肩の重み トランからの野暮用で昼休憩がすっかり潰れかけた日、戦場かよと思う混雑っぷりのレストランを諦め屋台の軽食を手に 中庭ベンチを目指して向かえば珍しい姿があった。
小難しい本を手にしているが、疲れているのかうつらうつらと船を漕いでいるアップルが。
思わず笑みがこぼれるが、チラチラとタイツの脚を見て距離を詰めている羽虫が数人。
気がついたらもう無理だ、無意識に体が動き隣に陣取り 自分の上着アップルにひざ掛けの様にかけていた。
手からこぼれる落ちそうな本を持った手を そおっと上着を押さえる様に持ち上げたところで、アップルがぼんやり目を開けた。
「あれシーナ」
「大丈夫、まだ寝てていい」
「...うん」
小さい子を寝かしつけにするように 軽く背を叩くと アップルはコテンと肩に持たれてすやすやと寝息を再開させる。
疲れた顔だった。
ただの余所者には漏れては来ないが、中で何か動きがあったのだろう。
こんな戦争に首を突っ込んでいなければ、もっと穏やかに取材旅行を楽しんでいただろうに、まあおかげで予期せぬ再会は出来たので、結果的には良かったんだろうけど。
それでも、3年前と同様こんな疲弊してるアップルを見るのは忍びないものだよなあ...と、頬にかかる髪に触れつつ小さい息をついた。
通りを行き交う人の流れが変わる。
そろそろ休憩の交代が近いのだろう。
見知った顔も 顔も知らぬ兵も 所有権を主張するように アップルの身体に掛けられた上着と、肩にもたれてすやすやと眠っている姿に 声をかけようとしては同僚に止められる奴ら。
噂でも何でも むしろ広まってくれると良い。
トラン出身の副軍師殿は、本国の大使で大統領閣下の御曹子とただならぬ仲であると。
それは多分アップルを守る盾にもなる。
デュナンにとって今切られる訳にはいかないトランとの同盟関係は、マッシュの弟子で遺児なアップルが肩入れしているから 表立って反対する者も居ないし、大国にすり潰されそうなデュナンに手を差し伸べてしまった彼女の行動は、いかにもあの師弟らしいと あの頃のアップルを知るものには苦笑いするしか無いと聞いた。
だからこそアップルに何かあれば、たちまちハイランドとトラン両方から 挟まれ潰されるかもと言う事くらい 末端の馬鹿にも周知されたら良い。
まあ俺の個人的な好意が無いとは言わない、むしろ多分そっちが本音ではある。
アップルを悲しませない為にも デュナンにはきっちりハイランドとの緩衝材の役割は果たして貰わなければ、彼女が再び歩いて行けるように。