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    もっちゃん

    @motchan615
    自創作『暗黒街の銃声』
    テラーノベルから移動しました!
    現在スーパーコピペ&リメイク中!!

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    もっちゃん

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    暗黒街の銃声

    第四話 "殺戮の悪魔"暗黒街こと地覇那区に位置する廃ビル。コンクリートの床や壁に真っ赤に染まっており、あちらこちらに無惨な死体転がっている。骨が砕ける音と悲痛な悲鳴が響き渡る。
    「ひぃっなんて怪力なんだよ…」
    「全部……素手で」
    ここを本拠地とする暴力団は腰を抜かす。彼らの目の前にいるのは仲間をなぶり殺す殺人鬼。
    「お、おい……こいつまさか……あの連続殺人の」
    「ま、待て頼む命だけは」
    命乞いをする男に耳を貸さず、殺人鬼は拳を振り下ろし苦痛を与える。そしてまた苦痛で悲鳴が鳴り響き、運の悪い彼らは歪んだ表情で殺されていく。それを見た殺人鬼はより口角が上がり興奮し始める。
    「キャハッ…………」

    「キャッハハハハハハッ」



    翌日。暗殺組織"BUK"に所属する殺し屋、神楽凜々愛は、テレビを付けたまま身支度をしていた。
    『次のニュースです。昨夜、地覇那区の廃ビルに暴力団と見られる複数人が無惨な遺体で発見されました。警察は廃ビルで集会をしているところを何者かに襲撃を受け殺害されたと推測しています』
    ニュースが流れだし、凜々愛はテレビに目を向けた。画面がスタジオから中継に変わり、現場である暗黒街の廃ビルの前にニュースキャスターがマイクを持っては話している。その後ろには立ち入り禁止の黄色いテープが張り巡らされており、警察や鑑識が出入りしていてた。
    「……"IBUKI"の人間?…なわけないか」
    凜々愛はテレビを見ながら首を傾げた。一瞬、"IBUKI"の誰かの仕業だと思ったが、組織には処理班がいるため、自分たちとは関係ない者だと察した。
    『調査によると、犯人は凶器を使わず素手で殺害したと推測しています』
    それだけを言って、別のニュースに切り替わった。
    「……素手?かなり手強そう」
    ここ最近、同じような虐殺事件のニュースが多い。凜々愛は同一犯では無いかとふと考えた。


    "IBUKI"本部、店長室。凜々愛の前には赤髪とスカルマスクが特徴の店長がデスクに座っていた。
    「今回はこのヤクザ達が標的です。 まぁ、この通り色んな闇の取り引きをしています。 場所は郊外に位置する倉庫。お願いしますね」
    暗殺組織 IBUKIの店長が凜々愛に標的についての資料を見せながら言った。
    「……了解」
    では、と立ち去ろうとしたが、凜々愛は少し考えてから振り返った。
    「……あの、店長」
    「なんでしょう?」
    「……ココ最近、ニュースでよく見る連続殺人事件の犯人は標的にしないんですか?」
    凜々愛は今朝見たニュースで出た連続殺人事件の犯人のことを言った。犯人は表社会では指名手配されているため、早く始末した方がいいのではと思ったからだ。
    「ああ、例の殺人鬼ですか。私もそいつを早く始末しなければと思っているのですよ。しかし……」
    「……?」
    「しかしですね、そいつがいつ現れるのか、そいつの居場所がわからないのですよ。そのような情報さえあれば標的として始末できるのですよ」
    「……そうですか」
    納得がいった。確かにそうだ。単体の場合、気まぐれで動いている可能性が大きい。それもこの殺人鬼の不定期に動く上、情報が少なすぎる。
    「とはいえ、その殺人鬼は……」
    すると店長は悩むように言った。
    「内心、始末するのが惜しいのですよ」
    「……え?」
    店長が言わなさそうな事を言って頭が真っ白になった。まさか同情?いや、そんなわけが無い。殺し屋組織の頂点に立つ者が言うセリフではない。何か別の意味だろう。
    「情報部の調べによると、この連続殺人事件には共通点があったのですよ。被害者のほとんどが我々の標的にされてもおかしくないような人間ばかりなのですよ」
    「……」
    意外な真実に目を見開いた凜々愛。まさかそんな法則があったとは思わなかった。いや、聞いたことがある。殺人鬼とは、標的を何らかの特徴を絞って実行するらしい。
    「なんなら採用したいものですね」
    「……え?」
    何言っているんですか店長、とでも言いそうな顔をして店長を見る凜々愛。
    「まっ……まぁ、とにかく、この任務、よろしくお願いしますね」
    凜々愛の視線を感じた店長は誤魔化すように言った。
    「……了解」


