聖夜の光「うわぁ、まちじゅうキラキラしてまち!」
ちらちらと雪の舞う中、華やかに飾り付けられた街並みに負けないくらい目をキラキラと輝かせてはしゃいだ声をあげる。その全てを目に入れようとするようにくるくると回りながら歩くシャルロットに、リースはふふ、と笑いをこぼした。
「もうすぐ聖誕祭ですものね」
「もう、ちゃんと前見て歩かないと危ないわよ」
あっちこっちとふらふら歩き回る小さな後ろ姿にアンジェラが呆れたように声をかける。
「仕方ないですよ、こんなに綺麗なんですもの。私もワクワクします」
「ふぅん、そういうもの?」
ニコニコと笑う2人に対して、アンジェラは浮かない顔をしている。
「アンジェラは、こういうお祭りは好きじゃないんですか?」
「好きじゃないというか……あんまりいい思い出がない、かしらね」
「ええっ!?な、なんででちか!?」
シャルロットは驚きに目を丸くした。街路樹も家も可愛らしく飾り付けられ、愛する人――家族や恋人――と共に過ごす。食卓にはご馳走やケーキが並んで、プレゼントがあって、煙突からの賓客を待ちわびて。そんな楽しい日にいい思い出がないなんて。
「アルテナでも飾り付けたりご馳走が出たりしてたわよ。でも……ね」
そこまで言うと、アンジェラは目を伏せて黙り込んだ。
いつもより華やかな装飾、いつもより豪華な食卓。だけどそこに仕事が忙しい母はいない。いても心温まるような会話がある訳ではない。プレゼントは人づてに渡され、それも自分が使えない魔法のためのものばかり。どれだけ豪華でもひどく空虚だった。皆の言うような温かい思い出はとても遠く見えて、光と笑顔が溢れる世界から取り残されたような気がして心が冷えていく。それがアンジェラにとっての聖誕祭だった。
沈んだように黙りこくるアンジェラに、リースとシャルロットは顔を見合わせる。それから、いいことを思いついたと明るく言った。
「じゃあじゃあ、ことしはたのしくしちゃえばいいんでちよ!」
「楽しくって、何するのよ」
「パーティーしましょう、3人で!」
ぽんと手を叩きながらリースが言うと、シャルロットが「ぱーてぃーでち!」と続ける。
「素敵なお店で、とびきり大きいホールケーキを頼みましょう!」
「ホールケーキを!?3人で!?」
「ぷれぜんとこうかんもわすれちゃいけまちぇんよ!!」
ふわふわと笑いながらパーティーの詳細を詰めていく2人にアンジェラは目を白黒させる。プレゼントの予算はいくらにしようか、ケーキはイチゴかチョコか、いっそ両方頼んでしまおうかと積み重なっていく計画を聞きながら、いつの間にか自分も笑顔になっていることに気が付いた。
「せっかくだから、めいっぱいお洒落しましょうよ!私が見立ててあげるわ!」
「わあ、いいですね!」
アンジェラの提案にリースは顔を輝かせ、シャルロットも楽しそうに笑う。
「シャルロット、りんくこーでってのやってみたいでち!」
「あら、いいわね!とびっきり可愛くしちゃいましょ!」
「ふふ、こういうのを女子会って言うんでしょうか?楽しみですね」
「うきゃーっ、シャルロットじょしかいははじめてでち!」
「私も!何これ、始める前から楽しいのね!」
キラキラと光る街の中、あれがいいこれもいいと笑いながら話す。自分が遠く憧れていた世界にいるのを感じた。さっきまで冷えていた心が、今はこんなに温かい。
「ねえ、フェアリーもやりましょうよ、女子会」
今は姿を消しているもう一人の仲間に声をかけると、そろりと姿を現す。
「人間のお祭りでしょう?私も参加していいの?」
「もちろんですよ!」
「フェアリーしゃんもりんくこーででけーきたべまちょ!」
よにんでじょしかいでち!とはしゃぐシャルロットにフェアリーもまた笑顔になる。
「今年は楽しく、しちゃえそうですか?」
リースが問うと、アンジェラは大輪の花のように笑った。
「ええ。絶対、これまでで一番楽しい聖誕祭になるわ!」