探偵🦅と情報屋🔥の話ホークスは探偵事務所を営んではや3年になる。
幾度となく難事件を解決し、ある時は警察と一緒に事件を解決したこともあった。
その効果もあってか、この半年ほど、夜中に出歩くと何度か危ない目に遭っている、助手には「ボディーガードをつけろ」と散々怒られたのだが、それも仕方がないと思うことにしている。実際、こうして一人で歩いているだけでも、何度も声をかけられたのだ。そのたびにうまく逃げてはきたが、やはり不安になる…日本ならまだしも、こちらでは東洋人というのは目立つらしい。
「それで、この広場で殺人があったんですね?」
いつものデスクでまずい紅茶を飲みながら、ホークスは助手にたずねた。
「正確には殺人事件だとも言えませんけど。まあ、強盗か何かだろうと思ってたら、死体があってびっくりって感じだそうです」
「ふーん…――ああ、そうだ、悪いんですけど、ちょっと留守番しててくれません? これ、頼んでいた件の調査資料」
そう言ってカップを置くと、助手に書類差し出した。
「えっ、今からですか? またどうして」
「人と会う約束をしてるんですよ。今日はその人に会わないといけないんですよ」
「……わかりましたよ。でも、本当に気をつけてくださいよ。最近は変な事件も多いですからね」
「わかってま〜す、すぐに戻って来ますから安心してください」
手を振って事務所を後にし、行きつけのパブに向かう。
今から会う人はロンドンに来てからできた友人だ。これがなかなかどうして使える男なのだ。特に犯罪捜査に関してはエキスパートと言ってもいいぐらいだった。ただ、まぁ…その人相はすごく悪いし性格に難がある。
「こーんにちは」
「……なんだ貴様か」
「ひどい言い草ですね〜」
「ふん…で何の用だ」
「実は、相談したいことがありまして……」
「……金ならないぞ」
「そんなんじゃありませんよ!」
相変わらず失礼な人だと思いながらも、話を続けることにした。
「実は…その情報を俺に売ってくれませんか?」
「……断る」
やっぱりダメか……。だが、ここで諦めるようなら探偵などやってられない。俺は粘り強く交渉することにした。
「そこをなんとか! 情報を売ってくれたら、それなりの謝礼をお支払いしますから!」「……いくらだ」
「へ?」
「だから、いくら払えるんだと言っている」
「えっと……500ポンドくらいでしょうか」
正直、手持ちはそれほどないが、この程度の金額であれば問題ないだろうと思った。しかし、返ってきた答えは非情なものであった。
「ふざけてるのか? 1万ポンドだ」
「1万!?︎ さすがにそれは高すぎじゃないですか!?︎」
「文句を言う暇があったら金を出せ。話はそれからだ」
「えーんーじーさーん!!お友達にそれは酷いです!!」
「しらん」
「お願いしますから!!!今度一緒にパプでも行きますから!!」
「うるさい奴め。じゃあ、700ポンドにしてやる」
「ぐぬぬ……もういいですよ! 700出しましょうとも!」
結局、700ポンド払うことになってしまったが、まあいいだろう。とりあえずこれで事件の情報が手に入るのだ。
「それで? どんな事件を調べている」
「えっと、連続殺人らしいんですけど……」
「ほぅ」
彼は興味深げに聞いているようだったが、ホークスにはどこか違和感を覚えた。なんというか、こう……楽しんでいるような……?
