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    もっちゃん

    @motchan615
    自創作『暗黒街の銃声』
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    もっちゃん

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    暗黒街の銃声

    第七話 "狼男"三日前。暗黒街某所。
    廃ビルの地下にある薄暗い部屋に蔵面で顔を隠した和服姿の男が座布団の上で あぐらをかいていた。
    「要件は?」
    「あ、あの……この、ギャングを殺して欲しいのです」
    目の前に正座をしているのは依頼人である男。普通の人とは違う独特で妙な気配漂わせる相手に怖気付いているのか、顔をよく見られず、しどろもどろに言った。
    「理由は?」
    「ふぁ……ファミリーのです。お、お恥ずかしながら…僕は無力のあまり……どうにもできなくて…!」
    依頼人は"標的"の写真と資料を差し出して言った。和服姿の男は受け取り目を通した。
    「……承知した」
    「あ…ありがとうございます!」
    依頼人は勢いよく頭を下げて礼を言った。
    「前払いじゃ」
    「は…はい…!」



    現在。暗黒街西市街地の交差点。
    暗黒街こと地覇那区に存在する暗殺組織"IBUKI"に属する殺し屋"爆弾軍曹"こと核山康一は、任務を終えて帰宅の最中だった。フルフェイスヘルメットを被って黒いハーレーを走らせていた。
    (確かここは……元々隣町だったんだよな)
    この西市街地はかつての暗黒街の隣町だった。しかし七年前に大規模な極悪非道な犯罪組織と日本政府との戦い、『地覇那区・曼珠事変』が勃発し、その戦場となったのがきっかけでこの街も今の暗黒街の一部へと化したのだ。今でもこの辺りは旧曼珠市とも呼ばれている。
    (この前倒した元伍長って言ってたヤツ、なんか思い出せるような…思い出せないような……)
    その戦争で日本政府軍の軍曹だった康一は前回の任務で再会した何故かマフィアのボスになった元伍長の言葉を思い出す。


    『感情がない心がない、戦って敵を殲滅することしか脳が無い道具みたいな奴!!まるで生きている感じがしねぇなあ!』


    (………え?俺そんなん思われてたのか?)
    赤信号で停止して、少し冷静になって考えてみた。しかし康一はそれすら忘れていた。いや、そもそも気付いていなかったかもしれない。
    (うん!忘れよう!もう過ぎた事だしな!)
    康一はポジティブ思考しかなかった。この性格からして、誰もが嫌なことを考えてなさそうなどの偏見を持っていたが、実際にそうだった。
    (…ん?そういえば俺、なんか重要なこと忘れてるような気が?……まぁいいか)
    別のことに疑問に思いながら康一は信号が変わると共に再びバイクを走らせた。


    暗黒街中央区の道路に入った。康一はまた赤信号で止まった。しかし人気がなかったため、止まった意味がないように感じた。
    「さって、家帰って筋トレすっかぁ」
    自宅にある筋トレ器具を思い浮かべながら呑気に独り言を言った。
    カッカッカッカッカッカッカッ!
    「…なんだ」
    すると背後から殺意と共に下駄の音が近づいて来たことに気付いた。康一は振り向いた瞬間、目の前に大きな刃物があった。
    「うわあぁ」

    ドゴォォン!

    派手な音が鳴り響いた。康一はギリギリな所を間一髪バイクを降りて避けたが、バイクは前後で真っ二つにされた。
    「あっぶねぇなぁ!なんだよいきな………り?」
    フルフェイスヘルメットを外し反発する康一だが、その姿を見て、嫌な思い出を思い出したかのように息が詰まりそうになった。相手はどこか見覚えのある男だった。
    「見つけたぞお主。今度こそ息を根を止めるぞ」
    その老人口調が妙に威圧感を感じさせた。一瞬顔が女のように見えたが、その声と分かりやすく見せた体で男だとすぐに分かった。
    センター分けの前髪に前下りの髪でよく見たらツーブロックのように下半分は刈り上げられていた。黄色い着物で前を開けていて筋肉質の細いウエストと口元に包帯が巻かれてある。足袋と下駄を履いていて両手には篭手をしていて二刀流で歯が黒く変わった形をした大きな刃を握っている。
    「な、なんでまだ覚えているんだよ…てか、なんでずっと追って来るんだよお前は…」
    青ざめる康一は声を震わせた。
    「当たり前じゃ。お主は我の仕事場を見たからのう。我を見た者は生かしておく訳にはいかんのじゃ」
    和服姿の男はこちらを睨み付け、片方の刃を康一の首に当てて答えた。
    「くっ…しつけぇ奴だぜ!」
    康一は後ろに下がると共に斬撃を躱し、そのまま駆け出した。
    「待てい!」
    和服姿の男は見るからに重い武器を構えたまま康一を追った。


    二時間後。康ーとその男の鬼ごっこはまだ続いた。暗黒街のあちらこちらを駆け巡り、今現在、路地裏を駆け抜けていた。
    (こいつ…!何処までも追ってきやがる!)
    これまで何回も撒いては見つかって追われるの繰り返しだったが、今回はそうにはいかない。なかなか撒くことができなかった。
    「お主!いい加減に懲りろ!」
    「お前が懲りろ……よっ!」
    ダァン!ガラガラガラッ!