    店長室を出た凜々愛は、これといった理由は無いが、屋上に出た。
    「……殺人鬼、か」
    「あの連続殺人事件の〜?」
    ビクッ!
    突然、凜々愛の背後から女の声がした。バッと振り向いたら、赤いジャケットを織ったハーフアップの髪型をした女。先日、自分の相棒になった女、百峰桃音がイタズラっぽく笑って立っていた。
    「……桃音!びっくりしたよ…!」
    「この前のお返しや!」
    ※第二話「"人斬り人形"」参照※
    「てか、その殺人鬼がどないしたん?今回の標的?」
    資料見ーせーてっ、と後付けして言う桃音は凜々愛に寄りかかり彼女の手に持っていた資料を覗いた。二人はすっかり仲良しだ。
    「……ううん、今朝ニュースで見たからさ。なんか気になるなと思ってね」
    「ふーん……あ、そういえばさぁ」
    あっと思い出した桃音が口を開いた。
    「その殺人鬼さあ、"暗黒街課集団虐殺事件”と同一犯説あるらしいで」
    「……う、嘘っ」
    それを聞いて凜々愛はまた見開いた。"暗黒街課集団虐殺事件”とは、八年前に公安の暗黒街課が何者かによって集団虐殺された未解決事件だ。
    「ま、所詮 誰かがゆーた噂やからな〜…………信じるか信じないかは!あなた次第!」
    桃音は人差し指を出して決めゼリフっぽく言った。某都市伝説の不定期特別番組の語り手として出てくる芸人が使うフレーズだ。
    「……それ関〇夫」
    名前言いやがったこいつ。
    「んで、その仕事は凜々愛一人でいけるや
    つ?」
    話を本題にうつし、桃音は凜々愛に聞いた。
    「……うん。ボクも一人で任務してたから、平気だよ」
    凜々愛は心配そうな桃音に優しく微笑んで言った。第二話以来、二人は任務を同行するようになったが、この日、桃音には別件があるので同行ができなかった。
    「そっか!んじゃ気ぃつけてな!」
    「……うん。ありがとう」
    手を振る桃音に手を振り返し、凜々愛は屋上を後にした。


    (……ここだね)
    電車と徒歩で少し時間がかかったが、凜々愛は暗黒街の郊外に位置するヤクザのアジトまでたどり着いた。アジトは古い大きな倉庫だった。凜々愛は木の影に身を隠して、入口のシャッターの前に見張りが二人いるのを確認した。
    (……見張り…か)
    すると凜々愛はふと、堂々と目の前まで行った桃音を思い出した。この状況があの時とよく似ていたからだ。凜々愛の武器は日本刀、近距離攻撃しか出来ない。だからあの時、一瞬どうしようか悩んだのだ。
    「……堂々と、か」
    凜々愛は瞬きをすると同時にスンっと人を殺しそうな目に変わった。そして、あの時の桃音のように、堂々と木の影から姿を表して見張りの前まで歩き出した。
    日本刀を握って。
    「おい!」
    「だ、誰だお前」
    ザシュッ!
    「…………」
    凜々愛は眉を一切動かさないで、一気に見張りを斬り捨てた。
    そして思い出す。桃音が言ってたあの言葉。
    『百峰〜行きまーす!』
    ……似ている。"あの子"と一緒に言ってたアレと同じようだ。でもあれからもう十年、言ってなかった。無意識に言わないようにしてたかもしれない。けど…………今なら、