「あの、どうしました?」
「いや、なんでもない。続けてくれ」
「はい。被害者は全部で4人。最初事件が7ヶ月前に起こりました。初めの時間の時警察は強盗目的だと考えていましたが、被害者の身体に乱暴された跡は無く、凶器も見つからずその事件の捜査は難航しています。その後2ヶ月おきに同様の事件が発生して、同一人物による犯行であることがわかりました。現在は4人の被害者が出ています。」
「なるほど…そこまで調べが着いているなら俺に聞かずとも良いのではないか?」「そうなんですけどね〜。一応依頼されてることなので」
「そうか……それで犯人の目星はついているのか?」
「それが全くわからないんですよね。被害者にも共通点が無くて」
「ふむ……では最後の事件はいつ起こった?」
「3週間前になりますね」
「そうか…調べておいてやる」「本当ですか!?︎」
「あぁ。その代わり、この店の一番高い酒を奢れ」
「えぇ!?700ポンド払うのにですか!?」
「700ポンドにまけてやったんだ。このぐらいでケチ臭いことを言うな」
こうして俺はまた出費が増えてしまったわけだが、仕方がない。それに、彼から情報を買って損をしたことはないのも事実だ…
「うーん…痛いけどいいでしょ!!マスター」
「はい、ご注文は何にいたしましょう」
「この店で1番高い酒ください!」
「一緒に飲む気か?」
「高い酒なんて滅多に飲みませんからね!」
そうして俺はその日、生まれて初めて泥酔する経験をすることになった。
***
翌日、二日酔いの中、事務所に戻ることになった。
「ただいま戻りました〜」
「遅いですよ。一体どこに行ってたんですか」
「えへへ……ちょっとお散歩を……」
「はあ……」
助手は呆れたようにため息をつくと、資料をまとめ始めた。
しばらくすると、事務所のドアが開かれた。
入ってきた人物は、長身で細身、黒いスーツに身を包んでいた。顔つきは目付きが悪く、その鋭い眼光で睨まれるだけで萎縮してしまいそうだ。
その男性は帽子を取ると、こちらに軽く会釈した。「こんにちは、ミスター・ホークス」「こ、これは……えっと……」
「こちらはロンドン警視庁の刑事さんです。依頼したいそうです」
「お噂はかねがね伺っておりますミスターホークス」
「どうも…それで、ご依頼内容は?」
「おやおや…英国紳士ともあろう方が随分とせっかちなようで」
「えっと……すみません」
「いえ、私としても助かります…ただ、そちらの方には退室を」「え?僕ですか?」
「はい。少々込み入った話ですので」
「わ、わかりました」
「それでは失礼します」
そう言うと助手は部屋から出ていった。
「それで? 依頼内容とは?」
「ええ、最近話題になっている事件はご存知でしょうか?」
「知っています…それに貴方とは別の方から依頼を受けてます」「ほう? それは誰です?」
「それは……申し訳ありませんが、守秘義務がありますから」
「そうですか……まあ、当然でしょう。では単刀直入に言いましょう。今現在、ロンドン市内を中心に起こっている連続殺人事件についていつも通り我々と事件を解決して欲しい。」
「はい、わかっています」
「では、我々が知っている情報を話します」
「お願いします」
「まず被害者に共通性は無いようですね。性別や年齢などバラバラで、唯一共通している点は、皆身体の一部が切断されているということ。それも、綺麗に切り取られているようです。」
「それはこちらも調べが着いてますよ」
「ふむ…さすがと言ったところでしょうか」
舐めてるのか?と言いたくなるが、彼はそんなことをしても意味が無いだろう。
それに、本当に彼の言っていることは正しいようだ。
被害者に共通点が見当たらないのは本当だし、身体の一部が無くなっているというのも同じだ。
しかし、これだけだと同一犯かどうかわからない。
「そして、犯人の目星も全くついていない状況のようです」
「はい」
「しかし、私は違うと考えています」
「というと?」
「この事件の主犯格は人間ではないと思っております」
「なぜ?」
「被害者たちの身体の傷口を見比べたところ、今回の事件の犯人は刃物の扱いに長けているということがわかります。」
「そうですかね?」
「ええ、間違いないと断言できます。被害者の手足の腱を切断して動けなくしてから、ゆっくりと時間をかけて腕を切り取った。しかもかなり手際が良い」
「なるほど……」
確かに、言われてみればそうだ。
それに、犯人の手口からしてかなりのプロだ。素人がここまでできるとは思えない。
「それに今回の事件よりも前の事件は腱を切ったりなどしていません…むしろ被害者への愛を感じるぐらい丁寧に扱われていました」
「なのに今回はこれ程までに…徹底されている…」
「そうです、なので今回は模倣犯だと思われます」
「わかりました……では次にお願いがあるんですけど」
「なんなりとおっしゃってください」
「現場の写真と被害者達の情報をください」「はい、わかりました。すぐにお持ちいたします」
***
「それでは、我々はこれで」
「ありがとうございます」
「何かありましたらいつでもお呼びください」
