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    もっちゃん

    @motchan615
    自創作『暗黒街の銃声』
    テラーノベルから移動しました!
    現在スーパーコピペ&リメイク中!!

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    もっちゃん

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    暗黒街の銃声

    第六話 "アウイナイト"「大輝!見て見て!」
    過ぎ行く日。孤児院の図書室で宝石図鑑を開けて、そいつは無邪気な笑顔でこちらに来た。
    「この宝石、大輝の瞳みたいじゃない?」
    そいつが指を指しているところには、真っ青な綺麗な宝石があった。
    「綺麗だな。てか俺そんなに綺麗な目してるのか?」
    「うん!大輝僕たちの面倒みてくれてる時いつも青くて綺麗な目をしてるんだよ!」
    「ハハッ!なんか照れるなあ…自分の目が宝石みたいだとか!ありがとな!」
    その図鑑に載っている大輝の瞳にそっくりだという真っ青な宝石の写真の下にこう書かれていた。

    【アウイナイト】
    和名⋯藍宝石
    結晶系…等軸晶系
    硬度…五.五~六
    宝石言葉
    「高貴」
    「情熱」
    「過去との決別」

    親の顔を知らない無邪気な少年だった大輝の目は、その子にとっては宝石だったらしい。


    地下。茶否マフィア本拠地。武器倉庫。
    天井の通気口から降ってきた男は情報屋の大輝だった。
    「え、大輝」
    鎖で縛られ男に踏みつけられている桃音は驚いた。なぜ彼がいるのかが不思議だった。
    「…退后!」(…どきやがれ!)
    ドガッ!
    鎖鎌の男は中国語で大輝を睨みつけて言うと、大輝は男の上に乗ったままそいつの頭を思いっきり踏みつけた。
    「てめぇ…こんなことできるなんて容赦もクソもねぇな」
    聞く耳を持たない大輝は踏みつけた足に力を入れながら上から見下して言う。しかし、絵面から見てはこう言える。お前もどっこいどっこいだけどなと。
    「不是说要退开吗!」(退けっつってんだろ!)
    「黙れクソ野郎!」
    ドガッ!ドガッ!
    ドガッ!ドガッ!
    大輝はそのまま男の頭を足蹴にした。呻き声と共に、男の頭から血がドクドクと流れ出てくる……。鼻も折れて歯も欠けて下顎も外れて目も片方潰れている。
    「てめぇ如きが女に手え上げてんじゃねぇこのクズが!死ね!」
    大輝の怒りはピークに達していた。もはや止められなかった。
    「うわ~、もう顔の原型留めてないじゃん超ヤバいんだけど!ていうか誰~?」
    ヌンチャクの男の相手をしているにも関わらず割と呑気にその光景を見て言う瑠花。
    『何よそ見してんだ!』
    「いーじゃん別に〜!アレ超いい感じなんだからさ!」
    瑠花はヌンチャクの男に顔を向けて答えるように言った。傍から見ると何を言っているかは分からないが、彼女には中国語が理解できるようだった。
    「おい大輝!落ち着けって!そいつもう死んでる!たぶん!」
    斧の男の攻撃を避けながら、ひたすら鎖鎌の男を足蹴にする大輝を遠くから説得する康一。
    「你在担心别人什么啊!」
    「あぁ?なんて」
    「『なに他人の心配してんだ!』だってさ!」
    中国語の通訳する瑠花。しかし変わらずヌンチャクの男と交戦しながらだ。
    「他人じゃねぇよ!あいつは俺の相棒なんだよ!」
    康一は声を上げて言った。
    そうかそうか、ただの「他人」ではなく「相棒」なんだな。なるほどなるほど……
    「え?相棒?」
    康一の言葉に引っかかった桃音。しかし暴言を吐きながら何度も足蹴にする大輝を見てハッとした。
    「だ、大輝!落ち着きぃ!ウチはもう大丈夫やから!」
    必死に説得する桃音の声が耳に入ると大輝の足はピタリと止まった。正気に戻ったのだろうか、表情もいつもの大輝になった。鎖鎌の男はもう息をしていない。いや、僅かだが呼吸はあるにはあった。でももうすぐ死ぬかもしれない。そんな状態になっていた。
    「大…輝?」
    「す、すまない桃音!ついカッとなってしまった!」
    「え?あぁ…うん?」
    何故か謝ってきた。見苦しいものを見せてしまったからなのか?そういえば前もこんなことあったな。
    ※第三話『黒衣の闇医者』参照※
    「ありがと大輝!助かったわ!」
    「……あぁ。それより大丈夫かお前!」
    大輝は一瞬照れたが、すぐに表情を元に戻し、鎖で縛られた桃音の起こし体を支えながら言った。
    「うん、大丈夫やで」
    「…なら良かった」
    大輝は肩をなでおろし、桃音の鎖を解いた。
    ブシャアアア
    『ぎゃああ』
    斧の男の悲鳴が聞こえた。見るとその首から大量の血を吹き出させていた。
    「よォ相棒!」
    「よう康一……うわ怖っ」
    返り血を浴びた康一が機嫌良く大輝に手を振りながらこちらに来た。もう片方の手には新しい血が付いたサバイバルナイフが握られていた。
    「やっぱりお前の爆弾だったんだな」
    「二人知り合いなん?」
    「知り合いも何も相棒だよ!」
    康一は大輝と肩を組んでピースサインをして言った。
    「そうなん」
    「ん?俺言ってなかったっけ?」
    「ゆーてへんわ!」
    目を剥く桃音はすかさず大輝にツッコんだ。
    (ん?相棒ってことは……)
    桃音は三話前の、不死夜が両脚義足を本人に直接聞いた者がいたというやり取りを思い出す。