    「……神楽凜々愛。参る」

    倉庫の中には標的であるヤクザたちがいた。
    「ん?今なんか見張りが叫んでなかったか?」
    「ああ、俺も聞こえた」
    「俺ちょっと見てくる」
    そう言って1人のヤクザがシャッターを開けようと手を伸ばした。
    ザシュッ!
    「ガハッ」
    開いた瞬間、そのヤクザは血しぶきを吹き散らかしながらその場で倒れた。そこには何も言わず、獲物を狙うようにヤクザ達を見つめる凜々愛の姿があった。
    「な、なんだ貴様」
    「殺し屋か」
    ヤクザ達は各自のエモノ(武器)を取り出し、凜々愛へ飛びかかる。
    ザシュッ!
    ズバッ!
    凜々愛は次々に敵を斬り捨てていく。繊細で異様な刀術が、赤い花弁と共に舞う彼女を引き立てる。
    「こ……こいつ!あの"人斬り人形"じゃねぇか
    よ」
    「……うるさい」
    ズバッ!
    その一言を言って、斬り捨てた。"人斬り人形"…凜々愛が裏社会で付けられた異名だ。眉一つ動かさずに殺すことからそう呼ばれた。が、当の本人は全くもって気に入ってなかった。
    「クソがぁあああ」
    ガンッ!
    「あぁっ」
    半分ほど斬り捨てた時だった。突然、後ろからヤケクソになったヤクザが鉄パイプで凜々愛の背中を殴ってきた。凜々愛はその場に崩れ落ちるように膝をついた。
    「ハハッ……女一人で押しかけて来たのが間違いだったな!」
    そのヤクザは嘲笑いながら言うと、また鉄パイプを振り上げた。凜々愛は痛みに耐えて日本刀を握り直し、立ち上がろうとした……次の瞬間
    パリーン!
    突然、窓ガラスが割れ、外から人影が飛んできた。
    「な、なんだ」
    ボキィ
    バキィ
    ヤクザたちがもう一人の侵入者に目を向けた瞬間、彼らの骨が砕ける音がした。
    「キャッハハハハハハ!!!」
    人影が着地すると、狂ったような高笑いが発せられた。
    人影の正体は女だった。
    その女は真ん丸な赤い目と肩より上の外ハネの短い髪に紫のバンダナと腰より上の短い丈の半袖のジャケット、赤が混じったピンクのへそ出しのポロシャツを着ている。胸が大きいためボタンは全て閉まらないため、胸の谷間が見えている。そして、足の付け根辺りしかない丈の、薄茶色のギャルっぽいショートパンツと、厚底のヒールの付いた黒いスニーカーにを履いていた。
    「お、おい……その怪力、お前まさか!」
    一人のヤクザが女の正体に気付いたのか、一気に顔が青ざめた。
    「"殺戮の悪魔"なんで俺たちの所に」
    (......誰?"殺戮の、悪魔"?)
    パニックになるヤクザから少し離れて、凜々愛は女に目を向けた。
    「そそ!アタシ!血みどろ大好き"殺戮の悪魔"こと早乙女瑠花ちゃんだよ〜!」
    (早乙女……瑠花?)
    早乙女瑠花と名乗る女は明るく元気な声で言った。また、"殺戮の悪魔"とは彼女が裏社会で呼ばれている異名のようだった。
    「さあて……あとはアンタだけね」
    瑠花は不敵な笑みを浮かべて最後の一人のヤクザの元へ歩いてくる。
    「や、やめてくれ……!頼む!」
    恐怖で腰を抜かしたヤクザはそのまま膝まづいて命乞いした。しかし瑠花は鼻歌を歌いながらジワジワと近づいてくる。

    ゴキッ!