    そう言いながら康一は足手まといに目の前にあったドラム缶を倒した。しかし和服姿の男はそれらを難なく飛び越えてしまった。
    (くっそお…しぶとい奴め。こうなったら!)
    康一はズボンのポケットから卓球のボールと同じサイズの玉を三つほど取り出し、男に向かって投げた。
    「ふん!無駄じゃ!」
    男は康一が投げた玉を全て斬り捨てた。するとその瞬間……
    ボフゥ
    「な、なんじゃ」
    男が斬った玉が爆発し白い煙がその周囲を覆った。目くらましだ。
    「こんな小細工を…!」
    視界を遮る煙を払うと、そこには既に康一の姿が無かった。
    「彼奴(あやつ)…!また逃げよったな!」
    男は歯を食いしばって再び彼を探しに駆け出した。


    夕方。誰もいない路地裏につい最近"IBUKI"に加入した情報屋"アウイナイト"こと琉芭大輝がいた。
    「…しまった」
    大輝の足元には数人のチンピラが倒れていた。大輝がフルボッコにしてしまったのだ。
    (またやっちまったな…まあいいか。どうせすぐ目が覚めるし、こいつらも自重はするだろう……多分)
    大輝は倒れているチンピラを上を跨いでその場を離れた。彼には悩みの種があった。それは路地裏のチンピラやそのカツアゲを見ると"昔のこと"を思い出しまい、反射的に全員フルボッコにしてしまうことだ。上手く言えないが拒絶反応のような感じだ。チンピラが殴りにかかる時、毎回嫌な思い出を思い出してドクンッと心臓が高鳴るのだ。
    (この癖直んねぇかな…)
    そう思いながら大輝は重い心臓を軽くしようと、ポケットからタバコを取り出し1本咥え火を付けた。
    「まぁ、一生無理かもしんねぇな…」
    ふぅ、と深呼吸するように煙を吹き出して、そう呟いた。大輝はそのまま何も考えず、路地裏の奥へ入っていった。