    「ま、直接聞いたのは俺じゃねえけどな。聞いたの俺の相棒だ」
    (その聞いたやつすげぇな……)


    (お前かよ)
    ガンッ!
    「あうぅ!」
    ヌンチャクの男が鈍い音ならせた。瑠花にヌンチャクの一撃を食らわせたのだ。
    ……って、え?なんか....
    こっち飛んできた
    「えマジで」
    瑠花はヌンチャクの一撃によって桃音の方にぶっ飛ばされた。そしてそれが真っ直ぐこっちに来て…
    ドサッ
    「いでっ」
    桃音は下敷きになった。
    「うおっ、大丈夫か」
    「あ、うん…!」
    (完全に事故だな…)
    康一に心配された瑠花は少し顔を赤らめて立ち上がった。
    「くっそ…!もう三人も殺りやがって!しかもお前は誰だ 何しにここへ来たお前も殺し屋か」
    ずっと黙って見ていたマフィアのボスはヌンチャクの男に動きを止めるよう手で合図してようやく口を開いた。さらに大輝に指を指しながら言った。
    「確かに。大輝なんで居るん?」
    「てゆーか誰?」
    桃音と瑠花は首を傾げて言った。確かにこれに至っては同意見たった。なぜここに彼がいるのか見当もつかない。
    「どーせまた情報抜き取りに来たんだろ?」
    「ビンゴだ相棒」
    サラッと言い当てる康一に、指パッチンをして言う大輝。いや、手袋をしてるので音は出ていない。
    「何?うちの組織の情報を盗みに来たのかこの泥棒野郎が!」
    「誰が泥棒だ!」
    (いや、やってる事泥棒と変わらんやん)
    ボスに反論する大輝を横目で見ながら桃音はそう心の中で呟いた。おそらく他の者たちも同じことを思っているだろう。
    「あんた情報屋なのー?ならハッキングってやつー?そんですればいいのになんで?」
    「あぁ、それはな……」
    「やはりお前だったんだな、うちの組織にサイバー攻撃してきたのは」
    瑠花の問いに答えようとした大輝。それに割り込むように、ボスが彼を睨みながら言った。
    (…バレてた?)


