。
    厨房には、お菓子の甘い香りが広がる。そしてようやく完成したお菓子を試食して貰うために、李と王ように包んだお菓子を渡す。

    「どうですか……?」

    2匹の反応を伺いながら、悠斗は聞く。

    「………」
    「美味しですよ。ね、兄者」

    李は何も言わないが、美味しかったのだろ。貰った分は全て完食していた後に、ボソリと李は呟く。

    「……まぁまぁだな」

    「素直じゃなくて、すみません悠斗さん。あれでも兄者は、悠斗さんが作ったお菓子を気に入ったみたいです。それにしても、見た事ない形のお菓子ですね?紅茶の味もありますし」

    李の天邪鬼な気持ちを、代弁する王。そんな李の気持ちに、悠斗は苦笑いする。王は市松模様のクッキーを1つ持って悠斗に聞く。この世界に存在するクッキーは、全て丸い形をしたクッキーだけなのだ。
    だから、形が様々のクッキーが珍しいのだろう。

    「それは見た目の通り、市松模様のクッキーです。ココア味とプレーン味を同時に楽しめます。もう1つは紅茶の葉を混ぜたクッキーです」

    「なるほど……。とても興味深いです」

    王に色んなクッキーがあること、今後作る機会があればまた、作る事を話した。

    *****
    そして、ようやく出来たお菓子を悠斗はレイチェル達が待つ部屋へと持って行った。

    「ごめん、ちょっと作るのに時間かかっちゃった」

    「むぅー!遅いぞ、悠斗!お主が戻ってくる間、課題が増えてしまったではないか!」
    レイチェルは子供らしく手足をばたつかせて、悠斗に文句を言う。それに、続いてリーフィアも言う。

    「悠斗様が7分56秒遅れたので、課題を増やさして頂きました」

    「細かい上に酷い!」

    「悠斗様のは、嘘です」

    「嘘かい!!」

    悠斗はすぐさま、ツッコミを入れる。真面目かと思ったていたが、意外とおちゃめな所があるらしい。そんなやり取りをしていると、レイチェルが悠斗に話しかける。
    「悠斗、先程から美味しそうな匂いがするのだが、何を持っておるのじゃ?」

    レイチェルにそう言われ、悠斗は持っていたお菓子の存在を思い出した。

    「あっ忘れるところだった。お菓子作ったんだ。琥珀さん達も呼んで、お茶にしょう」

    そう言って悠斗は、持ってきたクッキーをテーブルに置く。そしてリーフィアの能力なのだろう、テレパシーを使い琥珀達を呼んだ。
    数分後、琥珀と紫苑がレイチェルの部屋と来た。

    「失礼します、お嬢様」
    「失礼しますの、お嬢様。美味しいお菓子があると聞いて、来ましたの!」

    紫苑はご機嫌でそう言う。そんな紫苑のハイテンションと違い、琥珀は通常運転で悠斗に言う。

    「お菓子は、悠斗さんがお作りになったとか。見た事ないお菓子ですね」

    そう言って琥珀はクッキーを1つ摘み、口に入れる。すると急に琥珀の体から、ドラゴンの角としっぽが出てきた。そんな琥珀に、紫苑が声をかける。

    「うわ!琥珀ちゃん、どうしたのですの!?」

    「に、苦いですぅ……!」
    琥珀は涙目になりながら、普段閉まっている角としっぽを出す。どうやら甘いものが苦手な悪魔用に、ココア70%のクッキーも作ってあったらしい。
    そんな琥珀に、悠斗は紅茶を渡しながら言う。

    「あ……。多分、苦いクッキーを食べたのかも……。はい、紅茶です」

    琥珀はしっぽを床にビタンッ!ビタンッ!と上下に振りながら、慌てて悠斗から紅茶を受け取りすぐさま口に含む。そして落ち着いたのか、悠斗にお礼を言う。

    「ありがとうございます。すみません……お嬢様、悠斗さんお見苦しい所をお見せしてしまいました……」

    琥珀は叱られた子犬のように、しゅんとする。そんな、琥珀にレイチェルは言う。

    「琥珀、謝らなくて良いぞ。悠斗、琥珀は苦い物が苦手じゃ。今後作る時は、琥珀用に甘いお菓子を作ってくれ」
    「えっ、そうだったんですか!?すみません琥珀さん……、レイチェルが言う用に今度作る時は、琥珀さんが食べるように作って来ますね」

