Pygmalion Complex 次に生まれ変わったら、また貴方に惚れるんです。お互いに平凡な人間で、二人を邪魔する任務の時間も身分も無くって。
あぁ藍に、藍色に染まっているんです。海が、僕が、貴方が、
全てが、あい色に。
◇
窓の外に目を向ければ、重さのある黒がべっとりと張り付いている。今は戌四つ、いや亥二つ時くらいだろうか。
夕餉の時間というにはとても遅くなっていた。
「……お腹を空かせてしまっているだろうか」
男は、居間で待たせているあの人を気にしていた。早く用意を済ませなければならないと、火にかけていた鉄鍋の蓋を持ち上げる。ぐつぐつと音を立てて湯気と共に昇る磯の香り。男は目を細めた。
酒と水で蒸されて、その色は採ってきたときよりも鮮やかなのだろう。劣化したタングステン電球がぼんやりと灯る部屋で、鍋の中に詰められた貝たちを見つめる。
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