    一時間ほど前。大輝が住むマンションの一室。
    「…ったく!なんで例の情報がねぇんだよ!」
    数台のモニターを前に、正面にある一台のキーボードをタイピングしまくりながら大輝は舌打ちをして不機嫌そうに言った。この部屋はモニター室として使っている部屋だ。映画やドラマでよく見る、いかにもハッカーらしい薄暗い部屋だ。
    (いや待てよ…?これだけ探しても無いということは…ハッキングで盗まれないようにあえてデータに入れてないパターンか?)
    大輝はマフィアの情報モニターにハッキングで侵入し、お目当ての情報を探し続けて一時間以上経った結果、データには残っておらず、紙媒体であるという答えに辿りついた。
    (こんだけ探してもないなら本拠地に忍び込んで盗む他ないのか…あまりやりたくないが)
    仕方ない、とため息混じりで呟いた。
    「よし、作戦変更だな」
    そう呟くと大輝は目に留まる程の早さでタッピングをしだした。モニターの画面が次々と黒いタブに白字の数値が動くように変わり続けながら切り替わってゆく。しばらくそんな画面が映っていると、対象の組織、"茶否マフィア"の本拠地の全ての防犯カメラの映像が映った。
    「入口付近に二人…廊下に五人…意外と多いな。サイバー攻撃でパニックに陥らせてその隙にブツの回収をするか」
    大輝は呟きながら対象の人数と配置を把握した。そして、再びタッピングを始めると大輝の前にある五台のPCモニターに黒に白い文字が打たれたページがたくさん出てきた。
    「さてと…行くか」
    ハッキングを完了させた大輝はモニター席から立ち上がり部屋を出た。彼が使っていたその正面のPCの画面には真っ青な宝石が映して、しばらくするとシャットダウンされた。

    その同時刻の"茶否マフィア"本拠地のモニター室。
    『うわぁ!なんだ』
    『どっからこんなものが」』
    『おい!何を騒いでいる』
    ボスが彼らに合わせて中国語で尋ねた。
    『ボス!サイバー攻撃です!組織の情報が次々と消えていきます!』
    『はぁさっさと止めろ!』
    『無理です!手に負えません!』
    「ハッカーか!どこの誰が…!まさか…?」
    パニックになるこの状況。ボスは素である日本語で呟いて顔を顰めた。
    「どのハッカーだ…?"ジュピター"…"コロッセオ"……」
    ボスは名の知れたハッカー達の名前を出していく。と、ここで見当がついた。
    「…いや、あいつか……お前だな!"アウイナイト"!」