    しばらく放心状態で歩いた大輝。しかし次の角を曲がると、彼はピタリと動きが止まった。
    「………え?」
    そこで見たものに驚き、ついさっき火をつけたばかりのタバコを落としてしまった。その目の矢先には……
    「おや、大輝ですか」
    闇医者の影城 不死夜が壁にもたれて立っていた。
    「お、おう……」
    その姿を見た第一声が簡単な相槌(あいづち)だった。むしろそれしか出なかった。
    (……は?待て待て、なんでお前がここに…?いや外にいるコイツが地上にいるだと)
    大輝が驚いているのは不死夜が外に出ていることだ。彼は引きこもりで全く外には出ることはなくずっと地下室にいるはずだった。外に出た所を見たことは一度もなかった。
    「…?大輝?」
    不死夜は首を傾げて言った。彼の濁った目が呆然とする大輝を見つめていた。
    (…え、タバコ吸ってる?しかもすげぇ吸ってる)
    大輝が驚くのは不死夜自身が外に居ることだけではなかった。不死夜の手には吸いかけのタバコがあった。彼の隣には灰皿の台があって、その上には吸殻の山が積もっていた。
    「…お、お前……ヘビースモーカーなのか?」
    「はい?」
    やっと出た言葉がそれだった。いや違う。そうじゃない。自分が言いたいのはそれじゃない。
    「あ、いや!なんでお前ここに居んだよ」
    「何故って、タバコ吸いに外に出ただけですが?」
    本当に言いたいことを言えた大輝に、何を言い出すんだとでも言うような表情でこちらを見てきた。
    「そうじゃなくてよ、ここおん家のじやねえよな?引きこもりのお前も出歩くのか?」
    「僕は外なんか出歩きませんよ」
    「…?」
    矛盾してる。しかも現在進行形で外にいる奴に外は出歩かないと言われた。
    「あぁ、そうでした。言ってませんでしたね」
    不死夜はフゥと煙を吐き、指に挟んでた短くなったタバコ吸殻の山に押し付けた。
    「僕、ここに引っ越しました」
    「……は?」
    「正確に言えばこの病院に戻った……とでも言いましょうか」
    不死夜は淡々と話すが、さらに理解が追いつかなかった。
    引っ越し…? 病院…? 戻った……?
    「…待ってくれ、どういうことだ?情報が……」
    「おや、情報屋ですら整理しずらいですか」
    煽っているのか………というわけでもなさそうが地味に腹が立った。整理しずらいというか、そもそも不死夜が外、地上に居る寸前でもう既に衝撃的だった。
    「ここ、見覚えありません?」
    すると不死夜は地面に指をさして言った。まるでそれがヒントのようだった。
    「ここ…?」
    一瞬わからなかったが、すぐに気付いた。ここは先日、公安に捕まって潰された漆門(うるしかど)闇病院がある場所だ。不死夜が持たれている壁を見ると立ち入り禁止の札が掛けられたドアがあった。このドアの向こうには地下へ続く階段があるのは覚えている。
    「ここ潰されて今は誰もいねぇんだよな」
    「居ますね。僕だけが」
    訂正する不死夜のセリフでどういう意味か察した。
    「つまりお前、廃墟となったこの病院に住み込んだってことか」
    「ご名答です」
    答えにたどり着いた大輝。不死夜がしているのは完全に違法だ。住居侵入罪や建造物侵入罪に問われる。しかし闇医者をしている時点で今更なんとも言えない。大輝たちも人のことを全く言えない立場だ。
    「待った?撤去されねぇのか?」
    ふと疑問に思った大輝は不死夜に言った。すると不死夜は新しいタバコの箱を開けて一本取り出し、火をつけて吸って吐いた。
    「大輝、ここは犯罪係数日本一の暗黒街ですよ?ただでさえマフィアやギャング等の事件が多いというのに一々廃病棟の取り壊しする暇なんか無いのですよ」
    不死夜は淡々とそう話した。彼の言う通りだった。ココ最近……いや、何年も前からこの暗黒街はマフィア絡みの事件が多い。そんな忙しい状況に闇病院の撤去に付き合ってられるかという話だ。
    「なるほどな…。でもなんでこの病院にだ?てか、”戻った”ってどういう意味だよ?」
    「あぁ…それは………」

    「うあああああ」

    不死夜がその訳を話そうとしたが、叫び声によって遮られた。
    「なんだ…?」
    「この声…康一では?」
    大輝もこの声を聞いてわかった。相棒の康一だ。
    「やっぱ康一だな。なんか様子が変だな?」
    声がした方を見ると、向こうに康一が慌てている動作をしている。そして大輝達に気付いた康一はこちらに向かって走ってくる。
    「よぉ康一。何焦ってんだ?」
    「大輝!不死夜!助けてくれ!」
    康一は大輝と不死夜の肩を揺さぶって必死に訴えた。
    「はい?」
    「追われているんだよ!匿ってくれ!」
    カッカッカッカッカッカッ!
    何に追われているんだ?と聞く前に、それに答えるように下駄の音が遠くからした。康一が来た方からだ。
    「やっべぇもう来やがった!」
    「康一、中へ!」
    不死夜は自分のすぐ隣にあるドアに康一を入るように言い、ドアを閉める。
    「康一のやつ……一体誰に追われてるっつうんだが」
    大輝は康ーが来た方向の角を眺めながら言った。あの恐れ知らずなスーパーポジティブ人間の康一がらしくない表情とその焦りようにさせるとは、一体どんな奴なのだと思った。するとそこに康一を追っている者らしき姿が見えた。しかしこちらの存在に気付いたのか焦るように身を隠した。
    「あいつか?」
    「おそらく」
    ちらっとだけだが姿が見えた二人。黒い…ゲームに出てきそうな変わった刃をした二刀流の刀が目に入った。しばらくして男が再び曲がり角から身を出し、こちらへ向かってきた。刀を収めるために一旦身を隠したのだろう。
    「えっと…あの男?ですよね?」
    「…たぶん?なんだアレ?侍?」
    小声で話す不死夜と大輝。和服に、包帯、下駄…ヤクザのような着こなしをしている…想像の斜め上を行った。あと本人には失礼だけど童顔というか女みたいな顔してんなアイツ、というのは、そっと胸に閉まっておいた。
    「お主ら、少し尋ねたいが良いか?」
    康一を追うその和服姿の男は老人口調で尋ねた。
    「おぉ、なんだ?(マジで侍タ●ムスリッパーか?)」
    「この辺りで緑の男を見なかったか?」
    「み、緑の男…?」
    "緑の男"とは康一のことだというのはすぐに分かったが、まさかの色で判別されていて少し笑いそうになった。
    「いや、知らねぇな」
    「見てないですね」
    二人は他人のフリをして言った。二人とも顔に出ないタイプのため、和服姿の男は不審に思わなかった。
    「そうか。逃げ足が速い奴じゃのう……」
    男は不満そうな顔をして呟き、来た方向へ走り去って行った。
    「あいつ、今来た道戻って行ってねえか?」
    「確かに…間違えたのでは?」
    「いや、流石に間違わねえだろ」
    同じ曲がり角を眺めながら話していると、微かにドアの音がした。
    「…行ったか?」
    康一が恐る恐るドアを少し開け、その隙間から顔を覗かせながら言った。
    「行ったぜ」
    「気配無しですね」
    「あー良かっだぁ…!」
    康一は荒い声で深呼吸をしながら出てきた。
    「なんだよ今の奴タイムスリップしてきた侍か?もしくは戦闘民族か何か?」
    大輝がそう尋ねた。てっきり何処ぞのヤクザか警察に目を付けられたのかと思ったら、和服姿の老人口調の男が出てきて思考が止まりかけた。
    「わかんねぇ!けどたぶん殺し屋だ!いや…ありゃただの殺し屋じゃねぇ!」
    「ただの殺し屋ではない?」
    「どういう事だ?」
    和服姿の男を思い浮かべながら訴える康一。不死夜と大輝は『ただの殺し屋ではない』ならなんだと疑問に思った。
    その時だった。
    「…っ!避けろ!」
    「ウゲッ…!」

