カイトまどろみの中、夢とも言えぬ断片を目蓋の裏に見ることがあった。
頬を冷やす朝の風、若い草のにおい、記憶の中薄らいでしまった誰かの笑顔。
遠く山脈に沈む夕日、焚き火の向こうの誰かの横顔、シチューを椀に注ぐ仕草、祭りの炎、産声、大樹の中を流れる水の音、赤ん坊の頬のくれない色、山あいにこだまする葬送の歌、もの言いたげな後ろ姿。
「どうした」
声をかけてやると、金色の髪が美しかった少年は振り向いて言った。
「この平原を出ようと思うんだ」
わたしははじめ、少年が冗談を言っているのだと思って笑おうとした。しかしその翠の眼差しがあまりに真剣であったのでただ小さな声で「なぜ?」と返すことしかできず、それきり押し黙って恐れるように答えを待った。
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