    「お前がハッカーの"アウイナイト"だな!情報屋でもあるらしいな!」
    そして現在に至る。
    「"アウイ…ナイト"?」
    桃音は大輝をじっと見つめて呟いた。
    「アウイナイトって宝石じゃん!」
    「え、アウイナイトって宝石の名前だったのか?初耳だぜ!」
    桃音に反してそこじゃない所を突く瑠花と康一。瑠花に至ってはなぜそのようなことを知ってるんだ。
    「なんだ。俺のことご存知だったか」
    「ハッ!お前はこの暗黒街だけでなく裏社会全般的に有名だからな…こっち側の世界でお前を知らない奴は居ねぇだろうがよ。」
    確かに…『アウイナイト』っていう天才ハッカーは桃音も前から知っている。それにネットの世界でもあるから、暗黒街以外にも広がってるはず。おそらく犯罪者は皆知っているはず。それで知らないやつは多分居ない…
    「えー、アタシ知らないんだけどー!」
    前言撤回。知らないやつ居た。
    「そ、そうか…まぁ別に知っても知らなくてもどっちでもいいけどな」
    大輝は少し気まずそうに言った。
    「ふん。まあ、まさか御本人にお目にかかれるなんて…今日はついてるな。……大っっっ嫌いな軍曹に会うのはついてねえけどな」
    ボスは大輝を見てニヤッと口角を上げたが、康一には見下すような顰め面で睨みつけて言った。
    「俺お前みたいな奴なんか記憶にねぇよ」
    「チッ…てめぇのそういうところが軍の時から嫌いなんだよ!」
    反論する康一にさらに顔を歪ませた。
    「なんだ康一?あいつと何か関係があるのか?」
    大輝は康一に問いかけた。
    「あいつが言うには俺が軍にいた時の伍長だったらしい。俺より階級が1個下のな」
    「なるほど、元同僚か」
    康一の説明に大輝は納得した。
    「まぁ俺全然覚えてねぇんだけどな」
    「だろうな。お前 軍にいた時の記憶が無いって前に言ってたからな」
    (記憶が無い?)
    (どゆこと?)
    大輝と康一の会話の中に出た聞き捨てならない言葉に、桃音と瑠花は首を傾げた。
    「ふん…まぁそこの馬鹿軍曹はさておき」
    「誰が馬鹿軍曹だ!」
    「アウイナイト。お前のハッキング技術を見込んでお前に提案がある」
    康一には一切耳を傾けず、ボスは大輝に言った。
    「提案?」
    「どうだ。うちの組織に入らないか?」
    スカウトだった。思いもよらない発言に全員が驚愕した。サイバー攻撃されたというのに勧誘するとは、どんなメンタルをしているのだ。桃音たちはボスに引いていた。
    「悪い話ではないだろう?お前のようn……」

    「断る」

    即答した。せめて最後まで言わせてやれないのか。
    「なんだと」
    「なんだとちゃうわアホ」
    静かに聞いていたが言ってしまった。
    「ねー、こいつウザいから殺していいー?」
    「ええんちゃうん?」
    拳を合わせて骨を鳴らしながら言う瑠花に桃音は先程(前回)落とした銃を拾って同意した。
    「まぁ待てよ二人とも」
    康一は二人を落ち着かせるように言った。
    「俺には"IBUKI"がある。お前の下に就くとか死んでも嫌だね」
    煽るような口調で言う大輝。そうだ。大輝には"IBUKI"があるのだから。今更こいつらのような極悪人共なんかに就くわけないだろう。
    「…ん?」
    桃音は『俺にはIBUKIがある』というセリフに引っかかった。まさか…?
    「え、待って?大輝アンタまさか…?」
    「ああ。"IBUKI"の情報部に入ったんだよ」
    今日イチびっくりした。大輝がサラッと言うものだから余計に驚きを隠せなかった。
    「マジでアンタいつ入ったん」
    「昨日だが?」
    「昨日」
    「俺が店長に推薦したんだ!」
    その隣で康一が呑気な口調で言った。
    「あぁ?なんでだ…?"IBUKI"なんか……殺し屋なんか偽善者の集まりだろ!俺らのように警察に追われ裏社会でしか生きていけない人間なのに!なんで一般市民からにはメリットになってるんだよ!」
    ボスは声を荒らげて言った。どこか悲観的で、暗い過去を打ち明けているように聞こえた。『地覇那区・曼珠市事変』に参加した元日本政府軍の伍長だった。しかしこの戦争で日本政府軍の多くが精神を病み、裏社会へ堕ちてゆく者が続出した。この男もその一人だった。
    しかし……
    「…はぁ?」
    被害者ぶるボスを見て、桃音が吹っ切れた。
    「お前らと一緒にすんな。確かにウチらは表社会では生きていかれへん犯罪者や。」

