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    ひそひそ心

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    ひそひそ心

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    うーん。あまり上手く締まらなかった…!!

    ##まほ覚
    ##ロゼ雨

    告白された話「好きです」

    シンシアが告白されているのは何度か見た。
    彼は、人当たりがよく、気さくで、いつも笑顔だから人を不快にさせることが少ない。比べて、ハスキーは感情は豊かだと自分では思っていたが、周囲から「いつも無愛想で、分からない」と言われて衝撃を受けた。
    だからこそ、今の状況が理解できない。
    ハスキーは、顔を真っ赤に染めて俯いているグリフィンドールの女の子と、ホグワーツの前に広がる黒い湖の船着場で向き合っていた。
    「えっ…と…」
    シンシアはハスキーに告白されるまで、全ての告白を断ってきた。
    「俺はまだ恋愛とか分からないから、ごめん。でも、これからも友達でいようよ」
    と、笑顔で断っていた。
    もちろん告白した子は泣いていたけど、翌日、シンシアがいつもの様に話しかけて、午後にはその子のいつもの日常を取り戻させていた。
    ハスキーには、すでにシンシアという大事な人がいる。
    「……」
    シンシアのように傷つけずに断ろうとしたが、よい言葉が見つからず結局押し黙ってしまった。
    女の子も、今すぐに答えが欲しいのか立ち去る気配がない。
    今夜は満月で、湖畔には月が映っている。
    もうすぐ消灯の時間だ。
    早く寮に戻らなければ、帰り道にフィルチに見つかってしまうかもしれない。
    夜に告白されて減点されたとなっては、またユーストマにしばらく文句を言われるかもしれない。
    気持ちばかり焦るが、流石に目の前の子を夜の校舎に放り出していく訳にもいかない。
    木々がざわめき、水面の月が消える。
    風と共にホウキに乗って来たのはルームメイトのシンシアだった。
    女の子の後ろの方に静かに降り立つと、何か気づいて視線を泳がて頬を掻く。
    ハスキーは、彼が気を利かせて立ち去ってしまうのではないかと、なおさら焦燥感が高まった。
    いつもそばにいるシンシアは、ハスキーの小さな表情の変化に聡い。
    困ってるハスキーは初めて見たとばかりに、「ふふっ」と笑った。
    「雨!なかなか戻ってこないから心配したよ」
    と、声をかけ、女の子もようやくシンシアの存在に気づいた。
    シンシアは、草を軽快に踏み締め、女の子の横を通り過ぎる。
    ハスキーの腕に自身の腕を回す。
    そこでハスキーは「おや?」となった。
    「ごめんね。雨は俺のなんだ。」
    と悪気もなく微笑むと、姿くらましでその場から立ち去った。
    ホグワーツの城門前まで飛ぶと、シンシアはハスキーの手を引いた。
    「ちょっ…!」
    ハスキーが何か言おうとしていたが、シンシアはシーっと静かにするように身振りした。
    城内で騒げばフィルチに見つかってしまう。
    そうならないように駆け足で寝室まで走った。
    バタンと軽快な音を立て扉が閉まる。
    「はは!よかった〜…」
    ようやく安堵したところでシンシアがよろめいた。すぐにハスキーが抱き止める。
    「やっぱ、まだあの距離の姿くらましでもキツいなぁ…」
    「迎えに来てくれたことはありがたいけど、あの子を置いてきちゃったじゃないか!」
    ハスキーも少し姿くらましの影響があったらしい。頭を軽く振っている。
    「大丈夫だよ。茂みにあの子の友達が見てたから」
    寝室にある中央の椅子に腰掛け、にへらと笑って手を振って見せる。
    一人では心細かったのか、はたまた好奇心で様子を見にきたのだろうか。どちらにせよ、あの数秒の間でよく周りを見ている。
    一人ではないと知って、ハスキーも息を吐いた。
    「それよりも、さっきのは何だ?」
    「何って?」
    「俺の腕に手を回すなんて!これじゃ…」
    「俺が女側に見える?」
    シンシアが確認するように尋ねると、恥ずかしかったのか頬が紅潮しハスキーは小さく頷いた。
    いつもはハスキーが女性の立場なのだ。
    だから、腕ではなく肩に手を回して欲しかった。
    「あの子は、雨のかっこよさに惚れたんだ。なら、理想の雨の姿だけ見てほしいと思ったんだ。」
    机に肘を置き頬杖をつく。
    「それに、本当の雨の姿を知っているのは俺だけでいいはずだよ。」
    スターサファイアのような瞳でじっと見つめられ、ハスキーはさらに体温が上がる。
    いつもの柔和なイメージのシンシアだが、時折見せる真剣な表情は心臓に悪い。
    おそらく多くの女性はこのギャップにやられたのだろう。
    いたたまれなくなってハスキーの手が軽快な音を立てシンシアの顔を隠した。
    「痛い!」
    「何を想像して言ってるんだ!」
    「何って、俺の前だけで見せる普段の雨の様子だけど…?」
    頬を赤くして照れている今のような姿、というようにハスキーを指を刺す。
    「まぎらわしい!」
    想像と違ってさらに恥ずかしくなったのか、ふいっと後ろを向いてしまった。
    (そういうところなんだけどなぁ……)
    と、シンシアがまた小さく笑った。
    拗ねてしまったハスキーだったが、姿くらまし後のシンシアの体調が気になった。
    魔法の中でも高難易度の空間転移魔法で、本来、17歳で習得する魔法だ。