そう言って刑事は去っていった。
「は…入っても?」
声をかけられたので振り返ると、そこには助手がいた。
「どうぞ~」
助手が入ると、再び扉は閉じられた。
「受けるんですか?依頼」
「はい、受けますよ~、元々依頼されてた仕事ですし、そのついでです」「はあ……あまり危険なことにならないように気をつけて下さいね」
「大丈夫ですよ!俺こう見えても強いんで!」
「はあ……心配です」
「まあまあ、それよりもコーヒーでも飲みながら事件について話しましょうよ」
「そうですね……わかりました」
こうして俺は、この依頼を受けることになったのだった。
***
次の日、俺はまたあのパブに来ていた。
昨日の刑事さんに言われたことがどうしても引っかかっていたのだ。
(やっぱり……この店に来るのが一番落ち着く)
そんなことを考えながら店内に入ると、見覚えのある顔を見つけた。
「…帰る」
「ちょっ!人の顔見てそれは無いでしょ!!」
「チッ」
「舌打ち!?」
「…情報ならまだだぞ調べたいことがまだ残っているからな諦めろ」
「違いますよ…それに貴方の仕事の腕は一流だってわかってますから」
「ふん……」
彼は相変わらず不機嫌そうだ。……まあ、いつものことだけどね とりあえずカウンター席に座ってビールを頼むことにした。
しばらくすると目の前にビールが置かれたので早速一口飲む。うん美味しい!! やはりここのビールは最高だ。
「…貴様はいつもそればかりだな」
「炎司さんはいつもワインだけですね?バーボンとか飲みそうなイメージですけど」
「……」
「炎司さん?」
「…ただえぐみが多いのは苦手だ」
えっそんな理由?意外すぎ…
そんな彼を見るとバツが悪そうに目を逸らす。
なんかちょっと可愛いかも……なんて思ってしまった。
しかし、すぐに顔をしかめてしまったが…… なんだかんだで彼は俺に付き合ってくれるようだ。
こういうところは彼のいいところだと思う。
「そう言えば昨日刑事が来ていたみたいだな」
「あら、もうお耳に入っていたとは…さすがですね」「ふん、あんな雑魚共の情報など容易いものだ」
ふんと鼻を鳴らす、彼の表情は少し得意げだ。
褒められて嬉しいのだろうか?だとしたら可愛すぎるのだが……いや、ないか。
しかし、彼が言うには刑事達は大したことないらしいが、実際どうなのかはよくわからない。……まあ、確かに彼はかなりの実力者だしなぁ そんな事を考えていると眉をしかめた彼が話し始めた。
「それで?何を聞いた?」
「この連続殺人事件のことです」
「ほぅ?ならば何故お前はここにいる?大体の話は知っているのだろ?」
「それは…」
俺は彼に事件の概要を話し始めた。
そして、昨日の刑事の話も全て伝えた。
聞き終わると、彼は顎に手を当てて考え込んでしまった。
その仕草だけでも絵になるのだからイケメンというのはずるいと思う。
しかし、彼の口から出た言葉は全く予想外のものだった。
「ふむ、確かに妙だな」
「え?」
「まず第一に、何故、真犯人…そうだな…今回の犯行を行なった者を仮にAしよう、Aはどこで犯行のやり口を学んだ?」
「新聞とかでしょうか…」
「違う、どの事件も詳細に書かれてなどいない書かれてあるのは ゛遺体の一部が切り取られ状態 ”と書かれただけだ」
「…情報をリークした人間がいる…」
「それも可能性としてはあるだろう…だが確実な方法がある」
「確実?」
「やり口を近くで見れる警察関係者、または新聞記者が1番怪しいだろうな」
「で、でも」
「ならこれはどうだ?3番目の被害者の彼の写真だ見てみろ」
そう言って一枚の写真を手渡された。……正直、こんなもの見たくもないのだが、仕方ないので渋々目を通す。
そこに写っていたのは、50代後半ぐらいの男性だった。
「この人が3番目の被害者ですか」
「2枚目だ…眼球を無理矢理えぐり出され、指は何本か折られ、自殺もできないように抑えられていたようだ。解剖結果もここにある欲しいか?」そう言って彼はファイルを差し出してきた。……正直見るのは嫌なのだが、これも仕事なので仕方なく手に取る。
そこには様々な資料が載っており、中には先程彼が言った通りの結果もあった。
他にも、傷跡の形状などからの凶器の分析まで載っている。
「…正直言って吐きそうです」「なら読む必要はないな」
「いえ、読みます」
俺はそう言いながらページをめくった。
………………………………
「なるほど」
「わかったか?」
「はい、ありがとうございます」
「ふん、これくらい朝飯前だ」
……本当に素直じゃない人だな
「あの…お願いが…」
「断る」「まだ何も言ってませんよ!?」
「どうせろくでもないことだ、聞かん」
「酷い……」
「ふん…しかしヒントはやろう」
楽しげな笑みを浮かべながら、彼は俺にメモを渡そうとしてくる。
「……なんですか」
「そこに書いてあるものを調べろ」
「えっ?」
渡された紙を見るとそこには住所らしきものが書かれていた。
「行ってみるといい」
そう言うと彼はグラスに入ったワインを飲み干す。……どうでもいいけど、それ高い奴じゃなかったっけ?