    「でもな!表社会を脅かすお前らとは全然ち
    ゃうねんよぉ!」

    桃音は銃を向け、ボスを睨みつけて声を荒らげた。
    「も、桃音落ち着け~?」
    怒りを込めて反論する桃音を落ち着かせようと止めようとする瑠花。大輝と康一はかける言葉を探した。
    「黙れ黙れ黙れ黙れ」
    ボスはまた声を荒らげて叫んだ。
    「ヒーロー気取りも大概にしろ殺し屋共が!お前らのような人間が一番嫌いなんだよ!」
    「こっちもや。ウチも結局マフィアが一番嫌い。というか……憎い」
    バンッ!
    桃音は素早く動き出そうとしたヌンチャクの男の脳天を撃ち、あっさりと倒してしまった。
    「早っ!」
    「全然見えなかったぜ…!」
    桃音の早撃ちを目の当たりにした大輝と康一はその技術に目を向いていた。
    「いや最初からそーしてよ!」
    「しゃーないやろコイツの相手しとったんやからさー!」
    桃音は鎖鎌の男の死体に指をさして言った。口調からして、機嫌が直ったようだ。
    「そうか、桃音の武器は中距離タイプだからコイツ以外誰も近づかなかったんだ!だからコイツ真っ先に桃音を襲いにかかったってことか!」
    (康一ってたまに頭キレる時あんだよな…)
    明確な判断をした康一を横目に、大輝はそう思った。
    「さーって、あとはアンタだけやな」
    桃音は銃をボスに向けた。それに続いて一同がボスを睨む。
    「クソが!もういい!アウイナイトもクソ軍曹も女どもも!お前全員蜂の巣にしてやる!」
    ドガガガガガガガガガガガガガ
    「危ねぇ!」
    「またかよ!」
    ボスは新しい機関銃を取り出し、再び乱射し始めた。しかも先程よりも威力が強い。四人は桃音と瑠花、大輝と康一の二手に別れて咄嗟に武器が入った箱の影に身を隠した。
    「ねぇヤバいよマジで!」
    「マジで蜂の巣になんでコレ!」
    箱はどんどん乱射によって身を隠す場は徐々に削られていく。ボスは完全に正気じゃなくなっていた。
    「どうする…」
    「大輝、一か八かで"アレ"をやるか?」
    大輝が呟くと、康一が一つ提案をした。
    「"アレ"って……まさか『囮スリ作戦』か?」
    「『囮スリ作戦』?」
    大輝が言うと、桃音は首を傾げた。
    「いや、確かに一理あるがお前が蜂の巣になるぜ?」
    「おう!俺はいつだって死の淵まで行く覚悟はあるぜ!」
    康一はニッと口角を上げて威勢よく言った。
    「フッ…さすが元軍人だな!」
    「へへっ!」
    大輝は康一の肩をパンッと叩いて言った。
    「ねぇ待って?『囮スリ作戦』って何?」
    「まぁ見てろって!俺に任せろ!」
    「"俺ら"だろ!」
    康一は困惑する瑠花に、自分に親指でさして言った。それに訂正するように、大輝が言った。
    二人は箱の影からクラウチングスタートのような姿勢になってスタンバイする。
    「カウントダウン行くぜ。三……二……一……」