    ドゴォン

    騒音がした。不死夜が妙な気配と殺気を察知し、すぐ側にいた康一の首元を掴んで引っ張っり、大輝は反射的にその反対方向へ下がった。
    「なんだ…」
    大輝が目を向けたその時、隠しきれない殺気に背筋が凍った。
    真上から人影が降ってきたのだ。
    「そこに居たのかお主…」
    先程の男だった。両手に握られた大きな黒い刃がコンクリートの地面に食い込んでいた。
    「げっ!もう うんざりだぜ!」
    不死夜な引っ張られ、腰を抜かしたままの康一が再び怯え始めた。
    「我ももう、うんざりじゃ。もう…終わりにしよう」
    男は片方の刀を大きく振りかざして言った。彼が康一を睨む目とその絵面は完全に兎を狙う虎のようだった。
    「大人しく懲りて死ね…!」
    「……っ!」
    斧に近いその刃が康一に降りかかる
    …………はずだった。
    ガンッ!
    鉄の音がした。男の攻撃は一切来なかった。康一の目の前には黒……というか、布があった。
    「…へ?」
    「おい…嘘だろ」
    その光景を見た大輝が声を震わせながら言った。
    「なっ……お、お主…」
    男も驚きのあまり手も震わせている。無理もない、何故なら……
    「やれやれ、これだから地上は……」
    康一の目の前には不死夜が突っ立っていた。
    しかも……
    「真上から不意打ちで殺しにかかとは……なかなかな者ですね」
    そう淡々と話す不死夜の腕には、男の刃が受け止められていた。
    「ふ、不死夜」
    「は?えっ…ちょ、はぁ」
    康一は不死夜の真後ろに居たため、彼が腕一本であのデカい刃物を受け止めているのは見えていないが、ほの全体が見えていた大輝はその光景に理解が追いつかなかった。しかも驚くことに、血が一切出ていなかった。
    「不死夜…!お前っ、腕…!」
    「大丈夫です。腕に鉄板を仕込んでるので」
    「なんで…?」
    目を剥く大輝に対して平然として言う不死夜。しかし大輝はなんで? と思う必要は無いと改めて思った。なぜならここは暗黒街だ。犯罪者が集うこの街に住んでたらいつ死ぬのかもわからない。一見安全そうな闇医者だって無防備でいる訳にはいかないのだ。いや、戦わない闇医者だからこそ仕込んでおかなければならないのだ。
    「ふんっ……お主もそんな小細工をするのじゃな。まぁこの街を生きる者ならば然のことか」
    和服姿の男は強ばった表情は変わらぬまま、不死夜を睨みつけながら刀を下ろした。
    「……む?」
    すると男は何かに気付いたのか、目を丸めて不思議に思うような表情に変わった。
    「…お主ら、何故ここに居る?」
    「は?」
    「はい?」
    男は大輝と不死夜に尋ねた。
    「お主ら、場所を移したのか?」
    「?何言ってるんだ?」
    「僕らはずっとここに居ますよ」
    「そんな筈はなかろう。我はお主らと別れてから随分歩いてきた。戻ってくる訳がなかろう」
    まるで自分が正しいと思っているのか、そう話す男。
    「で、でも…上から降って来たよな?」
    康一が口を開いた。なるほど。噛み合わない話が、その一言でどういう事なのかが理解できた。
    「アンタ、とてつもない方向音痴ですね」
    不死夜がそう言った。そう、それだ。この男は重度の方向音痴だ。
    「なっ…!誰が方向音痴じゃ!」
    男は不貞腐れた表情でそう言い返した。
    「確定だな。しかしどうやったら同じ道を再び戻って、この建物の上から獲物を目掛けて飛び降りる っていうルートになるんだよ…」
    大輝がこの男と会って、別れて、再び姿を現したこの時までの展開を思い浮かべながら言った。
    「や、やかましい!あぁもういいわい!お主ら諸共切り刻むぞ!我を見たからにはどの道生かす訳にはいかんからのう!」
    ヤケになった男は大輝に斬り掛かった。
    「あっぶねぇ!」
    「すばしっこい奴め!」
    大輝は男の攻撃を避けまくる。
    この殺し屋らしき男は自分のこの刀を抜いた姿を見た者は口封じのために消す主義だと、大輝は察した。
    「大輝!」
    ドスッ!
    康一が叫ぶと共に、男に刺激が走り動きがピタリと止まった。
    「カハッ…」
    見ると男の側には不死夜が居た。彼の拳が男の腹をどついていた。
    「腹パン」
    大輝は目を丸めた。いや、それもそうだが不死夜がいつの間に自分の目の前に移動したのかが不思議だった。さっき康一の真ん前に居たのに、足音も気配も全くしなかった。それに不死夜の足は両足膝下から下は鉄の棒の様な変わった義足なため、足音とか容易に鳴るはずだった。
    「…っ」
    腹をどつかれた男は後ろへよろける。今にも倒れそうだ。倒れ…
    ドサッ
    あ、倒れた。男はその場に倒れてしまった。
    「ヒューッ!助かったぜ!ありがとな不死
    夜!大輝も!」
    緊張感がほぐれた康一は不死夜と大輝に礼を言った。
    「あぁ!それよりこいつどうする?」
    「とりあえず中に入れて尋問します?」
    不死夜は両手にメスや単鈎鉗子、ピンセットなどの様々な医療用具を持ちながら言った。発言と手に持っている物が一致していないことから、それ尋問じゃなくて拷問じゃねぇか?と大輝は思った。いや拷問でもない、解剖でもするようにも見えた。あとどっから出したその量?
    「怖ぇよ」
    「とりあえず…素顔を確認するか」
    そう言いながら大輝は倒れた男の前にしゃがみ、彼の口元の包帯に手を伸ばした。