    「ガハッ」
    ヤクザの首の骨が折れる音がすると同時に、彼はうつ伏せになった。命乞いに聞く耳を持たない瑠花が足を大きく振り上げて思いっきり力強く、膝まづいているヤクザを踏みつけたからだ。
    「あはははは」
    ダンッ!!
    バキッ!!
    ゴキッ!!
    一度ではなく、二度……三度……首の骨が折れているにも関わらず、腕や背中など…何度でも足蹴にして骨を折る。首の骨が折れ、激痛で声が出ないヤクザは顔を歪ませて苦しんでいた。
    「きゃははははははいーね!いーね!その表情!もう最っっ高なんだけど〜」
    (……なんて…惨いことを)
    凜々愛は瑠花の容赦なさに震えた。彼女が血も涙もない化け物のように見えた。いや、血に飢えた化け物……そのように見えたかもしれない。
    「あはっ♡‬いい音!……ってアレ?もう死んだー?」
    瑠花に散々足蹴にされ、全身の骨が砕けたヤクザは既に血まみれになって息を絶えた。
    「きゃは!血みどろ!超いいじゃーん!」
    瑠花はしゃがんで、冷たくなったヤクザの頭を掴んで、その苦痛で歪んだ顔を見て顔を赤らめた。
    「……な、なんでそこまでするの」
    凜々愛は立ち上がり、刀を握りしめて瑠花を睨んで言った。瑠花は凜々愛の声でピタリと動きを止めた。無惨な死体が転がるこの倉庫には、殺し屋と殺人鬼だけになった。
    「あれー?アンタいつからいたの?」
    瑠花は立ち上がりながら振り返って言った。
    「……さ、最初から、いた!」
    「え、マジ?全然気づかなかったんだけど」
    首を傾げる瑠花。彼女は凜々愛の存在に全く気づいていなかった。
    「……それより。君は一体、何者?もしかして……あの連続殺人事件の…犯人?」
    凜々愛は警戒しながら尋ねた。これはただの勘だが、凜々愛は瑠花が連続殺人鬼ではと感じた。
    「ヘー、察し…ていうか勘がいいんだねぇ!…………そうだよ。アタシがその連続殺人事件の犯人だよ」
    瑠花は最初は明るい口調で言ったが、問に答える時はスンッと落ち着き、不敵な笑みを浮かべて言った。凜々愛は一気に警戒心が高まり、日本刀を構えた。
    「なに、刀?血いついてんじゃん」
    瑠花は凜々愛が持っている血の付いた日本刀を見て言う。そして辺りに転がっているヤクザの死体をキョロキョロと見渡した。
    「ははーん。なるほどね!アンタ殺し屋ね!だからアタシが来た時に!もう既に死体が転がっているわけね!」
    瑠花は凜々愛に指をさして言った。
    「……何が目的?」
    「はあ?」
    「……なんで、連続殺人を?」
    「それ殺し屋のアンタが言うかなぁ……けど、目的なんてそんなの決まってんじゃん」
    「……?」
    「こういう奴らの歪んだ顔や血みどろになった姿が見たいからよ!」
    声を張って言った。
    「たまらないのよ!苦痛で歪んだ顔や血みどろになった姿がさ!こーいうのって快楽というか病みつき……というか!"こっち側の人間"は素手で殺るとね!超~っやり甲斐があるの!」
    瑠花は赤面で満面の笑みで言った。血まみれになった手を頬に当てたせいで、余計に顔が赤く見える。上がった口角が指に付いた血によって、まるで口紅を延長させて描いたように見えてジョーカーのメイクのようだ。
    (……狂ってる!この女、慈悲の欠片もない、ただただ快楽だけのために人を殺してる!)
    凜々愛は背筋が凍った。彼女の目の前にいる殺人鬼はまるで異常者のようだ。いや、むしろそのものだった。しかし凜々愛は先程の言葉に、一つ引っかかった。
    「……その、"こっち側の人間"って?」
    「決まってんじゃん!こいつらのような種類の人間よ!」
    恐る恐る尋ねた凜々愛に、瑠花は手を大きく広げ、血みどろになって転がっているヤクザ達の死体の方を向いて答えた。
    「……一般人は殺さないの?」
    「えー?殺すわけないじゃん!」
    (……一般人は殺して極悪人は殺す?てことは…っ!)
    「てかさぁ、アンタが半分以上殺ったせいでアタシまだ物足りないんだけど」
    「……え?」
    すると瑠花は急に萎えたような表情をして言った。嫌な予感がしする……まさか?
    「ってことで、死んでもらおうかな!アンタ!」
    「……」
    瑠花はパッと切り替わるように笑顔になって言った。
    …え、待って待って?嘘でしょボクを殺す気
    「超〜ゴメン!だって……まだ足りないんだもん♡」