    「すみません……、お願いします……」

    そうして、楽しいティータイムが過ぎていった。

    *****
    悠斗がこの世界に来て、自分の事など1人で出来るようになって数年がたった。
    悠斗の仕事は、レイチェルを起こす所から始まる。

    「レイ、起きろ。もう朝だぞ」

    「んん〜……。悠斗……?」

    レイチェルの呼び方も、【レイチェル】から【レイ】になるほど親しくなった。
    「ああ、悠斗だ。さぁ、早く起きろ。それとも俺に、着替えさせられたいか?」

    悠斗がそう言うと、レイチェルはすぐさま起きる。

    「お、おはようなのじゃ、悠斗!子供では無いのでな!着替えぐらい1人で出来るのじゃ!!それに、妾に、不可能など無いのじゃ!」

    レイチェルは顔を赤くしながらそう言って、着替えがあるクローゼットから服を取り出す。"妾に、不可能など無い"は、最近のレイチェルの口癖だ。それを確認した悠斗は、レイチェルに声をかけて部屋を出る。
    「それじゃ俺は、 他の仕事があるから行くな。勉強頑張れよ」

    「うむ。悠斗も仕事頑張るのだぞ。それと、今日のお菓子も期待しておるぞ!」

    レイチェルは着替えながら、悠斗の激励の言葉をかける。悠斗の仕事は特に何も無いが、他の人の仕事たまに手伝っている。

    「あっ悠斗さん、おはようございますですの」

    大量の洗濯物を持ちながら、紫苑は挨拶する。

    「おはようございます、紫苑さん。随分洗濯物が多いですね。半分持ちますよ」

    悠斗は洗濯物を半分受け取る。
    「いつも使ってる洗濯機が、壊れちゃったんですの……。それでコボルトさん達が直してくれてるうちに、琥珀ちゃんとこの洗濯物を洗おうと思ってたんですの」

    紫苑は歩きながら、悠斗にそう説明する。すると、丁度目の前に琥珀がやって来た。

    「あら、悠斗さん?おはようございます」

    「おはようございます、琥珀さん。お話は紫苑さんから聞きましたので、俺も手伝いますよ」

    「まぁ、ありがとうございます悠斗さん」

    琥珀は大量の洗剤を持ちながら、お礼を言う。3人は大量の洗濯物と洗剤を持って、1階にある洗濯機へと向かった。いつもは1階の洗濯物は1階で洗濯機を回し、2階の洗濯物は2階の洗濯機を回している。
    そして、1階にある洗濯機についた。

    「ここまで運んで頂き、ありがとうございますの!」

    「いえいえ。琥珀さんが浮遊魔法をかけてくれてたんで、重くもなかったんで。それに、俺だけ何もしないっていうのもなんだか、申し訳ないと思ってしまって……」

    悠斗は言いながら持っていた洗濯物を、巨大なカゴへ入れる。すると、洗濯物の中から人形の足が出ているのに気づいた。

    「何だこれ?」

    「あっそれは……」
    悠斗は洗濯物のから、先程出ていた人形の足を引っ張った。見てみると、その人形は金髪に悪魔のしっぽと羽がある。まるで、悠斗を人形にしたような感じだ。顔も悠斗に似ている。

    「それは、お嬢様のお気に入り人形ですの。いつも抱っこして寝てるみたいですの」

    「あっ、ちょっと紫苑!」

    「お嬢様から悠斗さん似の人形を作ってくれって言われた時は、びっくりしましたの!よほど、悠斗さんが好きみたいですの!もう、これは恋ですの!お嬢様も、恋する乙女だったんですの!」

    琥珀が止める間も無く、紫苑は全てを話してしまった。どうやら、悠斗には秘密にしていたらしい。
    「へぇ〜そうなんですか。あははは、たまには可愛い所もあるじゃん!たく……、年寄りみたいな喋り方してるけど、あいつもまだまだ子供だな!」

    「悠斗さん、鈍いですの……」

    「鈍いですね……」

    悠斗の鈍さに、呆れる琥珀と紫苑であった。
    あまりにも鈍い悠斗に、人形を先に洗濯して渡す。そして悠斗が、直接レイチェルに渡すように言われる。丁度今は、休憩の時間だろ。