    視界が歪み暗くなる。黒い男に腹を殴られてその衝撃と痛みが身体中を刺激する。頭がグラグラする……気が……遠くなって…き…そう……
    〔…おい、やめろ〕
    暗くなった視界の中、声が聞こえた。
    〔気絶するな〕
    彼奴か…久々に聞いたのう……
    〔今ここでテメェと入れ替わるとめんどくせえ。俺ゃ今出る気はねえ〕
    相変わらずの荒い口調が朦朧とする意識の中で主張する。

    〔さっさと目ぇ覚ませ!しっかりしろ!この天然野郎が〕

    「ハッ…!」
    胸ぐらを掴まれたような感覚で叩き起された男は、気付いたら目の前に大輝の手が男の顔を覆うようにあった。
    パシッ
    ドガッ!
    「アガッ…」
    男は大輝の手が自分の口元の包帯を握る前に手で弾き、すかさず大輝の腹を思いっきり蹴った。
    「大輝!」
    「もう起きましたか…!」
    康一と不死夜は大輝に駆け寄った。倒れていた男は勢いよく起き上がり、二刀の刀を構える。また、下駄で蹴り飛ばされた大輝は向かいの壁に座り込み、腹部を押さえて咳き込んでいた。
    「グッ…!お、お主ら…よくも!」
    (っ! やべぇ…!)
    こちらを睨みつけるその目と剥き出しの殺気で大輝は危機感を覚えた。この男の怒りは沸点に達している。間違いなく本気で殺しにかかると、殺し屋でもない自分でも感じ取れた。
    「お主ら全員生かしておかぬ!」
    ダッ
    「「「  」」」
    男は跳躍し二刀の刀を交差にしてから振りかざし、三人の首を斬るうとした。
    すると………