    ダッ!
    突然、瑠花凜々愛に殴りに飛びかかった。凜々愛は咄嗟にその拳を避けた。拳が通ったすぐ横から風圧を感じた。
    「……っ」
    「へぇ…やるう!」
    「……ボクを、殺す気?」
    「そーだよ!」
    警戒する凜々愛に対して明るく答えた。とんだサイコパスだな、この子女。
    その後も凜々愛は瑠花の拳を素早く避け続けた。瑠花の攻撃は一つ一つが力強かった。
    「あはははっ!アンタ面白いねぇ!なんだか長く楽しませてくれそう!」
    凜々愛に拳や蹴りを振りながら言う瑠花。目はバッキバキにガン開きにして笑っている。
    (……そういえば、この女、いずれはボク達の標的になるはずだ。いっその事、今殺してしまった方がいいんじゃ…?)
    凜々愛は瑠花の攻撃を躱しながら、ふと思った。
    (……でも、今回の標的じゃないし。基本的、標的以外は殺しちゃ駄目だから……死なない程度で、再起不能にしておこうかな?)
    しかしよく良く考えれば殺す訳にはいかない。"IBUKI"の暗殺部にはルールがあった。それは標的以外の人間を殺してはいけないことだ。やむを得ない場合は例外だが、基本的NGだ。
    (……とりあえず、あの両手を切り落とすしか!)
    凜々愛は刃を振り瑠花の両腕を斬り落とそうとする。しかし.......
    ガンッ!
    金属音がした。
    「……え?」
    見ると凜々愛の刃は瑠花の両腕ではなく彼女が付けてるグローブに付いたリストバンドに食い込んでた。
    (……き、斬れない)
    「あっははは!残念〜!アタシのグローブには鉛が2キロ入ってんのよ!」
    瑠花は凜々愛の刀を受け止めながら煽るように言った。そして、その腕はピクリとも動かなかった。
    (……でもさっき、グローブのリストバンドじゃなくて無防備な腕を狙ったはずじゃあ?)
    凜々愛は疑問に思った。おそらく、瑠花の腕に凜々愛の刃が届く前にリストバンドで食い止めたようだ。なんという反射神経なんだ。
    キィン!
    リストバンドから凜々愛の刃が弾かれた。
    (……まずい、このままだと…勝ち目がない!)
    そう不安に思った次の瞬間!
    「……っ」
    キィン
    瑠花が凜々愛の腹部を目掛けて蹴りの一撃を入れた。が、それを察知した凜々愛は刀で受け止めた。しかし……

    ダァン!
    凜々愛の背中に内臓の位置が動いたような刺激が走った。受け止めきれず瑠花に蹴り飛ばされ壁に背中を打ったのだ。凜々愛はその場で崩れるように座り込んだ。
    「……っう!」
    「わー、結構飛んだね?軽いからかな?」
    そう言いながらこちらに向かって来る。凜々愛は立ち上がろうとするが、痛みで上手く動けない。
    「そういやアンタ、さっきアタシの腕斬ろうとしたよねー?」
    目の前で立ち止まった。嫌な予感がした。
    「……!」
    「じゃあアンタの両腕、砕いてやるわよ!!」
    そう言って凜々愛の腕の骨を蹴りで砕こう足を振りあげようとした……その時。
    「……お前は…ボクの標的じゃない」
    「は?」
    凜々愛は痛みにに耐えながら言った。何言ってんのとでも思ったのか、瑠花の動きが止まった。
    「……ボク達、殺し屋は…標的以外は、殺さない」
    「だから?」
    「……だから、ボクはお前を……殺すつもりは、ない」
    「…………」
    「…….でも、お前のような人間は…いずれは殺し屋の、標的にされる。だから…」

    「……その時は…ボクが、お前を…殺す!」

    そう、瑠花を睨みつけて言った。
    「…………ははっ、キャッハハハハハハハ」
    すると突然、黙って聞いていた瑠花が気が狂ったように笑いだした。
    「……な、何?」
    「やっぱりアンタ面白いねぇ!いや!アタシが想像してたよりも!ずっと!ずーっと!面白いわ!」
    満面の笑みで言う。なんか怖い。顔や身体に返り血でベトベトで両手両足は真っ赤に染まってるから余計に怖い。これが狂気の連続殺人鬼、“殺戮の悪魔“なのか。
    「……何が、言いたい?」
    「なんかね!腕を砕くのも、殺すのも勿体なくなってきちゃったわ!」
    「……え?」
    「いいわ!今はアンタを殺さない。アタシが標的になってアンタが殺しに来るまではね!」
    開いた口が塞がらなかった。気分が変わった瑠花は明るく言う。ほんとにこの女サイコパスだ。今までどんな風に生きてきたのかが不思議に思えてきた。