    「GO!」

    「オラァ!」
    大輝が合図をすると、康一は掛け声と共に箱の影から飛び出し駆け出した。
    「はっ!血迷ったか軍曹!馬鹿みたいに突っ走りやがって!」
    ボスは迷わず康一に向かって機関銃を撃ちまくる。
    「っとお危ねぇ!」
    ブシュッ ブシュッ
    「康一!」
    弾丸が一の腕に数箇所掠った。しかし康一はそれでも突っ走った。姿勢を低くし、当たりにくいようにジグザグに動きながら距離を縮めていった。
    「なんでそんな突っ切るの てか"アウイナイト"は……?」
    瑠花は大輝が居る武器が入った箱の影の方を見る…………が、
    「居ない」
    「なんでや」
    そこには大輝の姿は無かった。次に康一が向かう先のボスを見ると、そこには……
    「大輝」
    「いつの間に」
    ボスの背後に大輝が居た。影に忍び込むような低い姿勢だ。おそらく全員が康一に注目している隙に移動したのだろう。
    「あれ後ろから殺る系?」
    「たぶん…その為に康一が囮に?」
    二人は小声で話しながら大輝の様子を見ていた。
    「真正面から突っ込んで来るなんて!やはり軍の時から全く変わってねぇな!感情がない心がない、戦って敵を殲滅することしか脳が無い道具みたいな奴!!まるで生きている感じがしねぇなぁ!」
    ボスは笑いながら康一を罵った。康一は黙ったままだが、少しだけ眉間に皺(しわ)を寄せていた。
    「死ねぇ!」
    ボスは康ーを蜂の巣にしようと機関銃を一旦持ち替えて、引き金を引いた……が。
    「…は?」
    弾丸は出なかった。それだけではない。持っている機関銃がやけに軽く、作りが安っぽく感じた。
    「…え?」
    それは機関銃ではなかった。モデルガンだ。まるでT●YS“Я”USに売ってそうな偽物だった。
    「何ぃ」
    「あれ絶対TO●S“Я”USじゃん!」
    「おいTOY●“Я”USゆーな!」
    理解が追いつかなかった。桃音と瑠花は本能的に安全だと察したのか、無意識に箱の影から身を乗り出していた。
    「探し物はコイツか?」
    ボスの背後から大輝はいたずらっぽく笑って言った。その手にはボスが持っていたはずの機関銃があった。
    「てめぇ…いつの間に」
    ボスは振り向いて驚愕した。桃音と瑠花も驚きを隠せなかった。
    「お前の相手はこの"爆弾軍曹"様だ!」
    康一は手弾を握りセーフピンを歯で抜き、ボスに向かって投げた。
    「なっ……」
    「おぉっやべぇ!」
    大輝は康ーが投げた手弾に気付くと焦るようにすぐさまその場を離れた。それを見た桃音と瑠花は再び木箱の影に身を隠した。

    ドカーン

    爆発した。辺り一面が煙で覆われる。この爆弾は先程の爆弾より威力が強いものだ。
    (なるほど…これが『囮スリ作戦』か)
    視界が失われるこの場で桃音は大輝と康ーが言う『囮スリ作戦』を悟った。
    まず康一が物陰から先に出て囮になって自身を注目させる。次に少し間が開いてから遅れて大輝が敵の視界になるべく入らないように低い姿勢になって敵の背後を取る。敵が康一に熱中している隙に大輝の高度なスリ技術で機関銃と偽物をすり替える。そして無防になった敵を康一が仕留める。
    (そういうことか〜)
    しばらく経って煙が薄くなってきて辺りが少しずつ見えるようになっていった。
    「大輝!康一!」
    爆発の近くにいた大輝と康一は無事なのかと思って二人の名を呼ぶ。瑠花はすぐ側に居たから無事なのは分かっていた。
    「俺は無事だ!」
    まだ完全には煙が消えていなくて見えずらい視界の中から大輝の声がした。
    「よかった!情報屋は無事ね!」
    あとは一番ボスの近くに居た康一だ……
    「おい康ー!そこに居るよな?」
    「おう!居るぜ!」
    元気な声が聞こえた。