「わかりました」
「ああ、それと明日からしばらくここには来ない」
「え!?」
「貴様の以来の為だ…しっかりと報酬は用意しておくんだな」
「…はい」
そうして、彼は席から立ち上がり店から出て行ってしまった。
「全く……忙しい人だなぁ……」
そう呟いてビールを一口飲むのであった。
翌日、俺は昨日貰ったメモを頼りにその場所に来ていた。
「ここか……」
ロンドン市内から少し外れたところにある廃ビルの前で立ち止まる。
そこは昼間だというのに薄暗く、人気のない場所だ。
ここに一体何があるというのか…… そんな事を考えつつ、ビルの階段を上っていく。
「カビ臭い…」あまり使われていないようで、床には砂が積もっており歩く度にジャリっと音がする。
そして、最上階へ辿り着くと、そこには一つの扉があった。
ドアノブを回すが鍵がかけられているようだ。
ポケットの中から針金を取り出し、手早く解錠していく。
カチャッと音を立てて開くと中へと入っていった。
部屋の中には机と椅子だけがあり、他には特に何も無い殺風景な空間が広がっていた。
「…なんだここは」
俺は首を傾げながらも、中へ足を踏み入れる。所狭しと並ぶ本棚には大量の本が詰まっており、どれも埃を被っていた。
その本棚の間を通り抜け奥の部屋へと向かうと、そこにあったのはベッドだけだった。
「……」
あの炎司さんが意味もなくここへ行けと言う人ではないことは確かだ…。何かあるはず…… 俺は部屋の中を見回しながらゆっくりと歩いていく。
そして、あることに気付いた。
「これは……血痕?それにこの足跡は……」
俺はしゃがみこみながら足元を見る。すると、そこには既に変色した赤い染みが点々と落ちていた。
ここ数日の物ではないことは明白…しかし逆を言えばいつ着いたものかは分からない。
「……あっちに続いてる」俺はそのシミを追いかけるように歩き出す。
「これは……梯子か?」
たどり着いた先は地下への入口だった。
「……行くしかないか」
意を決して降りていく。降りた先に広がっていたのは小さな小部屋だった。
「これは……」
そこには大きなガラスケースのようなものが置かれており、その中にはいくつかの眼球が入っていた。
「うっ……おぇ」
思わず吐きそうになるのを堪えながら、何とか呼吸を整える。「はぁ……はぁ……ここにあるのは全部被害者のものなのか?」
奥に進めば指が何本か入った瓶が並べられており、中には爪が剥がされ、肉が削ぎ落とされ骨が露出しているものもあった。……まるで標本箱のような部屋に、吐き気を催さずにはいられなかった。
「腕もある…こっちは歯か?」
その他にも様々な物が並んでいる。
俺は一つ一つ丁寧に見ていきながら進んでいく。
そして、一番奥まで来た時、俺の目はある物に釘付けになった。
人の顔だ…それもただの顔じゃない。
切り刻まれ、ぐちゃぐちゃにされ、腐臭を放つ生首が置かれていた…その非人道的で残虐な行為に背筋が凍りつく。
恐る恐る近づき、それをよく見てみる。
髪の色や長さから見て、おそらく女性のものだろう。……しかし、俺が驚いたのはその部分ではなかった。
それは目だ。
彼女は目をくり抜かれ、そこから黒い空洞が見える状態だったのだ。
「うっ」
俺は込み上げてくるものを必死に抑えながら急いでその場を離れる。
そしてそのまま地上へ戻ると、一目散に逃げ帰った。
◆
あれから数日、俺はあの事が頭から離れず仕事にも集中出来ずにいた。
そんな俺を心配したのか、助手が声をかけてくれた。
「ホークスさん大丈夫ですか?顔色が…」
「ああ、ちょっと最近寝不足でして」
「そうでしたか……今日はもう帰って休まれた方が……」
「いや、もう少ししたら帰ります」
「わかりました……でも無理しないでください」
そう言って彼は事務所を出て行った。……正直ありがたいと思った。こんな状態で仕事をしても効率が悪いだけだ。