    *****
    悠斗はレイチェルに人形を渡す前に、先に厨房でお菓子を作ることにした。
    「お疲れ様です。李さん、王さん」

    「あっ、お疲れ様です悠斗さん。今日もレイチェル様のお菓子作りですか?」

    王は、李の手伝いをしながら言う。

    「はい。なんか、恒例になってきてます。でも、俺がやれるのは手伝いかこのお菓子作りだけなので……、別に苦じゃありません」

    「なるほどです。それでは、俺は兄者の手伝いをしなかければいけませんので、失礼しますね」

    王はそう言って、李の手伝いに戻って行った。悠斗はそんな王に、頑張って下さい。と声をかけた。
    「さてと、俺もやるか」

    そうやる気を出して、悠斗は倉庫へお菓子の材料を取りに行く。最近悠斗は、レイチェル用のお菓子作りを趣味にしている。悠斗は頭の中で、今日はどんなお菓子を作ろうかと考えながら生地を練って、それから形を作っていく。そして、オーブンに入れ数分待つ。
    待つ間、悠斗は先程渡された人形をいじる。

    「レイが、俺を好きね……。歳の離れた兄みたいな感じか?それにしても、紫苑さんこっそりこんな物作っていたのか。レイを起こしに行ってたけど、全く気づかなかったな」

    そんな独り言を呟けている間に、オーブンがお菓子が出来たことを知られる。そして、悠斗は人形とお菓子を持ってレイチェルの部屋へと向かった。
    *****
    「レイチェル?入るぞ?」

    悠斗は、一言そう言ってレイチェルの部屋を開ける。そんな、悠斗に気づきレイチェルは嬉しそうに言う。

    「悠斗!」

    「お嬢様、あと1問ですよ。悠斗様のお菓子は、まだお預けです」

    すぐさま悠斗のお菓子に飛びつこうとしていたレイチェルを、リーフィアは止める。そんな、リーフィアの言葉に、レイチェルは両頬を膨らませて不機嫌さを表しながら、また勉強へと戻る。
    そんなレイチェルに悠斗は、持っていた人形を見せる。
    「あっそうだレイチェル」

    「何じゃ?」

    レイチェルは、まだ不機嫌そうに返事をする。よほどお菓子が早く食べたいのだろ。頑張って最後の問題を解いている。そして、レイチェルはようやく最後の問題を時終えた。

    「出来たぞ、リーフィア!それで、どうしたじゃ悠斗?」

    人形これ。お前も、可愛い所もあるんだな。人形が無いと寝れないなんて、子供らしくて可愛いじゃないか!」

    「あっ!その人形は!!」
    レイチェルは顔を真っ赤にさせなら、叫ぶ。

    「ん?洗濯物の中にあったぞ?もしかして、探してたのか?」

    悠斗は、まだ子供みたいだとからかわれたのが恥ずかしいと思って怒ったのだと思っている。だから、そんなレイチェルをなだめようとして言った。
    レイチェルは涙目で、悠斗を怒る。

    「それを、置いて出ていくのじゃ悠斗!」

    「え……?」

    「出て行くのじゃ!!今すぐに!!」
    訳も分からず悠斗は、レイチェルによって部屋を追い出されたのだった。

    *****
    レイチェルは悠斗を追い出しだあと、悠斗が置いて行った人形拾い、抱きしめる。

    「うぅ……!悠斗に、知られたのじゃぁぁぁ!……ヒック……えぐっ……うわぁぁぁぁん!悠斗のバガぁぁぁぁぁぁ!」

    レイチェルはわあん、わあん泣き続ける。そんなレイチェルを、リーフィアが慰める。

    「よしよし……。悠斗様に、悠斗様似の人形を見られて恥ずかしかったのですね」

    「妾が、悠斗を好きという事も……ヒック……、バレたのじゃ……ぐすん……」
    レイチェルは悠斗人形を抱きしめながら、リーフィアに抱きついて泣く。そんなレイチェルにリーフィアが、トドメを刺すようなことを言う。

    「それは大丈夫かと。あの様子なら悠斗様はレイチェル様の事を、ただの"妹"としてしか見てないかと」

    「え……そうなのか……?」

    レイチェルは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、リーフィアの言葉にショックを受ける。

    「マジです。あの反応は確実に、お嬢様を子供してしか見ていませんね。体も、全然成長してませんし」
    リーフィアはサキュバスの中でも、珍しく感情が無いのだ。その為一族から追放され、先代魔王であるレイチェルの母親、アイナに拾われてここにいるのだ。そしてリーフィアは最近、悠斗が使う言葉を使うのがブームだ。