    やっと煙が消えて視界が蘇った。床は康一の爆弾によって木っ端微塵にされたボス"だった物"が転がり落ちてて赤く染まっている。
    「うっっわ」
    「キャハッ♡バラバラ死体だー!♡」
    瑠花は相変わらず血みどろに顔を赤らめていた。通常運転の彼女はともかく、康一は………死体の死体から少し離れた所に立っていた。
    「うーん……駄目だ。やっぱこいつのこと思い出せねぇぜ」
    「それ殺った後に言うか」
    真っ当なツッコミをする大輝。あまり服の色により、目立たないが全般的に返り血がなっていた。
    「こっわ」
    普段銃で殺し返り血を浴びる量が少なめの桃音にとっては爆弾使いの康一の顔や体に付いた返り血を見るとなかなかの量に思えた。
    「まぁそれより!任務完了だな!」
    康一は背伸びをしながら言った。
    「お前らが来てくれたお陰だぜ!ありがとな!」
    「いやぁそんな…えへへ」
    康一が桃音と瑠花の方を見て例を言うと、瑠花は嬉しそうに照れた。
    「全っ然!ウチは大輝が居らんかったら今頃死んでるし!」
    「なっ……あぁそうだ!」
    桃音が大輝を見て笑顔で言うと、照れているのを誤魔化すように彼は天井に開いた通気口の真下へ歩いた。
    「そうかお前、情報盗みに来たんだったな」
    「あぁ。……よっ!」
    大輝は跳躍し通気口の手前の方を掴みぶら下がると、懸垂しながら逆上がりをするように下半身を上げ足から通気口へ入った。
    「情報屋〜?」
    見上げて言う瑠花。大輝はそのまま奥へと入っていき、しばらくすると戻ってきた。大輝は通気口から飛び降りた。その手にはスーツケースがあった。
    「待たせたな。そうさ。本当は俺、これがお目当てだったんだよ」
    大輝は満足気な顔でスーツケースを見せながら言った。
    「スーツケース?」
    「なになにー?何入ってんのー?」
    瑠花は好奇心旺盛になり、スーツケースに近づいて聞いた。
    「組織が厳重に保管してたブツだ。店長からの任務だ」
    「店長が?」
    それを聞いた桃音が言った。
    「IBUKI加入して早速ハードな仕事受け入れたんだな!」
    「あぁ。まさか初っ端からハッキングでは手に入れられない物が標的になるなんてな……」
    「超すごいじゃーん!」
    瑠花は目を輝かせて言った。まるで目の前に宝物箱があるかのようだった。
    「よっし!そんじゃあ処理班に連絡して帰るか!」
    康一はスマホを取り出し処理班に電話をかけた。
    「あ、もしもし?こちら核山康一!殲滅完了だ。処理を頼むぜ!」
    殲滅って言い方……四人はこの広い武器倉庫から出ようとドアへ向かった。桃音はドアノブに手を掛けた。すると……

    ガキャッ

    変な音がした。
    「あれ?開けへん」
    前後に揺らしてみるが、ビクともしなかった。
    「え?」
    「マジかよ」
    「桃音ちょっと退いて!」
    瑠花は桃音を割り込んでドアノブを握った。
    バキンッ
    「あっ」
    さらにヤバい音がした。
    「えっ」
    「すんげぇ」
    全員が呆然とし、この場が静まり返った。何が起こったのか、瑠花の手にはドアノブだけが握られていた。完全に壊してしまったのだ。
    「ごっ……ごめーん!力加減間違えたー!」
    瑠花は手を合わせて頭を下げて謝った。
    「あ……いや、全然。元から壊れていたんだろう」
    大輝は瑠花をフォローするが、本当は困惑していた。
    「康一の爆弾の所為だな。気にする事はないさ」
    「えぇ!俺ぇ」
    康一は自分に指を指して言った。しかし瑠花を庇うためかと思ったら本当に康一の爆弾が原因かもしれない。よくよく見るとドアが何かに当たって歪んだ形跡があった。
    「それはそうとして、どないする?」
    桃音が口を開いた。このままでは一生出られない。どうすべきか考えなくてはならない。
    「爆弾使うか?」
    「いや、それやったら処理班が困るだろ」
    「確かに今回は結構派手にやっちまったからなぁ」
    康一は辺りを見渡して言った。
    「あの〜…」
    瑠花が少し申し訳なさそうな感じで軽く手を上げて三人の会話に入った。
    「ケジメつけま〜す…」
    そう言って瑠花はドア前に立った。
    「あ、みんな危ないから離れてて」
    「? わかった…?」
    桃音たちが瑠花から距離を置くと、瑠花はその場から少し後ろへ下がり、構えのポーズをとった。
    「え?ま、まさか…」
    「せーのっ」