「帰るか……」
そう思い立ち上がると電話がなった。
「はい、ホークス探偵事務所」
『貴様か』
「どうしましたか?」
『あとでパブに来い渡すものがある』それだけ言うとブツッと切られてしまった。……なんなんだ一体…… 仕方なく言われた通りに店に向かうことにした。
◆
「……遅いぞ」
「すみません、色々準備してたら遅くなりました」
「フンッ、まあいい…」
「それより…1つ聞きたいことが」「なんだ」
「…」
「行ったのか…」
「ええ…」
「何を見た?」
「見た目は普通の家でした」
「…」
「ただ床下に地下室がありました」
「…ほう」
「そこに…原型を留めていない首が1つ…それとコレクションされた指や眼球が所狭しと並べられていました…」
今思い出してもおぞましい…あんな光景今まで見たことがなかった。
「…ふむ…そんなものがあったのか…」「知ってたんですね……」
「まあな……」
「なぜ教えてくれなかったんですか!」
「言ったら怖気付いて行かなかっただろう…俺知ってる雛鳥は怖がりだからな」
くつくつと笑いながら酒を煽っている。
「…それで?…渡したいものとは?」
「貴様が喉から手が出るほど欲しがっていた情報だ」「……!!」
その言葉を聞いて俺は思わず身を乗り出した。
「これだ」
「すごい量ですね…」
渡された封筒には大量の書類が入っていた。
どれもこれも未解決事件ばかりだ。
炎司さんは酒を飲み干すと静かに口を開いた。
【連続殺人事件】
ここ数年、ロンドンで起きている猟奇的殺人の総称だ。
被害者は老若男女関係なし、殺害方法も様々。
首を切断されたり、手足をバラバラにされて殺されたり、内臓を引きずり出されたりと、まさに地獄絵図のような有様だったらしい。
「ココ最近の事件より悲惨ですね…」
「あぁ、どちらかというとここ7ヶ月より前の事件は確実に別人だろう」
「え?」
「何を驚く…簡単な話だ。模倣犯の模倣犯が居ただけの話だ」
「…えぇ…」
「2件目まではB。3件目と4件目はAの犯行ということだ。そもそも3件目の被害者の正体はBだ」「え、そうなんですか!?」
「……気づかなかったのか?」
「全く……」
「呆れた奴だ……まぁいい、続きを話すぞ。3番目の被害者であるこの男を殺す事によって、Aは本物の殺人犯になろうとしたんだろ、そのファイルにあるNo.52を開け」言われるがままそのページを開く。
そこには1人の男のプロフィールが載っていた。
名前はジョン・ドゥ。年齢は28歳。職業は無職。……ん?無職ってどういうことだろう……
「こいつは元警察官だ」
「警察だったのに辞めたんですか?」
「元々素行のいい人間ではなかったからな」
ふーん…と相槌を打ちながら読んでいく。
「そしてある日、元同僚であった友人と酒場で酒を浴びるほど飲んだあと死体で発見された。それもバラバラ死体でだ」
「…うっ」
「写真ごときで吐くな」
そう言われても無理なものは無理なのだ。
「続きを話すぞ。次No.58を開け」
またペラリと捲ると今度は女性の写真が載せられていた。
年齢はまだ20代前半だろうか。長い黒髪が印象的な美人さんだ。
その女性は笑顔で写っており、とても幸せそうに見える。……しかし次の瞬間、俺は凍りついた。
「腸をえぐり取られ四肢を切り落とされている。随分抵抗したようだな爪が割れていた」
彼女の腕や足はまるでそこだけ切り取られたかのように無くなっていたのだ。そして腹からは赤黒い臓物が溢れ出ており、それが血溜まりの中に浮いていた。
そのあまりにも凄惨な光景に俺は思わず嘔吐してしまった。
それを見てもなお淡々と喋る炎司さんが恐ろしかった。
「次No.70」
「…つ、次は…随分飛ぶんですね…」
「その間ピタリと犯行がやんでいる」「……」
「さてここで問題だ。何故犯人はこのタイミングで手を止めたと思う?」
「……わかりません……」