    船着場からホグワーツの城門まででも慣れていない者は酔いやすい。
    もちろん、下手をすれば体の一部を置き忘れてしまいかねない危険な魔法だ。
    ハスキーと違ってシンシアは決闘でもあまり姿くらましは使わないので影響は大きいのだ。
    チラリと様子を確認すると、シンシアは頭を抱えるようにして机に突っ伏していた。
    「ロゼ!」
    慌てて確認しようと机に手を置き前のめりになると同時に、名を呼ばれたシンシアも顔を上げる。
    お互いの顔が目の前にあり、あと数センチで口が当たる距離だった。
    「ちっか……ッ!」
    ハスキーが勢いで後ろに下がる。
    「ふふ、惜しかったなぁ……」
    とシンシアが青い顔で笑う。
    「冗談言ってる場合じゃないだろ!」
    声を荒げて、シンシアの顔を勢いよく両手で抑える。
    「痛い…」
    ハスキーは焦りが生じると行動が乱暴になる時がある。今もシンシアの体調を確認するためなのだが勢いがすごい。
    (冗談じゃないんだけど……)
    シンシアが困ったように眉を下げて笑顔を作ると、体調が悪いことを隠そうとしていると勘違いされてしまった。
    「体調が悪いならベッドで休め」
    ハスキーが、シンシアの肩に手を回してその場から立たせベッドまで連れて行く。
    「大丈夫だ。一晩休めば治るから心配しないで」
    横になると、深く息をついて「ありがとう」とお礼を言った。
    ハスキーがベッド横に座ると、シンシアはハスキーの頬に触れる。
    「別に姿くらましなんて使わなくても良かったんだけどね。多分、俺は一刻も早くあの場を去りたかったんだ」
    シンシアの手は普段暖かいのに今は冷たい。
    ハスキーは頬にある手を包み込むように添える。
    「君でも嫉妬するんだ?」
    ハスキーの言葉にシンシアは少し驚いた表情をした。
    その感情が嫉妬だと気付いたのだろう。
    「はは!そうだよ。俺は君が好きなんだ」
    恋人になってからもハスキーはシンシアが告白されている場面によく遭遇していた。
    シンシアとハスキーは恋人だと口外しているわけではないので、告白されるのは仕方ないが、やはり恋人が告白される瞬間はムッとする。しかし、シンシアはその場で断るので、嫉妬心もすぐに消える。
    ハスキーはそれができなかった。結果、シンシアの手を借りてしまった。余計心配させてしまったのだろう。
    (俺も断れるようにならないとな…)
    冷えきった彼の手は、ハスキーの温もりに包まれて指先から次第に体温が戻っていく。
    「ねぇ、キスしていい?」
    シンシアの指が頬を優しく撫でる。
    いつもだったら「心の準備が…」と断るのだが、今は彼を安心させてあげたかった。
    ハスキーが身を乗り出し、覆い被さるようにして唇をシンシアの唇に添える。
    シンシアは驚いて一瞬硬直するも、少しでも長くしたくてハスキーの頭を優しく抑える。
    ハスキーもシンシアに応えるように自然に離れるまで続けた。
    「……上手くなったね」
    唇が離れた瞬間、シンシアが嬉しそうに言った。
    先ほどと打って変わって顔に血色が戻ってきている。
    「だろ?」
    ハスキーが頬を染めながら優しく笑う。普段めったに見られない表情だ。
    シンシアも満足そうな表情をして、ベッドに身を委ねる。
    目を閉じて、深呼吸を繰り返すも、眠る気配はなさそうだった。
    「ロゼ」
    「なに?」
    声をかけたらすぐに返事が来た。
    「俺はロゼが好きだ。君が俺を想う以上に君を想っている。それを忘れないでくれ」
    再びキスをする。
    今度は短めだったが、ハスキーから二回以上するのは初めてだった。
    「ふふ、君には敵わないなぁ」
    シンシアが今欲しかった言葉だった。
    ハスキーがシンシアを想ってくれているのは分かってはいる。
    告白はハスキーからだった。
    それでも、告白以降からこうして言葉でくれたのは二回目だ。
    そして自分以上に好きだと言ってくれているのだ。これほど嬉しいことはない。
    シンシアがふと目を開く。
    やはり恥ずかしそうにしていた。
    「助けてくれてありがとう。次からは、君を安心させてあげられるように頑張る……から」
    ハスキーが再びシンシアの手を握る。決心したように力強く。
    「うん」
    「無理しないで」とは言えなかった。
    人には向き不向きがある。
    ハスキーは誰かの好意を正面からぶつけられるのは苦手なのだとシンシアは思っている。
    (もしまた君が困っていたら助けてあげるよ)
    と心の中で囁く。
    キスに不慣れだった彼が回数を重ねるごとに上手くなった。
    きっとそのうち告白を断るのも上手くなるはず。
    その間は陰ながら守ることを決めた。
    「雨、一緒に寝よう。やっぱり君がいないと眠れそうにないや」
    ぐいっと抱き込むようにしてハスキーをベッドに誘うと、おとなしくベッドに入ってきた。
    「元からそのつもりだ。」
    シンシアの寝つきの悪さを知っている。悪夢にうなされていることも。
    一緒に寝るようになってからは、シンシアが悪夢にうなされることが少なくなった。
    (今日は不安にさせてしまったからな……)
    隣に体を横にすると、シンシアはハスキーの手を握った。
    照れくさそうにしてるハスキーを見て、声を押し殺して笑う。
    「おい」
    「ごめんごめん」
    少し怒った様子のハスキーにシンシアがすぐに謝った。
    「おやすみ、雨」
    「おやすみ、ロゼ。君も早く寝ろよ」
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