    「う、うるさいのじゃ!これから、ないすばでぃになるのだ!」

    そんな会話を2人は、ずっとしていたのだった。

    *****
    レイチェルの部屋を追い出された悠斗は、1人なぜ怒られたのか考えていると、後ろから声をかけられた。

    「おや?悠斗さんではありませんか。こんなところで何を?」

    「あ……えーと、ロベルトさん。お疲れ様です。いーや……ちょっとレイチェルを怒らせちゃって……」
    悠斗は困りながら、ロベルトに言う。
    ロベルトはいつからここにいて、普段何の仕事しているのか誰も知らない。悠斗と同じ執事服を着るので、誰かの執事なのだろ。だが、誰1人知らない。レイチェルさえも、生まれる前から執事でいたとのこと。

    「あははは。なるほどです」

    ロベルトはそう言いながら、笑う。

    「なのでたった今、部屋を追い出されてしまったんですよ……」

    「それは、大変ですね。いやー……"実に、大変ですね。それは、早く彼女を救いに行かないと行けませんよ?"」
    「え?それはどう言う……」

    悠斗はロベルトにどう言う事だとと聞こうとしたその時、悠斗の後ろから琥珀が声をかける。

    「悠斗さん?どなたといるのですか?」

    「ああ琥珀さん、今ロベルトさんと話してたんです。……あれ?」

    悠斗が振り向くとそこにはもう、ロベルトはいなかった。

    「ロベルトさんが、いらしてたんですか?もう、どこかへ行ってしまわれたみたいですが……。相変わらず、ロベルトが何をしているのか分かりませんね……」
    「そうですね……。ところで、琥珀さんはどうしたんですか?また、何かトラブルでも?」