    「おいおいおい。なんちゅー地獄絵図なんだよ」

    「「」」
    すると突然、男の声がした。見るとそこには派手な柄をしたシャツを着たスーツ姿の男が立っていた。
    「うわぁ、うちの手下達が……」
    その男はこのヤクザの組長だ。組長は無惨な姿になって散らばる死体を見渡して呟いた。
    (……この女に気を取られて、気付かなかった!)
    「アンタ誰?」
    緊張感が高まる一方で、平然とした表情で問いかける瑠花。かなり呑気だ。
    「……ここの組長、だね」
    「そうだ。お前があの"人斬り人形"って呼ばれてる殺し屋か」
    そう言いながら組長は凜々愛に向かって歩く。
    「……その呼び方、やめて」
    (アラー……この子そんなん言われてんだ)
    「そっちの女はあの連続殺人犯か」
    「えへっ、正解〜!」
    瑠花を素通りする組長は視線だけ彼女に向けて言った。瑠花は顔の横でピースサインを作って笑顔で言ってみた。
    「今ここで2人とも消すか」
    「無視酷くなーい」
    瑠花のことを完全に無視している組長はそう言って懐から銃を取り出し、凜々愛の額に向けた。
    「……っ!」
    凜々愛は刀を地面に突き刺して杖のようにして、壁を這って立ち上がった。その目は相手に歯向かう獣のような鋭さを放っていた。
    「抗う気か。けどこれで終わりだ」
    嘲笑う組長は引き金に指を掛けた。そのまま指を曲げようとした……
    その瞬間……!
    ゴキィ
    頭蓋骨が砕ける音がした。
    瑠花が組長の頭を後ろから思いっきり蹴ったのだ。組長はその場に倒れた。
    「この殺し屋女を殺すのはアタシよ!」
    「……えっ?」
    それで今助けたのかと、凜々愛は目を見開いていた。振り上げた脚を下ろした瑠花は、今度は凜々愛の方をじっと見つめてこう言った。
    「いーい?アンタは絶対にアタシが殺す!それまでに絶対に死ぬんじゃないわよ!もし死んだら許さないんだからね!」
    「……!」
    また開いた口が塞がらなかった。すると凜々愛が驚いているその時、唸り声が聞こえた。声のする方を見ると、ついさっき瑠花に頭を砕かれたはずの組長が……まだ生きてた
    「アガッ……死ね…………殺人…鬼!」
    「」
    頭から出た血で真っ赤に染まった状態で険しい顔で倒れた姿勢のまま瑠花に銃口を向けた。
    ザシュッ!
    しかし引き金に指がかかってない瞬間に組長の首が斬られた。斬り落とされた首が転がり、断面から大量の血飛沫を浴びる凜々愛。彼女が斬ったのだ。それも眉を一切動いていない無表情で、「人斬り人形」と呼ばれるのもおかしくはないくらいだった。
    「……任務完ry…」
    バッ!
    「……」
    任務完了、と呟きかけた時だった。突然瑠花が駆け寄り、凜々愛にぎゅうっとハグをした。骨が砕けない程度の力加減で。
    「すっごーい」
    「……え、な、何」
    予期せぬ行動に戸惑う凜々愛。
    「斬首!初めて……いや、久々かな?見た!あんなに血い出るんだ!!」
    瑠花は目を輝かせてさせて言った。またサイコパスなことを言っているが、なんだろうか…なんだかさっきとは違って…少し純粋さがあって?ものすごく嬉しそうだった。
    「ねぇ!殺し屋女!」
    瑠花は凜々愛と顔を合わせて言った。
    「アタシ!アンタが気に入った!やっぱり殺さない!アタシが標的になっても!」
    「……え」
    「アンタを生かしておく!」
    「…………」
    もう頭が回らなくなってきた凜々愛。しかしこれで命拾いはしたと確信した。
    「……そ、そう。わ、わかった…?」
    「あははっ!」
    ニコニコしている瑠花。先程の不気味な笑みとは違っていて、サイコパス感を全く感じさせなかった。
    それにしても少し意外だった。まさか世間を騒がせている連続殺人の犯人が、こんなギャルだとは思わなかった。どこの学校にもいる声のデカいキャピキャピの一軍女子のようだった。教室で完全に気配を消していた自分とは正反対だ。
    「……ねえ、えっと、早乙女…ルカ?」
    「うん!瑠花だよ!なーに一?」
    凜々愛は目を逸らして言った。この距離で目を合わせるのは、人見知りの彼女にとって不得意なものだった。が、瑠花はそれに気にせず明るく言った。もう友達になったかのようだった。
    「……唐突だけど、いい?」
    「いいよぉ?」
    恐る恐る尋ねた。先程からの打って変わった言動に引っかかったことがあるからだ。
    「……君は、孤独を感じてたの?」
    「」
    マジで唐突なことを聞き出した凜々愛に、瑠花はにこやかな表情を変えないまま驚いた。声が出ない。しばらく黙り込んだ。
    「……さっき、感じたの」
    凜々愛は後付けするように静かに言った。瑠花にハグされた時の嬉しさから感じさせるものが、もう一つあった。
    それは「孤独からの解放感」だった。瑠花からにはそんな感情が伝わった。
    「……そだね、今のアタシには居場所がなくて、ずっと孤独だったの」

