「なんか大きい魚だってさ」
それだけじゃわかんないよ、と室内から返ってきた呆れ声に笑って、玄関へ上がる前にビーチサンダルの砂を手で落とす。こうしなければ玄関が砂だらけになって、廊下にも砂が上がってしまうのだと知ったのはここへやってきてしばらく経った頃のことである。父も、母も、それ以外の大人たちも三日に一度強制的にやってくるマネージャー指定のホームヘルパーも、そんなことを教えてくれはしなかった。
「夕方に食べに来ないかって」
「魚の名前もわからないのに?」
ざらつく砂が手にまとわりついても嫌悪感はない。島の地面は無菌ではないが清潔だった。
「でも食べに来いっていうんだから食べれるでしょう」
「そうだろうけどさ」
手から砂が落ちないように気をつけながら廊下へ上がり、洗面台の蛇口を肘で押し上げた。ほんの少しだけ潮の匂いのする真水がどうどうと流れる。帰り道で話しかけてきた人々の顔をいくつか思い出しながら、ナイはただこう言った。
「多分おいしいよ。まずくても面白いよ」