    「悟郎!」

    叫び声に近い、誰かの名を呼ぶ声がした。
    「へぇ」
    ズシャアアア…!
    男はその声に反応したのか、斬りかかるのを中断しそのまま大輝達にヒョイっと避けられダイレクトに地面に突っ込んだ。
    「あっぶねぇ…」
    (この声、確か!)
    康一が地面に突っ込んだ男を見ながら呟く横で、不死夜と大輝は声がした方向を見る。そこには髪の長い知ってる顔をした女がいた。
    「凛々愛」
    大輝がその女の名を言った。彼女は"IBUKI"の殺し屋、日本刀の舞うかの如くに扱うお淑やかな桃音の相棒、神楽凛々愛だった。
    「……な、何してる…の?」
    疑いの目を向けて尋ねる凛々愛。
    「あぁ……この男が康一を殺しにかかって来て……それで俺らにも…」
    大輝は簡単に説明したが、凛々愛は何故か黙ったままで、じっとこちらを見つめていた。
    「っていうか!そもそもなんで康一はこんな奴に追われてんだ?」
    この少し気まづい空気を切り替えたいのと、何故こうなったかの理由が知りたいという二つの思いを込めて康一に尋ねた。
    「あ〜、それはな………」
    康一はなぜ自分が追われている身になっているかの訳を話しだした。


    三日前。某ギャングのアジト前。この日は康一の単独任務だった。
    「よっし!行くか!」
    気合を入れ、康一は首にかけてたゴーグルを装着した後にドアノブに手をかけようとした…
    その瞬間だった。
    ダァン!
    「」
    中から大きな音がした。さらにドアの向こうからギャング達がパニックになっている声が聞こえた。
    「なんだ?何が起きているんだ…?」
    康一はドアを開けて気付かれないようこっそり入っていった。


    康一はアジトに入り込み、誰も居ない廊下を走り続けると、宴会場に辿り着いた。
    (うわぁ…マジかよ)
    康一は誰一人として居ない下から宴会場を覗いて様子を見ていた。そこは華やかな宴会場ではなく最早処刑場のように化していた。ギャング達の四肢や生首がバラバラになって転がっている。壁や床、軽く天井にまで真っ赤に染まっていた。
    「な、なんなんだお前」
    康一が覗くその先には、一人のギャングの男が声を震わせていた。
    (誰だアイツ…?)
    康一は視点を変えた。バラバラ死体を足元にして立っているのは、和服を着て両手に二刀流の黒い刃をした刀…というか斧に近い武器を持っている和服姿の男だった。
    「お、おい…こいつまさか、"狼男"じゃねぇか」
    (お、狼男?)
    「う、噂で聞いたぞ!お前!"狼男"だろそうだろう」
    その男は最後の一人になって焦り出した。
    「……だから何じゃ」
    ザシュッ!
    和服姿の男はその一言をかけた後、冷めた目でギャングの首を斬り落とした。
    コロコロコロ……
    (げっ、生首こっち来んなよ気色悪い…)
    斬り落とされたその頭が康一の真横に転がってきた。しかもピンポイントにこっち向いて止まり、生首と目が合ってしまった。
    「さて…後始末を……」
    和服姿の男は武器を収めてそう呟いた。この転がっている死体を自分で処理するつもりのようだった。
    ("IBUKI"の人間じゃねぇ?何者なんだアイツ?あと俺今回何もしてねぇじゃん……)
    一度覗くのをやめて身を隠して考えた。しかし再び覗き込むと、和服の男の姿が無かった。
    (…?どこ行った?)
    しかし、あの男がどこに行ったのかはすぐにわかった。ヒヤッとした感覚。気が付くと康一の首元に大きな黒い刃が当てられていた。
    「動くな」
    背後から威圧感を感じる声がした。あの和服姿の男だった。
    「…お、お前!」
    しまった、と焦りながら康一は背後を取った和服姿の男の顔を見た。言動とは反してどこか儚いような、少し女顔の男だった。
    「このギャングの一味か?」
    「いや、ち、違え!!お、おお俺は本来…こ、こいつらを始末しに来たんだ!!そ、そこでお前が…!」
    和服姿の男が尋ねると、康一はテンパりながらも説明した。しかし何故なのか。元軍人の康一が刃を当てられただけでこんなに焦るのは無い。丸腰なら分かるが決して不利な状態ではない。なんなのか……背筋が凍ったのはきっと、この男がそこらの殺し屋とは何かが違う気配をした、明らかに異質だったからだ。
    「なるほど…時にお主、我の仕事を見たな?」
    ギャングの一味ではないことは分かってくれたのだろうが、男が康一を睨みながら言った。康一はものすごく嫌な予感がした。答えることもなく、黙り込んだままだった。
    「まぁ良い。死んでもらう」
    「は?」
    唐突すぎて思考が止まりかけた。
    (はあああ嘘だろ俺こんな奴に殺されんのか俺今回何もしてねぇのに!(二回目)ただでさえこいつに仕事取られたっつうのに!)
    康一は思いもよらぬ展開と彼の発言で衝撃を受けた。さっきの『どこか儚いような少し女顔の男』は取り消そう。この男、ゴリゴリの大和男子の殺し屋だ。康一はそんな思いを込めながら、片手で男の刃を握る腕を掴んで自分の首が斬れないように押さえた。
    「!お、お主!離せ…! っ…力強いのう」
    男は掴まれた腕を引き離そうとしたが、ピクともしなかった。リンゴを素手で半分こできる程の握力と軍で鍛えられた腕力のある康一には男の腕を掴んで止めるのは容易でもあった。
    ......いや、本人は結構焦っているので容易ではなかったかもしれない。
    「お前なんかに殺されてたまるか!」
    もう片方の手で自分のポケットから何かを取り出し、その場に落とした。
    「…?」
    足元に落ちた怪しげな物を見て、和服姿の男は刃を下に向けて持ち替えたもう片方の刀で康一を脳天から串刺しにしようと振り上げた手が止まった。
    ピカアアア
    「ぐっ…!なんじゃ」
    閃光弾だった。
    「…っ!うぅ……」
    和服姿の男は握っていた刀が手から離れ、目を押さえて苦しんだ。
    「あ、あの男……逃げよったな!」
    立ちくらみが治った男は康一が隙を見て逃げていったことに気付いた。
    「…我を見たものは、生かしてはおけん!」
    そう言った男は刀を拾い、宴会場を飛び出した。


