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    もっちゃん

    @motchan615
    自創作『暗黒街の銃声』
    テラーノベルから移動しました!
    現在スーパーコピペ&リメイク中!!

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    もっちゃん

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    暗黒街の銃声

    第三話 黒衣の闇医者数年前。
    暗い通気路に血が目印のように続いている。暗所恐怖症や閉所恐怖症の者にとっては気が狂いそうなこの通り道で、大輝はスマホのライトで照らしながら進んで行く。撃たれた左肩からの出血が酷い。息を切らしながら這いつくばって進むが、体力が限界に近ずいていた。
    五分後までは。



    前回、初対面で手を組んで任務を完了させた桃音と凜々愛。それをきっかけに二人はコンビを組むことになった。しかしこの件で桃音はマフィアのBOSSにチェーンソーで腹部を斬られ、凜々愛は蹴飛ばされて上半身を強く打ち、二人とも怪我をした。医療部に連絡したが、別件で怪我人が出て手が空いている者が居ないらしい。そこで桃音たちは仕方なく、漆門(うるしかど)地下病院まで足を運ぶことになった。


    「あ〜!めっちゃ痛い」
    「……ほんと、大変だったね」
    路地裏を歩く桃音と凜々愛。ここまではバスに乗って目的地がある所まで来た。そこからは徒歩で人気のない路地裏まで来たのだ。いつも赤いジャケットを肩にかけているが、桃音は傷を隠すために、袖を通していた。
    「おい女ぁ!」
    すると男の声がした。振り向くと六人のチンピラが立っていた。
    「ここを通りたけりゃ金払え!」
    「うわっ」
    「……こんな時に…」
    苦い顔をして声に出た。こういう人気のない路地裏にはヤンキーやチンピラの喧嘩やカツアゲ、薬物を吸う者、密輸業者、がチラホラといる。普通じゃ有り得ないかもしれないが、ここ、日本一治安が悪い暗黒街には当たり前のことだ。
    「なんだぁお前ら?ボロボロじゃねぇか」
    「ははっ!喧嘩に負けたんだろう!」
    チンピラ達は桃音たちを取り囲んで嘲笑うが、全くの的外れだった。こいつらには"本当の殺し合い"というものを知らなさそうだ。程度の低いチンピラ達に桃音と凜々愛は呆れ返っていた。
    「……退いてって、言ってるでしょ」
    「だぁかぁらぁ通りたけりゃ金払えって言ってんだよ」
    一人のチンピラがそう怒鳴ると、凜々愛を壁にドンッと押し付けた。本日二回目だ。
    「……っあぁ!」
    任務で背中を打ち身をしたせいで激しい痛みが走る。凜々愛はその場でうずくまった。
    「凜々愛!………いっ」
    凜々愛に駆け寄ろうとしたが、後ろから髪を掴まれて止められた。
    「でもよぉ、なかなか良い女だぜ?」
    すると1人のチンピラが桃音の顎を下から掴んで言った。
    「触んな…っ」
    「勿体ねぇな!ちぃとばかり遊んでやるか」
    「この際金じゃなくてもいいか!はははっ!」
    気色悪い。体で奉仕ってやつか。闇が深い暗黒街にはもちろん、こういう犯罪も多い。その犠牲になった者も、現在進行形なのも、この路地裏じゃ少なくない。しかしそんな世界に住む桃音たちでも、これだけは死んでも巻き込まれたくなかった。
    「ええんか?世継ぎが生まれへん体にしたるで?」
    桃音は顎を掴むチンピラの手首を握って抵抗し、睨みつけてこう言った。手ぇ出した瞬間 病院送りにしてやろうかという意思を込めて。
    「威勢がいいな。なら分からせてやろうか!」