    「…身内を皆殺しにされてから、ね」

    瑠花は少し泣きそうな、悲しい表情をした。しかし口元は笑っているままだ。いつ何時でも笑顔を絶やさないようと誓っているようだった。
    「……あ、な、なんか!ごめん!思い出させちゃったね……ごめんなさい」
    瑠花の表情を見た凜々愛は慌てて謝った。この世界(裏社会)を生きる者は全員訳ありだ。殺し屋であろうがマフィアであろうが、みんな過去に何かあって心に傷を負っている。だから基本的に干渉はしないようにしていた。しかし、なぜだか……干渉してしまった。
    「ううん!吐き出してスッキリした!ありがと!」
    「……そっか」
    瑠花は気を遣う凜々愛に明るい声で言った。本当に気にしていない…ようだ。この時、ふと凜々愛が任務前の店長の言葉が脳裏に浮かんだ。

    『なんなら採用したいものですね』

    「……あ、あのさ。居場所、無いんだっけ?」
    「うん。今のところはね」
    「……君は、こういう…ヤクザとかの犯罪者しか、殺さないの?」
    「うん!そうそう!」
    続けて質問する凜々愛。
    ここだ。ここで言うんだ。そう決心した。
    「……じゃ、じゃあさ!」

    「……君も殺し屋にならない?」

    思い切って口にした。
    「えっ」
    「……えっと、その…い、居場所無いんでしょ?だから…! ボクが居場所を作ってあげる!」
    「なんで」
    しどろもどろに言う凜々愛に、瑠花は目を丸める。何故なのか分からなかった。さっきまで殺そうとしていたのに、どうしてそんなに優しくするのかが。快楽殺人鬼の瑠花には分からなかった。
    「……その、お返し。ボクを生かしておいてくれたことの」
    凜々愛は少し照れくさそうだが、この時、初めてちゃんと目を合わせて言えた。
    「いいのでも、アタシみたいな殺人鬼……標的にされるべきなのに、受け入れてくれるのかな?」
    瑠花は嬉しそうだが、不安でもあった。自分は殺人鬼。秩序や平和を守るために悪人を殺すなどの使命感は皆無。ただひたすら快楽のために殺しきた。そんな自分が"そっち側"に来ていいのかが不安だった。
    「……大丈夫。君はまだボク達の標的にされてない。それに、店長が言ってた。『なんなら採用したいもの』だって」
    不安そうな瑠花を見て察した凜々愛はそう優しく言った。
    「あ、アタシが…採用」
    店長って誰? と頭の中で思いつつ、瑠花の中の不安がスっと消えた。
    「......だから、一緒に行こ!君にしか出来ないこと、あるかもしれない!」
    そう凜々愛は手を差し伸べて言った。もう目を逸らさない。真っ直ぐ瑠花の目を見て言った。
    「うん!アタシ!殺し屋になる!」
    その言葉で決心が付いた瑠花はその手を掴んだ。表情がより明るくなった。今までの人生で一番嬉しいと言っても過言ではなかった。
    それを見た凜々愛も嬉しそうな表情をした。その後、彼女は処理班に任務完了と、入社希望者のことを店長に伝えるよう連絡し、瑠花を連れて"IBUKI"へ向かった。


