クラスメイトのはなし 診療所で過ごす夏休みは、田舎の祖母の家を訪れているような安心感と消毒液の匂いが入り混じる、少し不思議なものだった。
級友である黒須一也は、故あって親戚が住まうT村から高校に通っているのだという。そこが代々お医者様の家だとかで、宮坂詩織はアレルギーの治療のためにそのお医者様のもとで入院生活を送っていた。
「――唇の痺れに、咥内のかゆみ……その他に症状が出ていたら教えてくれ」
「い、いえ。大丈夫です。かゆくなったりとかは、全然……」
「経過良好。歩みはゆっくりだが、確実に治療の効果は出ていると言っていいだろう」
白衣を着た、背の高いお医者様。
一也は彼を指して「K先生」と呼んでいたが、入院の折にその名前を教えてもらった。
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