    「おい」

    桃音を殴ろうとチンピラが拳を振り上げたその瞬間、怒りに満ちた男の声がした。全員が動きを止め、声がした方を見ると、そこに立っているのは紺のスーツを着た長髪の男……
    「テメェら、女に何してんだ?嫌がってんだろ」
    大輝だった。その表情はいつもの女性に優しい紳士的な美青年な彼がしなさそうな、目を見開いてチンピラ達を睨みつけている。
    「大輝!」
    (……誰?)
    桃音の声に、大輝は襲われている女が好きな人である桃音であることに気づき、さらに怒りが増した。
    「テメェら……俺の女に手え出しやがったな」
    (え?"俺の女"って?)
    もっとどす黒い声がした。
    「チッ!だったらなんだぁ」
    するとチンピラ達は標的を桃音と凜々愛から大輝に変え、六人一斉に彼にに飛びかかった。集団リンチするつもりだった。
    「!大k……!」

    バコッ! ボコッ!
    バキッ! ドガッ!
    ゲシッ! ガンツ!
    ガツン! ダンッ!

    「……え」
    「嘘やん……」
    大輝はチンピラ達の攻撃を躱し、殴り蹴り倒した。早くもチンピラ達は彼の足元に倒れていた。しかもどれだけ強くしたのか、所々血を流している。それにも関わらず大輝は無傷でかすり傷一つ無い。そして、彼の目は見開いたままだった。
    「えと、大…輝?」
    「…!しまった。やりすぎたか」
    桃音の声が耳に入ったのか、大輝はハッとして急に正気に戻ったか、さっきとは全く違って冷静になった。どうやら我を忘れ怒りに任せて殴り蹴りまくったようだ。
    「見苦しいとこ見せてしまったな。すまない…」
    (今、一瞬だけ……)
    桃音は黙ったまま、こちらに向かう大輝を見ていた。さっき見えてしまった。チンピラ達が一斉に大輝を襲いかかった時、彼の手がピクッと揺らいだ。どこか虚ろな目をしていて、
    まるで嫌な思い出を思い出したような……
    「…桃音?」
    「…………あっ」
    大輝が目の前に来て声をかけられてハッとした。
    「大丈夫か変なことされなかったか」
    大輝は気を遣うように言った。桃音が恐怖で動かなくなったように見えたからだ。本当はそうでもないが、彼にはそう見えた。
    「ああううん!大丈夫やで!ありがとう!それより大輝は怪我ない?」
    桃音はハッとして体の前で両手を振って言った。
    「そうか…ならよかった。俺は無傷だ(あたふたしてる桃音可愛っ)」
    大輝は胸を撫で下ろして言った。いや、好きな人の目の前だからか、心までは落ち着いてはいないか。
    「凜々愛立てる〜?」
    「……う、うん」
    「ほんま災難やったな」
    桃音は座り込んでいた凜々愛の目の前まで来て、そう言った。
    「桃音、知り合いか?」
    凜々愛が桃音に手を引かれて立ち上がったのを見て、大輝はそう尋ねた。
    「うん。ウチの相棒の凜々愛や!」
    桃音は嬉しそうに凜々愛の横で手をヒラヒラと振って言った。完全にドヤ顔だ。
    「……あっ………っ」
    凜々愛は会釈すると、照れくさそうに桃音の後ろに隠れた。
