情という名の 冬のある日、慣れた手つきでインターフォンを押す。数秒経ってから返事があって、古びた扉が空いた。
お目当ての人物は現在外出中らしく、使用人から「せっかくだから中で待ってどうぞ」と言われ家の中へ進んだ。
コタツに入ってコーイチが帰って来るのを待つ。最近は寒いから二人で会う日が減っていた。約半年ぶりである。
使用人は奥のキッチンで夕飯を作っている。互いに無言の時間が続き、食器具が当たる音やなんやがやけに部屋に大きく響く。度々顔は合わせているが、そこまで話したこともない。若干気まずい。
すると使用人が口を開く。「藩田さんは、出かける前特別嬉しそうにしている」「元トップの姫とは別の人物だと聞いた」「もしかして貴方のことか?」と。
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