    ドゴォッ

    瑠花はドアを思いっきり蹴った。ドア人一人通るのに十分すぎるほど大きな穴が開いた……というよりかは、バキバキに全壊した。この光景を見た三人は声が出なかった。
    「よし!開いたよ!」
    瑠花はそんな周りに気にしないで明るく言った。
    「いやいやいや!開いたよちゃうわ!」
    「すっげぇ!」
    思わずツッコむ桃音と目を輝かせる康一。
    「なんちゅー怪力やねん」
    「えへへ〜」
    「えへへ ちゃうて…」
    「おい…その力、まさか?」
    桃音と瑠花のやり取りの間から、ずっと言葉を失っていた大輝が口を開いた。
    「最近IBUKIに加入したあの連続殺人鬼の"殺戮の悪魔"か」
    大輝は目を丸めて言った。桃音は彼がが何を言い出すのかは何となく察してた。自分や康一が初めて瑠花と会った時も同じ反応したからだ。
    「そだよ〜!連続殺人鬼の"殺戮の悪魔"こと早乙女瑠花でーす!」
    瑠花は満面の笑みで両手でピースサインを顔の横にして自己紹介した。
    「そうか…そういえば俺も自己紹介がまだだったな。俺は琉芭(りゅうば)大輝だ。よろしくな、瑠花。」
    「よろしく大輝〜!」
    「ハハツ、仲間が増えてなんだか面白くなってきやがったな!」
    瑠花と大輝は互いに自己紹介をすると、それを見ていた康一がニッと笑って言った。
    「あぁ、そうだな…」
    (仲間…!)
    大輝が微笑んでいうと、瑠花は目を丸くしてパァっと明るい表情をした。サイコパスな感じは全くしない、純粋な気持ちからできた笑みだった。ものすごく嬉しそうだ。殺人鬼にも人の心があるのが伝わる。凜々愛も初めて瑠花と出会った日に、IBUKIの加入を勧めた時もそのような表情をしたって凜々愛が言ってた。
    ……ん?凜々愛?
    「あ、凛々愛の家行くって話……」
    「あっ…」
    桃音と瑠花はここに来る前に凜々愛の家に行こうと言ってたことを思い出した。
    「ん?なんの話だ?」
    康一が首を傾げた。大輝はその横でしゃがんで、スーツケースの中身にある"例のブツ"の再確認をしていた。
    「いやぁね…ウチら午後から凜々愛ん家行こうぜって話なったんやけど」
    「店長からメール来て完全に忘れちゃったね」
    桃音と瑠花はやらかしたなーという顔で笑いながら話した。
    「凜々愛って?」
    「ウチの相棒や。"IBUKI"の殺し屋やけど…会ったことない?ほら、"人斬り人形"って言われてる……」
    尋ねる康一に桃音は説明した。
    「あ〜〜、聞いた事あるような無いような……悪ぃ、顔が出てこねぇ」
    天井を見上げ腰に手を当てて思い出そうとしたが、やはり思い出せなかった。康一は人の顔を覚えるのが苦手なのだろうか。かつて同じ軍だったあのボスですら忘れてしまったのだ。
    「あの子人見知りやからな。今度紹介するわな!」
    「ちなみにアタシをスカウトしたのその子〜!」
    瑠花が自慢するように言った。彼女にとっては大切な思い出になったからだ。
    「凜々愛がスカウトしたのか…(よく店長OKしたな?)」
    「おっと喋ってたら処理班きちまうな!ドアも無事に(?)開いたし!行こうぜ!」
    康一がドアの方に向かいながら振り向いて言った。ドア自体は無事かどうかはイマイチ判断出来ないが。いや、無事ではないな。見ての通りバッキバキだ。
    「そやな!」
    「あぁ」
    「うん!」
    康一に続いて三人は彼に後に続いて倉庫を出た。
    (アタシはもう…!一人じゃないんだ…!)




    暗黒街。某ビルの屋上。
    「……………」
    羽織りを羽ばたかせてこの景色を見渡すのは一人の男。
    「あの男、一体何処へ逃げよったんじゃ?」

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