    「コミュ障やねんこの子」
    「そ、そうか。俺は琉芭(りゅうば)大輝。情報屋だ(ドヤ顔してる桃音可愛い)」
    大輝は軽く自己紹介をした。大輝は凜々愛が桃音の相棒ということは、彼女も"IBUKI"の殺し屋だと悟ったが、組織自体が政府非公認の極秘組織なのは分かっているため、触れないでいた。
    「ていうか、なんでこんな所に………っておい!お前、怪我してるじゃないか!こいつらにやられたのか」
    組織に触れないよう話題を変えようとしたが、桃音の腹部の傷がジャケットの隙間から見えて、そっちの心配をした。
    「ちゃうちゃう。任務でや」
    (……情報部の人、かな?)
    桃音は訂正した。"IBUKI"にとって部外者である大輝は情報部の者だと勘違いする凜々愛は彼をじっと見ながらそう思った。情報部とは組織に所属する情報屋たちのことだ。
    「……ボクは胴体を蹴られて、壁に背中を強く打って…桃音はチェーンソーで、斬りつけられたんだ」
    「ちなみにマフィアのBOSS、めっちゃ狂った男やったわ」
    凜々愛の説明に続いて桃音が後付けした。
    「なに女相手にそんな事できるとかとんでもねぇ野郎だなそれでも男か!」
    大輝は女性に人一倍優しいので、女性が傷ついたら絶対に許せないのであった。それも好きな人が…………以下略
    「ホンマにな!腹立ったわアイツー!」
    「……わかる」
    愚痴を言う桃音と全くもって同感な凜々愛。
    「そんでな。今からこの先の闇病院に行くねん。ほら、漆門地下病院」
    「……医療部、誰も手が空いてないから、ここまで来た。」
    「んで!チンピラに絡まれたって話やねん」
    「そうか……(凜々愛まさか俺のこと"IBUKI"の人間と勘違いしてる?)」
    桃音と凜々愛の説明に相槌を打つ大輝は、凜々愛が自分が同僚と思い込んでいることを察した。
    「ところで桃音…………すげぇ言い難いがその病院、今朝 公安にバレてみんな捕まったぜ」
    大輝が言いにくそうな、申し訳なさそうに言った。
    「え」
    「……嘘っ」
    その言葉で一気に気持ちが下がった。ここ暗黒街こと地覇那区(ちのはなく)は、地元警察だけでは対処しているが、裏社会の組織が関わると、公安の一部に存在する「暗黒街課」のみが対処可能になる。今回の漆門地下病院はその公安の暗黒街課の逮捕対象になってしまったのだ。その「暗黒街課」は桃音たち殺し屋はもちろん、暗黒街の犯罪者にとって天敵であり、一度捕まったら終わりだと言われるほど恐れられている。
    「最っ悪!これやから公安嫌いやねん!」
    「……どうする桃音?特に桃音、重傷じゃん」
    文句を言う桃音と悩む凜々愛。こっちはチェンソー食らったというのに、天敵にこれから行く闇病院を潰されるなんて最悪にもほどかある。
    「…あっ、俺の友人に腕の良い医者がいるぜ。アイツならいけるだろ」
    そうだと思い出した大輝が口を開いた。
    「え、マジで」
    「……よかった」
    「この辺だから近いぜ」
    そう言いながら大輝は歩きだし、桃音と凜々愛はあとをつけた。


