「あら、セバスチャン」
名を呼ばれ振り返れば、一際目立つ真っ白な髪を持つ期待の転入生……僕の友達がそこに立っていた。
僕より少しばかり背の高い彼女は、更に大人の女性が履くような高さのあるヒールで床をカツリカツリと鳴らしながら近付いてくる。
自ずと見上げる形になってしまうのは、まぁ仕方ない。僕はまだ成長だからね。
「……やだ、ちょっと、貴方」
「なに、どうかした?」
突然手袋を外し始めた彼女は、ポケットから何かを取りだし、それの蓋を手際よく開けた。
塗り薬か?と見ていれば女性にしては少しだけ太く長い指がそれを掬い取り、もう片方の手が僕の顎を固定する。
「……えっ?」
「切れてるわよ、唇が」
躊躇いなく伸ばされる指が僕の口に触れてくるものだから、変に反応するのもおかしいかと、つい大人しく受け入れてしまった。女子生徒達の間では普通のやり取りなのか……?
反応に困って見上げれば、満足そうに目を細めた彼女と目が合ってしまい、腹の奥がくすぐったい様な、何とも言い難い感覚を感じつつ、とりあえず優しい友達にお礼を言っておくことにした。
すると彼女は己の唇に指を当て、ふわりと微笑む。
「男の子でも気にした方がいいのよ、こういうの」
そう言って彼女は僕の肩を一度叩いてローブを翻し、再びカツリカツリと靴音を鳴らして去っていくのだ。
唇にまとわりつくそれが落ち着かなくて、つい舐めてしまったのに気付き、慌てて舌を仕舞う。
「うーん、今度ホグズミード行った時に、良いの選んでもらうかな」