    「……という訳なんだよ」
    そして現在に至る。
    「なるほどな…」
    「あれからもう一週間経ったのか……逃げるのが上手い男じゃのう」
    大輝が相槌をうつと、男は康一をじっと見て言った。
    (康一が一週間逃げ続けれたのってコイツが方向音痴だったお陰じゃねぇのか?)
    大輝はそう思ったが、それは心に閉まっておくことにした。
    「…それで、アンタは結局何者なんですか?なぜ水時そのギャングを殺しに行ったのですか?」
    「…無論、殺し屋だからじゃ。依頼があったからギャングを殺しに来たんじや」
    和服姿の男は不死夜の問いに答えた。
    「というか、凜々愛…こいつと知り合いか?」
    大輝は凜々愛に尋ねた。
    「……紹介するね。この子は、狼石(みだいし)悟郎。ボクの、幼馴染みだよ」
    凜々愛は和服姿の男を紹介する。
    ……ん?
    「え、今幼なじみっつった?」
    は?え?
    「……そうだよ?」
    康一の聞き返しに凜々愛はキョトンとした顔で言った。その隣で不死夜も目を見開いていた。
    「お、幼なじみか…なるほどな。それで凜々愛はこいつのこと知ってるんだな」
    歯切れが悪い大輝は冷静さを保とうとそう言った。まさかそんな関係があったとは思いもよらなかった。それにしても今日はなんか情報量が多い。大輝は一旦落ち着こうと深呼吸した。
    「みだいしってどう書くんだ?」
    「"狼"と"石"で、狼石じゃ」
    呑気に尋ねる康一に、悟郎と呼ばれる彼は説明した。
    (すげぇ苗字だな……まぁ俺も人の事言えないが)
    ※苗字が"琉"と"芭"で、硫芭(りゅうば)の人
    「お主ら、聞きたいことは以上か?なら死んでもらうぞ」
    すると悟郎は刃を大輝、康一、不死夜に向けて言った。質問攻めと康一との会話が異様に馴染みすぎて忘れていた。彼は康一を始め、大輝たちを殺そうとしていたのだ。大輝と康一は動揺するが、不死夜は全く動じていなかった。
    「……!だ、駄目!」
    するとそこへ凜々愛が止めに入った。
    「……駄目だよ悟郎!殺さないで、お願い!」
    凜々愛は必死で悟郎を説得する。
    「いやしかし!……わかった」
    肩を落として言った。
    「え?」
    「マジ?」
    康一と大輝は思わず声がでた。
    「……じゃあ、謝って」
    「うむ…お主ら、すまなかった」
    悟郎は大輝たちに向かって頭を下げた。態度が一変した彼に言葉が出ない大輝と康一は察した。この男、幼馴染みに弱すぎる。凜々愛のセリフ一発でここまで変わるとは相当だ。
    「特にそこの……緑の男」
    「誰が緑の男だ。俺は核山康一!こっちは大輝と不死夜だ」
    悟郎が康一に顔を向けて言うと、康一が自己紹介した。そのついでに、代わりに他二人の名も言った。やけに静かな不死夜は軽く会釈した。
    「えー、ところでよぉ。その悟郎の幼なじみ?その子誰だ?」
    康一は凜々愛を見て尋ねた。彼はかなりフレンドリーな性格であった。自分の命を狙おうとしてきた奴の早速名前で呼び始めた。これが昨日の敵は今日の友というやつか。
    「……あっ!え、えっと…ボ、ボクは…………」
    「神楽 凜々愛」
    キョドる凜々愛の代わりに悟郎が答えた。少し彼女を困らせるなと言わんばかりの顔だった。
    「……よ、よろしく…ね」
    「おう!よろしくな凜々愛!」
    康一は明るく言うが、彼とは真逆で人見知りの凜々愛は、目を逸らしてしまった。
    「…ところで凛々愛はなんで居るんだ?」
    ふと気になった大輝は尋ねた。
    「……仕事帰り」
    「そうか…珍しく桃音とは一緒じゃなかったんだな」
    凜々愛が頷くと、大輝の言葉が耳に入った康一がこちらを見た。
    「ん?桃音…凜々愛…?あぁそうか!凜々愛か!」
    康一はその名を呟いて何か思い出した。
    「前に桃音から聞いたぜ!お前、"IBUKI"の殺し屋で桃音の相棒なんだろ?俺も"IBUKI"の殺し屋なんだ!」
    「……そ、そうなんだ。知ってたんだ、桃音のこと」
    「この前知り合ったんだ!」
    いきなり元気よく話してきたことに驚いた凜々愛は本人なりに頑張って答えた。するとその会話に終止符を打つように、カランと下駄の音がした。
    「すまぬが我は依頼人への報告があるから、これにて失礼する。本来ならばお主を口封じに殺してから伝えるつもりじゃったが、もうその必要は無くなったからのう」
    悟郎は背を向けて振り返るようにこちらを見てそう言った。
    「そうか!じゃあ俺らも帰るぜ」
    康一は相棒である大輝と一緒に帰る前提で言った。悟郎はそのまま立ち去って行った。
    「俺は凜々愛を送って帰る。さっきまたチンピラがいたんだ」
    大輝が お前も付き合え、を加えて言うと康一は凜々愛の隣に立った。
    「紳士だな〜。じゃあ俺らで凜々愛のボディガードだな!」
    「……あ、ありがとう」
    凜々愛は照れくさそうに礼を言った。
    「あれ?不死夜は?」
    康一がふと不死夜がいたはずの方を見ると、彼の姿が無かった。
    「……いない」
    「あいつ何も言わずに帰ったのか」
    「……足音、した?」
    「いや?しなかったな…?」
    凜々愛と大輝は首を傾げた。
    「まぁいいか、行こうぜ!」
    康一がそう言うと、三人は歩き出した。