    三人は路地裏を少し歩いてから廃ビルの勝手口らしき入口から地下への階段を下りていた。
    「地下なんや」
    桃音は廃墟のような薄暗いこの場所を見渡しながら言った。
    「……その人って、どんな人?」
    「そうだな………」
    凜々愛が尋ねると、大輝は少し考えた。どう説明しようかわからないようだった。
    「外見と内面が一致していない男……だな」
    考えた末に出た答えがこれだった。それを聞いて桃音と凜々愛は首を傾げた。
    「そうだ。あいつはマジで人並みを超えている……色んな意味でな」
    「どゆこと?」
    「着いたぜ」
    階段を下りてから長い通路を歩き続け、ついに一番奥までたどり着いた。目の前にいかにも頑丈そうな鉄の扉が目の前にあらわれた。おそらくここのようだ。
    ゴンッ ゴンッ
    「おーいフジヤー!いるか?」
    大輝はノックして中に聞こえるよう大きめな声で言った。どうやらその闇医者はフジヤという名前だそうだ。

    ………

    反応が無い。
    「おらんのかな?」
    「いや、どうせ居るだろ。アイツ引きこもりだしよ」
    「……地下に、引きこもるの?」
    「あぁ、あいつが外に出てるところは一度も見た事がない」
    そう言いながら大輝はもう一度ノックして呼んでみた。
    「…なぁ凜々愛」
    「………」
    内緒話するように、桃音が小声で凜々愛に言った。
    「ウチだけかな?ここなんか怪しいって思ってるの」
    「……ボクも」
    「階段からここまでの道……」
    コンクリートの床には、まるで書道パフォーマンスの特大筆でここまで描いたような、何かを引きずった痕が黒く残っていた。この物騒な世界で生きているからすぐにわかった。
    これは全て血痕だということを。それも随分古い。
    「事故物件やんなこれ絶対」
    「だから俺もあんまりここ来たくねぇんだよな……良い奴だけれどよ」
    後ろで桃音たちの会話が聞こえていた大輝はそう言いながらドアノブに手を伸ばした。

    ガチャ

    「え?」
    「開いてるやん」
    ノックした意味よ。
    「……無防備すぎ、じゃない?」
    「この辺り絶対人来ないからな」
    凜々愛の言葉に返すように言った。確かにこんな事故物件のような所、階段下りた時点で引き返すだろう。
    「……なのに、闇医者やってるの?」
    「変わった人やな〜」
    「おいフジヤ!いるのか?入るぞ!」
    反応は全く無いが、大輝は躊躇なく中に入った。
    「……えっ、入っちゃった」
    「やりよったなアイツ」
    堂々と入る大輝の背中をいいのかと言わんばかりの顔で見つめる二人。
    「大輝って情報得るためには手段を選ばんやつやからな」
    「桃音、もう少しマシな言い方は無かったのか」
    「……なるほど」
    「凜々愛も納得するな」


    「お、お邪魔しまーす…」
    「……失礼します」
    「もう入ったぜ」
    中はマンションの部屋のようだった。海外の住宅のように、靴のまま入るタイプの家だ。奥にテレビがあってその手前にソファがあった。割と綺麗だが少し素朴な感じだった…
    「「」」
    ……壁に張り巡らされた、医学に関する大量の資料の紙以外は。
    (こっわ!集合体恐怖症なりそう)
    「あれ?マジで居ないのか?」

    ガンッ!

    すると突然、重い物が落ちたような音と共に、ソファから起き上がるように人影があらわれた。そのまま腕の力を使って立ち上がった。若干起き上がるのに苦労しているように見えた。
    カァン……カァン……
    (なんの音…?)
    金属音を鳴らせながらその人影は振り向いてこちらに向かってきた。
    「なんだ居たのかよ!」
    「…大輝ですか。ピッキングでもして入ったんですか?ノックぐらいしてください」
    「いや、さっきノックしたし呼んだぞ。聞こえなかったのか?あと、鍵開いてたぞ」
    「そうですか。すみません、うたた寝してました」
    「いや…悪いな、急に押しかけて…」
    淡々と会話をする二人。その男は目つきの悪い光が宿っていない青紫の目に、丈の長い黒い白衣と黒いズボンに黒いハーフグローブ、赤いタートルネック、右目にはゴーグルのような奇妙な眼帯、頭の左半分は刈り上げ、右半分は伸びてる髪、ギザ歯、口元にピアス、さらに左耳にピアスをバチバチに開けている。
    (こ、この人が……)
    彼の姿を見て目を見開く桃音と凜々愛。そしてこの男はデカい……背が高い!おそらく身長一八〇センチは余裕に超えてる!
    「……え、えと…あの!」
    人見知りの凜々愛が口を開く。
    「あぁそうだった!こいつが俺の友人の影城(かげしろ) 不死夜(ふじや)。闇医者だ」
    「初めまして」
    明らかに医者の顔じゃない不死夜が軽く挨拶をした。
    「ウチ百峰桃音や」
    「……か、神楽凜々愛」
    こちらも軽く自己紹介した。凜々愛はやはり人見知りなため、不死夜と目を合わせることができない。
    「それで、何の…………なるほど、治療ですか」
    なんの用ですかと言い切る前に、不死夜は桃音の腹部の傷に気付いた。
    「切り傷…深さはだいたい二センチ。断面から見て……チェンソーですか。とんだ荒治療を…」
    不死夜は桃音の傷を見て推測した。桃音は前回、傷口を塞ぐためにライターで炙った凜々愛の日本刀を押し付け熱で止血した。
    「な、なんでわかったん」
    「そちらは上半身を打ち身、後頭部を強打ですね。歩き方が少しぎこちないことから。お二人は殺し屋か何かでしょうか」
    目を剥く桃音に続いて凜々愛を見て言った。
    「……な、なんでわかったの」
    凜々愛も驚きが隠せなかった。桃音は確かにこんな傷を負うのは殺し屋かそれ以外の裏社会の職業の者しかいないと悟った。巻き添えを食らった一般人の被害者でも、ここへ来ることはきっと無いだろう。
    「僕の視力は十一ですからね」
    「マサイ族か」
    そう言いながら別の部屋へ歩く不死夜にツッコむ大輝。それを聞いた桃音と凜々愛は冗談だろうと思った。
    「では準備するので少々お待ちください」
    立ち止まって振り向いてからそう言い、別の部屋へ入り戸を閉めた。

