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    fuji_saki58

    @fuji_saki58

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    fuji_saki58

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    雨宿りするふたりのおはなしの導入部分。なんでもない日常です。
    このあと一緒にお風呂へGoGo✨

    ☔️ ーー萩花州に良い店がある。

     その話を聞いた時、鍾離は即座に行動に移した。集落から離れた場所にぽつんと佇むその店は、山野で採れた食材をふんだんに使った素朴な郷土料理が人気なのだとか。璃月港でも随一の目利きであり到底一般人とは思えぬ玲瓏な佇まいから琉璃亭や新月軒などの高級料理店を好むと思われがちな鍾離であるが、その実三杯酔や万民堂といった庶民向けの店にも好んで足を運んでいる。特に万民堂期待の看板娘である香菱が新作料理を開発したと腕を振るう折には、店先に嬉々として座する鍾離の姿を見ることができる。
     そんなわけで、存外庶民的な味を好む鍾離にとって、その話は朗報以外の何物でもなかった。ちょうど久しぶりに璃月に戻ってきた懇意にしている執行官との会食を予定していたため馴染みの店から急遽予定を変更し遥々璃月港からふたりで件の店を訪ねたというわけだった。
     果たして噂通り、提供される料理の数々はけっして華美ではなく素材そのものを生かした家庭の味といった形でたいそう美味であった。老夫婦の営むその店はどこか懐かしくそして暖かで、初めて訪れたはずなのにまるで久しぶりに顔を出した実家のようなそんな気持ちにさせられると笑ったのは同伴した冬国の青年のほうだ。座席数はそう多くなく、かといってこのような街外れのちいさな店を訪ねる客も多いわけではなく、それでも夫婦がふたりきりで切り盛りするには十分すぎる賑わいを見せていた。
     最後に出されたあたたかな茶を飲み干し、会計を済ませて礼を言って店を出る。きっとまた来よう。今度は忙しくテイワット中を駆け回っている旅人が顔を見せた時に連れて行ってやるのもいいかもしれない。軽く酒も入った状態で気分も良く、散歩にしては幾分か遅い時間ではあるがこのまま夜風を浴びながら歩いて璃月港に帰ってしまうのも悪くない。自称『国中を飛び回るおもちゃ販売員』が聞かせてくれる最近訪れた他国の四方山話に耳を傾けながらゆるりと進めていた歩を邪魔したのは、荒野を彷徨う悪鬼でも焚き火を囲むヒルチャールでもなく、天から降り注ぐ大粒の雨であった。

    「っわ、冷た!ていうか痛!」
    「ふむ。公子殿傘は持っているか?」
    「見ての通り手ぶらですが!?先生こそどこかから引っ張り出したりできないわけ?」
    「はは、凡人の俺がそんな面妖な術を使えるはずがなかろう」
    「黙れ非凡人!痛い痛い、待って雨が痛い!」

     ほぼ同じ高さの位置にある煉瓦色の頭が忙しなく右往左往する様子を眺めながら、鍾離はゆったりと笑う。時には雨に打たれるのも悪くはない。大地を潤し作物を育む天からの恵みである。甕にためれば飲み水にもなるし、やや砂埃の多いこの地区を洗い流すにはちょうどいいだろう。などとのんびり構えている己を化け物でも見るような目で睨みつけながら、同伴者はぐいぐいと腕を引いてくる。そのまますきなようにさせていればたちまち大きな木のしたに連れ込まれた。

    「あのまま立っていたら風邪を引いてしまうよ」
    「公子殿は水元素を扱うのに濡れるのが嫌いなのか」

     いつも嬉々として周囲に水元素を撒き散らしながら元素生成物である剣だの槍だのを振るっている気がするのだが。そう伝えれば、心底嫌そうな声で正気?と呟きながら睥睨された。暗い空から落ちてくる大粒の雨は地面に叩きつけられた後もすぐに爆ぜることなく跳ね返り、幾度かバウンドしながら履き物の裾を濡らしてくる。既に外套はぐっしょりと水分を含んでおり普段の倍近い重量を持っていて、後ろで結えた髪の毛もぴたりと首筋に張り付き不快であることは間違いない。それでも、鍾離は雨が嫌いではなかった。

    「俺の水元素とこの豪雨を同列に扱わないで欲しいかな。ああ、これはしばらくやみそうにないね」
    「夜通し降ってもおかしくはないな」
    「うーん。璃月港が遠い……先生別荘とか持ってないの」
    「ただの凡人だと言っているだろう。ああ、だが」
    「だが?」
    「少し歩いたところに望舒旅館がある」

     萩花州から璃月港へと続く道すがら、まるで首都を守護する砦のように佇む旅館のオーナーとは知らぬ仲ではない。おそらく、この季節であれば繁忙期でもなし、突如訪ねても部屋のひとつやふたつ用意してくれることだろう。あの旅館の露台は帰離原の少年仙人の拠点でもあるため、このようなびしょ濡れの格好で訪ねれば苦言のひとつやふたつは落とされるかもしれないがまぁそれもまたいいだろう。このまま濡れ鼠になりながら徒歩で璃月港まで帰るほうがよほど問題である。
     なるほど、名案。と納得する若者を連れて、鍾離は高く聳える旅館へと足を向けた。
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