    「……………」
    大輝は凛々愛とその場を立ち去る前に、チラッと不死夜が使っていた灰皿の台の凹みを見た。
    (不死夜が康一を庇って悟郎の攻撃を片腕で食い止めた時……あいつは鉄板仕込んでいると言ってたな )
    大輝はそう考え事をしながら康一と会話する凜々愛と並んで歩く。
    (悟郎が刀を降ろした時、不死夜の黒い白衣の袖から肌色が見えた。つまり鉄板を仕込んでいたのは嘘だ。てことは…本当に素手で食い止めた…って事か)
    大輝の推理は思わぬ結論に向かっていた。
    (腕一本で食い止めた時、同時に不死夜の義足で灰皿の台を蹴って金属音を鳴らせた。そうすることで本当に腕に仕込んでいた鉄板で食い止めたって思い込ませるためだ)

    けど……なんでそんな真似を?

    「〜〜〜〜〜なぁ大輝!」
    康一の声で大輝はハッとした。気付いたらとっくに路地裏を抜けていた。
    「お前絶対聞いてなかったよな?」
    「悪い」
    「……どうしたの?そんなに、難しい顔して?」
    凜々愛は首を傾げて尋ねた。
    「いや……なんでもない」
    大輝は愛想笑いをして言った。
    「……?そっか」
    「…で、そいつな〜〜〜〜〜〜〜」
    康一はまた話だした。今度は大輝も耳を傾けた。彼は先程の不死夜についてこれ以上考えるのはやめた。ただでさえこの世界(裏社会)には、特に"IBUKI"には人間離れしたヤツが多いというのに。そして何故か不死夜に関してはツッコんだら終わりの様な気がした。と、思っているのは自分だけなのか?という感情を心に閉まって、大輝は凜々愛と康一と共に、暗黒街の夜道を進んで行った。




    "IBUKI"本部にて。
    「百峰くん、少し宜しいでしょうか?」
    廊下で店長が桃音に話しかける。
    「はい?なんでしょう?」
    「実は貴方に………ーーーーーー」
    「え、マジですかい」
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