    カン… カン… と、金属音をたてながら。

    「あれ足どうなってるん?」
    「……ボクも思ってた」
    移動する不死夜の後ろで桃音と凜々愛が小声で話した。二人は先程から足音と同じテンポの金属音に違和感を感じていた。不死夜の足は鉄の棒そのものだった。まるで海賊の足のような。
    「アイツ両脚義足だ」
    大輝の言葉に、また目を見開いた。
    「確か…膝下からが義足って前に言ってた気がするぜ」
    「そんでさっきソファから立つのに若干 苦労してたんか!」
    「……よく、歩けるね」
    なんとなくイメージできた。絶対に体幹すごいだろうなというワードは、ここにいる三人の頭に思い浮かんだだろう。
    「それにしてもコレ…何なんやろな?」
    桃音は部屋の壁に張り巡らされた、医学に関する大量の資料の紙を眺めて言った。一つ一つに目を通してみると何を書いているのか全くわからない。
    「大輝これ何書いてるかわかる?」
    「医学は専門外だから全くわからねぇ」
    「……すごい、難しそう」
    圧倒的頭脳派の大輝でも、専門外だというのもあるが、お手上げのようだった。もしこれが情報やハッキングに関するものだったら、彼も理解できるだろうと、ふと思った。
    「うーん、麗ならギリ分かるか、逆に頭パンクしそうやな」
    「……麗?」
    桃音が言うと凜々愛が首を傾げた。
    「研究部の子や。ほら…前髪で目隠れてる子!知らん?」
    「……わからない」
    「そっかー」
    研究部とは"IBUKI"に所属する化学者のことだ。
    「お待たせしました。こちらに」
    「「」」
    見ていたら背後から不死夜の声がした。
    「あ、お願いしまーす(今義足の音せんかったで
    )」
    「……これ、不死夜が貼ったの?」
    凜々愛は不死夜に尋ねた。まだ目を合わせることが出来ないので、視線は壁の資料の方に向けた。
    「いえ、それは僕が住む前からあります」
    「え?どゆこと?」
    「それより治療しますよ」
    不死夜は桃音の疑問する声を聞き流して言った。桃音と凜々愛は不死夜に続いて治療室に入った。
    (なんでマンションみてぇな間取りの家に治療室があんだよ…)
    ※置いてきぼりの大輝さん


    治療が終わり、桃音たちは地上へ出た。
    「助かったわ〜!おおきに不死夜!」
    「……ありがとう」
    「いえ、僕はすべき事をしただけです」
    桃音と凜々愛が礼を言った。不死夜は勝手口からギリギリ外に出ない所まで見送りに着いてきた。余程外に出たくないのがわかる。
    「そういや、ふじやって漢字でどう書くん?」
    ふと思い出した桃音はそう尋ねた。

