可愛い君への贈り物「ねえ、その飴ってどこで買ってるの?」
「あ そんなん適当に目についたの買ってんだよ」
今日もロナルドの口の端からは白いスティックが覗いている。いつからか、煙草の代わりに咥えるようになったそれは、甘い香りを放つロリポップ。口を開くと感じる香りはいつも違ったもので、特に気に入りがあるという訳ではなさそうだとドラルクは感じていた。
「好きな味とかこだわりもなさそうだよね」
「別に。口寂しくなきゃそれでいい」
「そっか」
ロナルドの咥える飴から視線を逸らしたドラルクは、スマートフォンを操作する。遊んでいた協力ゲームは、現在はロナルドのターン。操作の片手間に、通販サイトを開くなど造作もないことだった。
「何してんだよ」
「ちょっと、やってみたいことができて」
「ふぅん」
興味なさげな声をあげながらも、ちらちらと様子を伺う視線は隠しきれず、どことなく微笑ましい。ついには操作を終え、じっと視線を向けてくるロナルドに、ドラルクは悪戯っぽく微笑んだ。
「今度来た時のお楽しみ」
そう笑ったドラルクの人差し指が、ロナルドの唇をむにゅりと塞いだ。指の向こうで、唇の端が不満げに下がるのを目撃して、ドラルクはもういちど笑い声を上げる。
やりたいことができたのも確か。それはロナルドが居る居ないには関係のないことではある。けれど。
きっとこうして煽っておけば、すぐに遊びに来てくれるだろう、だなんて。打算に塗れた駆け引きは、きっとロナルドにはバレバレだ。それでもいい。それでいい。それだけ、いつだって君に会いたいのだと伝わってしまえばいい。
そう思って向けた笑顔は、不満げなロナルドの両掌に潰された。変形するほどの肉付きのない頬を挟み込み、ロナルドは一言だけ、拗ねた声をドラルクへと向けた。
「てめぇの番だ、バカ」
◇◇◇
案の定と言っていいものか、次にロナルドが城に現れたのは数日後のことだった。それも仕事終わりではなく、日暮れ、太陽が姿を隠したばかりのその時間に。少しだけ普段よりも多い荷物を抱えたその姿は、今日は仕事はしないという無言の主張。なにかしらの期待を持って訪ねてきたらしい退治人を、吸血鬼は歓迎の笑みで出迎えた。
「いらっしゃい。待ってたよ」
「来てやったぜ」
「今日は泊まってく?」
「ああ」
「なら、晩ごはんも豪華にしないとね」
「期待してる」
さらりと返された期待の言葉に目を瞠り、押し付けられた鞄を抱きしめる。柔らかく軽い荷物には、この夜を城で過ごすための着替えでも詰まっているのだろう。どんなことを考えながらこの荷物を用意したのかと考えると、ドラルクの心もまた浮足立った。
いつも通りを装いながら、それでいてちらちらと様子を伺う視線を感じて、ドラルクはクスクスと笑う。この数日間、もしかしたらずっと気にしていたのかもしれない。ずっとロナルドの脳裏に、自分のたった一言が留まり続けているのであれば、それはどんなに嬉しいことかと笑ってしまう。
だから、もう少しだけ。あとほんの少しだけ、自分のことだけで頭をいっぱいにしていて欲しいと我儘を言おう。
「まずは、ごはんにしようか。お腹すくでしょう?」
片目を瞑ってみせた吸血鬼に向けた表情は、やはり少しだけ、不機嫌そうなそれだった。
◇◇◇
丁寧に下準備をされた肉料理には手作りのソースがとろりとかけられ、新鮮な野菜を選りすぐったサラダはしゃきしゃきと音を立てる。焼きたてのパンが添えられ、琥珀色に澄んだスープの中に丁寧に煮込まれた具が沈んでいる。どれを口にしても美味だというのに、ずっとロナルドの表情はどことなく不満を孕んだもの。
「いい加減いいだろ」
「なぁに?」
「前来た時の。気になってんだよ」
食器の片づけをするドラルクの背を眺めながら、ついにロナルドが白旗を上げた。拗ねたような口調にドラルクが笑い、さらにロナルドの表情が険しくなる。
「ゲームでもしながらって思ってたのに」
「いいから教えろよ」
「ご飯も食べ終わったし……いいかな」
苦笑しながら、再び開いた冷蔵庫から大きな瓶を取り出した。ガラス瓶の中には何色かの色彩と、白い棒。ぱちぱちと瞬きをするロナルドの視線が釘付けになったそれは、棒付きの飴だった。
「なんか、君が食べてるの見たら作ってみたくなっちゃって」
「作った!?」
「どう、可愛いでしょ?」
からんと微かに音を立て、取り出された飴は、単純な楕円系ではない。べっこう色につややかなそれは、ずんぐりとした蛇のような。オレンジ色の飴は、カボチャの形。きちんと模様まで入れられたそれは、デフォルメされたキャラクターのようであり、そしてどうにも見覚えのあるものでもあった。
「ツチノコくんと、カボチャくん。割と可愛くできたと思うんだけど」
じいと、ロナルドの瞳がそれを見る。穴が開くほどに眺めても、その形は変わらない。ひったくるように瓶を奪い、中身を取り出し並べていく。同じようで、ひとつひとつ僅かに形が、表情が違う飴をまじまじと見て、再び眉間に皺を寄せた。
「もったいなくて食えねえ」
「せっかく作ったのに!?」
「こんな可愛いの、食べるのかわいそうだろ!」
「それでも、せっかく作ったんだから、無駄にしないで欲しいな」
「でも……いや……」
途端呻くような声で悩みだすロナルドを、ドラルクは目を細めて見つめていた。
見た目よりもずっとずっと、可愛いもの好きで、可愛いものに弱いロナルドはおそらくきっと気づいていない。そんなことで悩むロナルドの姿こそ、一番可愛いとドラルクが愛でていることを。飴を作ることよりも、この顔が見たかっただけであるのだと。
不意にドラルクの一本の飴を手に取ると、包んでいた袋を剥ぎ取る。
「はい、あーん」
「あ、っ、!?」
抗議の声を上げる間もなく、キャンディが口へと突っ込まれる。もごもごと口を動かしながらも大人しく食べているのは、美味しいからなのか、それともその形を見てしまったら食べられる気がしないからなのかは定かではない。
「ちゃんと、いくらでも作ってあげるからさ。棒もいっぱい買っちゃったし」
「こないだ買ってたのそれかよ」
「そういうこと。口寂しいんでしょ?」
ニヤリと笑ったドラルクに、目を瞬いて視線を向ける。ドラルクの手によって突っ込まれたキャンディは、ドラルクの手によって奪われる。開いたままの唇に突然落とされたキスは、甘いフルーツの味がした。
「どっちかにしてよ。私か、これか。好きな方でいいから」
悪戯な笑みを浮かべて離れた唇に、再び飴が差し入れられる。きゅうと引き結ばれた口から紡がれる次の言葉を待ち望み、ドラルクは赤い目をすうと細めて、笑った。