なんなんだほんとに 最近、ペンギンの様子がおかしい。
気付いたのは一週間前。ふと視線を感じて振り返るとペンギンがいて、目があった瞬間に逸らされる。気のせいかと思った翌日、飯の時にふと顔を上げるとまたもやペンギンと目が合い、その瞬間に逸らされた。そんなことが一週間も続けば、流石に気づきもする。
しかし本人に話しかけると、これがいつも通りなのである。俺を気にしてるとか、そのくせ避けてるとか、そんな素振り一切してませんみたいな顔してるのである。バレてないと思ってるのか、さては。ペンギンの方も俺が様子をうかがっていることに気付いたのか、目が合うとちょっとニコッとするようになった。逸らされなくなったのは素直に嬉しい。いやそうじゃなくて、なんなんだほんとに。
喧嘩したわけでもないし、仕事でミスしたのを隠したりもしてない。俺の方に心当たりはないので、ペンギンの問題だろう。心配ごとがあるなら真っ先に相談するはずだし、言いたいことがあるならさっさと言ってくるはずだ。となると、俺にも言えないような重大なことなのかもしれない。うーん、聞いたらマズい気もするが、バレバレだしなぁ。
「なあ、なんか隠し事してるだろ」
その日の夜、早速寝る前のペンギンに直球で投げた。相部屋で二段ベッドの上と下、いやでも顔を合わせることになる。
「…別に?」
ペンギンがわかりやすく嘘をついた。お前こんなにわかりやすかったか?
「お前…俺が気付いてるのもわかってるクセによくもまあ…」
「いや、シャチ最近すげぇ見てくるなとは思ってたよ、なんなん?」
「は?おまえだろ?」
「は?」
二人して頭に?が浮かんでいる。本気でわかってないらしい。どゆこと?
「え、最初に見てきたのはそっちじゃん」
「見てねぇよ」
「無意識か」
「…そうなるな」
はは、とペンギンが笑う。心当たりはあるようで、素直に負けを認めたようだ。潔くていいぞ。
「…俺にも話せないこと?」
「ん?んー…お前だから話せないことかな」
「なにそれ」
「見ねぇように気をつけるから、悪かった」
この話は終わりだと言わんばかりに背を向けられた。なんだよ、そこで俺に壁を作るのかよ。咄嗟に肩を掴んでこっちに向き直らせる。
「…なんだよ」
「なあ、俺はお前を相棒だと思ってるから言うけどな。お前が無意識に顔に出すなんてらしくねぇ、よっぽどのことだろ。そんなお前を俺が放っとくと思うか?」
「………」
「なんか困ってんだろ、言えよ。」
ペンギンは、基本一人で抱えるタイプだ。誰かに相談するならキャプテンか俺だし、多分今回はどっちにも喋ってない。だから、やたら目が合うのは俺へのSOSなんじゃないかと、思いましたが、
「…俺、お前のこと好きなんだよね」
「…は?」
ペンギンは負けを認めたのか、開き直ったのか、急に素直になった。予想してなかった答えに拍子抜けしたというか、頭がおいつかないというか、え、ちょ、なに?
「最近ちょっと、限界が来ててさ。悪ぃな、気をつけるわ。」
「え、あぁ、うん…」
展開についていけない俺をおいて、さっさと着替え始めた。お前、さっきから俺をおいていきすぎじゃない?
「ペンギンさん」
「はい」
「好きっていうのはえっと…?」
「キスとかしたいの好きです」
「さいですか…」
そうかぁ、ペンギン俺のこと好きだったのかぁ…いつから?いやそうじゃなくて、なんでこいつは話が終わったつもりでいるの?ベッドに入るな寝ようとするな。
「ねぇもうちょっと喋りません?」
「これ以上なにを?」
「いやほら、俺たちの今後とか…」
「別に、今まで通りでいいよ」
「そうなの…?」
「お前が俺のことを気持ち悪いと思ってなければ」
「それはない」
キッパリ言うとペンギンが露骨にホッとした顔になる。なんだよ、お前も今必死じゃん。テンパりすぎて無かったことにしようとするなこのバカ。
「俺はさ、お前のこと相棒として好きだよ」
「うん」
「二十年近く一緒だし、今更嫌いになんてならねぇしさ」
「そのうちの半分を俺は片想いしてたけどな」
「うわきもちわり」
「やめだこの話は」
「ごめん嘘まって寝ないで」
「うるせぇ」
「キスくらいなら余裕でできるぞ!」
言った途端にシーツに潜っていたペンギンが出てきて俺の唇を奪っていった。や、やらかい…
「…おやすみ」
「お、やすみ…?」
やることやってさっさとまたシーツに潜ってしまった、なんなんだこいつ。ちょっとまだついていけてないままはしごを登り、さあ寝ようと思ったところで着替えてないことに気づいた。なんなんだほんとに。
翌朝俺はサングラスをしたまま寝てたことに気づいたし、その日からなぜかおやすみのキスが日課になってしまった。なんなんだ、ほんとに。