    ………ん?さっきからガラの悪い当て字で分かるだろって?
    これは小説だから君たちには分かるんだよ。こいつらに名前を漢字でどう書くなんて分かるわけねぇよ。(作者)

    「不死身の不死に、夜です」
    ((いかにも感が凄いっ……))
    予想外の答えで二人同時に同じことを思った。
    「そうなんや〜、なんか強そう」
    「…どういうことです?」
    こちらも想定外の反応をされて眉間に皺を寄せた。
    「二人は俺が送っていく。またチンピラに絡まれねぇようにな」
    「また…?」
    大輝の言葉に引っかかった不死夜。しかしすぐに察した。
    「…アンタまさか、またやったのですか?」
    「ハハッ…悪い癖だ」
    呆れてジト目で言う不死夜に愛想笑いをして答えた。
    「そうですか」
    ("また"?)


    暗黒街の夜道を歩く桃音、凜々愛、大輝。彼らがまさか同じマンションに住んでいるとは思いもよらなかった。そのため、最後まで一緒だった。
    「なんか…すんごい人やったな」
    「……うん」
    「アイツはそういう奴さ」
    桃音が呟くと大輝がそれに答えるように言った。
    影城不死夜。三白眼に近い、濁った目をしていて飄々(ひょうひょう)としていた。いかつく怖い見た目とは裏腹に常に敬語で話す丁寧で優しい人。しかし感情を全く表に出さない。せいぜい別れ際に、僅かに口角が上がっていたぐらいのポーカーフェイス。凜々愛以上に読めなかった。
    「確かに外見と内面が一致してなかったな。てか、なんで両足義足なんやろ?」
    桃音はふと疑問に思った。いや、義足だと気付いた時から気になっていたが、シンプルに怖いから聞かないようにしていた。
    「……確かに。殺し屋とかなら、察するけど……医者だったら、なんでだろう?事故?それとも生まれつき?」
    「本人曰く生まれつきらしい」
    また答えるように言った。それは知っていたようだった。確かに言われてみれば歩き慣れしすぎている。
    「そうなんや…」
    「ま、直接聞いたのは俺じゃねえけどな。ちなみにそれ俺の相棒だ」
    (その聞いたやつすげぇな……)
    (……恐れ知らず)


    「そういや大輝って、どうやって不死夜と知り合ったん?」
    桃音はそう尋ねた。淡々と会話を繰り返した二人を見て思っていた。しかもあんな人気のない場所でどうやったら出会うんだと、改めて考えると疑問だらけだった。
    「あー………あれ確か数年前だったかな、マフィアに情報抜きに忍び込んだのがバレて逃げてたら左肩撃たれてな、なんとか通気路通って逃げれたけど体力が限界に近づいてきた時にな…そしたら急に底が抜けてな、落ちたら不死夜の家だったんだよ」
    大輝は思い出しながら言った。
    (いきなり天井から人が降ってきた不死夜の気持ちよ…)
    「でもそれからは怪我の影響で気絶したのか…記憶がないんだよな…気付いたら手当されてたんだよ」
    今度は悩むような口調で言った。あの時何が起きたのか分からないようだった。
    「気付いたら手当?」
    「……?」
    桃音と凜々愛は首を傾げた。
    「そうなんだよ、気絶している間に治療されたお陰で命拾いしたんだ。けど本当覚えてねぇな。俺が覚えるのは…………」

    「落ちた時に見上げたらあのデカい図体の指名手配犯ズラの男にクッソ怖い目で見下ろされたぐらい…だな」

    想像がついた。それを聞いた桃音と凜々愛は不死夜を思い浮かべながらこう思った。
    ((怖すぎる…!))
    そんなことを話しながら歩くと、三人が住むマンションに着いた。
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