    悠斗はロベルトの話から、琥珀についての話に変える。

    「あっいえ、コボルトから2階の洗濯機が直ったとの事だったので、確認しに向かってたんです」

    「なるほど。あの洗濯機直ったんですね。良かったです」

    「はい」

    琥珀とそんな話をしていると、1匹の魔獣と紫苑がが慌てながら走ってきた。

    「琥珀ちゃんーーー!!大変ですのーー!!」
    「琥珀様ーー!き、緊急事態です!!」

    魔獣は息を切らしなら、必死に何かを伝えようとする。しかし、まだ息が上がっているのだろう、上手く喋れていなかった。そんな魔獣に琥珀は、魔法で水をあげる。

    「ひとまず、落ち着いて下さい。何があったのです?」

    「あ、ありがとうございます!ゴクゴクッ……ぷはぁ!」

    ようやく息が整ってきたのだろう、魔獣は話始まる。

    「そ、それが……先程、天界の大天使ミカエルが勇者達を引き連れて、魔王城に攻めてきました!」

    「なんですって!?天界と人間とは、停戦協定を結んであるはずです!それが、破られたと言うよですか!?」

    いつもは冷静な琥珀が、珍しく冷静を失っている。琥珀は、テキパキと紫苑達に指示を出していく。

    「紫苑、お仕事はひとまずお休みです。急いで、この事を他の方々に知らせて下さい。あなたは落ち着いたら、すぐに戦前に出て下さい」

    「はい!」

    「了解ですの!」

    紫苑と魔獣は、すぐさま返事をして戦いの準備をしに向かった。
    1人状況が飲み込めてない悠斗に、琥珀は言う。

    「すみませんが、悠斗さんはお嬢様の所にお願いしますか?私はすぐさま、皆さまに指示を出さなくては行けませんので……」

    「分かりました!今の状況がいまいち理解していませんが、とりあえずレイチェルの様子を見てきます」

    「どうか……、お嬢様をお救いして下さい悠斗さん……」

    悠斗は琥珀の言葉に力ずよく頷いて、すぐさまレイチェルの元へ向かった。外ではもう戦いが始まっているのだろ、大勢の声と大砲などの爆音が響き渡っていた。

    *****
    レイチェルの部屋着くと、悠斗は力いっぱい扉を開く。
    「レイ!無事か!?」

    「なっ!悠斗?!なぜ戻って来た!!出て行けと行ったはずじゃ!」

    どうやら、レイチェルにはまだ勇者達が来た事は伝わっていなかったらしい。レイチェルは、先程のとこを怒る。

    「そんな事言ってる場合じゃねぇだよ!!」

    いきなり大声を上げた悠斗に、レイチェルはビクッと体を震わせる。悠斗はレイチェルのそんな姿を見て、レイチェルに謝る。

    「あ……ごめん……。別に、怖がらせる気は無かっただ……」
    「…………良い。それで、何があったのじゃ……?」

    2人の間に、気まづい空気が流れる。そんな空気を誤魔化すように、レイチェルは悠斗に聞く。

    「ああ、そうだ!ミカエルって奴が勇者を引き連れて、こっちに向かってきてるらしい!今、琥珀さん達が戦ってる!」

    「何じゃと!?また、妾から奪う気なのか……!」

    「あっ!待て、レイチェル!!」

    レイチェルはそう呟くと、すぐさま部屋を出て行ってしまった。悠斗は慌てて、レイチェルの後を追いかける。
    *****
    悠斗とレイチェルが話をしている時、勇者のカイリ・ジュメイユは騎士たちに指示を出していた。

    「魔獣は火に弱い!積極的に、火の魔法を使うだ!」

    そんなカイリの言葉に騎士達は従うように、弓矢に火をつけていく。

    「カイリ、そろそろ魔王が直接出てくるかもしれないわ……」

    そうカイリに声をかけたのは、天使の羽根を持つ大天使マリア・ミカエルだ。カイリは自信満々に聖剣を持って答える。

    「大丈夫だ、マリア!昔とは違って、俺も強くなった。だから、魔王なんかに負けねぇよ!」
    「そうです!私が崇拝する、マリア様に傷をつけたなら、私の爆裂魔法が火を吹きます!」

    カイリの後ろからそんな、女性の声が聞こえた。その女性は、魔法使いのような格好に、緑髪に緑の目をしてる。そして、右目に眼帯をつけている。

    「出たよ……。厨二病患者が……」

    カイリはボソッと言う。しかし、彼女には聞こえていたのだ反撃する。

    「カイリが言うちゅうにびょうとやらはよく分かりませんが、この格好はちゃんとした正装です!そして私、ヴィオラ・ヴァン・リードが最も優れた魔法使いである証拠なんです!」
    「はい、はい」

    そんなヴィオラの言葉を、カイリは適当な返事で返す。そうしていると、1人の騎士がカイリ達の元へ来た。

    「伝令です、勇者様!」

    「どうした?」

    「魔王の居場所が分かりました!場所は……」

    *****
    レイチェルは悠斗が追いつかない程のスピードで、飛んで行く。それを必死に追いかける悠斗は、ようやくレイチェルの腕を掴む事が出来た。
    「っ!?」

    「待ってて、レイ!」

    「離せ!離すのじゃ、悠斗!!」

    レイチェルは必死に悠斗の手を離そうとするが、体格の差が出ているのか、レイチェルはなかなか悠斗の手を離なすことができない。

    「駄目だ!離さねぇ!!"あいつ"に、言われたんだんだからな!絶対離さねぇ!くっ!あっ!」

    レイチェルはようやく悠斗の手を離し、悠斗の方へ振り返る。
    「妾が行かなければ、皆が死んでしまうのじゃぞ!魔王である妾が皆を守らなければ、誰が皆を守るというのじゃ!!」

    「それでも!俺は、お前を止める!」

    「ならば悠斗……、まずは貴様から殺して殺るわ!」

    レイチェルは魔王のオーラを身にまとい、悠斗に攻撃をしようとしたその時、ここにいる筈のない人物の声がした。

    「何だ?仲間割れか?まぁ、俺的には都合が良いけどな」

    「貴様は……!勇者!!」

    レイチェルは悠斗から、カイリへと敵意を向けた。そんなレイチェルとは反対に、カイリは余裕な感じで言う。
    「オーラからして、そこのちっこいのが魔王だな。聞いてた通り、子供だな」

    その言葉にレイチェルは先程よりも、殺気立つ。それは、悠斗にも分かった。しかし、悠斗はそんなレイチェルを止める事は出来なかった。それほどまでに、レイチェルの魔王としてオーラが強いのだ。