    "IBUKI"本部、店長室。
    「戻りましたか」
    デスクに座る店長が言った。
    「……任務完了」
    「ご苦労さまです。それで、そちらの方が……例の入社希望者……ですね?」
    店長は報告書を受け取るのと同時に、彼の視界に紫のバンダナや丈の短いジャケットといった、凜々愛とは対称的な色合いが映った。
    「……はい」
    凜々愛の隣には瑠花がニコニコして立っていた。
    「初めまして!早乙女瑠花でーっす!」
    瑠花は元気よく自己紹介した。
    「これはこれは…元気のいい入社希望者ですね」
    「……店長が採用したいなと言ってた例の殺人鬼です」
    「おや、そうですか。ふーん…………
    ……………………え」
    サラッと言う凜々愛と、店長は、入社希望の正体が例の殺人鬼だということと、その張本人と今対面していることにフリーズした。
    「……採用したいものだと仰いましたよね?」
    追い討ちをかけるように言う凜々愛。
    「え、あぁ、はい…………って、いやいやいや!
    どういうことですか説明してください!入社希望者が来るのは聞いてますが例の殺人鬼だとは聞いていませんよ」
    これは流石に店長も冷静ではなかった。
    「……はい。実は…かくかくしかじか…………」
    凜々愛は任務であったことを店長に説明した。

    「なるほど…そういうことでしたか」
    凜々愛の説明を聞くと、店長は考えているのか、しばらく黙り込んだ。部屋はシーンと静かになった。
    「…いいでしょう。その殺人鬼さんはそれなりの戦闘能力があるそうですね。……採用します」
    「……!」
    「ありがとうございまーす」


    瑠花に組織についての説明を終えた後、二人は店長室を出た。再びこの広い部屋で、店長一人になった。
    そして店長はデスクに肘を付いて頭を抱えた。
    「うちで一番淑やかな部下が凄いもん連れて帰ってきた……」
    店長はため息混じりで、独り言を呟いた。
    実を言うと店長は瑠花が部屋に入った時に察しが付いていた。この女は只者ではないこと、殺しに向いていることなどが、目に狂いがない店長の脳裏に浮かんだ。しかしそれが例の殺人鬼だったことや、冗談半分で言ったつもりが、まさか本当に採用することになるとは思いもよらなかった。部下にいらんことを言ってしまったなと少し後悔したが、考えるのをやめた。


    屋上。凜々愛は瑠花に本部の中を案内していた。
    「……ここが屋上。ボクはリラックスしたい時、ここに来るんだ」
    「おー!空めっちゃ広い!」
    瑠花は天を仰いで言った。ビルのせいで空が見える面積が小さい都会で過ごすうちに、本当の空の大きさが、網膜に焼き付いた。
    「お!おかえり凜々愛〜」
    するとフェンスにもたれかかった赤いジャケットを羽織った関西弁の女がいた。桃音だ。手にはぶどう味サイダーのペットボトルが握られていた。
    「……あ、桃音!」
    「誰〜?」
    桃音に気付いた凜々愛の背中からひょこっと顔を出して言う瑠花。
    (? 誰や? 凜々愛の新しい友達? )
    「……あ、紹介するね。桃音、こっちは新しく入った早乙女瑠花。瑠花、こっちはボクの相棒の百峰桃音」
    凜々愛は二人の間をとって紹介をした。
    「桃音や!よろしく!」
    「よろしく〜!てゆーか大阪の人?リアル関西弁初めて聞いたんだけどー!なんか可愛い!」
    「あははっ、おおきに〜!せやねんウチ大阪出身やねん」
    互いに懐が広いのか二人は会って三秒で話が盛り上がった。
    「……ちなみに、任務に行く前に言ってた、例の殺人鬼だよ」
    「おー、そうなんや!……………………
    ………………え、なんて?」
    やはり桃音も店長と全く同じ反応をした。
    「実は…………(以下略)」
    凜々愛は任務であったことを…………(以下略)

    「そ、そうなんや…………よく店長OKしたな?」
    そして、この時桃音も思った。
    (すげぇもん持ち帰ってきた)
    「……ボクも、びっくりしたよ」
    桃音のあからさまに驚いている表情を見て、凜々愛がそう言った。
    「アタシもー!てっきり殺されるかと思った!」
    「う、うん……良かったな」
    こうして桃音達に新たに狂気で愉快な仲間が一人増えたのであった。

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