    「カイリ、子供の姿でも魔王です。油断は禁物ですよ」

    そうあとから来た、マリアはカイリに言う。

    「大丈夫って!勇者が魔王に負ける訳ねぇって。それに……、こいつには個人的にも負けられねぇ理由があるしな……」
    カイリは、そう言って聖剣を構える。

    「お母様とお父様を……殺しても飽き足らず、またもや妾から"大事な悠斗"を奪うと言うのか!許せぬ……!許せぬぞ勇者ぁぁぁ!!」

    レイチェルは地面から魔剣を召喚して、カイリへと飛びかかって行く。カイリは寸前でレイチェルの攻撃を、阻止する。

    「やめろ!レイ!!」

    悠斗はレイチェルにそう叫ぶ。しかし、もはやレイチェルには悠斗の声は届いていなかった。辺りには、レイチェルとカイリの剣同士の音が響き渡る。

    「くそっ!結局止められなかった!どうすれば、レイを止められんだ……!?考えろ!考えろ、俺!!」
    「こんな時に考え事とは、余裕なのですね」

    悠斗がどうすればレイチェルを止められるか考えていると、そんな声がした。

    「あんたは……」

    「お初にお目にかかります。私は、3大天使の1人。マリア・ミカエルです。天界からの命令で、貴方達魔族を滅ぼします。お覚悟を!」

    マリアはそう言って、持っていた金色に輝く槍を悠斗に向けて、攻撃する。悠斗は寸前の所でそれをかわす。

    「逃げていないで、反撃して来たらどうですか?」
    「くっ!反撃なんざぁする訳ねぇだろ!……っ!」

    悠斗はそう言って、必死にマリアからの攻撃を避ける続ける。そんな悠斗に、マリアは叫ぶ。

    「なぜです!なぜそこまでして、こちらに攻撃しないのですか!!」

    「そんなの……っ!俺たちがっ!戦う理由が、ねぇからだよ!!」

    「どういう意味です!戦う理由が、無いなんて嘘です!」

    「ぐぁっ!」

    悠斗の避けるのが限界が来たのか、マリアからの攻撃が当たってしまった。悠斗は片膝をついて、崩れる。そんな悠斗に、マリアは槍先を向ける。
    「くっ!」

    「終わりです。名も無き悪魔よ……、さようならです」

    マリアはそう言って、槍を悠斗に刺した。

    *****
    爆風の中、レイチェルとカイリはお互いに剣を交えていた。

    「なぜじゃ!なぜまた、妾から全てを奪う!!」

    「くっ……!なぜ……だって?そんなもん、お前が魔王である限り覆せねぇ運命だからだよ!!」
    カイリはすぐさま、剣をレイチェルよりも早く振る。レイチェルはそれを避けるよに、1度後ろへと下がる。そして2人は再び距離を取り、お互いを警戒する。
    2人を包んでいた爆風はやがて晴れていき、周りが見やすくなっていった。少し冷静になったレイチェルは、周りを見渡す。すると、マリアの傍で血だらけに倒れている悠斗を見つける。

    「悠斗……?」

    レイチェルはそう小さく呟く。しかし悠斗に聞こえていないのか、悠斗はピクリとも動かない。レイチェルはカイリからマリアへ、標的を変えマリアへ向かっていく。

    「貴様ぁぁぁぁぁぁ!悠斗をぉぉぉぉ!!」

    「マリア!」
    完全に我を忘れているレイチェルは、マリアを殺そうと剣を振りかざす。カイリはマリアを守ろうと、レイチェルのあとを追う。そしてレイチェルの剣は、"悠斗の胸"に刺さった。

    「ぐはぁっ!!」

    「ゆ、悠斗……?なぜじゃ……?」

    悠斗は大量の血を吐きながら、答える。

    「ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ……!……駄目だ……!レイ……!約束、だからだ……」

    「約束……?」
    レイチェルは涙を流し、手が悠斗の血で汚れるのも構わず悠斗の手を握る。

    「あいつとの約束……。メイザーさんとの約束だからだ……」

    「メイザーじゃと……?」

    「そう……だ……」

    悠斗の声は、徐々に弱くなっていた。だが、悠斗は意識が消える前にレイチェルに言う。

    「メイザーさん……との……約束……。俺が……お前を……幸せに……す……る……って……」
    そこで悠斗は、気を失った。

    「悠斗……?悠斗!悠斗!いやじゃ!いやじゃ、悠斗!!悠斗ぉぉぉぉ!うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

    レイチェルは悠斗を抱きしめて、大声を上げて泣く。その姿は、先程まで禍々しいオーラをまとった魔王では無く、1人の子供のように見えた。
    泣き続けるレイチェルを見て、カイリはマリアに言う。

    「……帰るぞ、マリア」

    「え……?でも……」

    「もう、いいだ……」

    そう言ってカイリは、レイチェル達に背を向けて歩き出す。そんな、カイリを後ろからマリアが追いかける。1度マリアはレイチェ達を振り向くが、黙ってカイリの後を追いかけた。
    *****
    魔王城からの帰り道、馬車の中でマリアはカイリに聞く。

    「カイリ……」

    「ん……?」

    「どうして、あの時……魔王レイチェルを倒さなかったのですか……?」

    カイリは窓から景色を見続けながら答える。

    「……俺が、負けたからだよ」
    「え……?それはどういう……」

    カイリは、それ以上何も喋らなかった。マリアもそれ以上追求するをやめた。やがて、カイリ達を乗せた馬車は王国へと帰って行ったのだった。

    *****
    あの戦いから、数日がたった。
    悠斗は駆けつけた、琥珀と紫苑によって一命を取り留めた。そしてレイチェルから受けた傷も、もう塞がった。悪魔だからだろうか、回復が早い。
    悠斗はレイチェルが待つ、両親が眠る墓へと向かっていた。

    「あっ、悠斗さんおはようございます。傷はもう、大丈夫なんですか?」

    そう声をかけて来たのは、王だった。
    「はい。もうすっかり元気なりました。あの……色々とご迷惑おかけしてすみませんでした……」

    「いえいえ、レイチェル様と悠斗さんに万が一が無くて良かったです。兄貴も悠斗さんのとこ、心配してたんですよ。「元気になったら、菓子をごしそうしろ」だそうです」

    王は、笑いながらそう言う。悠斗は、「そうします」と答えて、王と別れた。そして、庭園への扉を開くと琥珀と紫苑それに、ピクシー達がいた。

    「悠斗さん、お怪我はもう大丈夫ですか?」

    「ええ、琥珀さん達のおかげでもうすっかり元気です」

    悠斗は、琥珀にそう笑って言う。そんな2人の間に、紫苑が声をかける。
    「悠斗さん、お嬢様のところに行くのですの?」

    「ああ、はい。そうなんです。レイ…レイチェルは、"あそこに"?」

    それに対象、ピクシーの1人が答える。

    「はい!レイチェル様はもう、お先に行ってますよ!どうぞ、お通り下さい」

    そう言って、ピクシー達は扉を実現させる。悠斗は、琥珀達の方を振り向いて言う。

    「ありがとうございます。それじゃあ、レイチェルを迎えに行ってきますね」

    「はい、行ってらしゃい」
    「行ってらしゃいですの!」

    「「行ってらしゃいです!」」


    琥珀達にそう言ってもらって悠斗は、扉を開いて進んで行った。 長い暗闇を抜けると、目の前に広がる街並みと、両親の墓の前にいるレイチェルがいた。
    レイチェルは、振り向かず悠斗に言う。

    「傷は……もう大丈夫なのか?」

    「ああ……」

    「そうか……。なぁ悠斗……?」
    「うん?」

    そこで、レイチェルは悠斗の方を振り向いて言う。

    「妾は、悠斗が好きじゃ。だから……、妾を幸せにしてくれるか……?」

    レイチェルは真っ赤な顔をで、悠斗にそう問う。悠斗は、レイチェルに近づいて抱きしめる。そして言う。

    「ああ、俺がお前を幸せにしてやる。約束だ」

    「約束……なのじゃ……」

    そう言って2人は互いの小指を絡ませる。まるで、誓のキスの代わりだというに2人は約束をしたのだった。
    「あーあ、残念。楽しいゲームだと思ったのに〜」

    執事姿の男は、残念そうにそう言う。

    「実に、つまらないゲームだよ。"せっかく、目の前で母親を殺ろしてあげたのに"」

    執事姿の男は、姿を変えた。背中から天使の羽を出す。しかしその羽は、マリアとは違い黒い羽をしていた。

    「また会おうじゃないか、レイチェル・アルガード。それて、橘 悠斗……」

    黒い羽の男はそう笑いながら呟やいて、消えていった。
                                         END
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